クルマと映画…TBS安東弘樹アナウンサー連載コラム
出会いと別れの季節ですね…。少し切ない、この時期を私は大人になってから好きになりました。皆様、如何お過ごしでしょうか?さて、今回は皆様へのお知らせから始めさせて頂きます。
何と私“Car of the Year”(COTY)の選考委員を拝命する事になりました!
ある出版社の推薦、更には、あるジャーナリストの方の後押しもありまして、まさかの選出となりました。
推薦期限ギリギリの時期に、その出版社の方に声を掛けて頂いたのですが、先方も「まあ、難しいとは思いますが、頑張ってみますので、挑戦してみましょう!」と仰っていたので、正に「記念受験」の気持ちで、エントリーしてみたら…。
人生とは分からないものです。
唯、“素人の異常なクルマ好き”というスタンスは変えずに、これまで同様、思った事を綴って参りたいと思います。皆様、今後とも宜しくお願い致します!
さて、本題です。
ちょうど1週間程前、長男に「パパ!“ターボ”っていう映画観た?」と訊かれ、「え、知らないな。何それ?」と訊き返した所、「え?知らないの?じゃあ、一緒に観ようよ」と言われ、珍しく早く帰宅出来た日に長男と、その映画のDVDを一緒に観ました。
簡単に内容を説明すると、アメリカ、ドリームワークス製作のCGアニメ映画でインディ500(アメリカのインディーカーシリーズの中の1戦で、世界3大モータースポーツの一つ。ちなみに他の2つは、F1モナコGPとルマン24時間レース)に憧れるターボという名前の“カタツムリ”が、色々な奇跡を経て、インディ500に出場する(笑)、という荒唐無稽なストーリーの映画で、残念ながら日本では未公開ですが、某大手レンタルショップが販売、レンタルしている作品です。
最初、長男に同様の説明を聞いた時、私は「え?カタツムリの世界のインディ500に出場するの?」と尋ねました。すると「違うよ!本物のインディ500に出るんだよ!」と長男に言われ、少し混乱しましたが、ネットで事前に調べた所、確かにスターティング・グリッドに、普通のインディーカーに混ざって、小さいカタツムリが“ちょこんと”並んでいる写真が載っていました。ちなみに当たり前ですが人間はマシンに乗っていますが、ターボは生身での出走です(笑)。
何故、そんな事になったか、また結果はどうなったのか、は映画を観て頂くとして、荒唐無稽なストーリーと申し上げましたが、映画そのもののクオリティが高く、最終的には感動的でもあり観終わった後には、とても爽快な気持ちになっていました。
そして、この映画で印象に残ったのは、アメリカの人にとって、如何にインディ500というレースが大きな存在であるか、という事です(毎年30万人~40万人が観戦に訪れる事からも、良く分かります)。
このレースを、正に老若男女が楽しみにし、憧れ、誇りにさえ思っている様子が、この映画から、ひしひしと伝わって来ました。そして「羨ましい」、という気持ちが沸いてきたのです。
ハリウッドやヨーロッパでは、アニメでも実写でも、クルマやレースを題材にした映画が沢山あり、押しなべてヒットしています。
古くは「栄光のルマン」(邦題、御存知スティーブ・マックイーン主演、公開時はヒットしなかったが、その後、カルト的人気に)、やオリジナルの「ミニミニ大作戦」(邦題、イギリス映画、2003年にアメリカでリメイク)最近では世界中で老若男女が感動したPIXERアニメ「CARS」シリーズ、「TAXi」シリーズ(1,2,3,4はフランス映画、TAXi NYはアメリカ映画)「ミシェルヴァイヨン」(フランス映画、「栄光のルマン」同様にルマン24時間レースに実際に参戦し撮影)、「ワイルド・スピード」シリーズ等が印象に残っているでしょうか?
クルマがメインでなくても、作品の中での重要な役割を担っていたり、とても目立つ描写をされていたりと、とにかく映画の製作側も観る側も“クルマが好き”というのが伝わってきます。
ところが、日本では、どうでしょうか…。個人的には、日本映画でクルマが大きく扱われた作品は、パッとは思い浮かびませんでしたので、色々と調べてみました。
すると、まず出てきたのが1969年公開の「栄光への5000キロ」という石原裕次郎さん主演のサファリラリーを題材にした作品です。
この映画、1969年に公開されたのですが、私がスペインに住んでいた5歳の頃(1972年)に父にスペインの映画館に連れて行って貰い、観た記憶が有りました。(後から聞いた話ではスペイン在住の日本人向けの上映会だったそうです)既に父の影響でクルマが好きだった私はこの映画に夢中になり、暫くこの話ばかりしていたとか(笑)。
しかし、その後、いろいろ調べてみても、全国公開の大作と呼ばれる作品で、クルマやレースを題材にした映画を見つける事は出来ませんでした。
所謂「月9ドラマ」で、木村拓哉さんがレーシングドライバーを演じた「エンジン」という作品や、派手なカーアクションが毎回繰り広げられる石原プロ制作の刑事ドラマ等は見つけたのですが、映画となると、単館系や、Vシネと言われる作品ばかりでした。それも、どちらかと言うと改造車による、首都高やストリートでのバトルを題材にしたマニア系の作品が殆どです。
老若男女が楽しむ映画、というのを見つける事はとうとう出来ませんでした。
それどころか、先に述べた「ターボ」もそうですが、クルマがメインの海外の映画の多くが日本では未公開という、残念な事が分ったのです。要は、日本ではクルマやレースがメインの映画は、人が入らない、興行収入が得られない、という事なのでしょうか?
これは今の所、残念ながら現実なのかもしれません。
私の周囲に、クルマが好き、という人さえ少数ですし、ましてやモータースポーツを定期的に観ている人は更に少なくなります。
でも、欧米では、クルマが特別に好き、という事ではなくても、エンターテイメントとしてインディ500を楽しんだり、ルマン24時間レースではレースを観る時間よりバーベキューをして、食事をしたり、お酒を飲んだりしている時間の方が長い、という、観客まで居て、とにかく、レース“を”楽しむのは勿論、レース“で”楽しむ術を知っている人が多いという印象があります。
それだけ、生活や人生にクルマや、レースが溶け込んでいるのでしょう。
インディ500は1911年から開催されています。もう100年以上の歴史が有り、しかも、その間ずっとアメリカの人々に愛され、誇りになっている訳です。 本当に羨ましい限りです。
唯、羨ましがっているだけでは前に進みません。
この先、日本で、文化として、しかも身近にクルマやモータースポーツが愛される様になるには、日本人が誇れるレースが誕生する事が必要だと今回「ターボ」を観て痛感しました。
しかし既存のイベントで、急に日本で誇れるレースが出来るかと言えば、それは不可能です。そこで、これから伝統のレースを日本で根付かせるとすれば、EV(電気自動車)のF1と言われる。フォーミュラEしかないのではないでしょうか。
2014年から始まった、フォーミュラEシリーズはマシンが発する音が静かで排気ガスも出ない為、大都会で開催が可能な事から、初めて“クルマのレース”という物を観る人にも親しみやすく、興味の無い人が最初に触れるモータースポーツとして最適だと私は思います。
初年度こそ、大手の自動車メーカーは相手にしませんでしたが、今シーズンから来シーズンに掛けて大手の自動車メーカーが参戦、もしくは参戦を表明しており、(AUDI、ジャガー、BMW、メルセデスベンツ等)2020年以降、観客の数はF1を超える、と言う専門家も居ます。誠に残念ながら、現段階では、日本メーカーの参戦や、日本での開催という声は聞こえてきません。
私は、これが大きなチャンスだと思っています。
日本メーカーはハイブリッドクルマも含めて、EVでは先行していたので、アドバンテージが有る筈です(最近は、この分野でも欧米メーカーが力を入れて来ているので先行、とは言えなくなってきていますが)。
そこで例えば東京でフォーミュラEを開催し、日本メーカーが多数参加、勝利を重ねていけば、日本人がフォーミュラEの東京GPを誇りに思える日が来るのではないかと思いますが如何でしょうか?
運営面でも東京マラソン開催時、かなりの交通規制は有りますが、大きな混乱も無く行われている事を考えれば決して不可能ではないと考えられます。今は出遅れていますが、まだ間に合うはずです!
日本メーカー、そして、自治体の首長や政治家の皆さん!世界の“4大モータースポーツ”の一つにフォーミュラEの日本の都市名が付いたGPを加えませんか?日本の基幹産業である自動車、そして、それを牽引するモータースポーツの日本での復権の為にもぜひ、お願いします!そしていつか、フォーミュラEの日本開催レースが題材になった日本映画が大ヒットする日が来るのを願ってやみません。
“COTYの選考委員”という肩書が、どんな物なのかは、まだ分かりませんが、メーカーの広報等から、登録したアドレスに色々な種類のイベントへのお誘いメールが来る様になったので、今後、直接、メーカーや自動車に関わる官庁の方と交流出来る機会は増えそうです。
クルマ好きの夢の実現に向けて、全力で頑張りますので、何卒、これからも宜しくお願いします!
安東 弘樹
[ガズ―編集部]
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