スバルのヒストリックカー試乗体験記(後編)

1970年代に入ると乗用車の普及は加速度的に進んでいき、高級車以外にも付加価値が求められるようになっていた。このため、スバル1000の改良版であるff-1ではライバルとの競争も厳しくなり、市場の要望に添った新型車を投入する。それが1971年に発売されたレオーネだ。次期主力車種でありながら、なんと当初の設定は2ドアクーペのみ。実用車である4ドアセダンやエステートバンの登場は翌年となる。このため、初期のころはそうした需要に応えるためにff-1の販売が継続されていた。この背景には、レオーネを「新世代の特別なクルマ」として印象付ける狙いがあったのかもしれない。

スバルの新世代モデルとして1971年に登場したレオーネ。今回は2ドアクーペのスポーツグレード、1400RXに試乗した。

そのスタイルは、当時のトレンドであるスポーティーなロングノーズ&ショートデッキ。少々やぼったくもあるが、温かみのあるデザインがスバルらしい。メカニズムでは、フロントサスペンションをストラット式に改めるなど、独自性が薄れた部分はあったものの、先進的な水平対向エンジンによるFFレイアウトは継承されている。また、初代レオーネに世界初の乗用4WD車が設定されたことはあまりにも有名だ。まさに、今のスバルの基本が構築されたモデルと言っても過言ではないのである。

試乗したのは、1972年式レオーネクーペ1400RX。RXというグレードは走りに徹したスパルタンなモデルで、ハードサスペンション、5段クロスミッション、4輪ディスクブレーキ、クイックステアリングなどがおごられている。まさにWRXやSTIシリーズのご先祖といえるものだった。そんなRXの感触を確認しながら走りだす。最初の洗礼は、ノンパワーステアリング(重ステ)だ。右左折はステアリングとの格闘となる。もちろん、これは私がパワステしか知らない世代というのも大きいのだろうが。そんな重ステとクロスミッションを駆使したドライブは、決して苦痛ではなく、むしろ刺激にあふれたものだった。難しいからこそ乗りこなす面白さがある。現代のモデルでは失われつつあるクルマの魅力をRXは思い出させてくれた。

レオーネクーペ1400RXのインテリア。ステアリングにアシスト機構はなし。トランスミッションはクロスレシオの5段MTという硬派さが魅力のモデルだった。

80年代に突入すると、スバルも本格的なスペシャルティークーペを投入する。それがアルシオーネだった。まるでSF小説に登場する宇宙戦闘機を連想させる未来的なデザインは、今見てもワクワクさせてくれる。そのフォルムは決して見せかけではなく、Cd値0.29を実現。ドアハンドルはユニークで、可動式フラップにより開閉時以外は表面がフラットになる機構を持つ。徹底的に空力性能を上げようとした技術者たちの思いが伝わる部分だ。

シャープなウエッジシェイプデザインのボディーが特徴的なスバル・アルシオーネ。当時のハイテクを満載したスペシャリティーカーだった。

キャビンの中はもっと未来的。個性的なL字型スポークのステアリング、ガングリップタイプのシフトレバー、そしてメーターパネルまわりに備えられたサテライトスイッチなど、まるで航空機のコックピットだ。オプションで、当時はやりのデジタルメーターも設定されていた。試乗に用意されたのは最上級グレードの2.7VXで、スバル初の2.7リッター水平対向6気筒SOHCエンジンを搭載していた。150psとスペックは平凡だが、フラット6のフィールは最高。マイルドな乗り心地とも相まって、まるで空を飛んでいるような気分であった。当時のカタログを読み解くと、エアロシェイプボディー、オートAWD、リトラクタブルヘッドライト、電子制御エアサスペンション、デジパネなど、当時の最先端が詰まっていたことがわかる。アルシオーネは、まさにスバルが生み出したスーパーカーだった。

スバル・アルシオーネのインテリア。航空機、もしくは宇宙船を思わせる運転席まわりのデザインが、当時のスペシャリティーカーのトレンドを感じさせる。

先進的でスタイリッシュな初代アルシオーネだったが、販売面では苦戦したようで、スバルはバブル景気の波に乗ってリベンジを図る。それが2代目となるアルシオーネSVXだ。デザインは、泣く子も黙る巨匠、ジョルジェット・ジウジアーロ。3.3リッターの水平対向6気筒DOHCエンジンに電子制御AWDを組み合わせた本格GTへと仕上げられていた。ちょうどポルシェ911の4WD車を逆転させたような機構をしており、それもまたクルマ好きの心をくすぐった。

スバルが持てるリソースを結集して開発したアルシオーネSVX。個性的なスタイリングは、ジョルジェット・ジウジアーロが手がけたものだ。

上品な仕上げの内外装は、今見ても美しい。初代の未来的な雰囲気は影を潜めたが、欧州製パーソナルクーペのような上品なクルマへと進化し、スバルのフラッグシップにふさわしい存在となった。特徴であるラウンドキャノピーは、ウィンドウとしての開口部は少ないものの、ガラス面積は大きくとられているので、視界が良く、車内も明るい。今となっては4段ATの加速感がちょっと古臭いが、お得意の高速走行では気にならないはず。いつか「500マイルも快適」とうたわれた性能をじっくりと試してみたいものである。

アルシオーネSVXのインテリア。先代モデルにあたるアルシオーネとは趣を異にする、高級感ただよう空間となっていた。

60年代のテントウ虫から90年代のフラッグシップSVXまで、幅広いスバルの名車たちに共通していたのは、どれも扱いやすく、走るのが楽しいクルマへと仕上げられていたこと。そこに、エッセンスとしてスバルらしい個性が加えられている。時にそれは不器用な形に表れ、成功に結びつかないこともあったが、そんな地道な技術とアイデアの積み上げが、今のスバルへとつながっているのだと、個性豊かな歴代モデルに学ばせてもらった。

(文=大音安弘)

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[ガズ―編集部]