【ラリージャパンを1000倍楽しもう!】地域のみんなが一致団結! 世界選手権をキッカケに“ラリージャパンといえば三河湖”で町おこし

ラリージャパン開催予定地となっている愛知県や岐阜県では、WRC開催に向けて盛り上がりを見せている。サーキットで開催されるレースとは違って、ラリーは公道がコースとなるため、広いエリアがイベント会場となり、各地域にもさまざまな影響を与えるのだ。
今回は、テストイベントとして2019年に開催されたセントラルラリーの開催地となった愛知県豊田市の下山地区で『しもやまラリーイベント実行委員会』を立ち上げ、ラリー受入に尽力するみなさんにお話を伺った。

ラリー初開催を地域振興のキッカケに!

2019年にラリージャパンのテストイベントとして愛知県と岐阜県を舞台に開催された『セントラルラリー』。
日本らしい風景の中をラリーカーが駆け抜けるシーンは全国ネットのテレビ番組やウェブサイトでも紹介され、その様子を目にした人も少なくないのではないだろうか。
なかでも勝田貴元選手が操るトヨタ・ヤリスWRCが神社の前を駆け抜ける姿はとても印象的だった。そして、その神社がある『三河湖SS』が開催されたエリアが、まさに今回おじゃました豊田市の下山地区だ。

「テレビやインターネットで、ふだん自分たちが住んでいる場所の写真や映像が大きく取り上げられて、地域のみんながびっくりしたし、とても盛り上がりました」と当時の様子を教えてくれたのは、しもやまラリーイベント実行委員会のメンバーで、豊田市役所下山支所に勤務する今村友幸さん。

日本でも全日本ラリー選手権などが開催されている地域はあるものの、この下山地区でラリーが開催されるのは初めて。山村地域とはいえ、近接する住宅地を抜けていくコースだったため、セントラルラリーの開催地として名前が挙がった際には、さまざまな意見があったという。

「地域振興として地域のみなさんに活躍していただくイベントにすることが目的だったので、まずは観光に関わる団体や、地域をまとめる代表者のみなさんに集まってお話を聞いてもらうことからスタートしました」と今村さんは振り返る。

実行委員会で広報を担当する川合晃司さん(写真右)も「私は今村くんとおなじく豊田市役所職員なんですが、部署はぜんぜん違うんです。でも羽布自治区に住んでいるということからボランティアスタッフとして声がかかりました(笑)。この話をはじめて聞いた時は、このイベントをきっかけに、下山や三河湖という名前を、地元のひとはもちろん、ここで育ったひとたちが出身地に誇りを持つことができて、いろんな場面で自慢してもらえるブランドにできるという期待と可能性を感じました」と、その思いは熱く、そして大きい。

「ラリージャパンが開催されると聞いた時『これは自分たちの地元である三河湖を日本はもちろん世界にアピールできるチャンスだ!』と思いましたね」と続けるのは、おなじく実行委員会のメンバーで、三河湖のほとりで『うなぎの三河』を営む原田恵介さん。
もともとモータースポーツに興味があり、WRCが日本、しかも愛知県で開催されるということに興奮を覚えたという。

いっぽうで、地元の声を取りまとめる羽布自治区長の河合邦隆さんは「正直、最初に話を聞いたときは戸惑いました。このあたりは高齢者が多いので、音が大きくてスピードの速いクルマが生活道路を走り抜けて危なくないのか?観光客が押し寄せたりするのではないか?と、イベントについて不安や心配の声も多かったのは事実です」と、当初の苦労を振り返る。

飲食店をとりまとめる原田さんも「ラリー会期中は道路が閉鎖されてしまうので商売にならないのでは? といった意見もありましたが、その1日を盛り上げて“ラリーの聖地”としてアピールできれば、ほかの364日にお客さんが増える可能性があるじゃないかと説得したりしました」と、さまざまな葛藤や議論が繰り返されたようだ。

  • 三河湖は農業用の利水を目的に建設された羽布ダムによってできた湖で、周囲は美しい風景が広がる愛知高原国定公園となっている。ちょうど羽布町から新城市の作手地区にかけて舗装路の林道が完成したことも、ラリー開催に好条件だったという。

セントラルラリーで確信したラリーの可能性

「このエリアをアピールするために、どんな名前がよいかについてもさまざまな意見がありましたが、最終的には『三河湖』を押し出すことにしました。ロゴ入りのキャップや名刺入れ、ジャンパーを作ったり、のぼり旗や応援旗を多くの場所に掲げるなど、さまざまな手法で少しずつ名前をアピールしています」と、川合さん。

飲食店を営む原田さんも、地元の名物である「下山五平餅」はもちろん、観戦しながら食べられるように屋台で出せる新メニューとしてうなぎの串焼きを開発するなど、三河湖周辺の店舗が集まる三河湖共栄会の仲間とともに、お客さんに楽しんでもらう方法を模索したという。

こうしてさまざまな課題をクリアしながら、なんとか開催にこぎつけたセントラルラリーで、冒頭にも紹介した神社前のシーンなどが大きく取り上げられるなど、結果的には想像を超える好感触で、「セントラルラリーの前後で空気が大きく変わった」という実感があったそうだ。

セントラルラリーの際に制作した「LAKE MIKAWAKO」のロゴとオリジナルグッズ。周辺マップやタイムスケジュールを載せた配布用ガイドブックも独自に制作。周辺道路の景観整備など、地域の協力を得て取り組んだ。

  • 地域によって大きさや味付けが異なるという「五平餅」。下山地区の五平餅は他の地域よりも大きい20cmサイズで、ほんのり生姜の効いたゴマ入りの甘辛い八丁味噌のたれが特徴なんだとか。

「いざ始まってみたら、見えないところから音が聞こえてきて、猛スピードからいきなり向きを変えて曲がっていく。その迫力にみんなびっくりしていました。それに、都心部に住む若者世代やクルマ好きの親戚たちがラリー観戦のために帰省したり、テレビで知っている景色の映像がたくさんが流れたりと、世界選手権が来たらもっとすごいことになるのでは、という期待も大きくなりました」と今村さん。

「やっぱり目の前で見せてもらえたのは、効果が大きかったですね。セントラルラリーの時はどうしていいかわからなかった地元のひとたちも、今度は観戦エリアの環境をよくするために畑の有害鳥獣用の柵を取り外そうとか、協力的な声も増えました」と河合さん。

94才の住民が『冥土の土産にいいものを見せてもらった』と喜ぶ声や、子供や孫がクルマに興味を持って、家にラジコンやミニカーが増えたなんて話も聞くというから、老若男女問わず幅広い世代に影響を与えているようだ。
普段から住んでいる場所が客観的に報道されたことで魅力の再発見にもつながったし、ラリーという共通の話題でさまざまなひとと盛り上がることもできるようになったという。

ちなみに、セントラルラリーの際にはコースアウトした車両が田んぼに突っ込んでしまうアクシデントなどもあったが「後から聞いたら、実はあの田んぼの持ち主が近くでBBQをしていて、田んぼに落ちた車両のドライバーがレッカー車両を待つ間、BBQに誘って一緒に食事をしていたんだそうですよ」というエピソードも。

  • 棚田や瓦屋根など、のどかな田園風景が広がる下山地区。その景観はセントラルラリーの際に海外からの観光客からも大好評だったという。熊野神社の近くには地元の祭礼『羽布の送り神』が飾られていて「映像に写り込んでいたぞ」と、地元ならではの話題でも盛り上がったという。

ラリージャパン2020に向けてPR動画制作

こうして、地元でラリーイベントが開催されることへの手応えや期待感を感じ、昨年のラリージャパン2020開催に向けて、さらに勢いをつけて取り組んだという。
なかでも力を入れたのがプロモーションビデオの作成だ。もともと下山地区の体育大会などでPRイベントを計画していたものの、コロナ禍の影響で中止になってしまい、「そのかわりに何かできることはないか?」と、話し合って動画を制作することに。

「走っている軽トラックをセントラルラリーの観戦ポイントから撮影して4倍速にしてみたら『迫力があって面白いね』って話になり、せっかくならラリーカーふうにラッピングしよう、地域の方々にも登場してもらってはどうか、とどんどん話が盛り上がっていったんです。ラッピングカーのデザインはデザイン関係の仕事をしている原田さんのお兄さん(原田専門家さん)にお願いし、地元出身で元ラリードライバーの黒木浩次さんや観光大使の矢上彩乃さんにも協力してもらいました。動画制作も、豊田市の制作会社さんにお願いしました」という。
地元の中学生などにも登場してもらうなど、地元みんなで取り組んだ様子が伝わってくる。

【ラリー 三河湖スペシャルステージ】動画はこちら
https://youtu.be/zLzRUCGxSYs

  • 動画制作にあたってラッピングした軽トラは原田さんが普段から乗っている愛車。地元のオリジナルキャラクター『五平マン』が疾走するデザインとなっている。

  • 下山郵便局長の吉田嘉尚さんも実行委員会メンバーのひとり。もともとクルマ好きだったこともあり、郵便局にミニカーなどが飾られた棚を設置するなど、盛り上げに積極的だ。地域の集会場などにもラリーのポスターが掲示され、神社の近くに大きなのぼり旗を立ててはどうか?などの計画もあるとか。

  • 市役所に隣接する交流館にも、ラリー関連の書籍や雑誌を置くスペースを設置。地域ぐるみの応援ムードが感じられる。

昨年開催されたアルペン・クラシックカー・ラリー(ACCR)でも、多くの地元住民が応援旗を手に参加選手たちに声援を送った。

老若男女がラリーの話題で盛り上がれる街に!

2021年のラリージャパンがどんなコースで開催されるかはまだ発表されていないものの「サービスパークが豊田スタジアムになると発表があったので『昨年予定されていたモリコロパークよりも近くなったから、三河湖にSSが設定されたら観客がたくさんくるのでは』と今から盛り上がっています。動画にも出演していただきましたが、ぜひ地元愛知県出身である勝田貴元選手が三河湖で走ってくれたらうれしいですね!」と川合さん。

「なにより、ラリーを通じて地域の中でも新しい人間関係や仲間ができあがったのがよかったですね。普段は関わりのない部署や業種の方、そして地域の方々と協力して『ラリーをきっかけに下山を盛り上げていこう』と団結できたことは、今後さまざまなことにつながっていくと思います」と今村さん。

三河湖周辺は新緑の季節もキレイだし、夏は涼しく、最近では冬にもキャンプを楽しむ観光客も増えているという。また、毎年「三河高原アドベンチャー」と称して、熱気球の体験イベントやSUP、マウンテンバイクの体験などを実施しており、今年も夏と秋に計画しているそうだ。

ラリーイベントのボランティアなどとして地元中学生も関わる予定となっていて「経済的な効果だけでなく、子供たちの地元への関心が強まり、郷土愛の醸成にも繋がったらいいな」という思いもあるそうだ。

もともと観光担当だったことからセントラルラリー担当に抜擢され、当初は「クルマが好きでもラリーを知っているわけでもないし、いったいどうしたらいいんだ?」という状況からのスタートだったという今村さんだが、当初の目的である地域振興にも確実に結びつけることができているようだ。

三河湖や神社や古民家など日本の原風景ともいえる景観をバックにラリーカーが走り抜けることによって、下山地区・三河湖の良さを国内はもちろん外国の人に知ってもらい『ラリージャパンといえば三河湖』のイメージを広めるべく、ラリージャパン開催を待ちわびながら、しもやまラリーイベント実行委員会のみなさんは今日も着々と準備を進めている。

<取材協力:しもやまラリーイベント実行委員会>

[ガズー編集部]

ラリージャパンを1000倍楽しもう!特集