春の憂鬱…TBS安東弘樹アナウンサー連載コラム

「1300円、です」私のクルマのETC車載器から、こんなアナウンスが聞こえてきて、私は驚き、耳を疑いました。唐突に申し訳ございません。

これは新年度になって暫くした、ある日、住んでいる千葉市から首都高速湾岸線を通り実家が有る横浜市まで行った際、横浜の料金所を通過した時の話です。これまでは「930円」でしたので、あまりに慣れていない「センサンビャクエン」という音に驚いてしまった、という訳です。

皆さんも御存知だと思いますが、4月から首都高速道路を含めた首都圏の高速道路や自動車専用道路の料金が大幅に変わります。簡単に申し上げますと、これまでは定額制と距離制が混在していたものを距離制に統一して、料金を「公平に」し、都心への流入を減らし渋滞緩和も見込む、というのが名目の様です。

ただし、距離で純粋に計算すると首都高速道路での最長距離は2900円にもなってしまうので、1300円を上限にするという事です。同様に第三京浜等も大幅な値上げになるのですが、それでも、激変緩和措置、により260円→390円の値上げに「止める」、という説明もありました。

いくつか、ごもっとも、と言えるところもありますが、何か釈然としません。

例えば、第三京浜で言うと、いろいろ調べた所、1965年に全面開通した際には40年したら償還完了で無料化、という事になっていたそうです。40年後という事は2005年ですから、もうとっくに無料になっているはずですが、その後も何もなかったかの様に有料のままで、しかも今回は値上げです。公平化、激変緩和措置と言えば、聞こえは良いですが、完全に「約束無視」です。

この状況を解り易く説明すると、

「40年後には無料にしてやるから、取り敢えず今は、お金払いなさい。他と比べたら安いもんだろ」と言ってお金を徴収し、その期限が来ても、お金を払わせ続け、ある日「他の所も値上げするから、俺の所も値上げするけど、いきなり倍以上じゃあ、大変だろうから、ちょっとだけ、色をつけてやるよ」という感じでしょうか…。

もはや、「ならず者」の言い分です。

ある横浜の事業者は、東京まで毎日、第三京浜を使ってクルマで物を運んでいるので、横浜新道の値上げも伴って、使っているクルマ1台あたり年間15万円のコストアップになるそうです。

心中、察するに余りあります…。

勿論、この50年で各道路の民営化等、状況は変わっていますが、これまで「償還完了で無料化」という約束は、どれだけ無視され続けてきたでしょうか。また、通行状況の改善、という名目ですが、4月から、一般道は明らかに混雑の度合いが激しくなっています。

例えば、私が日常的に使っている国道357号線。首都高速の湾岸線と並行しているのですが、4月に入ってトラックが明らかに増えて、時間帯によっては、渋滞が激しく大型のトレーラーやダンプの駐車場の様になっている時があります。

以前は、信号も少ない2車線の直線道路という事で比較的、通行がスムーズな国道だったのが嘘の様です。恐らく首都高速道路の千葉側からの起点である千鳥町から、首都高速道路を経由して各高速道路に入っていたトラックが、上限930円なら、起点から首都高速道路に乗る所を、上限が1300円と4割も高くなった事で、ギリギリまで一般道を使う事で、可能な限り今までと同じ通行料に抑えようとしているのではないでしょうか。

実際に私も都心に行く場合、千鳥町からは乗らず、国道357号線で「お台場」まで行って、レインボーブリッジから首都高速道路に乗る様になりました。当然、時間も掛かりますし、平均速度が遅くなった為、半月間で既に自分のクルマの燃費が悪くなりました。

正に本末転倒です…。

そして、これは私事ですが、3月末に自分のクルマの車検を通した事で〇十万円の出費がありました。この日本の車検制度も常軌を逸しています。

そもそも故障が少なく途上国では10年以上もメンテナンスフリーで使われている日本車が90%のシェアを誇るわが国で、「2年に一回(新車時は3年)も10万円以上の料金を払って「整備」をして登録しなおさないと、所有を続けられないというのは、どう考えても道理に合いません。

そして、車検に伴って、任意の自動車保険も満期を迎え、やはり十万円程の出費。さらに5月には恐怖の自動車税の納付が待っています。正に私は「憂鬱」という言葉がふさわしい春を迎えています。

日本でクルマを所有し、使うと、どうしてこんなにも経済的圧迫を受けるのでしょうか。今はまだ燃料が比較的安いのが、せめてもの救いですが、これもアメリカ等と比べたら、遥かに高価と言わざるを得ません。(しかも皆さんも御存知だと思いますが、燃料費の、かなりの部分は税金)、それに原油価格は、この先、どういう状況になるかも分かりません。

勿論、「クルマなんて環境負荷が高いものは出来るだけ減らした方が良い」という方もいらっしゃるでしょう。唯、何度も言いますが自動車というのは現実的に日本の基幹産業です。さらに、災害時などでは、本当に無くてはならない道具になります。物資の運搬や負傷者の搬送、家が倒壊した際には、簡易の宿泊場所になる可能性も有ります。

基幹産業であり、国民の多くにとって必要な、この「クルマ」を、購入時の負担はともかく「所有し続ける」事を躊躇わせる、という状況は、可能な限り早く改善する必要が有ると考えます。

以前もコラムに書いた「クルマ離れ」の大きな要因が経済的な負担である事も明白です。

現状の経済的負担状況では、所謂「富裕層」でなければ、実用車を所有するのが精一杯で、物理的に「クルマ好き」に、なろうと思っても、中々なれません…。そうなれば、日本のメーカーも国内の「趣味人」が、ドンドン減る事で、技術の粋を集める様な趣味人向けのクルマを作ろうという流れにもならない…。

実用車しか売れない→各メーカーが同じ様なクルマしか作らない、という状況。当然、一台当たりの利幅も少なくなるでしょうし、これは、将来的に基幹産業にとっての危機に繋がる事になるでしょう。

この状況を打破する為には、我々使用者、メーカー、ジャーナリスト等、クルマに関わる全ての者が行政や立法府に働きかけないといけないのだと思います。

私もここでメッセージを皆さんに届けるだけではなく、今後はメディアの人間として「お上」に向かって、微力ながら、小さな声を上げ続けていく所存です。壁は高くて声が届くのには時間が掛かりそうですが…。

あがいてみます!

安東 弘樹

[ガズ―編集部]