スーパー耐久の繁栄に人生をかける!! 女性プロモーターの情熱

近年、注目を浴びているのが、参加型レースの頂点を極める「スーパー耐久シリーズ」。それを運営する「スーパー耐久機構」の事務局長を務める桑山晴美さんは、レースのプロモーターという立場にありながら、実務から営業、企画運営まで何でもこなしています。もしかしたらレースにかける姿勢と情熱は業界一かもしれません。

プロフィール
桑山晴美(くわやまはるみ)
千葉県市川市出身。スーパー耐久機構(Super Taikyu Organization:S.T.O.)の事務局長を務める。2000年に独立し、広告やWEB制作、イベント運営を行う会社、ケイツープラネット株式会社を設立。それまでレースには関わりがなかったが、2013年、S.T.O.前事務局長だった夫の他界により「スーパー耐久シリーズ」を引き継ぎ、現在に至る。

――現在の仕事内容について教えてください

スーパー耐久の運営に関わるすべてです。会社でいえば社長でしょうか。しかしながら少数精鋭のメンバーで運営しているため、細かな作業、例えば書類関係の制作なども、自分自身で手を動かし理解に務めます。また、さまざまな調整・交渉なども私の仕事です。他にもプロモーションの立案や、それを実行する際のマニュアル、台本などの作成も行うなど、「やらねばならないこと」は常に無限にあります。まさに何でも屋さんですね(笑)。

決勝中は基本的に管制室に常駐。しかし審査委員室や事務局、ピット等へ出向き多忙。「耐久なので、レースは長時間でもあっという間です」と桑山さん

――この仕事を選んだきっかけを教えてください

きっかけは前事務局長である夫の他界です。それまで私はレースとは関係のない仕事に長く携わってきました。夫の無念さは強く感じていましたが、他界する1ヶ月ほど前に、自分でもわからない見えない力に押されて、思い切ってレース事業を引き継ぐことを決断しました。

予選日や決勝日には、何度も競技に関する審査委員会が行われる。「違反者へのジャッジや、現状の報告、問題点なども話し合い、レースのスムーズな運営につなげます」と桑山さん

――スーパー耐久とはどんなレースですか?

参加型のレースイベントで、今年25周年を迎えました。1チーム3、4人のプロまたはアマチュアドライバーがタッグを組んで1台の車両を乗り継ぎ、最短3時間〜最長9時間のレースに挑みます。トップクラスのFIA GT3車両(ST-Xクラス)以外は、市販車をベースに必要最低限の改造を施した車両を使用しています。

※FIA GT3……FIA(国際自動車連盟)の規定に合わせて開発されたレース車両

スーパー耐久は、ST-XクラスからST-5クラス(1500cc以下の車両)まで、全6クラスの車両が一気に走るのが大きな魅力(スポーツランドSUGO、岡山国際サーキット、オートポリスは2レース制)。アマチュアでも、プロと一緒に同じチームで走れることも人気のひとつだ

またドライバーのチカラやマシンの速さだけではなく、ゴールまで走りきれるマシンを作り上げるメカニックの技術なども戦績に大きく関わっています。耐久であるが故に、最後まで展開が読めないドラマがS耐にはあります。

――多岐にわたる業務の中で大変な面、もしくは大切にしていることは何ですか?

皆様と自分自身が口で述べたことを、いかに書面にまとめて伝えていくかという実務力は、特にこの世界では大事だと思います。専門知識が必要なところは人の手を借りますが、可能な限り自分でさまざまな作業を進めることで、スーパー耐久の全体像を常に把握するようにしています。時間に追われる毎日ですが、この工程はこれからも大事にしていきたいと思っています。

大会役員と行うコース確認。予選日、決勝日、共に朝8時前後の走行前に行われる

また、人とのコミュニケーションも非常に重要です。レースは私たちプロモーター側だけではなく、関係するすべての方々との調和で成り立っています。皆様の理解と協力を得られなければ、スーパー耐久を成功に導くことはできません。

レース中は桑山さんを訪ねる関係者も多い。「賛辞などをいただけるのはとてもうれしい瞬間です」と桑山さん
チームの皆さんは、仲間であり同志。サーキットは多くの方々と交流を深める場。「皆様のさまざまな思いをまとめ、スーパー耐久に関わる全ての人と一丸となって発展させていきたいです」と桑山さん

――現在の課題はありますか? また、それをどのように解決していますか?

「スーパー耐久に出場したい」という希望を、今シーズンが始まった今もいただいており、なんとかその方々を、この先受け入れていきたいというのも課題のひとつです。日本自動車連盟(JAF)の規定では、一度に45台までしか出走できなかったのですが、昨年は50台に、そして今年は65台の出走が認められました。これは私たちにとってゴールではなく、いよいよスーパー耐久シリーズの本気度が試されるスタート地点です。

写真は、4月3日に開催された2016年初戦、もてぎラウンドのゴール直後。「62台が決勝に出場し、5時間後55台が完走して戻ってきた。これが耐久のチームスポーツとしての“感動”なんです。順位だけでなく、戻ってきたすべてのチームが勝利者です」と桑山さん

――仕事を通して感じるやりがいや魅力を教えてください

引き継いだ当初はわからないことだらけ。「辛さのトンネル」を、なかなか抜けることが出来ませんでしたが、「絶対逃げずに前に進む」と決めていました。そうすると、だんだんと辛さの種類が変わってくる。それをひとつひとつ乗り越えての「今」があります。仕事の醍醐味とは、そういうところにもあるのでしょうか。

また、広告やイベントの仕事だけでは決して出会えなかったたくさんの方々と、さまざまなお話をしながら交流し、絆を深めていけるところは大きな魅力です。

大会前の人気投票で選ばれた、トップ50人のレースクイーンが、決勝レースのカウントダウンを行う「ST GIRL 50」。これも桑山さん自身の企画だ。「レースクイーンもS耐の大事な一員。応援したいですね」と桑山さん

――この仕事についてご自身にどのような変化がありましたか?

スーパー耐久を引き継ぐ前は、目の前の仕事をこなし、結果を出すことで次の仕事につなげるというスタイルで長年仕事をしてきましたが、スーパー耐久はそれだけでは成り立ちません。時代を見据え「何が今のスーパー耐久に合致することなのか」を考え、時には感覚的かつ大胆に戦略を練ることが必要だと思います。

また、レースの世界には、まっすぐな方が多い。だからこその情熱のぶつかりあいがここにはあります。本音と建前を使い分けることが多く、嫌なことからは逃げたくなることも少なくない現代のなか、私は本音で向き合っていくレースの感覚がとても好きです。自分がこれまで持っていた価値観もずいぶん変わりました。

「この仕事を始めて最初の2年間は本当に大変でした。何も知らないところからの出発でしたが、皆様からの叱咤激励をいただきながらここまでやってこられました。とても感謝しています」と苦労を振り返る桑山さん

――今後の目標を教えてください

エントリー台数を増やした今年は、いかに何事もなく1年を終えられるかが目標です。また、近い将来は、プロモーターとして成功するだけでなく、スーパー耐久に関わるすべての人々が、このレースが仕事として成立し、ご商売につながること。そして、皆さんにとってこのレースに関わることが楽しみであることはもちろん、誇りに思ってもらえるようにしたい。それが最大の目標です。 今後は、国内だけにとどまらず、アジアを中心とした世界の人々とも、スーパー耐久の文化を共に育んでいければと思っています。

1人が何役もこなす少数精鋭のS.T.O.のメンバー。「気を許せる仲間でもあります」と桑山さん

――お休みの日は何をしていますか?

なるべく頭を空っぽにして過ごし、仕事に戻ったらすぐに集中できるようにしています。ただ、じっとしていられない性分なので、国内外問わず思い立ったら出かけていますね(笑)。最近は京都や九州、沖縄に行く機会が多いです。

今年のお正月は京都の大切な友人たちと過ごした。「もっぱら飲む・食べる・朝までしゃべり倒すの年末・年始でした(笑)」

――プライベートでクルマは運転しますか?

ほぼ毎日運転しています。気の合う仲間と大勢で出かけるのが好きなので、いつかマイクロバスくらいは運転できる免許もとりたいと本気で思っています。

――どういうクルマが好きですか? また、理想のドライブデートを教えてください

最新のクルマが好みです。特に羊の皮をかぶった狼みたいに「見た目は普通でも走るとすごい!」というクルマが好き。理想のドライブデートは、いきなり「箱根まで行ってみようか!」みたいな無計画なもの。目的地においしいものがあることも絶対条件ですね(笑)。

まさにレースの繁栄に人生をかける桑山さん。その情熱が関係する方々全員に伝わっているからこそ、スーパー耐久がここまで盛り上がってきているのでしょうね。次の目標は日本とアジアで、もっともっと耐久レースを楽しむ人を増やしていくこと。桑山さん、そしてスーパー耐久がレース業界を盛り上げてくれることは間違いありません!

[ガズー編集部]

MORIZO on the Road