ランドクルーザーのワンメイクトライアルが復活

SUV(当時はRV)とアウトドアが一大ブームとなった1990年代。三菱はパジェロ、チャレンジャー、日産はサファリ、テラノ、いすゞはビッグホーン、ミューそしてトヨタはランドクルーザー、ハイラックスと各メーカーが普通自動車にタフな4WD車をラインナップしていた。こういったクルマのおかげで週末アウトドアを楽しむ家族やスキーを楽しむ若者が増えた。そしてこれら4WD車の持つ本来の悪路走破性を堪能しようと、オフロードコースで走る人も増え、オフロードイベントも全国各地で開催された。そのなか、ランドクルーザー乗りによるランドクルーザー乗りのためのワンメイクオフロードイベント、ブラッドレー杯(ランドクルーザー・トレーニング・ミーティング)が開催され人気を博した。2007年まで毎年開催されていたが、以降開催することがなかった。そして今年、ランドクルーザー乗りの熱い思いから9年ぶりに復活を果たし、愛知のさなげアドベンチャーフィールドで開催された。

競争するだけでなく、そこは運転技術の学びの場

ブラッドレー杯は、ランドクルーザー乗りであれば多くのかたが知っているアルミホイールのブランド、ブラッドレーを販売する4×4エンジニアリングが冠スポンサー。当時ランドクルーザーのために専用オフセットのホイールを製造してくれたことに、ランドクルーザーでオフロードを楽しんでいた方々が感謝し、一緒に盛り上げようとこのオフロードトライアルが始まった。競技方法は、制限時間内にモーグルや岩石路などの悪路内で、数字が書かれたマーカー内を順番に通過していく。コーステープやマーカーに触れたり、バックすると減点される。制限時間内にいかに減点せずにセクションをクリアするかを競う。ランドクルーザーだけのワンメイクイベントだから、観客も含め、ランドクルーザー乗りが集まるミーティング的要素がある。そして1台ずつセクションを走っているのを参加者や観客が観られるので、うまい人の走り方を学んだり、自分と同じ型式のランドクルーザーの、サスペンションの動きが観られたり、ほかの型式との比較ができる。単に競技だけでなく、ランドクルーザーを深く学べる場所として人気がある。だからランドクルーザー・トレーニング・ミーティングとも呼ばれる。

大きな岩が積みあがった岩石路もセクションのひとつ
岩石路を登って行く80。大柄なクルマを巧みにドライビングしながら駆け上がる
岩石路のルートを見つけながらゆっくり走る。四輪がどの岩に乗っているかを把握しながら走る
古いクルマと思われがちな40もここまで元気に走る

ランクルを試験する人が、競技委員長に

今回のブラッドレー杯の競技委員長は、上野和幸さん。上野さんは第5回大会からランドクルーザー70で参加し、いきなり優勝。その後も何度も優勝するオフロードのスペシャリスト。それもそのはず、ふだんはトヨタでランドクルーザーやハイラックスなどフレーム付SUVの車両試験、開発をしている。もちろんオフロード走破性試験も行っている。ブラッドレー杯は、以前よりコースデザインをしていたが、今回は競技委員長として全体を統括した。上野さんは「基本的には、全員が必ず走破出来る設定をして、その中に車両の違いで正解のラインが違う事を、自分以外のクルマの走りを見て気づいてもらえたらいいなとの思いで設定しました。今回、安全に配慮した上で、みんなが同じ様に全員の走りを観察出来る様に工夫しました。トレーニングミーティングですからね!」とライバルとの競争ではなく、あくまで本人が愛車といかにもっと深く付き合い、理解しながら走りを楽しめるかというところを考えている。「参加者には、自分の車両の特性や限界を知ってもらい、自分の愛車に合った走り方を探してもらえたら、もっと走る事が楽しくなると思います!」競技委員長の上野さんの思いは、確実に参加者に届いていた。
ランドクルーザーは、今年で65年を迎えるロングセラーブランド。今回も40系、60系、70系、80系そして100系と様々な型式、年代のランドクルーザーが集まった。40系、70系のショートやミドルと、60系、80系、100系の車格の大きなものとではまったく走行ラインが違う。またリーフスプリングやコイルスプリングなどサスペンション形式の違いもステアリングの切れ角と相まって違いが出てくる。こういったランドクルーザー1台1台の違いを観るのも、ランドクルーザーファンにとっては貴重な機会だ。

トヨタ自動車 商品実験部 第2車両試験課 シニアエキスパートの上野さん。83年入社で翌年より商用車の担当に。プライベートでランドクルーザーに乗り始めたのは28歳からPZJ70幌を新車で購入し、その後家族用にHDJ81Vを追加、さらに稀有なFJ40(1973年式)も所有するほど、公私ともに真のランドクルーザー乗りだ。
モーグルもセクションのひとつ。こうしてみると、まるで公園の砂場で子供がミニカーで遊んでいるかのような光景だ。今回集まったランドクルーザー乗りは、みなそんな少年のような心を持った人ばかり
60系でモーグルに挑む。大きなボディを揺らしながら豪快に走っていた
80系で岩石路に挑む。大きな岩を抱きかかえてしまうと、動けなくなってしまうので慎重に走る
ランドクルーザープラドも岩の登りに挑む。ラインを見極めながら駆け上がる
輸出仕様の70系ピックアップもその走破性の高さを披露
優勝者に贈られる盾は、このブラッドレー杯の立ち上げからずっと運営サイドで尽力いただいたランドクルーザーファンクラブの寺田さんの手作り
優勝者にはこうしてランドクルーザー乗りの憧れであるブラッドレーのホイールが1台分贈られる

若い世代にもランクルは大人気

80年代~90年代からランドクルーザーを乗っているオーナーの現在の年齢は、40代から60代。年齢の高い方ばかりと思われるかもしれないが、ここ数年は若い人がランドクルーザーに乗ってイベントにやってくることが増えてきた。デザインがかわいいから40系に乗ったり、親から子に受け継がれたりときっかけは様々だが、こうしてイベントなどに来て、ランドクルーザー仲間が増え、単にクルマの整備だけでなく、人生そのものを先輩に相談したりと、人のつながりが深くなる。それがランドクルーザーならではの魅力のひとつだ。今回のブラッドレー杯に参加していた方を何人か紹介しよう。

島田 竣介さん(20) BJ74V改(1989年式)
ランドクルーザー乗りとオフロードコースへ行き、その悪路走破性の高さに感動し、一気に好きになった。そして18歳からこのランドクルーザーに乗る。旅行やドライブに乗るのがメインで、ブラッドレー杯は初参加。島田さんは「パワーステアリングやデフロックもないシンプルなところが好きです。直しながらずっと乗っていきたいです。ランドクルーザーは最高に楽しい移動手段です」2歳年上の兄もランドクルーザー70に乗っていて、兄弟揃ってランドクルーザー好きだ。
沼 一成さん(36) BJ44(1980年式)
もともと60系のスタイルに憧れ、ランドクルーザーに興味を持ち、いろいろ調べているうちに海外で活躍するランドクルーザーを知り、輸出仕様の70系に乗り始めた。そして2年前からこの40系に。「海外でワークホースとして活躍するランクルに感動しました。知り合いからこのクルマを譲っていただき、ミドルホイールベースの幌がとても気に入っています。幌はオーダーメイドで新調しました。ランクルは、とても良い道具だと思います。家族との思い出も作りながら、自分の欲求も満たしてくれます。道具としての更なる可能性を、試したくなる魅力も持ち合わせていると思います。長く乗り続けたいですね」
橋本 健太郎(34) BJ60V(1982年式)
物心ついたときには自宅にあったという、この60系。ゆりかごのように乗っていた橋本さんは気づいたときにはランドクルーザーに乗ることが当たり前になっていた。どこへ行くにもこの60系に乗っていく。「免許を取ってから、親からこのクルマを引き継ぎました。クルマか自分か、どちらかがダメになるまでお付き合いしていきたいです。直せるうちは、壊れたら直して乗り続けていきたい相棒です!」親子2代で乗り継いでいく橋本さんのようなケースもとても増えている。

ランドクルーザーは、クルマの持つ信頼性、耐久性、悪路走破性の高さはもちろん、ランドクルーザーに乗っているというだけで、つながれる仲間がたくさんいる。単なる移動手段ではなく、いつも一緒に思い出を作っていく相棒のような存在だ。

(写真・テキスト:寺田 昌弘)

[ガズ―編集部]