本音と建て前 ~初めてのオートサロン~

皆様、かなり遅くなりましたが、明けましておめでとうございます。今年も何卒、宜しくお願い申し上げます!

さて、年始恒例のクルマのイベントと言えば、本家?の東京モーターショー(TMS)の集客が減っているのを尻目に、年々人気が高まっているカスタムカーの祭典“東京オートサロン”です。

今年の出展者数は422社で、これは昨年より減りましたが、展示車両は880台と過去最多で、出展者数が減ったのは展示申請しても断られた会社が有った為で、実質的に、規模は年々大きくなってきています。

来場者数はここ数年増えていて、2018年は3日間で約32万人!(去年のTMSは10日間で77万人)で開催期間を考えれば完全に東京モーターショーを凌駕しています。実際に幕張メッセ全館を使っている広大な面積の敷地に、各社のブースとクルマが、ギッシリ詰まっている、という印象でした。

去年の東京モーターショーは、イタリアやアメリカのメーカーが出展を見合わせた事もあり、随分“ゆったり”と東京ビッグサイトを使っていたな、と振り返って思った程、出展ブース、展示車両密度が高いのです。

仕事の合間に、時間をこじ開けて何とか最終日に間に合わせた為、私が現場に着けたのは閉館の1時間ちょっと前の4時前でしたので、館内の通路は人を避けながら歩ける状況でしたが、出展某正規インポーターの広報のIさんにお会い出来たので、お話を伺った所、2時間前までは完全に朝のラッシュ時の通勤電車の中と同じ状態だったとの事で、改めてオートサロンの人気に驚かされました。

特に最近は、家族連れが多いのが特徴なのだそうです。

実は私、オートサロンというのは「派手で怖い改造車好き」の人が集まるイベントだと思っておりまして、正直、これまでは敬遠して来ました(笑)。

基本的に私は、サーキットを攻めたりレースに出場する為のクルマ以外は、メーカーが作ったままの状態がベストだと思っている、所謂ノーマル派ですし、地面スレスレに車高を落としたり、マフラーを替えて無駄に音が大きかったりする車が、正直申し上げると、嫌いです(笑)。

前のクルマを威圧する様な怖い顔にするのも理由が解らないし、デッカいスピーカーを付けて、クルマなのに走らせるよりパーキングエリア等に停めて大音量で音楽を鳴らすのも、全くもって理解が出来ませんでした。(スミマセン!)

しかし、去年から、カーオブザイヤーの選考委員になった事ですし(今年も選考委員に選ばれるかどうかは、まだ分かりませんが)食わず嫌いは良く無いと思い、初めて鑑賞?するに至った訳です。

第一印象は、来場者も出展者も、とにかく“熱い”というものでした。

モーターショーは、悪く言うと敷居が高く、全体的に何か気取っている雰囲気があるのですが、(良く言うと格調が高く品が有る)東京オートサロンは、お客さんも出展者も、気負いは無いのに気合が入っているのです(笑)。

展示も、とにかく車両や部品、販売グッズ等の数が多いので、正規のクルマメーカー、インポーターはともかく、多くの出展者のブースは車両等が整然とビッシリ並べられている事が多く、私の頭に浮かんだイメージは、日本各地の「朝市」でした。

実際に、朝市の様に小さなグッズのみならず、あるメーカー系のチューナーブースでは、競技用のコンプリートカーまで販売していて、お客さんが気軽に商談していたり、出展者と来場者が完全に対等なのが伝わってきます。

残念ながらモーターショーには、出展者が来場者に「クルマを見せてあげている」という空気が微妙に漂っており、あくまで私の主観ですが、展示車を時々拭いているスタッフも何故か笑顔は無く、ある年のモーターショーの時には、私があるクルマの運転席に座って降りた直後に真顔でドアを拭かれ、思わず恐縮してしまったという事がありました。

後から考えたら、私は何も悪い事はしていないのですが…。

また、以前も書きましたがSTAFFと書かれたプレートを付けている人に、私が展示車について質問しても答えられる人は少ないという現実に毎回失望させられるのが最近のモーターショーで、それも凋落の原因の一つなのではないかと思っているのですが、それは飛躍し過ぎでしょうか…。

話をオートサロンに戻しますが、その敷居の低さが、家族連れの多さの理由なのかもしれません。前述した様に“強面の人”が集まるイベントだと思っていた私には、本当に意外に感じられました。

確かに、ちょっと怖い風のお兄さん達(笑)もいらっしゃいましたが、所謂「普通の家族」の多さにちょっと驚いたのです。

聞けば2000年代から正規メーカー、インポーターの出展が増え始め、今や完全にメジャーイベントになっているので、当たり前なのですが、私の偏見を反省しました!

しかもブースに居るスタッフの方々は基本的に「職人」が多い為、質問にも的確に答えてくれる人が殆どでした。その点も、モーターショーとの違いを見せつけられた様な気がします。

大きなスピーカーが付いたワンボックスカーも会場の駐車場に停まっていましたが、オートサロン鑑賞前と鑑賞後では私の中でイメージが少し変わっていました。

あのクルマも職人が作っているのだと思うと、純粋に素晴らしいプロダクトだと認識している自分がいたのです(勿論、公共の場では、音量は適度にして頂きたいですが)。

結論を申し上げると、オートサロンとモーターショーの違いは、「本音と建て前」でしょうか。

去年のモーターショーは「『EVを中心としたエコカー』(そもそもEVが現段階で完全にエコロジーと言えるかどうかまだ分かりません)や『自動運転』等、人間本来の欲望を抑えて地球に優しいモビリティーを目指します!」というメッセージが全体を包んでいる様な印象を持ちました。

勿論、日本のメーカーでも運転する歓びを標榜するメーカーは幾つか有りましたが、実際に展示しているクルマを見ると、欲望丸出しという物は無かった様に思います。

ところが、オートサロンは「派手、速い、爆音」と、徹底的に欲望剥き出しを「是」とするイベントです。多くの人は、良くも悪くも、そこに惹かれるのかもしれません。

来場者が増えれば当然、大手メーカー、インポーターも、雰囲気の敷居を下げつつ、場合によってはモーターショーより力を入れて出展する→他のチューナー、ドレスアップメーカーも負けじとメーカーでは作れない力作を展示する→更に色々な志向の客が増える→イベントが盛り上がる、という良い循環でイベントが成長してきたのが良く分かりました。

私はと言えば、やはり車高が極端に低かったり派手なスポイラーや電飾が付いていたりするクルマには馴染めませんが、モータースポーツ色が強いブースや、高機能方向のチューニングメーカーのブースには幾つか釘付けになりました。

前述の某インポーター広報のIさんは、こう仰っていました。「お客様のクルマへの熱意は決して失われてきていません。我々が、その熱を受け止めて来なかったのかもしれません」。

オートサロンに出展すると多くの事を学べるそうです。

その様な言葉を聞くと、大きなメーカーが、元はと言えば小さなチューナーが集まって始まったイベントに相次いで出展する一番の理由なのだと、納得しました。

しかし一方で往年の?オートサロンファンからは、こんな嘆きも聞こえてきます。

以前のオートサロンは、出展者も来場者も一部の“好き者”だけが集まっていた為、どこか“背徳感”に包まれていてそこが魅力だったのに、いつの間にか、大きく、お行儀が良くなりすぎて、つまらなくなってきた…。

確かにそうなのかもしれませんが、私が“背徳感”時代に観に行ったら、間違いなく逃げて帰って来たと思うので、私は今がちょうど良いと思います(笑)。

我々は、人類史上、初めて「本音と建て前」に向き合わなければならない時代に生きているのかもしれません。80年代くらいまで人類は、とにかく欲望を満たす為に、なりふり構わず本音剥き出しで進んで来ました。

90年代以降は、本音(欲望の具現化)だけで生きていったら地球そのものが大変な状態になると気付いた事もあり、欲望を抑える事がスマートでお洒落な生き方であるという方向に、急激に流れて行った気がします。私もそう思っていますし、そうでなければ実際に人類は存続出来ないでしょう。

でも、欲望は抑えれば抑える程、内に溜まっていきます。

ドイツメーカーは、それぞれのラインナップの中で、見事に600、700馬力級の欲望丸出しカーと低燃費(両立を狙ったクルマも有りますが)を謳った、建て前カーを作り分けていますが、日本においては、溜まった欲望を少しでも発散させてくれるのがオートサロンなのかもしれません。会場には「低燃費」とか「自動運転」という文字が皆無とは言わないまでも殆ど見受けられませんでした。

そして、「人間は建て前だけでは生きていけないのだな」と、帰路につきながら呟いている自分に気付きました。オートサロンを初めて観て「本音と建て前」という言葉が頭の中で今もグルグル回っています。

さて2018年はクルマにとって、人類にとって、どんな年になるのでしょうか?全ての人にとって、良い1年になる事を願ってやみません。

これは本音です。

[ガズ―編集部]