わたしの自動車史(後編) ―飯田 裕子―

公共の交通機関に恵まれなかった土地で育った子どもたちは、可能なかぎりすみやかに自動車免許を取得し、同時にクルマを手に入れる努力をする。私も受験が終わり学生生活をスタートさせたと同時に教習所に通い、普通免許を取得。トヨペット党の父にめでたくトヨタ・コルサ(3代目)を買ってもらった。そして自由な“移動手段”を得ただけでもう十分に幸せだったはずなのに、ここから一人の女子の人生は、大きく変わっていったのである(笑)。

1986年に登場した3代目トヨタ・コルサ。コルサはFFの駆動方式を採用したコンパクトモデルで、この3代目ではリトラクタブルヘッドライト装着車も用意された。

時代は峠ブーム。高校時代の同級男子たちと近所の大垂水峠に峠族を見に行っただけで、私の何かに火がついた。そこからは速く走る方法を模索し、速いクルマを探す日々が始まり、バイクに夢中だった弟(飯田 章)を富士スピードウェイに連れ出し、レースを観戦し、ジムカーナ練習会にも参加したりするようになったのだ。

すっかり自動車に目覚めてしまった私は、厚木にある日産の開発部門でOLをしながら、なんと富士フレッシュマンレースに参戦するようになる。そして2代目の愛車となったのは……いすゞ・エルフ!! 仲間がレーシングカーを運ぶために、「イイダ、ローダー買えよ」と言うのである。つまり初めて自分で買ったクルマは……エルフ。ヤングなOLは20万円でトラックを買わされ、「レースよりも運転がうまいな」とからかわれながら、せっせと富士スピードウェイに通ったのであった。

いすゞの小型トラック、エルフ。筆者が購入したモデルは、1984年デビューの4代目だった。

もちろんフツウのクルマにもたくさん乗った。そしてその愛車からはたくさんの良さを教えてもらった。例えば私の3台目の愛車だった初代日産プリメーラUK。ハッチバックスタイルとグリーンガラスが新鮮で、“プリちゃん”と呼びながら10万kmに届くまで一緒に過ごした。
一目ぼれして購入したのはサモアブルー色のE36型BMW 325iカブリオレ。BMWを選んだのは、今の仕事を始めて数年がたったころ、BMWのドライビングスクールでインストラクター(の卵)としてさまざまな体験をする機会に恵まれたことも強く影響している。ホロを開けたときの真横から見たデザインとボディーカラーの美しさ、そしてオープンでもスペースが犠牲にならないラゲッジルームや大人4人が乗れる実用性も素晴らしかった。

BMW 3シリーズカブリオレ。E36型は、1990年にデビューした3世代目の3シリーズにあたる。

モータースポーツからしばらく離れていた私に、再び火をつけたのはスバル・インプレッサだった。WRCの取材でニュージーランドへ行った私はすっかり感化され、帰国するなりWRX RAを中古で購入。このインプで夏はダートラ場に通い、冬は氷上を走った。目指していたのはラリー参戦。コーナーの大きさを数値化する練習も日々積んでいたけれど、結局競技に出ることはなく、最後は325iカブリオレと共に売却。これは本当に後悔している……今でも。

2009年にはメテオールグレーの外装色に、シナモンのインテリアをまとったアウディA5クーペと“出会ってしまった”。この美しさに包まれて走る幸福感がたまらなかった。アウディのドライビングスクールでインストラクターをしていたこともあり、クワトロ(4WD)の素晴らしさも熟知していたし、彼は本当によい相棒だったのだが……。

アウディにとって久々の4座クーペとして2007年に登場したアウディA5。その後、カブリオレや5ドアのスポーツバックなど、さまざまなバリエーションが追加された。

それほどまでにLOVEだったA5クーペには、実はつい最近別れを告げた。もう一度MT車に乗りたい。自分の体に後輪駆動の感覚を刷り込みたいという願望がフツフツと沸いていたのだ。この数年間、私はマツダ・ロードスターとポルシェ・ボクスターを同じくらい支持していたのだが、ちょうどシルバーのボクスターと出会ってしまう。紺のホロとヨッティングブルーの内装に私のハートは久々にウチ抜かれ、今は彼と暮らしている。2.7リッター水平対向6気筒エンジンを搭載する981型の左ハンドルで、6MT。装備は最低限の、いわゆる“素”のボクスターである。

981型こと3代目ポルシェ・ボクスター。2.7リッター水平対向6気筒エンジンをミドシップ搭載した、軽快なオープンスポーツカーである。

基本性能を重視しつつも、どうやら私には“カタチと色”にヤラれてしまう傾向があるようだ。ただ田舎育ちの性格からか、トヨペット党でクラウン党であった父の影響なのか、リアシートのあるクルマの利便性が捨てられない私は、それとなく増車も視野に入れている今日このごろであったりする。

飯田 裕子(プロフィール)
自動車雑誌での執筆はもちろん、テレビやラジオへの出演、シンポジウムでの討論など、幅広く活躍するモータージャーナリスト。かつては自動車メーカーに勤務していたが、弟でレーシングドライバーの、飯田 章と始めたレース活動をきっかけに、現職に転身。常に「人とクルマと生活」という視点に立ち、女性にもわかりやすいカーライフの紹介を心がけている。

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[ガズー編集部]

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