オートモビルカウンシル …TBS安東弘樹アナウンサー連載コラム

先日、幕張メッセで行われた「オートモビルカウンシル2016」というイベントに行ってきました。

一言で説明するのは難しいイベントですが、国内外の9つのメーカーが、それぞれのテーマで、伝説的なクルマの“本物”を展示したり、専門店19社がヘリテージカーやビンテージカーと呼ばれる様な新旧の名車を展示、販売したり、ミニチュアカーや珍しい書籍、ファッションアイテムを売る店舗までもが出店する等、これまでに無かったクルマ好きにとって、非常に満足度の高い“濃い”イベントでした。

例を挙げると、

TOYOTAはカローラ50周年を記念して、それぞれの年代の名車と言われたカローラを展示していて、その美しさに改めてカローラを見直しました(笑)

特にTE27 カローラレビン…小さいながらも、その流麗なボディと当時としては高性能、100馬力以上のエンジン。本当に、素直に「カッコイイ」と思いました。

当時の若者に憧れられていた事は容易に想像出来ます。当時のTOYOTAは、もう少し大きな、これも当時の若い人の憧れ、セリカもラインナップしていました。

何故、今この様なクルマが少ないのか…、改めて残念でなりません。

NISSANは、「プリンスの系譜」と題して、言わずと知れた初代SKYLINE GT-R(KPGC10型)、戦後日本初のプロトタイプレーシングカーR380、また最新式のGT-Rも勿論、展示していました。

他にも、各メーカーとも、え?こんな貴重なクルマを持ってきて良いの?!という様な伝説的なクルマを張り合う様に、誇示しているのが何とも嬉しかったです。

そして、私が最も感銘を受けたのが、ワク井ミュージアムさんが出展していた、私が自分の思想や言動の指針にしている白洲次郎の愛車であった、ベントレー3リットルそのものです。

実際に白洲次郎が握ったステアリングを見た時には身震いしました。

1924年製の、そのベントレーは会場の一番奥に近い所に展示してあり、そこから、様々な国の様々な年代の名車達を暖かく見守っている様に私には見えました。

まとめると、幕張メッセの二つの展示ホールに収まるコンパクトな会場に、ギュッとクルマ好きが唸るエッセンスが詰まった玉手箱の様なイベントと言って良いと思います。他にも、ご紹介したい事が沢山あるのですが、そうすると、単なる見学記になってしまうので、ここから本題に入ります。

こんな素晴らしい稀有なイベントなのにもかかわらず、来場者が少ない事にまず驚きました。

私が訪れたのは夏休み真っ只中、8月上旬の日曜日です。

イベントを手伝っている知人に、会場に着く前に「今日は混んでますよね?」とラインで訊いた所、私と同年代の男性で普段は絵文字等は使わない、その知人から「大丈夫です(ハート)」という返信。

行ってみたら(ハート)の意味が分かりました。(笑)

分かりやすく言うと、各ブースや一台一台のクルマを、ゆっくりと、じっくりと観る事が出来る様な状況でした。

しかも、数分毎に会場内で知り合いにバッタリ会ったのですが、その知り合いというのは普段接している、極めてコアなクルマ好きばかりで、来場者の質?は確かに高いのですが、モーターショーに来る様な、ちょっとクルマに興味が有るという一般の?お客さんがあまり居なかったという印象です。

そもそもクルマに興味を持つ人が減っているので仕方がないとは思うのですが、理由の一つは、とにかく宣伝が少なかった事があげられます。
自動車雑誌や、クルマ関係のサイト等では、そこそこの広告は見られましたが、電波媒体では殆ど見かけませんでした。

私が担当しているレギュラーのラジオ番組の中でNISSANがこのイベントのCMを出し、偶然にも私がそのコメントを読ませて頂きましたが、私がTVやラジオで見たり聴いたりしたCMは、その1本だけでした。

そこで、今回出展した国内外のメーカーに申し上げたいです。

クルマから離れてしまった日本人に、またクルマに近付いて貰うには、この様なイベントで訴求するのが一番ではないでしょうか!と。今回は、新旧の名車と言われるクルマをすぐ近くで観る事が出来て、しかも殆どのクルマに触れる事すら出来るのです。

そして、値札を付けて売っているクルマが多いので、とにかくリアリティがあって面白い!

1億円!とか8000万円!の値札が付いたTOYOTA 2000GTを目の前で観る事が出来て、(同時に2台の2000GTを見たのは初めてです!)その近くに展示してある、200万円のピカピカにレストアされたオールドMINIに実際に乗って商談も出来るんです。

モーターショーに行っても「早く帰りたい」、の一点張りになる、クルマに全く興味が無い次男が、今回は特に古いクルマの、丸みを帯びた名車達に目が釘付けになっていました。「カッコイイ!」「可愛い!」「乗りたい!」の連呼です。

子どもは正直です。

特に日本車に於いて、70年代までのクルマには、確かに人を惹き付ける何かが有る様です。

それは、どのメーカーも、数字ではなく、夢を追ってクルマを作っていたからだと私は思います。

まだまだ、これから大きくなるぞ!欧州車に、追いついてやる!そんなロマンを追いかけて、歯を食いしばってクルマを作っていた想いが、クルマに興味が無い子供にも伝わるのではないでしょうか。

80年代に入り、数字的には(スペックや販売台数等)欧州車に追いついた様な雰囲気になり、そこから、驕りの様なものが出て来て、悪い意味で、数字を追いかける様になってから日本のクルマ作りは変わって来たと私は感じています。

数字を追いかけた結果、気付けば、売れるのは、箱型の実用車ばかり。マーケティングを行うと、そういうクルマを欲している人が多いとメーカーは主張するでしょう。

しかし、ユーザー自身が気付かない、見えない欲求というのが必ず有るはずで、そこを掘り起こさなくなったら、モノづくりをやっていても面白くなくなるのではないでしょうか?

奇しくも普段、クルマに興味のない次男が私の考えを証明してくれた様な気がします。

何を言いたいかと申しますと、メーカーも、せっかく自分たちが作り上げて来たヘリテージが有るのですから、そこをアピールするのが、もしかしたら、これからの顧客に近付く近道なのではないかという事です。

モーターショーで、遠くからコンセプトカーを見せるより、自分達が作って来た誇れるクルマを目の前で見て貰った方が、特に、今、あまりクルマに興味が無い人に、興味を持ってもらうのには有効なのではないでしょうか。

実際に、この様なイベントは欧米では大小、盛んに行われていて、どのイベントも大盛況です。勿論、メーカーが束になって全面バックアップしている物も少なくありません。

つくづく、あちらの人達はクルマが好きなんだな~、と感心します。

主催者のKさんは、「日本では、ここがスタート。これからも続けて行きたい」とおっしゃっていたので、次回は、TOYOTAを中心に(笑)各メーカーがテレビCMを、バンバン出して頂く事を期待します。民間放送のテレビ局員だから言うのではありません(笑)

また、それぞれのメーカーが自身のユーザー全員に告知をすれば、かなり有効な宣伝になるでしょう。クルママニアではない一般の方に、自分たちの魅力を、そして何よりクルマの魅力を理解して貰える稀有な機会です。

どうか、本気で広告をして頂いて、自分達が生み出した名車に一肌脱いで貰って沢山の人を魅了しましょうよ!

オートモビルカウンシル2017の会場に人が溢れて、「あーあ、去年は、ゆっくり観られたのに…」と、ぼやくのを楽しみにしています。

安東 弘樹

[ガズ―編集部]