テレビ局の駐車場 …安東弘樹連載コラム
フリーランスになって丸4か月が経ちました。以前も申し上げましたが、この4か月、ほぼ毎日仕事でクルマに乗っています。多くのタレントさんの様に、後席に座っての移動ではなく完全に自分のクルマを自分で運転しての“クルマ通勤”です。
ですから、この数か月でNHK以外の全てのテレビ局(キー局)の駐車場に自分の運転で入ったという事になります。これがフリーランスになった事を最も実感出来る要因になっているかもしれません。ちなみに時々、マネージャーさんを所属事務所や他の現場に送ったりもしています。
収録や生放送が終わって、大体は地下にあるテレビ局の駐車場を出る時、場合によっては番組スタッフが見送ってくださるのですが、私が運転席に座ってマネージャーさんが助手席に座ると、必ず驚かれるか笑われます(笑)。
やはり珍しい様ですが私にとっては運転が何よりのストレス解消法ですので、今後もマネージャーさんに運転させる事は、まず無いでしょう。
実は、近々、某局のドラマにキャスター役で出演させて頂く事になり、明日、京都で撮影があるのですが、勿論、クルマで行く予定です。台風が近づいているので、私にとってはクルマで行った方が安心という事もありますが、何も無くてもクルマで行くでしょう。
さて、今回の話ですが、そのテレビ局の地下に停められているクルマの話です。車種で多いのは、それぞれのタレントさんが所属する事務所所有であろう日本メーカーの、ミニバンで、その中でも、TOYOTAのアルファードやヴェルファイアが圧倒的多数を誇ります。
唯、問題は自分で運転して来るかは別にして、各タレントさんが個人所有しているクルマ、となると、恐らく、その95%は輸入車である、という事でしょう。テレビ局の地下駐車場は、さながら輸入車見本市の様相を呈しています。
最も多いのは皆さんの想像通り、メルセデス・ベンツ。その他、BMW、AUDI等、ドイツ車が続きますが、ポルシェは、最近、911等のスポーツカーが減り、圧倒的にカイエン等のSUVが人気なのは皆さんも路上を走っているクルマを見れば理解出来るかもしれません。そして実は最近増えているのがマセラティで、やはり他の人とちょっと違うクルマに乗りたい、という人が多いタレントさんならではの傾向かもしれません。
他にもアストンマーティンや、ロールスロイス、ベントレー等のイギリスの超高級車も少数ながら見かけます。それからVOLVOも最近の「トールハンマー」デザインのヘッドライトに変わった辺りから、増えている印象です。そして、根強いアメリカ車ファンもいらっしゃいます。
私のTBS社員時代のラジオでのパートナー、玉袋筋太郎さんもアメ車ファンです。理由は色々と考えられますが、第一はステータス・シンボルとしてクルマ選びをすると、やはりブランド力のある輸入車という選択になる…。日本人の舶来品礼賛の傾向が根強く残っているのも否定はしません。
また、身体が資本のタレントさんとしては、事故等から身を守らなければならない為、堅牢なクルマとしてドイツ車を中心とした輸入車を選ぶ、という方も。そして、感性が豊かな方が多いのでクルマも自己表現の一つになり、拘りを持って、珍しいクルマに乗っている方も多数いらっしゃいます。決して高価でないクルマでも、その様なアピールが出来るツールとしてのクルマは現状、輸入車に多いと言わざるを得ないかもしれません。
最近の若いタレントさんはあまりクルマには拘りは無いのかな、と思っていたら、そうでもない様で、自分で、“イジッた”拘りのクルマに乗っている若い俳優さん等も、いらっしゃいます。その元のクルマは実は日本の所謂“旧車”と言われる、70年代位のクルマも多く、日本メーカーのクルマの場合、昔のクルマのデザインに今の若い人が魅了されている様です。
さて、何が言いたいかと申しますと…。日本メーカーの皆さん!今の日本車には、ステータス・シンボルとしても自己表現としても、形に惚れ込んで自分なりにクルマをイジる様な人にも選択肢が少ないのです。勿論、全人口からみれば、ごく少数の人達かもしれませんが、経済力(人にもよりますが)も発信力もある方々に選ばれないというのは、寂しくありませんか?
私が言いたいのは、高価なクルマばかりを作ってブランド力を上げて欲しい、という事ではありません。多くのファミリーやクルマに興味が無い人が機能や便利さで、道具として選ぶクルマも勿論、必要ですが、好き者が「どうしてもこれに乗りたい」というクルマが少ない、というのは、どうなのでしょうか? そろそろ、このメーカーのクルマは憧れの存在、というブランドが育ってこなければならない時期なのだと思います(憧れられるクルマは妬みの対象にはなりません)。
半世紀以上に渡って多くの日本メーカーは、出来るだけ多くの人にクルマを買って貰おうと頑張ってきました。ですが、もうそろそろメーカーによって作るクルマに明確な差別化がなされても良いのではないでしょうか?
ロールスロイスとまでは言いませんが、このブランドと言えば高級車、というメーカーも存在するべきだと思います。例えば、LEXUSは完全にTOYOTAとは決別して、1から高級車を作るようになれば可能性はあると思うのですが、如何でしょうか?
その場合、共用部品を限りなく減らす代わりに、車両価格は今の2倍でも良いとすら私は考えます。ただし、あくまで、その価格でマニアにも納得してもらえる様なクルマを作るのが大前提です。
このメーカーは何だか分からないけど、楽しいポップなクルマばかり、というメーカーも良いでしょう。イタリアのフィアットのイメージでしょうか。
そして、「庶民の足」としてのクルマを突き詰めるメーカーも必要です(今の日本メーカーは、殆どが、このカテゴリーにも、しがみついている様に見えますが、それが弊害になっていると私は考えています)。勿論、急激な方向転換は出来ないと思いますが、日本のクルマもテレビ局の駐車場に沢山、停まっていて欲しいのです。
ある日本メーカーの役員の方が2~3年前に、こう仰っていました。「世田谷区や大田区の高級住宅街に行ったらガレージに収まっているクルマの殆どが輸入車でした。実際に自分の目で見るまでは、ここまで日本車が無いと思っていなかったので正直、ショックでした」「将来的には少なくとも半分位は日本のクルマにしたいです」。
この記事を読んだ時に、それに気付いてその状況を変えたいという意志を持ってらっしゃる日本メーカーのトップがいる事に嬉しさと希望を感じました。そう、ドイツの高級住宅街には恐らくドイツ車が沢山、並んでいるでしょう。クルマが基幹産業になっている国同士なのに、この差は埋めていくべきだと思います。
何度も言いますが、高価なクルマだけを作る、という事ではなく、メーカーが誇りを持って、「クルママニアだって、このクルマを持っている人は幸せだ!」と思えるクルマをそれぞれのメーカーがそれぞれの価格帯で作って欲しいのです。実用的なクルマだけではなく、です。
唯、最近は、日本メーカーにも、その兆候は少しずつ、見えてきました。
例えば、TOYOTAはカローラスポーツ、NISSANは新型リーフ、HONDAはN-VANに、私は、そのクルマにしかない個性を感じましたし、MAZDAは全車において良い方向に向かっているので、もう少し頑張って欲しい!(後述)。
SUBARUはフォレスターの評判が良いのですが、私は、まだ触れていないので、記述は避けます。個人的には脱CVTを進めて貰えれば、期待大! MITSUBISHIに関しては現状、判断材料が少ないのですが、新しいGTOなんて見てみたいです!(単なる希望でスミマセン)。
SUZUKIは最近、20年ぶりにフルモデルチェンジしたジムニーに代表される様に、特に突き抜けていて楽しいクルマが多いので期待しています。DAIHATSUは、これまでの道を突き詰めている事に頼もしさを感じます。これらはあくまで私の個人的な偏った意見ですので、異論がある方は何卒、ご容赦ください。
唯、やはり残念なのは、まだ、世田谷の高級住宅街を埋め尽くす様なクルマが少ない、という現実でしょうか。またしても、好感度を無視して申し上げます。LEXUSの他に、その役割を担えそうなのはMAZDAだと思っています。思い切って、それぞれの車種の価格を100万円~200万円上げるつもりで渾身のクルマを作って、日本中の高級住宅街を、席巻してみませんか?!その際は多方面からの抗議を受けるのは必至でしょう。しかし、その先には今まで見た事も無いような景色が見えるのではないでしょうか?
価値(価格だけではなく)が2倍になったLEXUSや、1ステージ上がったMAZDAの美しいクルマがテレビ局の駐車場に誇らしく停まっている光景を見てみたいものです。
追伸
今回は前回のコラム『若い人がクルマを買わない理由(https://gazoo.com/ilovecars/column_andou/180718.html )』の内容と矛盾する様ですが、良く読んで頂ければ同じ方向性の話をしているとご理解頂けると思います(要はメリハリです)。
安東 弘樹
[ガズー編集部]
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