方向指示器…TBS安東弘樹アナウンサー連載コラム
前回のコラムで書きましたが、日本では主に「ウィンカー」と和製英語で呼ばれる方向指示器を、最近、作動させないドライバーが増えているのが気になっています。気のせいかとも思いましたが、クルマで名古屋に行った際に、一般道、高速道含めて、簡単にカウントしてみたのですが、半分弱位のクルマが主に車線変更の時に、所謂「ウィンカー」を点けていませんでした。
車線変更「しながら」点ける、という感じで事前には点けなかったクルマもカウントすると、半分位のクルマが非点滅、という割合でしょうか。流石に交差点では点けているクルマが大多数でしたが、車線変更時に点けないクルマが多い事、多い事…。
教習所では最近、車線変更時にウィンカーを点けるという指導はしていないのかと思う程、点けないクルマが増えている印象です。
私はクルマを運転して29年目になりますが、特に、ここ10年位で、違和感を覚える事が増えました。10年以上前は、高速道路を猛スピードでジグザグ運転しながら、下品に追い越しをしている「輩」でさえ、ウィンカーは点けていたと記憶しています。
最近は、営業車、お母さんが運転するミニバン、若い人が乗る軽自動車、中高年男性が乗るセダン、果てはタクシーまで、ありとあらゆる種類のクルマ、ドライバー(正に老若男女)が点けない事に驚かされます。
どうして、最近、急激に増えてきたのか、またしても、自分なりに考えてみました。
以前書いた「クルマ離れ」の時にも少し触れましたが、最近のクルマは、とにかく安楽に運転出来る様になった為、運転時の良い意味での緊張感が希薄になってきているのも、理由の一つなのではないかと考えます。
その証拠?に最近、「片手」で運転している人を、多く見かけます。
ステアリングのパワーアシスト量は増え続け、人間が、それを回す力はドンドン必要なくなってきています。片手でステアリングを回せる上に、ATのクルマがほとんどである事もあり、確かに直線を走っている限り、片手でステアリングを支えていれば、事足ります。
特に男性に多いのが、身体を斜めにして、ステアリングの12時(真上)を持つ姿勢での片手運転です。その姿勢のまま、車線変更をする場合、ウィンカーレバーを操作するには、ステアリングを持ち替えなければなりません。その作業を省略したいが為に、レバー操作をしない人が、まず挙げられます。
極論かもしれませんが、そういった怠慢を誘うのも、安楽な運転が出来るクルマの弊害と言えるかもしれません。
他に、こんな理由も…。
これは笑えない笑い話という感じですが、ウィンカーの意味を理解せずに、「もったいない」という理由で、点けない人の話を、同僚から聞いた事があります。
何が「もったいない」のか…。
その同僚の奥様の話だそうですが、高速道路を降りようとインターチェンジに入る時に、運転していた奥様がウィンカーを点けなかったので、同僚が、何で点けないのか訊いた所、「自分は高速道路を降りる事は分かっているので、電気が(無駄な事で)消耗するのが、もったいない」と答えられたそうです(笑)。
改めて確認するまでもありませんが、ブレーキランプやハザードランプ、ウィンカー等は、自分の意思確認ではなくて、前後左右を走っている、「他のクルマ」に、これから行う自分の行動を「事前に」知らせる事で、注意を促す為のものです。
悪意の有無はともかく、その様なドライバーが増えた為、最近は、前方を走っているクルマが、何の指示も無いまま、突然、減速して、いきなり路肩に停まったり、高速道路で、斜め前を走っているクルマが、何の前触れもなく、いきなり自分の車線に入って来たり、本当に、「ヒヤッと」する事が増えました。
ハザードランプに関しては、御礼の意思を伝える為には点滅させる人が、急にクルマを停める際には点けない、という珍現象まで起きています(苦笑)。
御礼は御礼で良いとは思いますが、緊急性の高い、急停車の方を優先して欲しいものです。
ブレーキランプは、ペダルを踏めば自動的に点きますが、それと同じ位、重要な、他車への意思表示がウィンカーやハザードランプであると理解していれば、それを点けない、という選択肢は無くなると思うのですが、その様な理解が周知されていない様です。
私が所有しているクルマは、どれも、正しい運転姿勢で、常に両手両足を駆使して運転しないとスムーズに操作出来ないクルマです。ですから、常に心地良い緊張感を持って運転せざるを得ないのですが、それが正しい操作や、ひいては快楽にも繋がっています。
日本の殆どのメーカーは、ファミリーカーと言われるクルマに関してだけでなく、ごく一部のクルマ以外は、楽しく、というより、とにかく安楽に運転出来る様に、これまで技術を向けてきたと感じます。
それはそれでユーザーの声に応えて来たとも言えますが、その結果、作られてきた、ひたすら安楽に運転出来るクルマは、正しい運転をさせる、という意味では諸刃の剣なのかもしれません。
本当にクドくて申し訳ありませんが、クルマは命を乗せて走り、命を奪う可能性が有る、道具です。
それはミニバンでも軽自動車でも全く変わりません。
残念ながら、私の様なマニアでもない限り、ほとんどのドライバーの皆さんは、一回、教習所を卒業して免許を取得してしまうと、いつも行っている運転操作はともかく、基本的な操作の意味やクルマの構造等、習った事の多くを忘れてしまう様です。
本来は行政が、例えば免許の更新の際に、徹底的に基本操作の意味やクルマの構造等を再教育するのが筋ですが、現状、通常の更新手続きや違反者に対しての交通安全のけいもうに手一杯で、基本を改めて教える余裕は感じられません。
そうなると、現在の状況では、正しい知識や操作の基本的な意味を伝えるという責務を、クルマを作っているメーカーに、担って頂くしかないかもしれません。クルマを売る度に、その操作方法だけでなく、その操作の意味も、改めて、しっかり伝えて頂く事を、お願いするのは酷でしょうか…。
実は、スウェーデンの自動車メーカー「VOLVO」は、自社のクルマが関わる交通事故死者数を2020年までに0にする目標を掲げて、ハード面の開発は勿論、それを正しく作動させる為に顧客への正しい運転のけいもうも行う、という事を耳にした事があります。
それが本当なら、ぜひ、世界中のメーカーも追従して頂きたいと思います。
将来の「自動運転」の実現ばかり掲げているメーカーもありますが、その前に、しばらくは運転の主役である人間のドライバーを教育するという方向にも、その力を向けて頂ければ、と切に願います。
安全な交通社会の実現の為には、全ドライバーが、正しい知識と高い意識を持って運転する様になるのが、究極の理想です。
勿論、自分も含めて全てのドライバーが、その理想に到達するのは難しいとは思いますが、少しでも近づく為には、個人、行政、メーカーが力を合わせて、努力を続けていくしかないのではないでしょうか。
私も、ほんの少しでも「良い方向への指示器になれる様」に、自分の事も常に客観的に見つめて今後も声を上げ続けていきたいと思います。
安東 弘樹
[ガズー編集部]
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