一年後のオートサロン …安東弘樹連載コラム

皆さま、2019年、最初のコラムになります。何卒、今年も宜しくお願い申し上げます。

さて、ちょうど一年前、私は初めて東京オートサロンを訪れ、その時に感じた人気と熱気について、東京モーターショーと比較して、その理由等を自分なりに分析したコラムを書かせて頂きました。

去年は、当日券を普通に購入し最終日の最後の3時間弱だけ入場出来たのですが、少しの時間しか観られなかったにもかかわらず、出展者、お客さんの幸福感に満ちた表情に圧倒され、それまで持っていたオートサロンに対する偏見を反省しつつ楽しんでいた所、気付いたら3時間があっと言う間に過ぎていたのを覚えています。

そして、その1年後の今年、いくつかの出展メーカーや団体に声を掛けて頂いて、私はまさかの出演者側になっていました。今回は去年と違う立場になった事での感想や、改めて東京オートサロンの意義等について、お話させて頂ければと思います。

今回、私がお世話になったのは大きく3つのブースでした。

一つ目がTOYOタイヤさん
ここでは初日の記者会見の司会に始まり、アジアクロスカントリーラリーで見事に完走された俳優、哀川翔さんのトークショーの司会。そして超絶技巧による数々のエンターテイメントドリフト映像で世界的に人気を博しているケン・ブロックさんと日本のカリスマドリフトドライバー川畑真人さん御二人のトークショーの司会を担当し、3日間で、7つのステージを担当させて頂きました。

二つ目はHONDAさんブースで行われた、メーカー直系チューナーでコンプリートカーも作っている“Modulo X”ブランドの開発担当エンジニアと開発アドバイザー土屋圭市さんとのトークショーの“ゲストナビゲーター”という、司会兼コメンテイターの様なお仕事。これは私が、某雑誌の別冊という形で発売されたModuloの特集記事の試乗取材を土屋圭市さんと共にさせて頂いたのを受けての依頼で、開発裏話や実際に私が乗った時の印象なども、お話させて頂き、会期中5回のステージに参加させて頂きました。

そして三つ目は以前、このコラムでも報告させて頂いたWRC日本ラウンド招致応援団員としてWRCの日本招致に向けたトークショーの、こちらはゲストという形での仕事でした。

実は、2019年シーズンでの日本ラウンド開催は、殆ど決まったと聞いていたのですが、まさかの逆転敗北となり、南米のチリラウンドに決まってしまっていたのです。そこで来年、2020年にこそ招致を実現しようと、改めてWRCファンの皆さまと決意を新たにする、という内容です。これは3回、開催されたのですが、私は、その内の2回、出演させて頂きました。

それぞれのブースが、見事に離れているにもかかわらず、イベントとイベントの間隔が最も短い時は15分、という時もあり、混雑する会場内を文字通り、ダッシュで移動する時もありました。今年は、この様に非常に濃密な関わりを持った東京オートサロンになった訳です。

そこで感じたのは、やはり出展者と観客の距離の近さや、良い意味での敷居の低さ、そしてそこに参加している人の笑顔でした。

モーターショーにも出展しているメジャーな自動車メーカーや、インポーターもモーターショーの時と何故かブースの雰囲気が全く違います。モーターショーの時は、何処か距離を感じるというか前にも申し上げましたが、「見せてあげている」というスタンスに見えてしまうのですが、オートサロンでは、今回、フルモデルチェンジする初公開の新車を展示したメーカーでさえ、展示場所は観客に近く、出来るだけ沢山の人に「見て欲しい」、というメッセージが伝わってきました。

私が参加したTOYOタイヤのイベントでも、例えばケン・ブロックさんと言えば世界中のクルママニアに知られたカリスマです。そのトークショーにおける一般のお客さんとの物理的距離はわずか3メートル程で、しかも観て聴いて頂いているお客さんからの質問に直に答えて貰ったり、更にはトークショーとは別にサイン会も催す等、とにかく「お客さんに楽しんで頂きたい」という意志を全てのブースから感じるのと同時に、勿論、開催、出展に至るまでの苦労は並大抵のものではないと思いますが、出展メーカー自体が楽しんでいる様な雰囲気なのです。

そして、その雰囲気は結果にも表れました。前回の入場者数は32万人弱で、その数も前年比で増えていたのですが、今年は33万666人と昨年を1万人以上、更新しました。

しかも2日目は都内で初雪を観測する程寒く、朝の段階では主催者も各出展メーカー、団体も、人出の少なさを心配していたのですが、蓋を開けてみたら、見事に入場者数記録の更新です。

「クルマ離れ」、こう言われて久しいですが、ここに居ると、信じられない位の沢山の人のクルマに対する情熱を目の当たりにします。

何しろ昼間は、ブースの間の通路が、さながらラッシュ時の電車の中の様に前に進めない程の混雑になっていましたので、スタッフの皆さんと、「クルマ好きって、滅茶苦茶多いんですね!」等と会話をしたのですが、そこは冷静に考えてみました。

確かにクルマが好きな人は多いけど、実際にクルマを買うとなると、それは別問題なのかもしれません。メーカーは、とにかくクルマが売れないと嘆いています。

オートサロン人気の一つの理由は、大小様々なメーカーから“部品単位”で買い物も出来る、というのが有ると思います。

ですから現在所有しているクルマに付けるパーツを、そこで確認して購入するというのも楽しみで、その部品は、それこそ数千円、という物も有りますので、それでも十分に満足出来る場合も有るのです。

モーターショーは、それこそ基本的には新車を展示し、最低でも100万円はするプロダクトが並んでいる訳で、しかも華やかで目を引くクルマは1000万円以上という事が多く、何処か現実的ではありません。

しかも、日本は世界有数のクルマに対する厳しい課税国です。少しでも他に趣味を持っていたり、生活に不安が有ったら、クルマなぞ、買い替えている場合ではありません。ですから、正確には「クルマ離れ」ではなく、「クルマ(特に新車)が離れていってしまった」、とでも言えるでしょうか。

バブル期でしたら、今は買えなくてもいつかは買える、という気持ちの方が多かったのでしょうが、ここ暫く、中々、そんな風に思える社会状況ではありません。クルマを購入する時も、また所持しているだけで、法外な税金を払わねばなりません。そりゃ離れていきます。

そう思うと、東京オートサロンの毎年右肩上がりの入場者数というのも頷けます。それは様々なイベントに出演してみて直に痛感する事が出来ました。皆さんの表情が、とにかく明るく好意に満ちているのです。

以前は、職人系お兄さん達が集まって、違法ギリギリのパーツを売っているというイメージを正直、持っていましたが、実際に去年、観客として訪れ、それを覆され、そして今年はそれを裏側から観て、人気の理由を確信し、更には貴重な体験をしながら自分自身もお客さんの顔を見て声を聴いて楽しめたのが、何よりの財産になりました。

クルマというのは、まだまだ色々な形で人に夢を与える事が出来る!そう思えた3日間でした。

2019年、幸先の良いスタートをきれた様な気がします。皆さまにとっても良い年になりますよう祈念して今年最初のコラムを締めさせて頂きます。改めて今年も宜しくお願い申し上げます!

安東 弘樹

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