誰もが笑顔になれるS耐。富士24時間でいよいよ開幕

ピレリスーパー耐久シリーズ(S耐)の開幕戦はいきなり富士24時間!
でも、初戦から内容の濃いレースを見られるのだから、待ったかいがあったというもの。今シーズンは来年1月の鈴鹿まで、全6戦が予定されています。

お待ちかねのファンの方も多いかと思いますが、S耐をなんとなくしか知らない方のために、どんなレースか少しおさらいしてみましょう。

S耐は1991年にスタートした市販車ベースのレース(N1耐久)をルーツに持つカテゴリーで、参加型レースの最高峰。
クラスは全部で8つ(ST-X、ST-Z、ST-TCR、ST-1~5)あり、出場するマシンは日産GT-Rやアストンマーティン、メルセデス、BMWなどのGT3やGT4などのスーパーカーから、スバルWRXやアクセラ、レクサスRC、86、ロードスター、マツダ2(デミオ)、ヴィッツなど、一般道でよく見かけるクルマまでよりどりみどり。
今年はさらにGRスープラやGRヤリス、クラウンなど、注目のニューマシンも登場します。

  • ST-Zクラスに参戦するメルセデスベンツ、BMW、アウディのGT4マシン(写真提供:スーパー耐久機構(STO))
    ST-Zクラスに参戦するメルセデスベンツ、BMW、アウディのGT4マシン
    (写真提供:スーパー耐久機構(STO))
  • 様々な国産車がレーシングカーとして参戦(写真提供:スーパー耐久機構(STO))
    様々な国産車がレーシングカーとして参戦
    (写真提供:スーパー耐久機構(STO))

ドライバーはプロドライバーからステップアップを狙う若手、趣味でレースに出場しているジェントルマンドライバーまでバラエティ豊かな顔ぶれ。
さらにチームもトップカテゴリーを戦う純粋なレーシングチームからパーツメーカーの直営チーム、ディーラーチームやチューニングショップを母体に持つチームなど、まさに十人十色。中にはチューニングショップのお客さんがスタッフを務めるというチームも。

そんな個性あふれるチームが真剣勝負を繰り広げるのだからおもしろくないはずがない!

S耐はその名の通り耐久レースで、レース時間が3・5・24時間と長く、特に24時間レースが始まった2018年以降は、コースのあちこちでキャンプやBBQを楽しみながら観戦する人たちが増えてきました。お客さんはS耐観戦の極意がわかっているんでしょうね。

今シーズンの開幕に向けた公式テストが、7月30日(木)に富士スピードウェイで行われました。編集部ではこの公式テストに訪問し、ドライバーやチーム関係者などに取材を行いました。

その感想を一言でいえば「みんな本当に楽しそう」。
新型コロナウイルスの対策が徹底されながらも、富士24時間に向けた入念なクルマづくりはもちろん、ピットインワークの確認や裏方の準備など、S耐ならではのチーム戦を心底楽しんでいるようでした。
そこには勝ち負けだけではない「FUN TO DRIVE」の精神が根付いていると言っても過言ではありません。

  • トップドライバーのリラックスしている姿をパドックで見かけることができるのもS耐の特徴!
    トップドライバーのリラックスしている姿をパドックで見かけることができるのもS耐の特徴!
  • 夜間走行のテストの様子(写真提供:スーパー耐久機構(STO))
    夜間走行のテストの様子
    (写真提供:スーパー耐久機構(STO))

今回、ドライバーやチーム監督など、立場の異なる関係者4人に話をうかがったので、生の声を聞いてください!

「みんなでS耐を楽しむ」プロドライバーの佐々木孝太選手

佐々木孝太選手
佐々木孝太選手

S耐ドライバーの多くは本業が別にあるアマチュア。いわゆるジェントルマンドライバー(GD)で、S耐が参加型レースと呼ばれている所以です。このGDのサポートに力を入れてきたのがプロドライバーの佐々木孝太選手。自チームを立ち上げてのS耐参戦や、GDをサポートしながらの参戦を積極的に行っており、今年はマツダのお膝元、広島マツダが運営するHM RACERSのマツダ2でST-5クラスに参戦します。ちなみにS耐には複数のトヨタディーラーが参戦していますが、マツダディーラーではここだけ。

「ぼくはS耐に長く出ていますし、自分のチームで出ていたこともあります。自分のチームで出ようと思ったきっかけは、趣味でやっているGDがどうしたらレースに出られるのかを知りたがっていたこと。壁を取っ払い、窓口を大きめにして、ドライバーからスタッフ、マネージャーまで受け入れられるような環境をつくりたいと思ったんです。

GDには本業があり、安全にレースを終えないと影響が出るし、家族にも反対されてしまいます。でも、レースで勝つことに飢えているGDは多い。そういうのを手助けしてあげるために自分のチームをつくったり、GDのサポートを始めました。レースで勝つのは普段なかなか味わえない感情。安全に走れるようにぼくらがサポートしています」

♯102 ヒロマツデミオマツダ2(H.M.RACERS)
♯102 ヒロマツデミオマツダ2(H.M.RACERS)

「GDがST-XやGT4のクルマでS耐に出るのもいいのですが、ST-5のように身近なクルマで走るのもありだと思います。街を走っているクルマを1個ずつ改造して、部品をつけて、クルマを仕上げて。で、そんなにクルマも速くないから、GDも扱える。ぼくらが全力で走ったら壊れてしまうので、いろいろなテクニックを駆使しながら、壊れないように走っています。昔のS耐もそんな感じで教えてもらったというか、ガンガンいけいけと言われたことはない。回転は6500ぐらいでブレーキはもっと手前でコントロールとか。S耐はそういうことを学ぶにはめちゃくちゃ勉強になるレースですね」

S耐はレース時間が長い分、ドライバーやメカニック、マシンにかかる負担は大きくなります。でも、全員で楽しみを共有できるのがS耐の魅力。しかも、それをさらに自分たちの力で広げることができます。佐々木選手はそんなS耐の神髄に触れたからこそ、参戦を続けているのでしょう。

クルマをつくるのが楽しい!自社製マシンで参戦するトレーシースポーツ

(有)トレーシースポーツ 兵頭信一代表
(有)トレーシースポーツ 兵頭信一代表

S耐を構成する8つのクラスのうち、主にST-X、ST-Z、ST-TCRは日産GT-RやメルセデスAMG、アウディR8など、完成車のレーシングカー(欧州メーカーが中心)を購入して参戦、それ以外のクラスは自社でマシン(国産メーカーが中心)を製作し、参戦しています。ST-3やST-4クラスを中心に長年参戦を続けるトレーシースポーツ(兵頭信一代表)は、後者のマシンにこだわり、今年はATしか設定のないクルマをレース用に改造し、参戦。兵頭代表がドライバーを務めることもあり、S耐通として知られています。

「今年はST-1クラスのRCFとST-3クラスのRC350の2台体制です。世の中の流れでTCRやGT3(ST-X)、GT4(ST-Z)も入ってきているのですが、日本のクルマづくりも大事です。私たちは自分たちが好きなクルマ、好きなパーツでやるというコンセプトでずっとやっています。クルマづくりができなかったら意味がないので、売っているクルマはいや。先のことを考え、いろいろな技術でレーシングカーの性能を向上させています」

♯38 ADVICS muta Racing RC F TWS(TRACY SPORTS)
♯38 ADVICS muta Racing RC F TWS(TRACY SPORTS)

「S耐最終戦の1月(鈴鹿)、1クラスのRCFをGRスープラにチェンジして走る予定です。ホイールすら換えられないGT4マシンは、ぼくらにとってはおもしろくない。どれだけ大変でもクルマをつくるのが楽しい。勝った負けたよりもクルマづくりをしたい。GRスープラ、なんとか速くしたいけど、電気系が手ごわい。コロナの問題でヨーロッパから部品が入ってこなかったりしていますが、ボディはできています。大変だけどやりがいがありますね」

レースで鍛えたパーツをストリートへ 86とAMG GT4を投入するエンドレス

♯13 ENDLESS 86(ENDLESS SPORTS)
♯13 ENDLESS 86(ENDLESS SPORTS)

S耐はSTO(スーパー耐久機構)が認定した部品の使用が許されており、市販アフターパーツ開発の場としても活用されています。中でもエンドレスは、S耐をリアルな開発現場と位置づけ、長きにわたり参戦。今シーズンはST-4に86、ST-ZにAMG GT4を投入します。自身もドライバーとして参戦経験のある花里祐弥さんにお話しをうかがいました。

「86はデビュー翌年の2013年から参戦していて、ブレーキパッド、ブレーキシステム、ダンパーなど、自社製品の開発を行っています。ST-4クラス(1501cc~2000ccのFR車のクラス)に参戦する理由は一番市販車に近いカテゴリーだから。現場でリアルに開発されたものがお客様により早く提供できる形をとっていて、この86と同じダンパーを販売できます。エンドレスがS耐に参戦する一番の意義はそういうところですね」

(株)エンドレスアドバンス 花里祐弥さん
(株)エンドレスアドバンス 花里祐弥さん

「GT4は世界基準で行われているカテゴリーで、パッドやフルードしか換えられないというのがありますが、うちが合わせ込んだGT4やGT3の商品が、世界の舞台へ羽ばたくことで、技術の証明となり、世界にアピールできます。S耐は国内のカテゴリーですが、車両自体は世界中で走っていると思うので、グローバルに見ています。86は一般ユーザーへのフィードバックが目的なので、エンドレス製品を使ってお客様にストリートでクルマを楽しんでもらいたいと思っています。

レース距離の長いS耐でパーツを開発するということは、お客様がパーツを使う長いスパンをこのレースに凝縮しているということです。しっかりフィードバックし、お客様に確実な安心を提供しています」

お客さんと一緒に楽しむことに力を入れる埼玉トヨペット Green Brave

♯52 埼玉トヨペット Green Brave クラウン(埼玉トヨペット Green Brave)
♯52 埼玉トヨペット Green Brave クラウン(埼玉トヨペット Green Brave)

スーパーGTで初優勝を記録するなど、モータースポーツの世界でメキメキと頭角を現している埼玉トヨペット Green Brave(GB)。S耐はチームの原点と呼べるカテゴリーで、2013年から参戦しています。今シーズンはST-3(2001cc~3500ccのFR車)クラスに、なんとクラウンを投入。マーケティングや技術的チャレンジを重視したとのことですが、とってもユニークな戦略です。青柳 浩チーム代表に話をうかがいました。

「我々にはクルマの楽しさをモータースポーツの中で発信していく、サービススタッフの技術力向上、マーケティングという3つの目的がありまして、出来上がったレーシングカーを走らせ、単にレースに勝つことだけを目的にしているのではありません。自分たちで作ったクルマを自分たちでメンテナンスして研究して速くして、それを自社内ですべてやっていこうと。そういう意味ではスーパー耐久はちょうどよいレースだと思っています」

埼玉トヨペット(株)Green Brave 青柳 浩チーム代表
埼玉トヨペット(株)Green Brave 青柳 浩チーム代表

「最初の86はレース向きのクルマでしたが、次のマークXや今度のクラウンは不向きなクルマ。とはいえ、自分たちが売っていきたいクルマで、長年参戦し、S耐を知り尽くしているチームと互角に戦っていることに価値を感じます。活躍することでGreen Braveのファンがついてきて、埼玉トヨペットのファンになっていただきたいと思っています。

S耐はお客様とチームが気軽にコミュニケーションできるレースですが、どうしたらサーキットに行けるのか知らない人も多く、ハードルが高いという声もあります。そこで埼玉トヨペットではお客様の交流イベントをS耐で行い、抽選でご招待しています。みんなで一緒にモータースポーツを楽しんでもらうというのが狙いです。レースを初めて見るお客様に、クルマの新たな魅力や価値観を知っていただきたいですね」

以上、立場の異なる4人の関係者の声を聞いていただきました。4者4様の取り組み方があるのをわかっていただけたと思いますが、ここでは伝えきれないS耐ならではの魅力、楽しさがまだまだあります。

がぜん興味が沸いてきませんか?

S耐にはまさに「FUN TO DRIVE」の精神が根付いています。開幕戦は観客を入れて行う予定なので、現地で一緒に楽しみましょう。
あっ、走行前後はバタバタしている可能性があるので、お気に入りのドライバーやチームとコンタクトする場合はスケジュールをよく確認してくださいね!

スーパー耐久 2020年開催スケジュール

第1戦 9月4日(金)~ 6日(日) 富士スピードウェイ(24時間)
第2戦 10月10日(土)~ 11日(日) スポーツランドSUGO(3時間)
第3戦 10月31日(土)~ 11月1日(日) 岡山国際サーキット(3時間)
第4戦 11月21日(土)~ 22日(日) ツインリンクもてぎ(5時間)
第5戦 12月12日(土)~ 13日(日) オートポリス(5時間)
第6戦 1月23日(土)~ 24日(日) 鈴鹿サーキット(5時間)

【関連リンク】
ピレリスーパー耐久シリーズ
https://supertaikyu.com/

執筆:奥野大志 写真提供:スーパー耐久機構(STO)、奥野大志

[ガズー編集部]