エアロブランドVARIS代表に聞く「運転が楽しくなるエアロとは?」
過去最多の来場者数を記録した東京オートサロン2020を舞台に、初めて実施した『勝手にガズーAWARD』企画。
GAZOO.com編集部員が各ブースをめぐって公式SNSにノミネート投稿をおこない、閲覧者の“いいね”の数でグランプリを決定するというもので、ドレスアップカー部門、チューニングカー部門、自動車学校部門、スープラ部門、86部門、コスチューム部門の6部門を設定させていただきました。
その『勝手にガズーAWARD』スープラ部門で最も多くの“いいね”を集めてグランプリを獲得したのが、エアロメーカーVARIS(以下バリス)のGRスープラでした。
そこで、神奈川県相模原市のバリス本社へ突撃。代表取締役社長の矢萩尚宏氏にお話しを伺いながら、クルマ好きたちからの支持を集める秘密に迫りました。
“FUN TO DRIVE”が手掛ける車両の条件
「バリスがエアロパーツ開発のコンセプトとして掲げているのは“デザイン”と“機能”と“利便性”の3要素です。機能というのは当たり前ですがそのクルマを速く走らせるために何が必要かということです。デザインは『オレもあんな風に仕上げたい!』と思わせるカッコ良さ。そして利便性は保安基準を満たしてディーラーにも入庫でき、通勤やドライブで不都合がないことです」
日本国内だけにとどまらず、派手好きな海外のオーナーたちからも支持を得るほど迫力満点のワイドボディキットが印象的なバリス。しかし、いざお話を伺ってみると、ただ派手さやインパクトだけを狙っているというわけではないようだ。
そもそも、エアロパーツ開発にあたっては、まずはどの車種用を作るか? という選定が必要不可欠となる。その基準について矢萩さんに伺うと、こんな答えが返ってきた。
「バリス製品のラインアップを見てもらうとわかるのですが、どんなに売れている車種があっても、乗って楽しい“FUN TO DRIVE”の要素がないクルマは手がけていません。そういう意味では86から新型スープラへつながるトヨタのスポーツカー投入は、我々アフターパーツメーカーも大歓迎ですね。その他、今手掛けている車種は、スカイライン400R。さらに来年の東京オートサロンでは受注開始したGRヤリスが多くのブースを飾ることは間違いないでしょうし、次期86のウワサも聞こえてくるのはうれしい反面プレッシャーで、ウチのような規模だと『うわっ、もう少しペース落としてくれ』というのが本音だったりもします(笑)」
これまでで一番苦労したGRスープラのデザイン
- 12月に入庫したGRスープラをわずか3週間ほどで仕上げ、東京オートサロン2020に展示した
こうして開発車種が決定すると、まずはストリートプラスαをターゲットにしたアンダースポイラー類から製作をおこない、エンジンや足まわりなどチューニングパーツが発売されていく速度と歩調を合わせながら、パフォーマンスに応じたパーツを追加していく、というのがバリスの製品開発における一般的な流れとなる。
最近は純正オプションにもハデなデザインのエアロがラインアップされているため、それらとの差別化を図るために用意しているのがバンパー交換タイプ、そしてワイドボディキットなのだという。
「今回、賞をいただいたGRスープラはあえて最初からワイドボディキット『SUPREME』も投入しましたが、これは86以来の特殊な例となります」
「GRスープラのエアロ製作で苦労したのは、ボンネットを中心としたフロントセクションで、シャープなイメージにするために、ノーマルにはないキャラクターラインを追加しました。ボンネットにはクーリングダクトを設けていますが、ルーフの凹凸とラインを共通化することで装着時の一体感を生み出しているのもこだわりのひとつですね」
- 大型なクーリングダクトや新たなキャラクターラインの追加、ルーフ中央のくぼみとつながるボンネット後方の中央部分のくぼみなど、ボンネットのデザインは苦心の末の力作だ
「バリスのデザインの特徴は、その車種の良い部分を強調して、ダメと思う部分を良くすることです。だから、同じラインアップでも車種ごとに共通する形状や造形はないんですよ」と、そのこだわりを教えてくれた。
なお、様々なニーズに応えるべく、スープラに関してもワイドボディだけではなく、ノーマルフェンダー対応の『ARISING-1』も開発を進めている。
「機能」「デザイン」「利便性」のバランスを追求したバリスのエアロ
バリスのエアロは見た目だけでなく、機能性を追求した結果として完成されたものだという。
「純正よりもフロント開口部を大型化したフロントバンパーによってエンジンルームへの流入風量を増やすことで、エンジン冷却性能を向上させることができます。そして、エンジンルームに入った空気をスムーズに抜かないと冷却性能が高まらないので、ダクト付きのボンネットの装着が必要不可欠。さらなる冷却効率アップを求めたり、冷却することで発揮できるようになるエンジンのパワーを活かせるよう、よりグリップ力の高い太いタイヤを履かせたりするために、フロントワイドフェンダーが必要になる。このように必然的に生まれてくる要望、機能をカタチにしているのがエアロパーツなんです」
バリスでは、自社のデモカーに加えていくつかのチューニングショップデモカーで普段乗りからサーキット走行までのテストを繰り返しおこない、エアロパーツの性能向上だけでなく、あらゆるシチュエーションでの使用を想定し、確かめたうえで販売をスタートする。だから、いざ装着してみるとタイヤに干渉してしまうとか、普段乗りでぶつけやすいなどの問題は起こらないようにしっかりと配慮されている。
もちろん東京オートサロンでお披露目されたGRスープラのエアロパーツも、今後サーキットや一般道などでテストを重ねてから販売開始になるという。
通勤やドライブでクルマを楽しんでもらうためには使い勝手の良さも大切だし、昔と違ってそのまま車検を通せることにこだわるユーザーも多い。
「カッコいいだけでは、今のユーザーは買ってくれません。カッコよくするためには車高は下げたいけど、普段乗りするには不便ですよね。使い勝手を損なわず、でもカッコいいよくしたいという要望をできるだけ実現したいですよね」と矢萩さん。利便性とデザインは相反するものなのでバランスをとるのが難しいが、このふたつの両立もバリスがこだわっているポイントだ。
また、エアロパーツを装着する際に気を付けて欲しいことも教えてくれた。
「多くの方はまず見た目もハデなリヤウイングを欲しがる傾向がありますが、これはフロントリフトが発生して操安性が低下したり、コーナリング性能がスポイルされてしまう可能性がある誤った選択なので注意が必要です。最初からフルエアロを組むなら問題はありませんが、ステップを踏んで追加していく場合は、やはりフロントからが基本です」と、パーツ選択に悩むユーザーに対しては、予算に合わせて適切な提案を心掛けているそうだ。
実際に走行テストを重ねて作り上げてきたからこそ、見た目だけでなく、装着するとどうなるのか? エアロパーツの機能を中心とした考え方でアドバイスができるというわけだ。
エアロパーツにも重要な「安心・安全」
バリス製のエアロは、製品自体としてもトラブルリスクの軽減や万一の際の安全性を追求している。クラッシュポイントを純正品と同位置に設定しているほか、ボンネットヒンジやキャッチ取り付け部の強度もしっかり確保しているのだ。
「これまでアフターマーケットの製品では重視されていないものがあることも事実なのですが、これからは“安心・安全”という要素もより欠かせないものになると思います」
- 右側の指差ししている個所がクラッシュポイント。エアダクトの裏側には、雨が入らないカバーが装着し、普段乗りの不具合を防いでいる
こうした安心や安全の追求は、バリスの歴史のなかで徐々に培われていったものだという。
そもそもバリスの創業は約40年前で、当初は日産R30スカイラインなどシルエットフォーミュラー用パーツや映画用車両の特殊外装などのほか、釣り用のボートや風呂の浴槽の製作などOEM中心のFRP加工を行っていたという。
「バリスブランドとして最初に手がけたオリジナルエアロは、1995年にデビューしたR33スカイラインGTS用でしたが、当時はまだストリートマシン用のエアロパーツに機能は求められておらず、個性をアピールするスタイルありきのパーツでした」と振り返る。
大きな変化が訪れたのは、2000年頃にJGTCマシン用パーツを手掛けた時のこと。
「レース現場からの要望でカーボン素材に取り組み始めたんです。そして、ちょうどそれと時を同じくしてトムススピリットのS耐マシン(セリカGT-FOUR)が、熱害対策としてバリスのエアロを採用してくれたんです。それをきっかけに機能やデザインだけではなく、レースでクラッシュした際にドライバーへの危険をできるだけ低減できるよう、安全も追求していくようになりました」
カーボン素材へのこだわりがバリス流
- 素人がやってもなかなかうまくいかないが、職人の手によると、いとも簡単に作業が進んでいく
レース用パーツとして開発を始めた経緯もあって、バリスが長年こだわり続けているのが『カーボン素材』だ。
たとえば多くの製品で採用している3K綾織カーボンは、20年ほど前に東レと共同開発した素材。張り込み時に美しいカーボンの織目が崩れないように特殊加工が施されていて、それは製品の作りやすさや仕上がりに直結している。
また、高い剛性が求められる部分には、3K並みの重量で4倍の強度を持つ特殊な12Kカーボンを採用。大きな織り目はデザイン的にも魅力となっている。
そのほかにも、近年では大理石のようなビジュアルの『チョップドカーボン』タイプもリリース。これは純正でもまだ採用例が数少ない最新素材だったりする。
- 3Kカーボンで製作したカナードと、エアダクトのところは12Kカーボンが使われている
さらに成型用の樹脂もスポイラーとボンネット、ディフューザーなどでパーツに求められる要素に応じて使い分けているというこだわりようだ。
そうした素材研究の成果といえるが、バリス独自のVSDC(バリス・セミ・ドライ・カーボン)。特殊なエポキシ樹脂をウエット製法に採用することで、ドライ製法の強度とウエット製法の美しさを両立させているのだ。
こうしたバリスのこだわりは業界内でも知られていて、新しい素材ができると売り込みに来る業者さんや、新製品の素材について問い合わせてくる同業者も少なくないんだとか。
さらに、素材のみならず成型にも強いこだわりを持っている。装着時のフィッティング精度がとても高く「無加工でも装着できる」という評判も聞くバリス製品。その秘密は通常のエアロ型枠より10倍ほど長持ちするという強固な『型』作りにあるという。
こうしたこだわりと品質が理解され、最近ではディーラーからの注文も増えてきているそうだ
バリスの今後の展開と変わらないこと
- エアロのデザインも矢萩さんが担当。これがGRスープラをデザインした時の、実際のデザイン画
そして、その人気は日本国内にとどまらず、海外にも『VARIS』のブランドネームは広く知られている。
「現在は国内のほか北米、アジア、オセアニアを中心とした多くの国々へバリス製品をお届けしています。そうした流れを受けて、社内で検討を始めているのがエクステリアだけでなくインテリアまで含めたワンオフのオリジナルカスタマイズです。バリスがこれまでに蓄積してきた豊富な素材知識を生かして、世界に1台のフルオーダーメイドマシンを創り上げるという仕事は、非常にやりがいがありそうだな、と」
「個人的には近年どんどん良くなっているアメ車、とくに新型のコルベットも面白いと感じてますが、やはり熱望するのは200万円前後で買える手頃な国産スポーツマシンですね。自動運転化の流れには逆行しているかもしれませんが、若者たちがマニュアル免許を取ってでも乗りたくなるような“FUN TO DRIVE”は、未来のクルマでも欠かせない要素なのではないでしょうか。そのためにも各自動車メーカーには今後も楽しいクルマの開発を期待しています」
デザインから製造まで、すべてを自社でおこなっているため、ワンオフのカスタマイズにも対応可能なバリス。将来的にはそういった仕事も増やしていきたいという。
ちなみに取材時に矢萩代表が乗っていたのが、最近お気に入りだというアルトワークス。
「このクルマもFUN TO DRIVEですよ。ウチの会社は山奥にあるので、自宅と仕事場の毎日の往復がドライブでもあり、パーツのテストコースでもありますから、通勤が楽しくなるクルマじゃないとダメなんですよね」と矢萩さんは笑う。
サーキットで走るだけではなく、通勤、ドライブなどの普段使いからクルマで楽しむオーナーは少なくない。
そして、そんな愛車のルックスや機能を自分好みにカスタマイズする上で大きな役割を担ってくれるエアロパーツは、愛車文化に欠かせない存在なのだ。そんなエアロパーツを手掛けるバリス矢萩さんもまた、運転する楽しさを追い求めるクルマ好きのひとりなのであった。
(写真:金子信敏 テキスト:川崎英俊・GAZOO編集部)
[ガズー編集部]
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