【ミュージアム探訪】 日野オートプラザ(前編)

日野自動車の歴史は1910年に設立された東京瓦斯工業までさかのぼる。そこから現在までを俯瞰(ふかん)すると、まさに日本の産業史をたどることになるのである。つまり、今回ご紹介する日野オートプラザは、日野自動車の歴史と共に、日本の産業史をも同時に学ぶことができる貴重な博物館なのだ。

日野オートプラザのある日野自動車21世紀センターは、手狭になった日野本社の研修センターに代わる施設として、また歴史的遺産を展示する博物館として、同社の設立50周年(1942年の日野重工業設立を起点)を記念して企画され、1996年に完成したものだ。日野オートプラザのオープンは翌1997年のことで、その後、70周年を契機にリニューアルオープンして現在に至っている。

日野オートプラザがある日野自動車21世紀センターの外観。屋外の展示スペースには、ダカールラリーで活躍する日野レンジャーの競技車両の姿も。

ここには前述の博物館のほかにも、地域に貢献するための会議室やレストランも併設されており、周辺住民や警察、消防関係の利用も盛んであることから、地域に密着した総合センターの役割も担っている。

さて、日野オートプラザは大きくエントランス、屋外展示、メイン展示フロア、黎明(れいめい)期のエンジン、フレンドリーギャラリー、スロープギャラリーの6つのスペースに分かれ、それぞれのテーマごとに年表や模型、映像、実車などを適宜使い、わかりやすく歴史を解説している。

エントランスホールに続いて来館者を迎えてくれるフレンドリーギャラリーでは、年表や動画、ミニカー、ジオラマなどで、日野自動車の歴史を振り返ることができる。

特に注目すべきは、メイン展示フロアと黎明期のエンジンコーナーだろう。メイン展示フロアには、日野にとって初の乗用車である日野ルノー4CVや、コンテッサ、商用車のコンマースなどが展示されており、イタリアのミケロッティにデザインを依頼した試作車のコンテッサ900スプリントの美しい姿も見ることができる。また、ボンネットバスのBH15は、実際に中に乗ることも可能だ。その周辺にはさまざまなエンジンが展示されており、現代のエンジンがいかにコンパクトになっているかを実感することができるだろう。

スロープギャラリーを降りた先にあるのがメイン展示フロア。日野ルノー4CVといった乗用車や、ボンネットバスのBH15、各時代のトラック/バス用エンジンなどが展示されている。

黎明期のエンジンコーナーには、東京瓦斯工業、東京瓦斯電気工業時代に開発した航空機エンジン、例えば星型エンジンや液冷V12型エンジンなどが解説とともに展示されている。そこには時代背景や開発に至る経緯なども紹介されているので、その時代に思いをはせながら間近にエンジンを見ることが可能だ。また、当時開発していたスリーブバルブのエンジンも展示されている。

黎明期のエンジンコーナーでは、戦前に開発された自動車用や航空機用のエンジンが、2部屋に分けて展示されており、当時の日本の重工業の様子を感じることができる。

最後に、ここ日野オートプラザには歴史に精通した担当者の中に、女性がいることを記しておきたい。男性だとどうしても声をかけにくい、あるいは、こんな簡単な質問はしにくいと思う方、また子供たちからも気軽に質問してほしいということから採用に至ったという。日野オートプラザを管理する日野ヒューテックの久保寺武久氏は、このミュージアムを、「ここはセールスの現場です。第一線のセールスはクルマを売っていますが、ここは日野というブランドをセールスする場なのです。楽しく知ってもらい、また、そこから新たに興味を持ってもらえればと願っています」と思いを語っていた。

スロープギャラリーの中腹に設けられた資料室。日野自動車の歴史に加え、星子 勇氏や鈴木 孝氏など、同社を支えた技術者についても詳しく知ることができる。

(文=内田俊一/写真=内田俊一、webCG)

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[ガズ―編集部]