外国人、外車…という感覚の呪縛 …TBS安東弘樹アナウンサー連載コラム
平成29年、大相撲初場所、大関、稀勢の里が優勝を飾り、場所後の横綱昇進が決まりました。千秋楽結びの一番、白鵬戦も見事な勝利で人柄も含めて基本的には文句無しの横綱昇進ですし、私も心からの祝福の気持ちでいっぱいです。
ただ、私が言うのも何ですが、その“報道”に関しては、どうしても違和感を覚えました。
優勝前から、やたらと「日本出身力士の横綱は、19年振り」ばかり見出しになり、日本メディア全体が、今場所は他の国出身の力士が優勝したら残念、と言わんばかりのスタンスであったのが、“日本人として”恥ずかしかったのは私だけでしょうか?
どの国の出身だろうと力士は、一人一人が、一番一番、勝つ事を目指して厳しい稽古を重ね、その結果、勝ち越す事も有り、黒星が上回る事も有ります。
そして、その積み重ねで十両に上がり(十両以上が関取と呼ばれ給料を貰える)幕内力士になり、三役(小結、関脇、大関)に昇進し、ごく一部の力士だけが、横綱に辿り着く。更に、その横綱として勝ち続ける事が最終目標であると思います。
何度も言いますが、そこに“どの国の出身である”という事に意味など、私には見出せません。
ある新聞は稀勢の里関が勝った瞬間の写真を大きく載せ、そこに被せて「日本中がおめでとう」という見出しを付けていましたが、私個人としては、相手の白鵬関に対して、少し、失礼なのではないか、と感じました。
これまで、他の国出身の力士が横綱になった時は「日本中がおめでとう」という見出しにはならなかったからです。
白鵬関は、日本の小学校に土俵を作る活動や、被災地での巡業を率先して行う等、横綱として、日本を愛し相撲の普及に尽力してきています。私は熱烈な相撲ファンとは言えませんが、一人横綱として、相撲界を引っ張っていた時期もある白鵬関を、いつも尊敬し、心のどこかで応援しています。
そして、応援する時、私は、白鵬関が“どこの国出身であるか”を気にした事はありません。
この事と関係が有るか疑問を持ちつつも、どこか共通の違和感を覚える事があるので、筆を進めたいと思います。
最近、私の“クルマ好き”というイメージが一般視聴者の皆様にも少しずつ、浸透してきた事もあり、一般の方から、所有しているクルマについて訊かれる事が増えて来ました。
それこそ、道ですれ違いざまに、「ラジオ聴いてます!クルマが好きなんですね。何に乗ってるんですか?!」と訊かれたりする事も有ります。
私は、輸入車を所有しているので、そのまま答えると、その反応は「やっぱり外車ですか」とか「やっぱりお金が有る人は外車なんですね」等、どちらかと言えば、輸入車に対してネガティブな反応を頂く事が多いのです。
勿論、嫌な気持ちになる様な御意見を頂く事はありませんが、全く悪気も無く、ポロっと出る言葉が、この様なものが多いのは確かです。
私としては“外車”に乗っているという意識はなく、自分の好みに合ったクルマが、たまたま海外メーカーのクルマであっただけなので、相手の方の反応に、その都度、苦笑せざるを得ません。
これまで、その時点での自分のニーズに合ったクルマを購入して来たので、その中には日本メーカーのクルマも、勿論、有りました。
それにしても、いまだに“外車”という表現が一般の方から、頻繁に聞かれると、少し悲しい気持ちになります。
相撲の話とは少し違うかもしれませんが、日本人は、このグローバルな時代になっても、いまだに「日本」と「外国」「外国人」「外車」等と、ハッキリ線引きをして、その呪縛から解かれていないのだと実感します。
英語にも“自国以外の”という意味の“foreign”という単語は有りますが、日本人が使う「外○」とは明らかにニュアンスは違います。
クルマで言えば、恐らく「外車は高い」と一纏めにされていますが、今や輸入車は車種によって、価格の幅も有りますし、むしろフランス車等は、内容云々を別にしても、絶対価格が日本のクルマと、ほぼ同じと言える物も多々あります。
それから「外車は壊れる」というイメージも、一纏めにされていますが、少なくとも私の過去の所有車は1度も壊れた事はありません。(信じて貰えませんが本当です。走行距離が多いのが理由かもしれませんが)
何が言いたいのかと申しますと…、もういい加減、日本、それ以外、という目線はやめませんか。という事です。
勿論、私は日本人として誇りを持っているつもりです。
でも、それは優劣や帰属に対しての誇りではなく、世界中の方々と、何人(なにじん)か、何に帰属しているか等、一切関係無く、胸を張って対等に交流出来る様に努力を怠らない為の誇りであって、日本人である事自体に対して、というのと少
し違います。
ある人は、こう言います。「だって島国だから、仕方がないよ」
ただ、イギリスも島国ですし、アメリカも大きさは違いますが、ある意味北アメリカ大陸の島国と言える訳で、島国、一言で片付けたくはありません。
これまでも主張してきましたが、我々は、もう少し、自分達だけの常識や固定概念に縛られず、色々な価値観や目線を意識して知識を得て、出来れば経験を積み、その上で、自分自身に誇りを持つ様な生き方が出来る様になれば良いな、と思います。
最近、“日本人が凄い”というテーマのTV番組が増えている事にも、違和感を覚えます。これも私が言うのも変なのですが(笑)。
その様な番組を観て、日本人として優越感に浸って心地良いとしたら、それはあまりに情けないと僕は感じています。
それらの番組で紹介されている人や会社やシステムは素晴らしいとしても、それは、その方々が凄いのであって、日本人全体が凄い、という論理で良いのでしょうか。
他の国にも、それぞれ“凄い人”は沢山いるでしょう。ただ、それを「我々の国民が凄い」といって紹介する様なTV番組は少なくとも先進国では見られません。どうしても、我々は日本と、それ以外とを区別せずにはいられない様です。
私は、国、という呪縛から早く人類が解放される日を子どもの頃から、待ち望んでいます。理想論とやゆされる事も多いですが、つい400年前まで日本は国内で、血で血を洗う戦いを繰り広げて来ました。
ですが江戸時代、外敵が襲って来た訳でもないのに見事に国が一つに纏まった歴史が有ります。徳川家康一人の力で纏まった訳ではないのは確かでしょう。
その後、欧米列強の外圧も有った事で、日本が対外的にも一つの国家になった事を考えれば、環境破壊や、エネルギー問題、近い将来確実に深刻になってくる水不足等、人類共通の“敵”が、迫っている昨今、そろそろ、人類が、国という概念に縛られずに、一丸となって内なる敵に、立ち向かっていける様になったら良いな、なんて思っています。
随分、話が大きくなりましたが、まだまだ日本ではスポーツ界を見てもプロ野球もJリーグも、モータースポーツも“外国人枠”という制度や感覚が残っていますが、これも、今後は撤廃するべきだと私は考えます。
例えばプロ野球やJリーグ、スーパーフォーミュラ等の、テレビ中継に於ける実況やニュースで「ホームランが日本人で最多」、とか「ゴール数が“日本人トップ」、とか「予選順位、日本人で最上位」、等という表現を耳にすると、本当に残念な気持ちになります。
メジャーリーグで“アメリカ人の中では最多ホームラン”、セリエAで“イタリア人の中でゴール数トップ”、DTM(ドイツ・ツーリングカー選手権)で“ドイツ人中最上位”等という表現は絶対にされないんです。
残念ながら、この“差”は我々が、日本人と、それ以外という感覚の“呪縛”に囚われている証拠であると言わざるを得ません。
私は全てのスポーツにおいて、そのプレイヤーが、どこの出身か、どの人種か等ではなく、純粋に、そのパフォーマンスの内容で応援される日が来るのを望んでいます。
クルマに関しても、国産、外車、等と区別されずに、純粋に、このクルマが好き、このブランドのクルマづくりの哲学が好き、と、個別に語られる様になるのが私の夢です。
どうか皆さん、色眼鏡はすべて外して、“外車”等と一括りにせず、様々な国のクルマに(勿論、日本のメーカーも色々と)片っ端から触れてみて下さい。
そして日本メーカーも輸入車メーカーも正に“同じ土俵で”切磋琢磨する事で、それぞれが正当に評価され、更に向上していく状況になる事を望みます。
私と正反対の思考を持つアメリカ大統領が就任し、稀勢の里関の横綱昇進が決まった時、そんな事を痛感した安東でございました。
安東 弘樹
[ガズ―編集部]
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