将来、クルマは何で動く …TBS安東弘樹アナウンサー連載コラム
つい先日、MAZDAから新しいエンジンの発表が有りました。究極の内燃機関とも言われる圧縮着火のガソリンエンジンで、簡単に申し上げるとディーゼルエンジンとガソリンエンジンの良い所取りのエンジンです。つまり燃費やトルクに優れるディーゼルエンジンの特性と出力や排気浄化に優れるガソリンエンジンの特性を両方、持ち合わせるという事です。
燃費は現行のガソリンエンジンより20%向上し、ディーゼル並みのトルクも有り、しかもガソリンエンジンですので高回転の伸びも有って気持ちが良い。そこが「究極の内燃機関」と呼ばれる所以です。
たしかに内燃機関としては、かなりの高効率動力源になるのでしょうが、私個人としては、20%のカタログ値燃費向上では、実際には、ちょっと燃費が良くなったかなという程度で、感動的に燃費が良くなったという実感にはならないのではないかと思ってしまいます。
私の場合、ハイオク仕様のガソリンエンジンからディーゼルエンジンのクルマに乗り換えた時、燃費と燃料費の差で実際にランニングコストが半分になったので、それはそれは感動しました。
唯、これまでのガソリンエンジンのクルマに乗っていた方が、圧縮着火のガソリンエンジンに乗り換えたとしても、その様な「感動」まではいかないのではないかという話です。
MAZDAの名誉の為に申し上げますが、技術革新が進んでいる現在、内燃機関の燃費を1%向上させるのも、並大抵の事ではないので、20%も向上させる為に、これまでの各メーカーの「夢」であった圧縮着火ガソリンエンジンを実用化させた、というのが“偉業”で有る事に疑問の余地は有りません。
内燃機関のフィーリングが嫌いでない私にとっても嬉しいニュースでした。
しかし、将来のモビリティーのパワーユニットとしての最終回答ではないのも間違いありません。
では将来、クルマは何で動けば良いのでしょうか?ここ数年、“専門家”と言われる方の中でも、面白い様に意見が分かれています。
ある人はEV(電気自動車)にシフトすべきだと言い、ある人は水素が燃料の燃料電池車の方が効率が良いと言い、また他の人は、いや、まだまだ内燃機関も改善の余地が有り、暫くはこれが主流だ、と言います。私には専門的な知識は無いので、どれが一番良いか分かりません。
むしろ、ガソリン、ディーゼル、HV(ハイブリッド)PHEV(プラグインハイブリッド)EV、燃料電池と様々なパワーユニットを選べるのは良い事なのではないかと思っていましたが、地球環境の事を考えたら、そんな事は言っていられない様です。
それにしても、今挙げたパワーユニットには、それぞれ全てに欠点が有り、中々、完璧な動力源というものは現れないものです。
内燃機関は、どんなに突き詰めてもCO2や有毒物質の排出は0にはならないですし、EVは、航続距離の短さを指摘されますが、そもそも電力を、どう供給するかによって、その環境的優位性が大きく変わってしまいます。
再生可能エネルギーで作った電気を充電すれば解決、という感じもしますが、バッテリーやモーターそのものを作るのにレアアースが必要、等、やはり完璧とは言えません。燃料電池車にしても水素の安全性や、水素を燃料化するのに現状、多くのCO2を排出してしまう、燃料供給インフラの高コスト、等、現段階では課題が山積です。何か原稿を書いていて気持ちが沈んで来ましたが(笑)、将来に向けて、何らかの選択をしなければならないのは確かです。
ヨーロッパは、その中で、今はEVを選んでいる様です。皆さんも御存知かと思いますがヨーロッパ各国では内燃機関をEVにシフトさせる政策が、どんどん進んでいます。勿論、電気を供給する方法は各国(例えばフランスは原発が中心で、ドイツは再生可能エネルギー発電で賄う計画)違いますが、クルマ自体の排出ガスを減らす事を重視している様です。10数年前まではハイブリッドにも消極的だったのが嘘の様ですね…。この判断が将来的に正しいかどうかは分かりませんが、とにかく環境の為に、ドラスティックに行動する「意志」を感じます。
気になるのが我が国、日本です。エコカーエコカーと呼ばれ、税制優遇を受けるクルマは沢山ありますが、優遇を受けるクルマの中には、実燃費がとても「環境車」とは言えないものも沢山あります。
取り敢えず、私からすると“不思議な基準”をクリアし「エコカー」の称号を、貰えば、また与えれば良い、という雰囲気すら感じるのは私だけではないのではないでしょうか。とにかく、指針、ビジョンが見えません。
TOYOTAやHONDAが燃料電池車を普及させようと本気で思っているのだとしたら、国が「日本はヨーロッパのEV化に対して燃料電池車の技術先行を活かして水素インフラを国策として推進していく」との意志を持って行動すべきだし、折角、国内に技術が有るのに、それを発揮させるリーダーシップが、まるで感じられません。
日本人は、国民性としてリーダーに向いていないと言われますが、理由としては、もしリーダーとしての判断が間違っていたら責任を問われるのが怖い、という感覚がとにかく強いそうです。今の日本政府が、まさにそうかもしれません。クルマの動力源を何にすれば将来的に良いのか、判断しない、というか出来ないのかもしれません。他の人(欧米等)が、どうするのか様子をみているのでしょうか。
こんな笑い話が有ります。色々な国の人が乗っている大きな客船が事故で沈みそうになっています。船員が救難ボートに女性や子供を先に乗せようとしますが、パニック状態の乗客の男性達が中々従ってくれません。そんな時、どこの国の男性かによって船員は説得の仕方を変えます。
こういえば、それぞれの国の男性は、すぐ従ってくれるそうです。
アメリカ人へは「女性や子供を先に乗せたら、あなたはヒーローですよ!」
ドイツ人へは、「そういうルールになっています!」
イタリア人へは「後で女性にモテますよ!」
日本人へは「皆さん、そうなさってますので…」
お後がよろしい様で。
今の日本の状態は、これが笑い話に聞こえない状態に私には見えます。恐らく、何が一番良いのかは現段階では、分からないでしょう。でも、何も変えずエコカーという曖昧な表現で認定されている内燃エンジンやハイブリッドのクルマだけで、この先、何年も継続していく訳には行かないんです。モビリティーの将来を、どう考えて舵取りをしていくのか、クルマが基幹産業である日本が世界を引っ張っていく位の気概を持って、決断してほしいものです。「間違ったら、どうしよう」ではなく、「我々は、これでいく!」というビジョンを示して下さい!とにかく今はシフトしていくしかないんです。
でも、もし間違っていたら、我々国民やメーカーが英知を結集して、方向転換しようじゃありませんか。はっきりとした決断が無い状態で何となく進んだ道が間違っていた時にお互いに責任を擦り付け合う。日本では有りがちな状況ですが、それだけは避けたいものです。世界に名だたる車製造国として、指針を示そうじゃありませんか!
でも、パワーユニットが何になっても3ペダルのMTの操作が必要なクルマを嘘でも残して欲しいと願う、今日、この頃です(笑)。
それにしても実際、内燃機関が無くなった後、クルマは何で動いているのでしょうか?色々な物が混走しているのか、何かに統一されているのか…。それを知るのは無理かな~、長生きしなきゃいけませんね。
安東 弘樹
[ガズ―編集部]
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