祝!WRC、18年振りの優勝!でもその先に…TBS安東弘樹アナウンサー連載コラム

今回は何といっても、この話しかありませんね!

2017年WRC(世界ラリー選手権、以下)第二戦ラリースウェーデンにおいてヤリス(日本名ヴィッツ)WRCがフィンランドのラトバラ選手のドライブで見事優勝!いやー、CSで生放送を観ていた私も驚きましたし、興奮しました。

私、実はモータースポーツを観る時、あまりナショナリズムを意識する事はなく、どちらかと言えば、好きなメーカーや好きなドライバーを応援する傾向にあるのですが、今回はラトバラ選手を以前から好きだった事も有り、素直に嬉しかったです。

チーム代表のトミ・マキネン氏の喜び様が、とても印象的でした。

選手時代より、浮かれて?見えましたが、それだけ重圧が有ったという事なのだと思います。

それにしても、1999年以来、18年ぶりの出場で18年ぶりの優勝、見事としか言い様が有りませんが、実は、これは2013年、23年ぶりにWRCに復帰したVW(フォルクスワーゲン 以下VW)と酷似している事に気付いている方は、どれ位、いらっしゃるでしょうか?

VWは、1990年までWRCに参戦していましたが91年以降2012年までWRCから離れていました。

そして2013年、23年ぶりにワークス参戦し、初戦、モンテカルロで2位!(TOYOTAも同じく初戦は2位でした)更に第二戦スウェーデンで何と1987年ラリー・コートジボワール以来26年振りの優勝を果たしました。第二戦で優勝というのも今回のTOYOTAと全く同じで、2013年の、その時も私はVWの偉業に驚きました。(お蔭で今回、ちょっと驚きが減ってしまったのが残念です…笑)。

更に驚いたのが2013年、VWは13戦中10勝を挙げ、23年ぶりの参戦で、マニュファクチャラーズ、ドライバーズ選手権、共にチャンピオンに輝いたのです。

しかも2016年まで4年連続、この状況は続き、そして正に勝ち逃げといった様相でWRCの舞台から去って行ってしまいました。
「今後は電動化を含めたこれからのクルマの可能性の研究をしていきたい」といういかにも王者風のコメントを残して…。

私には「やり残したことは無い」という風に聞こえました。そう、これからTOYOTAは、こんな迷惑な記録(笑)と闘わなければならない訳です。

実は私、様々な意味で今後のTOYOTAの快進撃に心から期待しています。

というのも、まず、今回の優勝で、久しぶりに地上波の夜のニュースで(残念ながら他局ですが)WRCが取り上げられました!時間は短かったですが、目にした時は感動しました!

“ヤリ・マティ・ラトバラ”の名前を地上波で聞けるとは!WRCを20年以上、全戦、DVDやCS放送で見続けて来た私にとって、信じ難い様な嬉しい瞬間でした。

以前、このコラムでも書きましたが、日本では「ナショナリズム」を喚起されて初めて、スポーツを観るという習慣から抜けられそうにないので、これはWRC、ひいてはモータースポーツに興味を持ってもらう、またとないチャンスだからです。

WEC(世界耐久選手権)で2014年、TOYOTAがチャンピオンになった時は、驚くほどメディアの報道は少なかったですが、これは新しい選手権ですので仕方が無いかもしれません。

ですがWRCは、90年代の日本メーカーの活躍を何となく覚えている方も多いせいか、訴求力が強そうです。

TOYOTAが、この後も快進撃を続ける事によって、毎戦、日本のニュースに映像が流れ、年間チャンピオンに輝いた日には、夜の各局のニュース番組にラトバラ選手が生出演、なんていう妄想も頭の中で描いています!

現在、私が出演している「ひるおび」でも、出演して頂くべく、それまで、秘かにお膳立てをしておこうと思います(笑)

さてWRCの参戦意義としては、今まで触れてきた様々な意味での啓蒙というのもありますが、もう一つ忘れてならないのが、そう市販車そのものの宣伝効果や技術的フィードバックです。そういう意味ではTOYOTAは、今後の課題が山積と言わざるを得ません。

前述したVWの場合、その部分でも、WRCへの参戦は一旦、役割は終えたと話しています。

だからこそ、次の電動化に向けて、フォーミュラーEへの参戦を積極的に進めると公言しています。

何だか半周程、日本メーカーは遅れている印象もありますが、それはまた、近い内に、お話したいと思います。

話を戻すと2013年以来4年間参戦していたVWにはイメージ的にも技術的にも、解り易くフィードバックを受けているな、というモデルが有ります。

勿論フィードバックというのは特定のモデルにされる訳ではなく、メーカー生産車、全てに大きな意味でされるものであるのは前提ですが、それでも消費者というのは、直接、目にする同じクルマにイメージをオーバーラップさせるものです。

勿論市販車とWRCのラリーカーは別物ですが、参戦していたポロの市販車にはGTIというスポーツモデルが有り、そのエンジンも排気量は違いますが(市販車は1.8L、WRCカーは1.6L)WRCカーと同じTSIというターボエンジンで、エクステリアも、ほぼ同じに見えます。

私もポロGTIを何度も運転しましたが、交差点を曲がるだけでその剛性が伝わるボディやMTモデルもツインクラッチモデルも、私の顔がにやけてしまう程のダイレクト感、箱根のターンパイクの料金所後の昇り坂でも、グイグイ上っていくエンジンとWRCカーのイメージ通りの痛快なクルマです。WRCで培った技術が、どれ程直接的にフィードバックされているかはともかく、オーナーだったら、「自分のクルマはWRCチャンピオンカーだ」と満足感を得られるに違いありません。

ところが失礼ながら現状、日本で売られているヴィッツにはスポーツモデルどころか、今回のマイナーチェンジではMTモデルさえも無くなってしまったそうで、WRCのイメージを体現するクルマは見当たりません。

スポーツ走行には向いていないCVTのみのラインナップです。

ヨーロッパ向けのヤリスには流石にCVTではなくMTとクラッチを使ったセミATのラインナップですが、やはりポロGTIの様なグレードは見当たりませんでした。

(日本では以前、完全限定車(GRMN仕様)が有った様ですが)

解り易く表現すると…
これまでTOYOTAのクルマに興味が無かった消費者がWRCを観て「お!ヤリスというクルマがWRCを制したぞ。何やらアグレッシブで速そうだしカッコ良い」と思い、翌日、TOYOTAのショールームに行きます。

そこに、置いてあるのは、あの日本でいうヴィッツです。

今年から、WRCの規定が変わり、空力パーツの自由度が増えた為、各メーカー共、去年より市販車との形の違いが大きくなった為、恐らく、彼はこう言います。「いや、これじゃない。WRCで勝ったやつだ。

スタッフはこう言います。「いや、間違いなく、これでございます」「何はともあれ、乗ってみよう」と言って試乗をしたとしたら、どうなるか。

WRCの爆走をイメージしてショールームに足を運んだ彼が私だったら、残念ながら購入はしないと思います。(ちなみに私、新しいヴィッツも試乗済みですし旧型に関しては知人の所有車を何度も運転した事が有ります)

それがポロのGTIだったら、即、購入するでしょう。

ここのコラムで、厳しい事を書く様ですが、逆に言えば、私はポロGTIの様なクルマを熱望している、という事です!

勿論、そんな事はTOYOTAの方も重々、理解されているでしょう!ですよね?!

実は、今回、もう3度目の私のコラムへの御登場(笑)、あの脇阪寿一さん曰く、「WRCに参戦したからには、TOYOTAのクルマは、これから絶対に変わりますよ!」と何度も直接、私に、おっしゃっていたので、何か、有るのだと思います!

ただ、御自分の希望を、おっしゃっていたのではなく、「ハッキリ言えないけど受け取って欲しい」というメッセージだったと私は思っています。ちなみに脇阪さんは御自身が出演していた、番組のスタジオでも、何度も、おっしゃっていました。

TOYOTAさん、くどい様ですが、期待して良いんですよね!

楽しいクルマ、待ってます!!


さて、また“番外編”ではありませんがWRC第1戦でCSの番組に生出演していた織戸学さんと脇阪寿一さんが、WRCの基本的なルールも御存知なかったのに驚きました。(失礼!)

「僕ら、サーキットドライバーは」という表現を、頻繁にされていて、しかも同じスタジオに御出演のラリードライバー奴田原さんとも初対面に近い雰囲気でしたので、日本のモータースポーツ界というのは、サーキットとラリーで、こんなにも壁?が有るのだな、と驚きました。

フィンランドを始めヨーロッパでは多くのドライバーが両方を経験しているのを知っていたので、これは本当に意外でした。これからは日本のモータースポーツの発展の為にも、横の交流も盛んにするべきだと思いました。

そして日本ではモータースポーツのファンも細分化されている事に、今回、改めて気付かされました。

数少ないF1ファンである、周りの何人かに「WRC、TOYOTA勝ったね!」と話しかけてみても。「?」という反応ばかりで、前回のテーマではありませんが、また、私自身の方が少数派である、という事を突き付けられた気がします(笑)。

私、録画しているレースだけでも、F1、WRC、WEC、WTCC、DTM、米インディーカーシリーズ、時にインタープロトシリーズ、フォーミュラーE、等、文字通りモータースポーツ全てが好きで、ハードディスクが常に、パンパンです。

基本的なルールは勿論全て知っていますし、各シリーズのドライバーの攻防やレース展望も楽しみにしています。ですから、それらを全て観るだけでも、一日が24時間では短いですし、1年が365日では少ないですし、何といっても人生そのものが短か過ぎます(笑)。

こんな私と、同じ目線でお話をして下さる方に出会えるのを待っている人生でございます。

さて!最後に、もう一度!

TOYOTA WRCチームの皆さん、本当におめでとうございます!!!


安東 弘樹

[ガズ―編集部]