能ある鷹は爪を隠さないで下さい…TBS安東弘樹アナウンサー連載コラム
先日、2015 FIA世界耐久選手権 第6戦 富士 6時間耐久レース を観戦してきました。
長男と男二人で、メインスタンド二階席で、寒さに震えながらも6時間フル観戦です! やはり生で観るレースは楽しいですね。
私は入社して20数年、ずっと土日は仕事でしたので、去年までレースを観戦する事は叶いませんでした。
それだけに生のレースには改めて、感動です。
結果はポルシェがワン・ツーフィニッシュで4連勝、アウディが3,4位、トヨタが5、6位と、今年の定位置?で終わりました。
去年は年間チャンピオンだったトヨタが今年は苦戦しています。
唯、クルママニアとして、6時間観戦して、この結果に納得している自分がいました。
というのも正直、ポルシェやアウディの方に先進性を感じてしまったからです。
以前、このコラムでドイツメーカーのパワーユニット、パワートレーンの種類の多さや貪欲さに触れましたが、WECでは、それが確実に出ていた様に思います。
ちなみに
ポルシェのマシンは、V4!2L直噴ターボ+モーター
アウディのマシンは、V6、4Lディーゼルターボ+モーター
それに対して、トヨタはオーソドックスなV8、3.7L自然吸気エンジン+モーターです。
所謂、馬力に関してはトヨタが勝っているのですが、明らかにドイツメーカーのクルマが速い印象でした。
特に、それを際立たせたのが、「音」です。
特にアウディのディーゼルハイブリッドは、驚く程、静かなんです。
市販車に関して、ディーゼルがうるさかったのは今は昔、というのは少しずつ認識されて来ましたが、レーシングカーに関してはガソリンの方が遥に「うるさい」です(笑)
回転数が少なくてすむ、というのもあるのですが、とても不思議で新鮮な印象です。
ホームストレートを走るアウディは正に音も無く時速300キロで滑って来るので、凄みを感じます。
人間の感覚とは不思議なもので、音も無く移動している物体の方が、けたたましく音をたてて移動する物体よりも早く感じるものです。
アウディの後ろを、古典的なエンジンのLMP2クラス(一つ下のカテゴリー)のクルマが走っているのを見ると「何で、あんなに爆音を発しているのに、あんなに遅いんだ」とカッコ悪く感じてしまいます(笑)
アウディの音を表現すると走っている時は「シュー」シフトダウンの時は「プシュー、プシュー」という感じです。「正に未来のレーシングカー」。
他のクルマは「クオーン!」と「フォン!フォン!」でしょうか。
息子も「アウディの音はカッコ良いね」、と盛んに言っていました。
さすが、今まで見向きもされなかったディーゼルエンジンで、ル・マン24時間を始め、数々のレースに勝って来たメーカーだな、と感心してしまいました。
ちなみにアウディは、ディーゼルの燃費が良い為、ポルシェやアウディよりも10リットル程、燃料タンクが小さいというハンデを背負っています。
それでも互角に戦っているのが、更にクールだと思うのは私だけでしょうか?
そして、次に静かだったのはダウンサイズターボエンジンを積んだポルシェです。
こちらはオーソドックスな音質ですが、従来の音の半分位の音量。
そして我らがトヨタは残念ながら、音はこれまでのレーシングカーとほぼ同じでした。
音と速さは関係ないかもしれませんが、先進性を感じたのは確かです。
私は元々、これまでのレーシングカーの音は大きすぎると思っていました。 クルマが好きで、クルマの、あらゆる音には慣れている私でさえ、その日の夜は、寝る時、耳鳴りに悩まされました。
個人差はあると思いますが、成長過程の子供には、悪影響が無いとは言い切れません。
「あの音が無ければレースを観た気がしない」という方もいるかもしれませんが、アウディやポルシェの音量でも十分、迫力は感じられます。
それから、見た目でいうとヘッドライトの形状です。
アウディのマトリックスLEDやポルシェの片側4燈のLEDヘッドライトが、とにかく先進的でクールなのですが、トヨタのマシンのヘッドライトは、何故か古典的で、パッと見ると70年代から、あまり形状は変わっていない様に見えます。
もちろん、音や見た目で競う訳ではありませんが、市販車に於いてはハイブリッドやLEDヘッドライトで先鞭をつけたトヨタだけに残念です。
実は、この残念な感じは市販車にも感じています。
元々、日本メーカーは、トヨタが、世界で初めてハイブリッド車を量産したり、HONDAがCVCCエンジンで厳しいアメリカの排ガス規制を一早くクリアしたり、常に先を行っていたはずですが、ここ10年程は、ダウンサイズターボ、ツインクラッチ、クリーン・ディーゼルと世界の潮流に遅れているのが気になります。
日本の道路環境や多くの日本人の運転パターンが、それらを求めないという要因もあるとは思いますが、それを差し引いても、マニアからすると、ここ10年の日本メーカーには物足りなさを感じます。
技術力はドイツメーカーに負けていないと思うのですが、97年にトヨタがプリウスを世に出して以降、日本メーカーから、革新的な技術が発信されていない様な気がしてなりません。
(三菱のPHEVの先進性を評価する方もいますが)
以前も書きましたが、日本メーカーは内燃機関には見切りをつけたのでしょうか?「技術の日産」がメーカーアイコンの「スカイライン」にメルセデスエンジンとトランスミッションを積んで、「電気自動車」と「自動運転」のCMを盛んに流しているのを見ると、正直、複雑な心境です。
今すぐ、500キロの航続距離と様々な種類の電気自動車を発売出来るのなら、それも良いですが、後10年は内燃機関に頼らざるを得ないなら、その10年は内燃機関でも全力で勝負して欲しいです。
今、3大モータースポーツ世界選手権(F1、WRC、WEC)の全てをドイツメーカーが圧倒しています。
F1はメルセデス。WRCはフォルクスワーゲン。WECはポルシェとアウディ。
日本でのモータースポーツ人気が完全に一部の人のものになっているのも、そういった要因もあるかもしれません。
ラグビーのW杯、今年は日本代表が史上初めて3勝して世界を驚かせました。
すると、ラグビーに、これまで見向きもしなかった日本の人々が熱狂しました。
日本でのF1人気全盛期、マクラーレンホンダが勝ちまくり、中嶋悟さんが奮闘していました。
残念ながら?日本に於いてはスポーツを観る原動力は「ナショナリズム」が大きいのが事実です。
ですから、日本メーカーの皆さん、市販車の開発に於いても、モータースポーツのマシン開発に於いても、爪を隠さず、能力を全て発揮し、全力で戦って勝って下さい。
今、ドイツメーカーのクルマはガソリンのターボ、300馬力で15km/L。
ディーゼルターボ、400Nmのトルクで20Km/L。
メルセデスベンツSクラスのディーゼルターボハイブリッドに至っては750Nmという途方もないトルクで20Km/Lです。
(日本車に有利な筈の日本のJC08モードでの燃費。輸入車の方が、よりカタログ燃費と実質燃費が近い、というデータが多い)
もちろん、それなりに高価ですし、数字が全てではありませんが、圧倒されてしまうのも事実です。
富士で全力で戦い、涙ぐましい走りを見せた中嶋悟さんの長男、中嶋一貴選手。
ご縁が有って懇意にさせて頂いてますが、富士のレースが終わった後、ラインで「来年に繋がる走りが出来たと思います」とのメッセージをくれました。
トヨタさん、来年こそは(今年は、まだ終わっていませんが)一貴選手をポディウム(表彰台)の中央に再び立たせてあげて下さい!
そして読者の皆さん!今、モータースポーツの世界選手権で日本メーカーのワークスチームでドライブする日本人を応援出来るのはWECだけですから、ぜひ応援を、お願いします!
それから特にWECは、レースが正に実験場です。この戦いで得た技術やデータが、そのまま市販車にフィードバックされる、と言っても過言ではありません。
そういう事も念頭に、レースを楽しんで下さい!
(テキスト/安東弘樹)
[ガズ―編集部]
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