カラーデザイナーの仕事とは? 新型プリウスの女性デザイナー

クルマの内外装色を決定するカラーデザイナーとして新型プリウスを担当した居垣富実子さん。クルマのカラーリングは、デザイナーの考えがそのまま反映されると思いがちですが、そんな単純な話ではないそうです。カラーデザイナーの仕事は一体どのようなものなのでしょうか?

プロフィール
居垣富実子(いがきふみこ)

2000年にトヨタ自動車に入社。入社後からカラーデザイナーとしてセルシオやRAV4、xB(SCION)/RUMION、ラクティス、クラウンなどを手がける。新型プリウス開発時はトヨタ自動車デザイン開発部カラーデザイン室トヨタカラーGに在籍。現在はレクサスカラーデザイングループで勤務中。

―カラーデザイナーの仕事について教えて下さい

クルマの外装のカラー、内装のカラーとシートマテリアル(素材)を開発するのが主な業務です。カラーデザインは私たちだけで決定するのではなく、車両コンセプトや製品企画の意見、ディーラーやお客様からの声も踏まえて決めていきます。開発車種のカラーデザインは基本一人で担当します。

―この仕事を選んだきっかけや理由を教えて下さい

父が自動車の塗装プラント設計・施工をしていたことがきっかけで、この業界に興味を持ちました。子供の頃から絵を描くことが好きで、造形高校とデザインの専門学校に進学し、学んだスキルも生かしながらクルマに関わる仕事がしたいと次第に強く思うようになり、トヨタ自動車に入社しました。

―カラーデザイナーになるにはどんな能力が求められるのでしょうか?

特別な資格は必要ないですが、デザインの基礎能力とカラーコーディネイト能力が求められます。同僚は美術や芸術系の学校出身者がほとんどで、女性が大半を占めています。カラーデザインは細かい作業が多いので、女性の方が得意なのかもしれません。カラーデザイナーはデザイン関係の部署の中でも特に多岐に渡る部署との連携やプレゼンがあるので、コミュニケーション能力も求められますね。

大勢の関係者の前でプレゼンテーションを行う居垣さん。ちなみにこれらの資料も居垣さんが準備する​
こちらはシートマテリアル検討プレゼンテーションの様子
色のイメージなどのすり合わせに用いるカラーサンプルの一部

―新型プリウスのカラーデザインで難しかったことや課題はありましたか?

注目車種なので、今まで以上のプレッシャーを感じました。私たちカラーデザイナーが「この色にしたい」という思いもあるのですが、それだけだとデザイナーのエゴになってしまいます。他の部署や市場の声なども踏まえ、お客様は何を求めているのか。そのバランスが一番難しいところです。
また、私は先代のプリウスのカラーデザインも担当しましたので、「先代を引きずった保守的なデザインになっていないか」と常に意識していましたね。

―新型プリウスのカラーラインアップについて教えて下さい

新型では「スーパーホワイトⅡ」「ホワイトパールクリスタルシャイン」「アティチュードブラックマイカ」「ダークブルーマイカメタリック」「シルバーメタリック」「グレーメタリック」「エモーショナルレッド」「スティールブロンドメタリック」「サーモテクトライムグリーン」の全9色を揃えています。前者の6色は既存色ですが、後者の3色はプリウスで開発をした新色です。
参照:新型プリウスのカラー一覧

―ニューカラーの特徴はどういうところですか?

新色3色は「アイコニックヒューマンテック」という「遊び心を持った、人とテクノロジーの融合」がコンセプトです。「エモーショナルレッド」は、これまでのトヨタにはない「鮮やかで深みのある赤」がポイントです。名称も狙いがはっきりと分かりやすいものにしました。
「スティールブロンドメタリック」はスティールの質感に、それだけでは冷たい印象になるので、ピンクゴールドとベージュの間の色を狙って加え、温かみを持たせました。
「サーモテクトライムグリーン」には、自動車として初めて「遮熱」の機能を持たせています。遮熱機能は他のカラーでも可能ですが、新技術のアピールも含めてビビッドなイエローを設定しました。

新型プリウス 左からボディカラーが、エモーショナルレッド、スティールブロンドメタリック、サーモテクトライムグリーン
東京で行われたプリウスの記者発表会では、豊島浩二チーフエンジニア(右)児玉修作プロジェクトチーフデザイナー(左)と共に参加

―カラーリングの名称は居垣さんご自身が決めているのですか?

グループメンバーで話し合って決めていますね。デザイナーだけだと、個人の思い入れなど主観的な要素が入ってしまいますので、様々な担当部署と話し合い客観的に決めていきます。

屋外で新カラーリングの検証を行う。写真は新型プリウスの「サーモテクトライムグリーン」を先代のプリウスで検証しているところ

―このお仕事でどんな時に楽しさを感じますか?

開発中はいろいろと右往左往することがあり、辛いこともあります。しかし、市場で販売された色を、私のことを知らないお客様から「この色いいね」とお褒めの言葉をいただけると本当にうれしいですね。さらに、そのカラーに乗っていただけているのを見かけると握手したいほど感謝の気持ちがこみ上げます(笑)。

―今後の目標を教えて下さい

これまではトヨタブランドを中心に個々の車両開発をしてきましたが、今後はその知見や経験を活かし、レクサスブランドの車両開発に加えて、ブランド戦略を視野に入れ、もっと広い視点での開発に取り組んで行きたいと思います。

―お休みの日は何をしていますか?

着物が好きなので、京都でよく着物を着て散策をしますね。特にアンティークな着物が好みで、今にはない発色のいい鮮やかな色や、デザインに惹かれます。またドライブも好きで、自然豊かなスポットを探して、季節の花の写真を撮ったりします。

京都では着付けと共に和菓子や抹茶を堪能(左)。鮮やかな抹茶のグリーンも新型プリウスのアイデアにつながった!?

―愛車は何に乗っているのですか?

実は先代のプリウスのアクアブルーに乗っています。私が開発したカラーで、自分の思いがほぼすべて反映できた色です。これからも乗っていきたいですが、もちろん新型プリウスも気になっています。カラーは「スティールブロンドメタリック」ですね(笑)。

女性ならではの細やかな視点でカラーデザインを行う居垣さん。新型プリウスのカラーリングにはそんな居垣さんの人柄が表れているように思います。レクサスの新型車に、今後どのようなカラーが設定されてくるのか、今から楽しみです!

[ガズー編集部]

MORIZO on the Road