クルマっていいな~!…TBS安東弘樹アナウンサー連載コラム

今年度からCar of the year の選考委員を拝命した事は、以前、報告させて頂きましたが、それ以降、登録したアドレスに、各メーカーから“試乗会”の、お知らせが届く様になりました。

会場に設定されるのは、メーカーによって、箱根であったり、サーキットであったり、幕張の様な少し開けた郊外であったり様々で、メーカーの意図を理解する事が出来て、それも、また楽しかったりします。

何しろ、選考委員としてはルーキーですので、ジャーナリスト向けの試乗会自体が珍しく、いつもドキドキしながら参加しています。他の皆さんは慣れている方ばかりなので、1人“お上りさん”状態です…(笑)。

そんな中でも、試乗会の会場で、以前取材でお世話になった雑誌の編集の方や、ジャーナリストの方と車の話をするのは、とても楽しく、且つ勉強になります。

そして何より、様々な車に乗れるのが楽しくて仕方が有りません。

メーカーによって、車に乗れる時間は違うのですが、これまでの最短が40分、最長は110分で、サーキットの試乗はヘルメットとレーシンググローブは必携という条件で、順番に乗るので、試乗会自体の時間は長かったのですが、実質的に運転した時間は30分程でしょうか(この試乗会はジャーナリスト向けではなく、基本的に招待された一般ドライバー向けのものでしたが、私が選考委員になった事で、旧知のセールス担当の方が呼んで下さいました。一般のドライバーと言ってもサーキット走行に慣れた方が選ばれていました)。

偶然にも、全く違う道路環境での試乗になったので、これが、よりクルマの楽しさを享受出来た要因かもしれません。

流石、ジャーナリスト向けという事もあり、事前に商品概要を軽く説明したら、クルマが用意され、後は操作方法の説明等は無く、「行ってらっしゃい!」という感じです。基本的に車に精通している人が来る、という前提ですので、そこは“玄人”として扱われている感じに心地良さを感じました。

大変、失礼な言い方になってしまいますが、普段、ショールーム(ディーラー)に試乗に行くと、セールスの方が色々と操作方法を説明して下さるのですが、殆どの場合、私の方が詳しく、たまに私が知らない事を訊くと、相手のセールスの方も知らない、という事が少なくありません。その都度、とても残念な気持ちになってしまうので、オーディオ操作や、細かい車両設定も「自分でやってみて下さい」というスタンスは、私にとっては非常に有り難いのです。

試乗中、どうしても試してみたい機能や設定が有る場合は、安全の為、車を停めて色々と操作してみる、というのを繰り返して運転していると時間は、あっという間に過ぎてしまいます。

例えば、箱根での試乗では窓やサンルーフを開けて、初めて運転する車の新鮮さと新緑の“あおい”新鮮な香りを感じながら、自分で選んだコースを1時間前後走る事で車の素性を理解出来ただけでなく、思わず「クルマっていいな~」と、呟いてしまいました。

幕張での試乗では、近代的な建物の間の広めの道が多い為、より身近な環境で、車を走らせる事が出来て、これはこれでリアルな使い勝手や走行フィーリングを感じられましたが、やはり、新しいクルマで走ると、新しい発見が多く、また「クルマっていいな~」という言葉が出て来てしまいました。

サーキットでの試乗会となった車は、かなり高額なスポーツカーで、最初は「壊したら、どうなるんだろう…、いくらなんでも保険は入ってくれているよな」等と、若干ビビッていましたが(笑)、コースに入ったら、そういった心配は完全に忘れてしまい、プロのドライバーが先導する車に夢中で付いて行っていました。

その走行ラインは本当に勉強になるもので、ホームストレートではガスペダルを床まで踏みこんで、それなりのスピードを思う存分楽しむ事が出来ました。

車を降りた時、やはり出てきた言葉は「クルマっていいな~」でした。

以前にも、この表現を使った事がありますが、人類の英知が詰まった、1t~2t程の金属をはじめとする様々なマテリアルの塊を自分の手足を使って操るというのは私にとって、これ以上のカタルシスは有りません。

勿論、特に公道に於いては大きな責任が伴いますが、それでも、こんな楽しい事を、他には私には見つけられません。

これまで紹介させて頂いた試乗会、というのは勿論、特殊なものです。

しかし、これは自分で経験済みなのですが、自分の行ってみたい街が有る場合、その街に行って、そこに有るショールームやディーラーで試乗をしてみるというのは如何でしょうか?

例えば古都、京都や路面電車が走っている広島。杜の都、仙台の道も広くて気持ちが良いですし、街の景観も素晴らしいものです。そういった都市には必ず、国産車、輸入車問わず、大体のメーカーやブランドのショールームが有る筈です。

多くの方は「買わないのに、そこのディーラーで試乗をするのは気が引ける」と思うでしょう。

でも、違うんです。大きな目で見たら、何処のディーラーで試乗しても、それぞれの地方の方が、帰宅して、それぞれのディーラーで購入してくれれば、お互いの利益になりますし、メーカーにしてみれば何処のディーラーで購入されても、全てメーカーの利益になる訳ですから、何も気にする事はありません。

仮に「他の店舗で買うんだったら試乗はさせたくない、あまり協力したくない」という雰囲気が漂っている様なディーラーが有ったら、同じメーカーでも違うメーカーでも良いので、すぐ移動しましょう!

快く試乗をさせてくれるディーラーは、間違いなく優秀なディーラーだと思います。もしかしたら試乗しながら、ちょっとした観光案内をしてくれるかもしれません(これも経験済み!)

新鮮な車で自分にとっての新鮮な街をちょっとだけドライブしてみる。これだけでも車の多様性と楽しさを感じられるのではないでしょうか? 今、原稿を書いていても、また旅試乗、したくなりました。

そして全国の全メーカーのディーラーの方、自社の車の事を良く知って貰う為にも、何処から来た人にでも、場合によっては1時間位、じっくりと、お客さんに試乗させて下さい!

最近、週末でもクルマ離れのせいか?試乗する為に、お客さんが並んで待っているなんていう光景を目にする事は滅多にありません。

じっくりと運転する(させる)チャンスです。

皆さん、今、“買う買わない”、“買える買えない”に関係なく、新しい車に新鮮な環境で触れてみませんか?!

クルマっていいな~、という言葉が出て来るに違いありません!

そして、ここから、ちょっと蛇足ですが、そんな楽しいクルマがスピードを競う最高峰のレース、F1。そのF1のロシアGP(4月30日決勝)を観て、羨ましいな~と思った事が一つ有りました。

53周で競われるレースの35周が過ぎた所で、プーチン大統領が会場のソチ・オートドロームサーキットに来たのです(何故か、いつも30周前後の時に会場入りするとか)。

そして、優勝者(今回、自身初優勝だったボッタス選手)にトロフィーを授与しました。
もうロシアGPでは御馴染みの光景になりましたが、彼の政治家としての功罪はともかく、国家元首が毎年F1を観戦して、トロフィーを授与する。その事実だけでもロシアのモータースポーツへの“熱”を感じます。

実際に国のバックアップも有り、近年、ロシア人ドライバーが、各カテゴリーで活躍しています(F1では現在、ダニー・クビアト選手が参戦中、他にWECではロシア人ドライバーやロシアのチームも参戦し結果を出している)。

一方、“自動車”が戦後ずっと基幹産業として経済を引っ張って来ただけではなく国のイメージも向上させてきた“日本”の歴代総理大臣(国家元首ではありませんが)は一度もF1日本GPに顔を出した事がありません。

自動車産業の草創期から世界を相手に闘っているHONDAや、販売台数で世界1、2位を争いながら最高峰のモータースポーツ、F1の世界でもNo.1になるべく挑戦を続けていたTOYOTAという会社が存在する国のトップが、日本GPが1987年に正式にF1カレンダーに入って以降、30年間、1度も観戦すらした事が無いのです。

とても残念な事です。

歴代の総理で「クルマっていいな~」と思った事がある人は、一人も存在しなかったのだなと思うしかありません。

ちなみにプーチン大統領は自らF1マシンを運転した事があります。自らステアリングを握り240Km/hまでスピードを上げたそうです。本当にクルマが好きなのだと、その模様を紹介している動画を観ても伝わってきました。F1マシンから降りた大統領は、こう呟いたに違いありません。

「クルマっていいな~」。

いつか日本の総理大臣が、そう呟く日は来るのでしょうか?

そんな総理大臣(政府)が、モータースポーツをバックアップしてくれる日が来たら、日本人ドライバーが、F1の表彰台の頂点に立てる様な気がするのです。

安東 弘樹

[ガズ―編集部]