イチローさんも登場!モリゾウが「クルマ愛」を語る「WE LOVE CARS 2017」
10月29日(日)、東京モーターショー2017で賑わう東京・お台場のMEGA WEBで「WE LOVE CARS 2017」が開催された。このイベントは“モリゾウ”(トヨタ自動車 豊田章男社長のドライバー名)主催のトークショーで、「クルマへの愛」をテーマにゲストや来場者と語り合うというもの。
事前の告知はトヨタ自動車のSNSを通じて行われ、抽選を経て当選した約350名のファンが、MEGA WEB内の特設会場に集合。モリゾウをはじめとする出演者とのコミュニケーションを楽しんだ他、SNSでのライブ中継や東京モーターショー会場との中継も行われ、多くの人たちがトークに耳を傾けた。
初めて買った愛車、4代目カローラでモリゾウ登場
- ステージに登場したモリゾウ。来場者が拍手で迎える
オープニングではモリゾウが4代目カローラに乗って会場へ。ステージに登場すると「みなさん、こんにちは! モリゾウです。クルマの魅力を語りたい、東京モーターショーを盛り上げたい。今回のイベントはクルマを愛するひとりの人間『モリゾウ』として開催させていただきました」とあいさつ。
さらに「私が先ほど乗っていたクルマは4代目カローラです。実は自分のお金で初めて買ったクルマで、値段は99万円でした。私の忘れられない青春時代の思い出が詰まっています。『誰かのストーリーとなる』。クルマとはそういうものだと思います。これからも、いつまでもそういうものであり続けたいと思っています。また、みなさまと私をつなげてくれたもの、人との出会いを作ってくれるのもまたクルマです。今日という日がみなさまと私の新たなクルマのストーリーになることを願っています」と続けた。
ここで司会進行を務めるフリーアナウンサーの小谷真生子さんが登場。モリゾウは小谷さんを「いつも私の本音を引き出してくれて、ご自身もクルマが大好きと言ってくださる方」と紹介。ステージ上にはニュルブルクリンクのすぐ近くにあるホテルのバーを再現したセットが組まれており、リラックスした雰囲気の中でのトークセッションとなった。
- ホテル「ドリント アム ニュルブルクリンク ホッホアイフェル」のバーを模したセット。モリゾウが登場してきた時は会場が緊張した様子にも伺えたが、バーごしの2人の息の合った笑いを交えたかけ合いにより、会場の雰囲気が一気に和んだ
「自動運転は愛車になりえるか?」という問いにモリゾウは……
トークセッションは来場者が事前に送った質問に応える形で進行。最初の「東京モーターショーで気になるクルマは?」の質問に対してモリゾウは「一番気になったのはセンチュリーですね。開発している時から『たまにぼくが乗ってもいいクルマにしてよ』と言って、頑張ってくれていた。でも、まじめな形になっちゃったのでGRMN仕様のセンチュリーを作ってほしい。目立つところにはそれに乗っていきますから」と回答。会場からはGRMN仕様のセンチュリーへの期待を込めた「おーっ!!」という歓声と拍手が沸き起こり、爆笑の渦に包まれた。
また「電気だけで動くクルマに寂しさを感じませんか?」の問いには、「電気自動車はガソリン車と比べて最初の加速性が良いですが、ややもすると電気自動車は個性がなくなりみな同じになってしまいます。自動運転ということも増えてくるので、クルマがコモディティ化する可能性があります。クルマ屋出身が作る電気自動車はブランドの味が出るようにこだわっていきたい。そういう意味では絶対コモディティにはしたくないなという思いを強く持っています」と述べ、自動車メーカーのプライドをのぞかせた。
- 小谷さんのリードでモリゾウのトークは白熱。モリゾウという名前は自分自身を隠すためのドライバー名だったと打ち明けた
続いて小谷さんが事前に来場者から届いた「忘れられないクルマとの思い出」を紹介。MR2に乗っている男性とドライブデートを重ねていた女性には、モリゾウが「その後どうなったの?」と逆質問。女性は「その時の彼氏が今の主人です」と回答し、祝福の拍手が起きる一幕も。
さらに「自動運転は愛車になりえますか?」という問いには「これは愛車にしなければいけないと思っています。なぜ愛車にこだわるのかというと、数ある工業製品の中で『愛』がつくのはクルマだけ。例えば冷蔵庫を「愛機」とは呼びませんし、家は「愛家(ラブホーム)」ではなく「マイホーム(私の家)」と呼び『愛』はつかないんですよね。決して自動車業界がそう言ってくれと頼んだわけでもなく、自然とそう呼んでいるのはやっぱりエモーショナルな関係がクルマと人の間にはあるからだと思います。単にA地点からB地点に移動するだけだったらそれはコモディティになってしまうと思うんです。コモディティだと本当に『愛』をつけてもらえるのか?ちょっと疑問に思うんです。
それと動くことを『move』と言いますが、moveには『感動する』という意味もあり、つまりクルマは人の感動や気持ちを運んでいる部分もあると思うんです。東日本大震災の直後に東北へ行ったのですが、ほとんどが他府県ナンバーでした。被災地に物資を運ぶことはもちろんですが、物資を運ぶ人の気持ちも運んでいるんですよね。自動運転であっても、クルマは気持ちを運ぶものであるということには、こだわるべきだと思っています」と、常々愛車というキーワードを発信してきたモリゾウらしい回答。会場の観客からは納得と期待を込めた表情が感じ取れた。
さらにモリゾウは「何よりも自動運転の一番の目的は交通事故を減らしていくこと。そしてもうひとつやってほしいのは“FUN TO DRIVE”ですね。大多数の人は反対するかもしれませんが、WRCのヤリスに乗っているラトバラ仕様とかがあったら“FUN TO DRIVE”ができるんじゃないかと思います」と大胆な夢の鱗片も語ってくれた。
モリゾウの友人、イチローがサプライズゲストとして登場
- モリゾウがイチローを迎える。豊田章男と鈴木一朗という別の名前を持っているのが2人の共通項
トークセッションの半分を過ぎたころ、小谷さんがサプライズゲストの登場をアナウンス。モリゾウの友人という説明があったが、誰が来るのかまったく予想がつかない。モリゾウのかけ声で会場に現れたのはなんとメジャーリーガーのイチローさん。「そこそこ長い間、野球をやっているイチローです」と自己紹介し、会場には割れんばかりの拍手が沸き起こった。
前半と同様、質問形式でトークセッションは進行。小谷さんがイチローさんへ「未知の世界に飛び込む時。怖さはありませんか?」について質問を投げかけると
「未知の世界と言えば2001年に渡米したときの事を思い出すんですけど、周囲は反対ばかりでした。『野手なんてできるわけがない』とみんなに言われました。でも僕は『やりたい。ただ、やってみたい』と思っていました。
同じ世界でもっと凄い世界があると聞かされているのでやりたいじゃないですか。それだけのことなのです。できると思うから行ったわけじゃないんです。そこで自分がどうなろうと構わないですよ。でも、自分の『やりたい』という気持ちは抑えて人の言うことを聞くことに耐えられないので。ずっとそんな感じの人生でしたね。
中学から高校に進学するときも『お前みたいな細身の体の選手が野球の名門校でレギュラーとれるわけがない』とみんなが言っていましたし、プロに入る時も同じでした。自分がやりたいことを見つけたんだからそこに向かうことは何も恥ずかしくないと思いました」。
さらに「章男社長にお会いしたとき、そこが共感できるところなのかなって感じました」と第一印象を語ったイチローさんに対して「何にもやらずに待っているというのは先延ばしでしかなく、チャレンジしていくことに対して逃げているような気がするんですよね。イチローさんのように何かを極めた人のコメントは、自分自身に気付かせてくれて、勉強になるんですよ」とモリゾウが締めくくると、イチローさんが「勘弁してくださいよ。反対ですから。まったく」と即座にリアクション。イチローさんの実直な人柄に多くの来場者が感心していた。
また「自分の殻をやぶりステップアップできたことはありますか?」という問いに対して、イチローさんは「ある時“イチロー”というのが急に幕内から横綱にされた時があって、それを負っている時期が10年以上あり辛かった。そしてある時、人からの見られ方を気にしなくなり、その時に初めて個室にこもってゴハンを食べていたのが、カウンターに出てゴハンを食べるようになった。それがステップアップかどうかわかりませんが、明らかに変化した時期はありました」と回答。
一方、モリゾウは「僕は豊田章男という名前が重く、名前をわざと言わないというか隠すようなことをずっとやってきました。ところがある時、パラリンピアンの方たちと会う機会があって、その時をきっかけに大きな変化が生まれました。大日方邦子 選手(チェアスキーヤー)と一緒にリフトに乗ることがあり、どうすれば良いのかなと思ったのですが、その選手に何もしなくていいと言われました。彼女たちは誰かの支援を欲しい人ではなく、普通に戦っているファイターなのですね。ハンディキャップではなく、個性として前面に出している人たちと会うようになり、『豊田』という名前は個性であり、この名前があるからこそできることがあると思うようになったんですよね。誰かのためにとか、チームワークに使うとか、そう思った瞬間に自分自身の長年の殻が破れたと思います」と打ち明けた。
- 「50歳まで現役をやりたいと言っていますが、最低50歳です。意味合いが違います」とイチローさん。限界の先に挑戦する姿勢がモリゾウと重なる
いよいよ終わりの時間も迫り、最後の質問。小谷さんが『お二人にとって愛とはどういうものですか?』と切り出すと、イチローさんは「愛ですか~。愛について深く考えることってありますか?」と戸惑っている様子。それを見たモリゾウさんが「その前に小谷さんから」と提案。
深々と考えた小谷さんは「子どもが病気になったときに、自分の命を投げ出せば元気になるんだったら、自分の命も平気で投げ出せるなって思った瞬間に、これって愛だなって思いましたね」と回答。にじんだ涙を台本で隠し、照れくさそうにしている小谷さんに温かい拍手が注がれた。
イチローさんは「見返りの無いこと。見返りを期待しないことかな。僕らの世界(スポーツ界)でよく言われる『練習は裏切らない』という言葉があるんですが、その姿勢はこれだけやったらこれだけ返してくれるよね?という思いが入ってしまっているんです。もちろん、鍛錬や努力は必要なことだけど、報われるとは限らないという気持ちもいつしか生まれないと、実際には返ってこないんですよね。人間関係においても同じで、見返りを求めるのは愛ではなく、一方通行であるべきだと思います」と、超一流アスリートならではの回答。
そしてモリゾウは「これまでいろんな決断をしてきていますが、ある決断に対してついてこられない部分もあるんですよね。最初は理解をしなくてついてこない。ただ理解をしてついてくる。ある時はどこまでいっても理解しない。そういったみんなの意見を代表したかたちで引っ張っていく役割なのですが、その中において、どうしてもみんなが喜ぶ決断だけをしていければ良いのですが、やはりそうはいかなくて、必ず何かを決断すればある一部の人が悲しむという事を何度も経験してきています。今の世の中、対立軸でものを見ていくとわかりやすく簡単なのですが、実社会や人生は「黒」と「白」と、そんな簡単ではないですよね。理解をしてもらう努力は絶えずしていますが、相手を許すにせよ切るにせよ、そこに愛が無ければ冷たいものになってしまうんじゃないかなと。それを思うと自分自身が愛のない人間になってしまったら、ましてや愛車なんて作れるような立場ではありませんよ」と語ってくれた。
そんなモリゾウの『愛』論に小谷さんが「トヨタという会社から体温を感じるようになったんです。大きな企業なので冷たいというイメージがあったのですが、愛というものをどう形にしようか日々考えられているから、それが社員に伝わり、私たちにも伝わってくるんでしょうね」と締めくくり、観客も吸い込まれるように聞き入っていた。
イチローさん、小谷さんが退席した後、再びモリゾウのスピーチに。
「80年前、祖父の喜一郎がクルマづくりを始めたとき、「不可能だ」と言われながらも『やりましょうよ!』と言ってくれた仲間がいました。100年に1度の自動車の転換期と言われる今、私もいろいろな場で、様々な方たちに『やりましょうよ!』とお願いすることがあります。ただ今日はみなさんに『やりましょうよ!』と申し上げるつもりはありません。なぜなら、今日はみなさんから『やりましょうよ!』と言う声が聞こえた気がするからです。今日集まってくれたたくさんの方、中継の向こう側で参加いただいた方、皆さんから寄せられたクルマへの想いやストーリー。すべてが皆さんからの『やりましょうよ!』という声そのものです。例えどんなに形が変わったとしても、クルマを『愛』がつくものにしたい。私はこれからもこだわり続けていきます。クルマを愛する人のために、クルマを愛する人ともに戦い続けたいと思います。私1人ではできることは限られています。みなさまとだからこそ、作れるクルマの未来があると思います」と宣言し、イベントはフィナーレに。モリゾウは深々と一礼し、会場からは割れんばかりの拍手が。クルマの未来は明るい。誰もがそう確信した、モリゾウならではのイベントであった。
- 同日の午後にはメガウェブ内の特設コースでドリフトチャレンジを実施。ラリードライバーの勝田範彦さんが抽選で当たった来場者を助手席に乗せ、デモランを行った。デモラン後の来場者の方からは「あんな風に運転ができたら楽しいと思う!本当にいい体験ができました!」と喜びの声が
- 当初予定はしていなかったが、モリゾウが急遽 デモランに参加。遠くのほうから86のエンジン音が周囲に響き割ると、周囲からは大きな歓声が沸き起こった
- 観客からは「『弘法も筆の誤り』という言葉がありますが、モリゾウさんのドリフト走行の際の失敗談とかはありますか?」と質問が。「1回でできるわけではなく数多くの練習をすれば失敗もしますよ。サーキット場での練習の際に失敗したこともありまして、ここを見てください。」とリアの傷を指さした
フリーライター:ゴリ奥野
86に乗りながら世界中の愛車やモータースポーツを取材するフリーライター
[ガズー編集部]
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