御報告と決意 …TBS安東弘樹アナウンサー連載コラム
今回は、私事の報告から入ってしまい申し訳ございません。御存知の方もいらっしゃるかもしれませんが、私、2018年3月末日をもって27年間勤めたTBSを退社する事に致しました。
今後、このコラムを続けさせて頂けるかも含めて先の事は全く分かりませんが、私の希望としては、これまでの会社員としての業務が無くなる分、時間の余裕が生じてくる可能性はありますので、クルマ関係の仕事も増やしていきたいと思っております。
また、放送メディアの会社員という立場ではなくなりますので、これまでより表現の幅も拡がっていくのではないかと推察出来ます。もし、機会を頂けるのであれば、その分、より精進して、皆様に御評価して頂ける内容のものを発信出来る様に頑張りますので、今後とも何卒、宜しくお願い申し上げます。
さて、このコラムがGAZOOのものでなければ、退社の理由や経緯を詳しく書きたいところですが、ここはクルマのサイトですので、その辺りは別の機会にさせて頂くとして、今回は先日参加させて頂いた、LEXUSの試乗会についてお話させて頂きます。
結論から申し上げると、「一度、首を捻った後、嬉しくなった。」という内容でした。
今回の試乗対象のクルマは、新しいLSのエンジンモデルとハイブリッドモデル、そしてマイナーチェンジや小変更等があったNX、RX、CT、LXで、結果、全てに試乗する事が出来ました。
朝7時50分に千葉県富津のゴルフ場に集合して、そこを拠点に夕方5時まで、昼食以外は休みなく、ずっと乗りっぱなしのマラソン試乗になりました。
東京から宮崎までノンストップで走っても、まだ走り足りないと思う私でさえ、色々な事をチェックしながら、6台のクルマを、1台につき45分、60分、90分と、とっかえひっかえ乗り続けるというのは、かなりの荒行です(笑)。
ですが、クルマの、正に“一挙手一投足”に耳を傾けながら集中して運転する、というのは本当に勉強になる作業で、新しい発見、納得、失望等を繰り返しながら、LEXUSのクルマとの対峙を繰り返しました。
正直、日本に上陸した当初、LEXUSのクルマを試乗する度に「TOYOTA」のクルマの焼き直しだな、という感想を持ちました。
素人が偉そうに、と言われてしまいそうですが、今回の試乗で、一部の車種は、その成り立ちから、焼き直しもやむを得ず、というものもありましたが、それぞれのクルマを通して“TOYOTAからのクルマとしての脱却”というものを肌で感じる事が出来たのも事実です。
個々のクルマの評価に関しては、プロのジャーナリストの方の記事を読んで頂くとして、今回、私が感動したのが、エンジニアの皆様の“姿勢”でした。
最初に敢えて申し上げておきますが、これまで、私はLEXUSのクルマを所有した事がなく、しかも、現段階では購入を希望するものもありません。
理由としては、ディーゼルエンジン、MTのモデルが皆無である(現在、私の所有車は、ディーゼルSUVとMTのスポーツカーです)。クルマから伝わる路面情報の希薄さ、内装が豪華な割には、ナビやオーディオなどの操作が分かりづらい上に操作がスムーズに出来なくて危ない、等が上げられます。
これらは正に個人の感想であり、全てが気にならないどころか、人によっては美点になる場合もありますので、あくまで“好み”の問題として、御理解、御容赦下さい。
そして、今回の試乗で、私にとって気になる点が変わっていないクルマ、改善されている点が多くて、嬉しくなったクルマ、様々だったのですが、全体的には、「うーん、そうか…、こういう事か…、でも日本のユーザーは、こういう感じのものが好きなのかな」という、どう判断をして良いか釈然としない感想になりました。
試乗後、その気持ちのまま、エンジニアや広報の方との懇談に入ったのです。
これまで私はCOTYの総合試乗会の時に、LCのチーフエンジニアやチーフデザイナーの方とお話させて頂いた機会はあったのですが、それ以外でLEXUSのエンジニアの方との接点はありませんでした。にも拘わらず、この日、私の様な素人相手に、初めてお会いするチーフクラスのエンジニアの方が順番に、私の目の前に座って熱心に耳を傾けて下さったのです。
しかも、私の指摘した幾つかの点について、既に自らが「課題」として認識されていて、こちらが恐縮してしまう程、的確に、その理由、そして改善していく道筋について、お話して下さいました。「あ、やはりそう思われましたか。そうなんです!そこを、何とかしなくてはと思っています!」と、気持ちが良い程、正直に認められ、でも、例えば私の好みで「LEXUS渾身のディーゼルエンジンのクルマに乗ってみたいです」、といった勝手な意見に対しては、はっきり「その方向は残念ながら、(ここでは書きませんが納得出来る理由があって)ありません!」と明言される…。
こういった雰囲気で、思う存分、クルマ好き同士の真剣な会話を楽しめました。
そして何より私が感動したのが、その姿勢に、悪い意味での“サラリーマン根性”というものが感じられなかった事です。皆さんのクルマに対する「情熱」、「愛」、を感じました。
これまでTOTOTAのエンジニアの方とお話をする機会もあったのですが、私の“偏った”意見や輸入車と比較した話等に対して、「安東さんの好みは理解出来ますが、我々の方向性は、皆様に支持されていますので」と、「素人がスミマセンでした!」と違う意味で、こちらが恐縮してしまう様な反応が多かった様に記憶しています。
LEXUSのエンジニアの方は、ざっくばらんに輸入車との比較についても「そう、そこが、まだ追いつけない所なんですよ。」「でも、追いついて、いつか追い越しますよ!」と自由な発言をされているのに本当に驚きました。
勿論、TOYOTAのエンジニアの方もクルマに対する愛や情熱をも持っていらっしゃると思いますが、耳を傾ける、というより「我々の方向に間違いはない」という自信を感じます。良い、悪いではなく、それぞれに与えられた使命や、未来の方向性の違いなのかもしれません。
そして、そのLEXUSエンジニアの方の姿勢に接して、近い将来、LEXUSのクルマを欲しい、と思う日が来るのではないかと思っている自分がいました。
上から目線の様になってしまって大変、恐縮ですが、一ユーザーの立場で書かせて頂きます。
正直、私の指向では、今後も輸入車しか選択肢はないと思ってきました。これまで私の好みについて、このコラムでも書いてきましたので多くは語りませんが、一言で言うと、クルマに“安楽”ではなく“快楽”を求める私には日本のメーカーが作るクルマは合っていないとの判断からです。
ですが、今回LEXUSのエンジニアの方と、お話させて頂いて、その快楽の部分についても皆さん、真摯に向き合っているのが、良く分かりました。
まず、LSについては、運転フィールが、これまでのLEXUSのクルマに比べて劇的にダイレクト感に満ちていた事(これは、ユーザーからは賛否あるそうですが)。
そして、運転時は勿論、例えば、あるエンジニアの方は、私が指摘させて頂いた、「あるクルマのドアを開けた時の感触が想像よりも軽薄で、少し残念でした」という指摘に対して、「正直、ドキッとしました。我々が正に、懸念していた所です」「動的、静的質感だけではなく、お客様に、ドアを開けた瞬間に、“良いクルマだ!”と感嘆して頂かなければならないと思っているのに、まだそこに到達出来ていないと我々も思っています」と真っすぐな眼差しで、おっしゃいました。
そう、ドアを開けた瞬間にもクルマを通して快楽を感じられる、という事を理解して、それを向上させようとして下さっている方が日本メーカーにいらっしゃる、と思った、その瞬間、恥ずかしながら、目頭が熱くなってしまいました。勿論、日本メーカーのエンジニアで、ドアの開閉音に拘っている方は多くいらっしゃいますが、どちらかと言うとドアを閉める時の、バスン!という重厚な音の具現化に注力されていて、開ける瞬間の音には及んでいない気がします。
ちなみに、その快楽というものは何も、コストだけ掛ければ具現化出来るという訳ではありません。コンパクトカーや、低価格のクルマでもエンジニアが、その方向でクルマを造ろうとするかどうか、その気持ち次第だと思います。
実際にフランス車やイタリア車等で、ボトムレンジのクルマでも、その快楽を与えているクルマは沢山あります。私が、去年まで所有していたFIAT500のドアを開ける音は、ガチッ!と、明らかに剛性を感じさせるものでした。
日本車で、信頼性と、その快楽を共に提供出来たら、こんなに良い事はありません!ユーザーとして、今後、私が快楽を求めて、LEXUSを含めた日本ブランドのクルマを欲しいと思える日を、首を長くして待とうと思います。
今回、豪華で快適、安楽なクルマを追求してきたと私が思い込んでいたLEXUSの試乗会に参加して、それだけではない方向へ向けての挑戦に臨んでいるエンジニアの皆さんから色々な刺激を受けました。
私も今後の人生の再出発に向けて様々な挑戦をしていこうと思います。皆様、改めて、これからも宜しくお願い申し上げます!
安東 弘樹
[ガズ―編集部]
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