【ミュージアム探訪】マツダミュージアム

創業以来、今日に至るまで広島を本拠地としてきたマツダ。そんな同社のミュージアムは、広島の景観を形成する太田川の河口、いわゆる“広島デルタ”の東端に位置する宇品工場の敷地内にある。といっても、ミュージアムのための建屋があるわけではない。製品庫の一角を展示館として利用しているのだ。本社1階の受付で手続きを済ませた来館者は、そこからシャトルバスで出発。エンジンやトランスミッションの生産を担う、本社工場の様子を眺めながら移動することとなる。

ミュージアムへの移動にかかる時間は10分ほど。バスを降りて入り口をくぐると、エントランスホールではマツダの最新モデルが来館者を出迎えてくれる。以前、ここにあったのは歴代のロータリーエンジン車だったが、今日では現行モデルの展示が恒例となっているようだ。

ミュージアムショップの脇にしつらえられたエレベーター、もしくは階段で2階へ上がり、ちょっとした迷路のような通路を渡ると、いよいよ本格的な見学がスタートする。まずは壁に描かれた年表を通して、1920年に東洋コルク工業として発足したマツダの歴史をおさらい。続いて、戦前の主力商品だった三輪トラックを皮切りに、同社の歴史を彩ってきた製品の展示が始まる。

戦前に生産されたマツダの三輪トラック。マツダは1931年に初の三輪トラック「DA型」の生産を開始し、輸出も行っていた。

360cc時代の軽自動車や、主力車種を務めてきたファミリア、コスモスポーツに始まるロータリーエンジン車などは、ある人にとっては懐かしく、ある人にとっては新鮮に感じられるだろう。

1960年に登場したR360クーペ。今でこそ軽自動車はOEM供給を受けるのみのマツダだが、かつては自社で開発・生産を行っていたのだ。
マツダのロータリーエンジン車の先駆けとなったコスモスポーツ。1964年の東京モーターショーで正式に発表された。

続いて紹介されているのが、長年にわたりマツダを支えてきた歴代のロータリーエンジン。

マツダの特徴のひとつであったロータリーエンジンの展示コーナー。

その先では、このミュージアムの“ご本尊”であり、1991年のル・マン24時間耐久レースを制したマツダ787Bが来館者を待ち構えている。

1991年のル・マン24時間耐久レースを制したマツダ787B。

ここから先は、一転して現在の自動車技術の紹介エリアとなる。まずはSUVのCX-5を題材に、今日におけるクルマづくりのプロセスを解説。その先は、実際に車両を組み立てている生産ラインの見学エリアとなっており、横の展望デッキからは、自動車運搬船に完成車を積み込む港の様子を眺めることができる。プチ工場見学を終え、最後に来館者が訪れるのが、安全や環境技術をテーマとした次世代技術のコーナーであり、過去、現在、未来と続いてきた見学コースはここで終了となる。

展示内容は比較的オーソドックスなものだが、それでもほかの施設にはない独自性を感じてしまうのは、このミュージアムが現在稼働している工場の敷地内に開設されていること、そしてやはり、展示されているクルマや技術の内容が、よそでは見られないユニークなものだからだろう。世界で唯一実用化に成功したロータリーエンジンはもちろん、時代を先取りした(先取りしすぎた?)アルミ合金製の「白いエンジン」や、それこそクリーンディーゼルに代表される今日のSKYACTIV技術まで、展示内容のどこを切り取っても、マツダというメーカーの独自性が色濃く表れている。

また、ちょっとマニアックな人はぜひ、送迎バスの窓から見られる本社工場の様子も楽しんでほしい。1931年3月操業開始というその歴史は、現存する自動車工場としては国内最古の部類。しかも広島という立地にありながら戦災を免れ、その後もさまざまな苦難を乗り越えてきたこの工場は、ある意味で広島産業史の“生き字引”なのだ。

(写真=マツダ)

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[ガズ―編集部]

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