無くならない、あおり運転…安東弘樹連載コラム

皆さんも、何度かあの映像は目にしたと思います。常磐自動車道で、あおり運転をした上、路上に強制的にクルマを停まらせ、あろうことか、無抵抗のドライバーを数回、殴り怪我をさせた、男の映像です。

その男は、この原稿を書いている日の前日に逮捕されました。暴行傷害は当然として、一応、法学部法律学科卒業で法学士である私の見解では、「殺すぞ」と言って数回、尋常ではない力で殴打していることから、殺意もあると認識できますので、殺人未遂も視野に入れて良いとさえ思います。何度見てもおぞましい映像で、怒りと悲しさで、本当に嫌な気持ちにさせられます。

この事案は、極めて悪質であり、単なるあおり運転の範疇から逸脱するものですが、驚くのは、これだけ多くのメディアで、何度も、この容疑者による一連の映像が露出しているのにも関わらず、あいかわらず、日々路上であおり運転が頻発していることです。

まさに、この容疑者が逮捕された日と前日、私は千葉~金沢をクルマで往復しました。例の映像は数日前から、繰り返し放送されていますので、おそらく、ほとんどの人が、その映像を目にし、それに対しての怒りや非難のコメントが、テレビでは出演者から一般の方からもネットなどを通じて殺到している状況が続いています。

しかし、悲しいかな、そんな状況でも、あおり運転と思わざるを得ない行為をするドライバーは、少なくありません。

金沢まで、また休憩はトイレに一回行っただけでしたので、5時間半ほどで着いたのですが、少なくとも、そんなクルマを5台は見かけたでしょうか。その内1台は、車間距離を詰めるだけではなく、明らかにすぐ後ろで蛇行し、前のクルマを威嚇していました。

もう絶望的と言って良い気持ちになりました。これだけ日本中で問題になっているのに、まだ5時間半の工程で5台、つまり1時間に一度は、あおり運転を目撃したことになります。

断言します。私は人生で、一度も、あおり運転をしたことはありません。

もちろん、目の前に急に割り込まれた時に、車間距離が図らずも短くなってしまったことや、一車線道路で、制限速度より大幅に遅い速度で走っているクルマに、ある程度、近づいてしまったことはありますが、如何なる場合でも、すぐに車間を空けますし、ましてや威嚇の気持ちで、前のクルマにプレッシャーをかけたことはありません。

たしかに、高速道路で追い越し車線を、スローペースで走っているクルマなどに(その事自体が違法)ストレスを感じるのは分かりますが、故意に嫌がらせで遅く走行しているクルマではない限り、あおっても相手には伝わりませんし、むしろ焦らせて、危険な状況になる可能性が高くなるのは必至です。

その場合は、落ち着いて制限速度以内で走行車線を走り、追い越しではなく、合法的な“追い抜き”をすれば良い訳で、自分自身も、それから周囲のクルマも危険な状況にさせる“あおり”は断じて許されるものではありません。

もし、あおり運転をしているドライバーが目の前にいたら、真正面からインタビューしてみたいものです。“どうしてあおるのか?”急いでいる?クルマの性能を発揮したい?それぞれに理由はあるのかもしれませんが、それは自分や他人の命と引き換えにするほどの理由でしょうか?

もし運転中に、すぐカッ!となるのでしたら、そんな方は、即刻、免許を返納していただきたいと心から願います。何度も言います。「クルマは凶器にも棺桶にもなります」

私はクルマを何より愛しています。もちろん、家族の幸せが一番ですが、それ以外では人生のすべてと言っても過言ではありません。だから、そのクルマを“棺桶”ならともかく、“凶器”にする人間が、とにかく許せないのです。

そうでなくても、日本において、クルマというのは最近、良いイメージが無いのです。30年ほど前から、地方の峠道を、改造したマフラーからの爆音とタイヤのスキール音を轟かせて速さを競い合う峠族や首都高など、都市高速を猛スピードで走るルーレット族など、ニュース番組で盛んに報道され、最近では高齢ドライバーの事故やあおり運転です。

所有する際には多重税金。日本人が精神的にクルマから離れていくには十分すぎる状況でしょう。だから私は少しでもクルマに、良いイメージを持ってもらえるように、あおり運転をしないのは当然ながら、他のクルマや自転車、歩行者に対して常に思いやりを持つようにしています。

しかも、さらに自分の愛車を好きになってもらいたいという気持ちもあり、それは徹底しているつもりです。

今回、逮捕された男が乗っていたのは代車の白いBMWでした。すべてのクルマが好きな私ですら、今回の映像を見た後に、まったく関係ない白いドイツ製SUVと遭遇した際に、思わず身構えてしまったのです。それほど、クルマの行動は、そのイメージに直結するのです。ですから一度でもあおられたら、その車種に悪いイメージを持ってしまうでしょう。

だからこそ、私は自分のクルマに良いイメージを持ってもらうべく、できるだけ周囲に優しく接することにしています。「あのクルマのドライバーが道を譲ってくれた」「横断歩道で停まってくれた」「車線変更をしようとしたら、前に入れてくれた」そんな風に、必ず、その車種に対してのイメージも上がると思っています。

車種へのイメージが良くなるだけではなく、当然、人間というのは優しさや配慮に触れた時、温かい気持ちに包まれるものですよね。路上で、お互いに、温かい気持ちを提供し合えれば、こんなに素晴らしいことはありません。クルマそのものへのイメージも良くなっていくでしょう。

綺麗ごとに聞こえるかもしれませんが、私、綺麗ごとが嫌いではありません。ただ、綺麗ごとだけで世の中が回っていかないことも理解しています。

その為にも、多くのドライバーが日々感じているストレスを発散できるサーキットをヨーロッパ並みに身近にできないものか、と考えています。

前述した峠族やルーレット族がヨーロッパで存在しないのは、思いっきり走れるサーキットが、日本と比べて遥かに身近だということが要因の一つであると私は個人的に思っているのです。

ドイツでは、あの全長20キロメートルに及ぶ、ニュルブルクリンクのオールドコースでさえ、一般のドライバーが気軽に走れます。一般開放日には基本的にチケットを買って、コースインです。事故の際には、最低限の処置はしてくれますが、基本的には“自己責任”です。

その代わり、本当に気軽に走れるのです。極端に言えば日本における“ボーリングやカラオケ感覚”でしょうか。しかもアウトバーンの60%は制限速度無制限。200Km/hは日常です。

にもかかわらず、総道路延長距離・車台数比で日本より死亡事故を含む事故数が少ないのは、ドライバーのストレスが少ないのも理由の一つであると私は個人的に推測しています。

そもそも、日本では制限速度で走っているクルマが、他の多くのクルマにとって邪魔になる、というのは常軌を逸している状態です。日本の道路状況があおり運転を助長しているという側面も否定できないでしょう。

道路行政の正常化も必要ですが、何より、一人一人の余裕と思いやり。改めて、凶器を動かしている我々の節度が試されます。お互いに“あおり運転”の無い社会になるように頑張っていきましょう。

安東 弘樹

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