驚きの検問 …TBS安東弘樹アナウンサー連載コラム
今月のある休日、私はレギュラー番組で共演している女性タレントさんが主演する舞台を観る為に車で出掛けました。
舞台が終わった後、夜遅くになってしまったので一人で食事をする為、色々と悩んだ結果、幹線道路沿いに有った遅い時間まで営業している海鮮居酒屋さんに入りました。(車は近くの有料駐車場に停めて)
居酒屋さんといっても、私はお酒が飲めないので、新鮮なお刺身や、アサリの酒蒸し、もつ煮込み等を「おかずにして」海鮮丼と一緒に美味しく食べて帰路につきました。
いつも都心から自宅に帰る時に通る道を走っていると、普段は渋滞する事が無い場所で、もの凄い渋滞になっています…
理由は間もなく分かりました。
飲酒運転の検問が、その原因です。
忘年会シーズンになってきた、という事で都心でも検問をしていたのでしょう。
何で、こんな所で…とは思いましたが、飲酒運転は本当に危険な行為で私も普段から許せないと思っているので、心穏やか?に自分の番が来るのを待ちました。
さて、私の番です。下戸の私は、勿論お酒は飲んでいないので、検問をしている警察官に、「息を吐いて下さい」と言われるがまま、警察の方も大変だなと思いながら「はー」と息を吐きました。
すると、驚いた事に、その警察官は「あー、お酒の匂いがしますね。車を降りて下さい」と言うのです!
一瞬、意味が解らず、「はい?私はお酒が飲めませんが」と言ったのですが、「はいはい、とにかく、こちらに来て検査して下さい」と、自分の嗅覚?に自信があるのか、完全に飲酒運転者扱いです。
納得がいきませんが、私は本当にお酒を飲んでいないので、検査をすればすぐに疑いは晴れるだろうと思い、飲酒運転撲滅の為にも協力するのは義務だとの考えから、素直に検査を受けました。
これまでも同様の検問に遭遇した事は数回有りましたが、私はお酒が飲めないので息を吐いても勿論咎められる事も無く「御協力有り難うございました」と言われて、それで終わっていたのは言うまでも有りません。
検査は車を降りて、簡易に設置された検査場?で行ったのですが、そこは1台ずつゆっくりと通過する車から丸見えの場所で、当然、皆から「あいつ、飲酒運転やったな」という目で見られます。
ある意味、見せしめ、といった意味もあるのかもしれません。
さて、いよいよ検査ですが、人間とは不思議なもので100%の自信が有っても、疑惑の目を向ける警察官に囲まれると、何故か後ろめたい気持ちになって来ます。
そういう心理状態のせいか、警察の方が検査の準備をしている最中に、「私はアナウンサーという仕事をやっておりまして、テレビやラジオでお酒が飲めないと常々言っておりますのでWikipediaを見て頂ければ分かると思います」等と、訳の分からない言葉を発してしまいました(今、思うと笑ってしまいます)。
更に「まさかアサリの酒蒸しで反応する事は無いですよね?」と余計な質問までしてしまったせいか、そこを仕切っていて、正に「お酒の匂いがする」と言って私を車から降ろした警察官が、「そんなのは全く影響しません。今から呼気をこの機械で調べますので、0.16以上の数字が出たら酒気帯びなので、その時は本当の事を話して下さい!」と完全に私の飲酒を確信しています。
その威圧感に、情けない話、何度も言いますが、絶対に飲んでいないにも関わらず、何故か追い詰められた様な気持ちが増してきました。
そして、準備が出来たという事で、息を吹き込むビニール製の袋の様な物を渡され、「自分でこの袋を開けて、細い管から息を吹いて下さい」と指示されたのですが、寒い夜だったこともあり、微妙に手も震えて中々開けられず、益々疑惑が深まっていきます(笑)。私を取り囲んでいる警察官、特に私を飲酒運転者と判断した警官は自信満々の様子でした。
何とか袋を開けて息を吹き込み、それを測定器に掛けます。
バラエティ番組でしたら、心臓の鼓動音がSE(効果音)で入る所です(笑)。
私の鼓動も何故か早くなっていました。警官は、やはり自信満々で「この機械の数字表示部分を良く見て下さいね」と言っています!
結果は…?!
当たり前ですが、0.00…。
その瞬間、私は安堵しましたが、問題はその瞬間の警察官の反応です。
私は当然、「あー、申し訳ございませんでした。飲酒されていないですね」といった言葉が出て来るものだと思いましたが、余程驚いたのか、私を犯人だと思い込んでいたその警官は「0.00ですね。アサリの酒蒸しが匂ったんでしょう」とだけ、言ったのです。
私は内心、「いやいや、酒蒸しなんて全く影響しません、ってさっき言ったじゃないですか!」と突っ込みを入れましたが、勿論口には出しませんでした(笑)。
驚きました。
周りの警察官も「なんだ、白か」と言った感じで、さーっといなくなってしまいました。
唯、一人だけ、若くてかなりのイケメン警察官が、「お忙しい所、時間を取らせてしまって申し訳ございませんでした」と丁寧に謝って下さったので、私は「いえいえ、あなたは全く悪くありませんよ。むしろ寒い中、お疲れ様です」と、これは本心で返しました。その若い警察官のお蔭で、怒りという感情にはなりませんでしたが何か釈然としない感覚が残ったのは言うまでもありません。
更に、私の飲酒運転の疑いは完全に晴れているのに、何故か「携帯電話の番号を教えて下さい」と言われ、基本的に私は警察を信頼しているので教えましたが、これも後から考えたら不思議な話です。
今回の事で私がお伝えしたいのは、恨み節ではなく、こういった事が起こる背景に、日本の多くの機構、組織が備える不思議なシステムが有るのではないかという事です。
要は、間違った方向の評価基準です。
もし違っていたら申し訳ないのですが、警察では検問を行った際に検挙数が多い程、内部で評価されるシステムになっているのではないでしょうか?だからこそ、今回の様に「少しでも多くの者を検査したい」という気持ちから誤った判断になってしまった、というのは深読みし過ぎでしょうか?
私は、今回の様な飲酒運転や、シートベルト、過積載等、どんな検問でも検挙数が少ない方が評価されるべきだと考えます。
何故なら、管轄区域での法令遵守への啓蒙が進んでいる、という事になるからです。
警察が、検問での検挙数を内部でどの様に評価しているか、もしくは評価の対象にしているのか、いないのか等を公表する事は無いでしょうから、これは私の推測に過ぎないので違っていたら謝罪するしか無いのですが、他の分野でも同じような事が言えます。
例えば、医療機関の診療報酬の決め方です。
現状、薬を出せば出すほど、様々な器具を使えば使う程、更に言えば、診療、治療期間が長い程、報酬が増える仕組みだそうですが、本来は、普段から地域の患者が他の病気に掛からない様な指導を行い、もしそれでも何かの病気に罹ってしまったら、効率的に出来るだけ少ない薬で短期間に治す方が、評価されるべきではないでしょうか。
かつて、テレビ局でも、特に高視聴率番組の場合、予算を多く使ったプロデューサーの方が同じ視聴率でも予算をあまり使わないプロデューサーより高く評価されていた時代が有りました。お金を多く使ってしまう、というのは本来効率が悪いという評価になるべきところですが、あいつは大物、という“雰囲気”で評価が高くなる傾向が有ったそうです。
流石に今では、そんな事は無い様ですが、でも僅かにそんな空気はまだ残っている気はします(笑)。
話が完全に逸れてしまいましたが(例として、ちょっと違うのも認識しています)、最後に、一つだけ申し上げます。私は日々、市民の安全を守って下さっている警察に感謝の気持ちと最大限の敬意を持っています。
「ドーベルマン刑事」が小学生の時の愛読書で刑事ドラマが小さい時から好きで中学生までは刑事になるのも夢の一つでした。
だからこそ、警察は我々市民や、道路上ではドライバーの味方であって欲しいのです。
そして、それこそ飲酒運転や煽り運転をする様な悪質なドライバーを“正確に”検挙して欲しいとも、心から思っています(あ、以前にも書きましたが方向指示器を点滅させないドライバーも)。
勿論、法令を遵守するのは我々全員の義務ですが、一般市民を守り、特に「悪者」と言える様な輩を捕まえる“正義の味方”としての警察、そして警察官でいて下さい。
まるで子どもが書いた様な内容になってしまいましたが、今の偽らざる気持ちです。
[ガズ―編集部]
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