開発担当者が語る「ロードスター 30年のあゆみ」【Roadster 30th Anniversary Meeting】

 スタイルや走りといった点に加え、ロードスターの魅力を語る上で、大きな要因の一つとなっているのが、「作り手との距離感」。ひと世代前であればフェアレディZの片山豊氏、あるいはスカイラインの桜井眞一郎氏など、名車と呼ばれるモデルには、その生みの親とも言われる人物の顔が見える。しかし、ロードスターの開発陣ほど頻繁にイベントやメディア取材の場に登場し、一般ユーザーとも親しく交流を深めて来た例は極めて珍しい。今回の30周年ミーティングにも2代目、3代目ロードスターの主査、貴島孝雄氏と、商品本部主査の斎藤茂樹氏が出席。様々なエピソードを披露してくれた。その一部を、ロードスターというクルマにまつわるキーワードと共にお届けしよう。

キーワード1 「アフォーダブル」

貴島氏:
「まず、ロードスターがその本質として意識して来たもの、それは“アフォーダブル(affordable)”であること。これは必要にして十分な性能、そして誰もが手に入れ易いクルマという2つの意味を持ちます。ハイパワー車はアクセルを加減しなければ性能を使い切れないし、メカニズムが複雑になる分、価格も高額になります。ロードスターにはレーシングドライバーのような技量は必要ありません。走らせて誰もが楽しいと思えるクルマ。これがロードスターの原点です」。

 確かに、ロードスターが登場した1989年には280馬力の強力なスペックを掲げた高性能マシンが続々登場。そんな中、ロードスターの最高出力はわずか120馬力。しかし、2019年の今、デビュー当時からのスタンスを崩さず、そして一度も生産を休止する事無く国内外のユーザーから熱烈に支持されて来たクルマはロードスターのみ。まさに初代モデル開発主査の平井氏、貴島氏の先見性を、時代が証明するカタチとなったのだ。

「低いスピードレンジでも楽しめるクルマ。でも誰もが感じられる楽しさを具現化するって、意外と難しいんです」と語る貴島氏(左)。写真右が商品本部主査の斎藤氏。
「低いスピードレンジでも楽しめるクルマ。でも誰もが感じられる楽しさを具現化するって、意外と難しいんです」と語る貴島氏(左)。写真右が商品本部主査の斎藤氏。

キーワード2 「“楽しさ”を伝える難しさ」

貴島氏:
「初代モデルの開発時の苦労話を上げればキリがありません。例えば地上高。当時マツダの乗用車には地上高150mmという社内規定がありました。しかし、平井さんは“150mmではスポーツカーは作れない。135mmにしよう、貴島君。大丈夫、責任は俺が取る!”と、現場の説得を私に委ねました。正直、責任なんて取れるはずは無いだろうと思いつつ(笑)、実験部をはじめ各部署の了承を得るために奔走しました。150mmというのはまだ国内の道路の舗装状態が不十分だった時代の尺度だったので、ここは意外のスムースにイケました。
苦労したのがバッテリーの搭載位置。黙ってエンジンルームに置けば数100円のケーブルで済むところを、平井さんは理想のヨー慣性と前後50:50の重量配分にこだわり、トランク内に置くことを譲りませんでした。当然、長いケーブルが必要で、コストは3000円に跳ね上がりました。それでも妥協せず、理論に忠実に一つ一つのファクターを押さえて行きました」。

 現場への要求を力ずくで押し通すだけでなく、その理由や必要性を時間をかけて説得する。強い意志と根気無しにはできない作業だが、最終的にそれを受け入れ、実際の商品化へとこぎ着けてくれた現場サイドもまた、ロードスターの成功を支える大きな功労者と言えるだろう。

ロードスターの基礎を築いたNA型。走り出した途端、思わず笑顔になるような独特の乗り味は、30年を経た現在でも旧さはまったく感じられない。
ロードスターの基礎を築いたNA型。走り出した途端、思わず笑顔になるような独特の乗り味は、30年を経た現在でも旧さはまったく感じられない。

キーワード3「コンセプトの継承」

斎藤氏
「私の入社はNA型がデビューした89年。当時はロータリーの独特なフィーリングが好きで、RX-7(FC3S)を所有していたこともあり、正直、ロードスターに対する想い入れは特にありませんでした。その後、貴島さんや山本さん(山本修弘氏:NC、NDロードスター開発主査)と一緒するうちに、意識が変わって来ました。それは、熱意を持って設計陣らを動かし、良いものを作ろうとする姿勢。主査の背中から学ぶ、というとカッコつけ過ぎですが、目の前でお二人がやって来たことすべてが私にとっての財産です」。

ちなみに、当初はRX-7ファンだった斎藤氏がロードスターに関心を寄せる上で心に響いたのは、初代の“だれもが、幸せになる”という広告キャッチの前に書かれてあった、“ほんの少しの勇気を持てば”という言葉。「でもこのことをユーザーさんにお話すると、ほとんどの方が“勇気なんていらなかったよ!ひと目惚れだったよ!”という言葉が返って来ます。本当にすごいクルマだと思いますね」と斎藤氏。

貴島氏の主導のもと、斎藤氏も開発メンバーに加わったNB型。派生モデルとしてクーペ、ターボも登場した。
貴島氏の主導のもと、斎藤氏も開発メンバーに加わったNB型。派生モデルとしてクーペ、ターボも登場した。

キーワード4「ロードスターの憲法」

貴島氏
「ロードスターの憲法とは、最初に申し上げたアフォーダブルであること。そして車重の軽さや理想的な前後の重量配分を備えた楽しいクルマであること。憲法は簡単には変えられません。だから先々、モデルチェンジを迎える時が来ても、このクルマに関しては、“さあ、どうしよう”と、白紙状態から迷うようなこともありません。とはいえ、ひとつ前のモデルを凌駕していない新型は出しません。私が担当したNBも、平井さんが作ったNAより絶対に良いものを、という気持ちで取り組みました。それは以降のNC、NDも同様です。もちろん、これから先は環境対策や安全面など、今まで以上に色々な制約が出て来ると思いますが、それはレギュレーションである以上、受け入れなければなりません。自分達の楽しみのために、世の中に許されないものを作るわけにはいきませんから。それらを頭に入れながら凌駕する。そこで行なわれる創意工夫こそが、ロードスター作りにおける精神面の“継承”になるのだと思います」。

斎藤氏
「今回のような場で必ず聞かれるのが“NEはどうなるんですか?”という質問。どんなクルマになるか、聞いてる皆さんも実は分かってるハズなんです。そう、数年先に出て来るであろう次期モデルも軽くてコンパクト、そして乗って楽しいと思えるクルマであることに違いはありません。ハイブリッドやEVは手段や条件であり、“楽しさ”というコンセプトとは別の話。とはいえ、条件が絶対的なものであれば、その中での楽しさを追求しなくてはなりません。これはかなりハードルが高い作業ですが、これまで積み上げて来たものを、ここからいかに深化させていくか?走る楽しさを忘れず、社会への優しさという点もしっかりと考えながら、次の10年を見据えて行きたいですね」。

インタビューの最後に、2シータースポーツという市場的にはニッチな存在から、その存続を危惧する質問も上がったが、これについては「ロードスターを止める?それは無いと思います。このクルマはマツダの大切なブランドアイコン。これをやめて他のクルマを、ということは考えられません」と、お二方から明確な即答が。30周年はひとつの通過点。初代から継承されて来た不変の憲法のもと、ロードスターの歴史はこれからも続いて行くことだろう。

30周年ミーティング会場に設けられた寄せ書き。「おめでとう」という祝福のコメントの他、「素晴らしいクルマをありがとう」という開発陣への感謝のコメントも多く見受けられた。
30周年ミーティング会場に設けられた寄せ書き。「おめでとう」という祝福のコメントの他、「素晴らしいクルマをありがとう」という開発陣への感謝のコメントも多く見受けられた。

[ガズー編集部]