国の怠慢と物言わぬユーザー…TBS安東弘樹アナウンサー連載コラム

最近、TBS社内でも私がこちらでコラムを書かせて頂いている事が浸透してきた様で、ここ暫く、会社のエレベーター等で、バッタリ知り合いに会うと、頻繁に、こんな事を訊かれます。
「三菱自動車問題は、安東的にはどうなの?」(如何にも業界風)とか「安東さんは、あの問題は、どう思っていますか?」

といった具合です。

やはり、この問題は避けては通れない様ですが、三菱自動車に対する批判は、色々な所で、様々な方が既にしているので、私は違う側面で、この問題について持論を述べたいと思います。

あくまで持論、というより自論、ですので、ご批判も頂くかもしれませんが、どうかお付き合い下さい。

それから、今回のコラムの内容を通して、三菱自動車を擁護する意図は無い事も付け加えておきます。

その上で…。

私が思うには、この問題の背景には国土交通省の怠慢と、これまでも語って来た、日本人のクルマに対する無知、無関心や、クルマだけではなく、色々な物事に対して、数字や周りの評価で判断し、あまり自分自身の尺度で評価するのが得意ではない上に、あまり「お上」や大企業に対して声を挙げない、という性質もあると思っています。

一つ目の国土交通省の怠慢、について。
今回、多くの人が初めて知ったと思いますが、国土交通省がクルマの燃費を計測するに当たって、空気抵抗やタイヤで生じる摩擦抵抗等、実走する際に生じる幾つかの抵抗は事前にメーカーが測定し提出します。(このデータは、国交省は検査しません)

それを元にクルマを検査場の計測台に乗せて走らせ、正に「机上」で計測をして、メーカーが出した抵抗値を差し引いて数字をだす…という方法で、我々が目にする、JC08モード、というカタログ燃費が決まります。

そのメーカー提出のデータに不正があった…、というのが今回の問題の概要です。

そして今回、国土交通省は、「メーカーが不正データを出すとは想定していなかった」というスタンスをとっていますが、僕はそのスタンスに違和感を覚えます。

勿論、不正が分かっていて目を瞑っていた、とは思いませんが、昨今の「数字による」燃費競争が激化している状況で、いつか誰かがこの様な手段に出る、というのは想定するべきだと私は思います。

というより、そんな不正が可能な検査方法で、これまでずっと燃費データを発表してきた事に憤りすら感じます。

少なくとも、何件か一つでも抜き打ちでメーカーデータの検査をするべきではないでしょうか?

これまで、このコラムでも、カタログ燃費と実燃費の乖離について、何度か触れてきましたが、根本的に、現在の燃費算出方法が現実的ではない事も理解した上で、国交省は、ずっとこれまで、物言わぬ日本のユーザーに甘えて来たとも言えます。

これまで「10モード」→「10・15モード」→「JC08モード」と徐々にではありますが、実燃費に近づけて来た事実も有りますが、本当に「ほんの少しだけ」で、何に遠慮しているのか分かりませんが、実燃費には程遠い実態は変わってきませんでした。

詳細は略しますが、今でさえ、時速80Km/hまでしか計測範囲にしていない等、現実的な走行状況とはかけ離れた設定での計測になっている為、今後は、根本から方法を変えるべきだと思います。

各メーカーと胸襟を開いて話が出来る、ある自動車ジャーナリストの方が、以前私に教えてくれましたが、メーカーも実は今の計測方法には困っていて、こう嘆くそうです。「ユーザーはカタログ燃費の数字を見てクルマを選ぶ傾向があるので、どうしても現在の計測方法で、良い数字が出るセッティングにせざるを得ない。」

更に「国側も日本のクルマの燃費が、数字だけでも総じて良くなった方が都合が良い為、敢えてそこまで厳しくしない、という背景も否定できない」とも、おっしゃっていました。勿論、真偽は分かりませんが。

アメリカでは、メーカーとある意味「敵対」している環境保護局(EPA)が厳しく燃費の計測をして、世界で最もリアルな数字が出るシステムと言われています。

それでさえ、カタログと実燃費の差が有る、とのアメリカ人ユーザーの厳しい声が相次ぎ、現在、国連傘下の自動車国際基準調和の中で国際的に統一した計測法が模索されている様です。

この方法では、限りなく現実に近い数字が出るそうです。全世界での早い実現を熱望します。

そして二つ目の背景、我々日本人の性質の話です。クルマ離れが進んでいる事もあり、最近は大半の方がクルマについて、あまり知識がありません。ですので、購入する際には、セールスの方の言葉や、色々な数字で判断する事になります。

すると、目に見えない、実際に運転した時の走行感覚や、自分の走行パターンでの燃費ではなく、カタログ上の馬力や実燃費と乖離のある燃費表示を鵜呑みにして購入、という流れになります。

そして、購入後は自分で燃費を計る事も無く、「カタログに書いてあったから、自分のクルマは1Lで○Km、走る」と信じ満足している、という方も多くいらっしゃると思います。

実際、つい先日もこんなやり取りをしました。
自分の知人が、ハイブリッド車に買い替えたのを知り、たまたま会社で会った時に「燃費はどれ位?」と私が訊いたところ「前のクルマより給油する回数が減ったから、やっぱりハイブリッドは燃費が良いね。」、との返事。で、「リッター、何キロ位?」と私が重ねて訊くと、「計った事が無いから分からない」と返されました。

購入する際には、数字で決めるのに、実際の燃費は計ろうとしない、というのが私には全く理解できません…。

ちなみに私は給油する度に、必ず走行距離を入れた燃料量で割る「満タン法」という方法で燃費を算出します。

すると色々な事が分かります。気候や乗り方や道路状況で燃費が変わる事も実感として理解できます。

勿論、ユーザーは、どういう風にクルマを使おうが燃費を計ろうが計るまいが自由ですし、ましてや罪はありません。しかし、物言わぬユーザーが、国交省や、メーカーを甘えさせている、という側面もあるとも思っています(お叱りを受けるのを承知で書きますが…)。

欧米(特にヨーロッパの人)は、違います。

とにかく「個人」が確立していて、自己責任の意識が強く、良い意味で、無条件では人を信用しない彼の地の人達は徹底して「自分で」物事を判断します。

極端に言えば、カタログの数字と実際の数字がかけ離れていたら、訴訟になります。

以前、私が試乗した、あるドイツ車のカタログには、燃費は勿論、「最高保証巡航速度」という記載がありました。どうして、こんな表記になっているのですか?と訊いた所、「我々のドイツの顧客は、実際にアウトバーンで最高速度を出そうとするので、もしその速度が出なかったらすぐに訴えられるんです。しかも、一瞬その速度に到達した…では駄目で、その速度で巡航出来て初めて満足して頂けるので、その様な表記になっています」との返答でした。

苦笑いしながらも、つくづく、ドイツのユーザーは厳しいなと関心しました。

その厳しさは、勿論、燃費に対しても同様で、カタログとの乖離が著しい場合は、やはり訴訟になりかねないそうです。

ちなみに、私がそのクルマを暫くお借りして乗ってみた所、日本の交通状況では相当、不利で有る事は想像出来ますが、その実燃費は本国のカタログ数値と10%程しか離れていませんでした。正直、驚きました。

これも以前書きましたが、同じクルマでもカタログ燃費は日本と欧米では、かなり離れていて(特にハイブリッド車は30%から40%も違う場合も)、実燃費は限りなく、「あちら」の方が近い場合が多いのが現実です。

でも、日本国内でその乖離を批判したりメーカーに苦情を訴えたりするユーザーは、あまりいない様です。

燃費を、そもそも計らない人が多い上に、仮に計った際に数字がカタログと離れていても「そんなものか」、と納得する方が大半ではないでしょうか(笑)。

今回も、三菱の当該車を所有している方からの指摘ではなく、共同開発をした日産からの指摘で明るみになった事が、それを物語っています。

訴訟をおこすべきとは言いませんが、自分や家族の命を預けるクルマにもっと関心を持ち、自分が所有するクルマの燃費位は自分で計って、明らかにおかしい数字が出たら、自分の担当のセールスマンやメーカーのカスタマーサービス等に、意見としてアピールしても罰は当たらないと思いますが如何でしょうか?

唯、その際には、所謂、「単なるクレーマー」にならない様に、冷静に具体的な状況だけを説明するのが大切です。

私だったら、走行データやパターンを可視化して、その乖離をアピールしたりするかもしれません(笑)そして、もしそんな意見を受けたら、ディーラーも真摯にメーカーに対して声を伝える責任が有るのは言うまでもありません。

検査機関である国やメーカーを甘やかさない為にも、ユーザーは、もっとクルマという物を知り、厳しい目を持って、場合によっては、声を挙げる事も必要なのではないでしょうか。

その姿勢が日本の自動車行政やメーカーを、より良い方向に向けると私は信じています。

クルマの事になると、つい熱くなってしまいますね。乱文。御容赦下さい。

安東 弘樹

[ガズ―編集部]