【ラリージャパンを1000倍楽しもう!】2004年からはじめた『地域再生計画』。ラリーのおかげで『しんしろ』と読んでもらえるようになりました!

ラリージャパン開催予定地となっている愛知県や岐阜県では、WRC開催に向けて盛り上がりを見せている。サーキットで開催されるレースとは違って、ラリーは公道がコースとなるため、広いエリアがイベント会場となり、各地域にもさまざまな影響を与えるのだ。

今回は、今年で18回目となる日本屈指のラリーイベント『新城ラリー』の会場で、イベントの運営をおこなう愛知県新城市役所のみなさんと、それをサポートする方たちにお話を伺った。

スポーツをきっかけに地方再生を狙う!

「新城で初めてラリーが開催されることになった当時、私はぜんぜん関係のない部署だったのですが、開催当日の早朝に同僚から『イベントで使うラリー車両を動かせるスタッフがいないので手伝ってくれないか』と電話がかかってきたんです。もともとクルマ好きだったこともあり、そのまま毎年お手伝いをすることになりました」
そんなエピソードを語ってくれたのは、新城ラリーに開催初年度から関わっているメンバーのひとりで、現在は新城市の産業振興部スポーツツーリズム推進課で課長を務めている貝崎禎重さん。

「公道を使用するラリーを開催するうえで、道路の使用許可や地域住民との調整、サービスパークが置かれる公園施設の管理などは欠かせません。通常はそういった手続きや準備も競技団体が行うのですが、新城ラリーでは新城市役所の職員である我々がおこなっています。ラリー当日も、競技以外の会場や観客に関する問題点などは一旦私たちに集約されて、状況を見ながら対応しています」と説明してくれた。

  • これまでインプレッサやRX-7、カプチーノ、ロードスターなどを乗り継ぎ、年に数回はサーキット走行に行くという貝崎さん。ラリー競技については「助手席に人を乗せて、クローズドとはいえ公道であんな走りができるなんてすごいですよね。自分には絶対できません(笑)」とのこと。

会場周辺を含む案内看板の設置や駐車場の白線引きなど、イベント準備は多岐にわたる。「サーキットなどとは違い一般公道を使用するので苦労は数えきれませんが、開催10年目くらいから他のエリアの方との会話でも『新城といえばラリー』が定着してきたという実感が出てきて嬉しかったですね」。

そんな貝崎さんと共に、新城ラリーに長年携わってきた夏目道弘さん。
そもそも新城ラリーを始めることになったキッカケを伺うと「小泉内閣時代に行われた『地域再生計画』という制度に、新城市が“アウトドアスポーツを通じて地域発展を目指す”という内容の『DOS地域再生プラン』を申請して、それが認可されたんですよね。そこで、当時の企画担当がクルマ好きだったこともあり『ラリーを誘致してはどうか』という話になり、ラリー競技を運営する団体に相談をもちかけたのが始まりでした」と、教えてくれた。

「ラリーはもともと、みなさんの邪魔にならない夜中に開催されていたくらいのマイナー競技で、初めの頃は主催側の代表である勝田さんたちといっしょに、さまざまなことを手探りで始めましたね。最初の頃に開催していたのは地方戦で観客は2000人ほど。でも、回数を重ねるごとに盛り上がってきて、今では全日本選手権まで開催されるようになりました」と夏目さん。

  • 2004年にJAF中部・近畿ラリー選手権の一戦として始まった新城ラリー。競技を運営しているのは「MASC(モンテカルロ・オート・スポーツ・クラブ)」という団体で、組織委員長はWRCに参戦する勝田貴元選手の祖父である勝田照夫氏(写真左)。なんと今年はGRヤリスでゼロカーのドライバーも務めた。

穂積亮次新城市長もオープニングで挨拶に立ち、第3回の新城ラリーで自らの愛車に『ゼッケン00』を貼って走行した思い出を語った。その後にはスタートの合図となる旗振りも!

  • もともと新城市役所職員で、現在は退職して『設楽原をまもる会』事務局長などを務めている夏目さん。ちなみに当初は「モータースポーツも“スポーツ”がつくから」との理由で、スポーツ課がある教育委員会に所属する夏目さんが担当することになったという驚きの背景も。

「地方戦を実施していた2011年に、TRDヴィッツチャレンジというワンメイクレースが併催されることになり、それに参戦していたトヨタ自動車の豊田章男社長が大村県知事を助手席に乗せてデモランしたことがあったんです。それがキッカケとなって来場者もいっきに増加して、会場が手狭になったこともり新城総合公園で開催されるようになりました」と振り返る。

「『新城』と書くと知らない人は「しんじょう」と読まれるんですが、新城ラリーの名前が少しずつ広がってきて「しんしろ」と読んでもらえるようになってきたんです。そのときに、ラリーをやってきた効果を実感しましたね」と嬉しそうに話してくれた。

イベント会場内でデモランを行ったり、トヨタガズーレーシングの協力でファミリー向け企画が催されたりと、観客に楽しんでもらえるようにと工夫を続けながら続けてきた新城ラリー。2006年のメイン会場は『ふれあいパークほうらい』。その後もイベント規模を拡大しながら『桜淵公園』(上の写真は2011年)、そして現在の『県営新城総合公園』(下の写真は2017年)へと移り変わっていった。

「大きなイベントになったこともあり、4年前にスポーツツーリズム推進課という専門部署が立ち上がり、ラリーや自転車競技などで地域を盛り上げる活動を専門部署としておこなうようになりました」と貝崎さん。

ほかの地域のラリーイベントでは、レースやイベントを生業とする企業や団体が運営を行うことが多いが、新城ラリーの場合はその生い立ち上、今でも市役所が運営に携わっている。
「来場者数が5万人にもなる新城ラリーは、普通だと市役所でできる規模のイベントではないのですが、長年やってきた積み重ねのおかげですね」と貝崎さん。

貝崎さんとおなじスポーツツーリズム推進課で、道路使用許可申請や地域住民との調整などを行う植田容正さん(写真左)も「地域の方々にいかに楽しんでもらえるかが大事だということを常に心がけています。仕事としては道路使用時の安全面などはごまかしが効かないですし、地域住民の方にも少なからず負担や不便をおかけするので、そのあたりを意識していますね」と、とても真剣に取り組んでいる様子が伝わってくる。

「奥三河の人間は奥ゆかしくて、なかなか外向きにアピールできないし、自分たちでは地元の魅力を発見しにくい部分もあります。でも、ラリーを通してさまざまなところから来てくれる方たちが『新城ってここがいいよね』と逆に教えてくれるんです。そういう面でも、ラリーをやっていて良かったなと感じますね」

  • 釣りが趣味だという植田さん。愛車のデリカには釣り道具が満載だという。「自分が小さい頃に渓流釣りなどで慣れ親しんだ自然を、観光資源として改めてアピールできるように意識しています」とのこと。

市役所の有志や支援メンバーも欠かせない存在

通常は6名ほどで準備を進めているスポーツツーリズム推進課だが、有観客イベント時には市役所からの有志や、イベントを支援してくれる新城ラリー支援委員会のメンバーなどを集めて、延べ人数で150人ほどが動員されるという。

市役所に勤める朏(みかづき)里紗さんと渡辺百美さんもそんな有志メンバー。
「私は普段は鳳来支所で窓口業務などをしています。やってみない?と誘ってもらって今年で4回目のお手伝いかな。もともとクルマ好きなのですが、ふだん走っている車がレースしている姿を見るのって迫力があって楽しいです。終わった後はお祭りの後みたいに『やりきった』という達成感もありますしね」と朏さん(写真右)。
なんと過去のイベント時にはサブステージの司会も務めたそうだ。
イベントがあると遠くの音を聞くくらいだったが、去年と今年は無観客開催だったたため、競技車両が走っている様子を近くで見ることができて楽しい!とニコニコだった。

新城市役所の税務課でお仕事をしているという渡辺さん(写真左)も「私も今回が3回目ですが、有観客イベントの時にはお土産を販売したりと、ふだんとは全然違うお仕事なので楽しいです。でも、観戦を楽しんでいるお客さんの姿を見るのも楽しいので、無観客なのはやっぱり寂しいですね」と話してくれた。
ちなみに、新城市役所ではほかの部署のイベントも含めて、お互いの部署の仕事を他の部署がお手伝いしてカバーする雰囲気が根付いているという。

市役所の職員だけではなく、新城ラリー支援委員会の存在も欠かせない。
新城市内でスポーツバイクやアウトドアイベントなどを企画・運営する一般社団法人『ダモンデ』の代表、有城辰徳さん(写真右)もそのひとりだ。

「2013年から新城ラリーに関わっていますが、5万人も来場する大きなイベントを手作りで運営しているので緊張感や責任感がすごいですが、みなさんに喜んでもらえるイベントを作り上げることができているのは充実感というか達成感がありますね。でも、なぜか毎年雨が降るので、雨対策の装備もどんどん増えちゃいました(笑)」と笑う。

初めて関わった年から台風が直撃して大変な思いをしたのもいい思い出と語る有城さん。子供の頃からクルマ好きだったので、小さい頃からテレビで見ていたWRCが地元で開催されるなんて思ってもいなかったので、WRCカーの爆音が新城に響くのが今からとても楽しみだという。

  • 開催前日に台風が直撃し、テント設営などの準備が真夜中や早朝まで続いこともあるなど、悪天候による苦労も少なくない。とはいえ、こういった苦労話で盛り上がれるのも、参加しているからこその楽しみのひとつ!?

アウトドアや歴史巡りも楽しめる新城を世界にアピール!

サービスパークが設置される新城総合公園の周辺には、長篠の戦いで鉄砲隊が使用した馬防柵や、有名戦国武将に関連する石碑なども多数あり、クルマ好きではなくても楽しめる観光スポットがいっぱい!
また、豊かな自然を楽しめるサイクリングマップや登山マップを作成したり、写真を取りながらチェックポイントをまわるスポーツ『フォトロゲイニング』なども実施。最近では渓流釣りとアウトドアをからめた企画なども準備を進めているという。

戦国時代にまつわるイベントや観光スポットも多数。新城総合公園の近くにある道の駅「もっくる新城」では、戦国にちなんだお土産物やジビエ料理なども楽しめる。

  • 滝を登る鮎をカゴですくい上げる地元特有の漁『鮎滝』やビンコ釣りをはじめ、自然を楽しめるスポットも多数。最近はマウンテンバイク用のコース整備などにも力を入れているという。

市民のお祭りとして定着したラリー。世界戦で次のステージへ!

「イベントが大きくなるにつれて、クルマ好きのお父さんだけじゃなく、一緒に奥さんやお子さんが1日楽しめるような催し物も用意するなど、やはり市民に楽しんでいただくということを考えながら取り組んできたのがよかったのかなと思っています。ラリーに興味があると思えない近所のおばあちゃんが出店で買ったものを食べながら眺めていたりと、今ではほんとにお祭りのようなものですから」
「それから、交流人口といってイベントをきっかけに新城に足を運んでくれるお客さんが増えることで、町がさらに活性化してくれたらいいですね」と夏目さん。

「新城ラリーが始まった頃には小さかった息子もすっかり大人になったのですが、毎年『そろそろラリーが始まる時期だね』というんです。きっと、お祭りや花火大会とおなじくらい、地域の方にも根付いた風物詩のようなイベントになっていると思うんですよね」

「昨年から無観客開催となってしまっているので、早くお客さんにきてもらって楽しんでもらえるイベントに戻ることを願っています。いっぽうで、新たな取り組みとしてライブ配信などを行うようになり、そういった手段でも多くの方に新城を知っていただくチャンスができたと思っています」

「地方戦を始めた頃から、関係者たちは『いつかは世界戦を!』を合言葉にやってきたので、実際に愛知県でラリージャパンが開催されることになって喜んでいます。このチャンスを生かして、新城市でも観光の活性化につなげることができるように準備や構想を進めています」と、貝崎さんも熱い思いを語ってくれた。

ちなみに新城市では、2026年にアジア競技大会自転車競技ロードレースも開催が予定されているという。ラリージャパンとあわせて、スポーツの国際戦をきっかけに観光やイベントをさらに盛り上げ、地域の皆さんに楽しんでもらうべく、市役所職員や支援メンバーたちは着々と準備を進めている。

<取材協力:新城市/新城ラリー支援委員会>

[ガズー編集部]

ラリージャパンを1000倍楽しもう!特集