ありそうでなかった女性限定のレース「競争女子選手権」開幕!
サッカー、レスリング、卓球、柔道……。これらのスポーツに共通するキーワードは何でしょう? 正解は女性だけの競技があること。女性選手たちのリオオリンピックでの活躍も記憶に新しいところです。
では、モータースポーツはどうでしょう? 筆者の記憶では女性限定のレースはなかったはず。レディースクラス等を設定しているレースはあったと思いますが、ほとんどの場合は男性と混走。当たり前過ぎて今まで気にすることもありませんでしたが、よくよく考えてみれば女性が男性にまじってサッカーに出場するようなもの。レースに参加している女性にとって公平な状況とは言えませんでした。
しかし、そんな状況を一変させる新たなレースが誕生しました。それが「競争女子選手権」(通称KYOJO-CUP)。5月14日に富士スピードウェイで開幕した正真正銘の女性限定のレースです。さっそく当日の模様をレポートしたいと思います。
純レーシングカーを使用するスプリントレース
KYOJO-CUPは7周のスプリントレース。スタート方式はグリッドスタートで、15分間の予選を行いグリッドが決定します。マシンはウエストレーシングカーズ製のVITA(ヴィータ)-01。全選手が同じマシンを使用することでイコールコンディションを保っています。
- エンジンとミッションはヴィッツRSの1.5リッター用。タイヤはスリックではなく市販ラジアルを使用
さまざまな経歴を持つ女性ドライバーがエントリー
第1戦に参戦した女性ドライバーは13名。純粋なドライバーはもちろん、ジャーナリストやモデル、カーショップの経営者など、バラエティ豊かな面々が集まりました。一部の選手をご紹介します。
- ♯36小山美姫選手
- 小さい頃からカートに乗り、今季はFIA-F4選手権に参戦。スーパーカーレースやN-ONEオーナーズカップにも出場しました
- ♯24今橋彩佳選手
- GAZOO Racing 86/BRZレースのクラブマンシリーズに参戦。FIA-F4選手権に参戦していた他、ドリフトの経験も持っています
- ♯6池島実紅選手
- FIA-F4選手権に参戦。今シーズンはGAZOO Racing86/BRZレースにも出場予定です
- ♯46藤島知子選手
- 自動車メディアで活躍するモータージャーナリスト。純レーシングカーでのレースは久しぶり
女性ドライバーたちが異口同音に語っていたのが「こんなレースを待っていました」という歓迎の言葉。通常のレースでは「男性と混走だから負けても仕方ない」と甘えてしまうこともあるそうで、言い訳ができない女性だけのレースに大きな刺激を受けていたようです。
異質の熱気を感じたパドック
KYOJO-CUPは全日本F3選手権やインタープロトシリーズと同日開催。家族連れが楽しめるコンテンツがパドックやピットビルディング内に多数用意され、賑わいを見せていましたが、とりわけ女性ドライバーが行く先々では、これまでのレースとひと味違う盛り上がりを見せていました。
- スタートセレモニーにはKYOJO-CUPの大会会長を務める三原じゅん子参議院議員が登場(中央)。女性ドライバーとKYOJO-CUPのプロデューサーである関谷正徳さん(左隣)、宮崎政久衆議院議員(右隣)とフォトセッションを行いました。プロ、アマ問わずすごいカメラマンの数で、撮影するのもひと苦労
- 女性ドライバーたちによるトークショーの様子。ステージカーの前は沢山の人だかりで、女性ドライバーに対する注目度の高さを物語っています
- 女性ドライバーにサインを求めるファンの人たちの姿も目立ちました。憧れの存在として認知されているのです
3台のガチンコ対決の末、小山美姫選手が初代ウィナーに!
予選では小山美姫選手が2分04秒495をマーク。今橋彩佳選手に約コンマ5秒差をつけてポールポジションを獲りました。3位はAE86のレース活動で知られる小泉亜衣選手。4位は岩手から7時間かけて遠征した鈴木幸子選手。小山選手は「ポールトゥウィンを狙います」と気合十分。
- 決勝のスタート直前、空が暗くなるも決勝はドライで行われました。写真は予選1位の小山美姫選手
決勝ではスタートで今橋選手が小山選手の前に出てトップで1コーナーを通過。小山選手は2位で1周目を終えます。小山選手は2周目に小泉選手にも抜かれますが、3周目に小泉選手を抜き返し、中盤以降は今橋選手と小山選手の一騎打ちに。女性ドライバーの本気バトルに観客席からも熱い視線が注がれます。レースはファイナルラップに入り、1コーナーで小山選手が今橋選手を抜きトップへ。小山選手はそのまま今橋選手をおさえチェッカー。KYOJO-CUPの初代ウィナーに輝きました。
- 決勝スタート直後の写真(コカ・コーラコーナー手前)。中央が今橋選手で、右隣が小泉選手。小山選手(左から2台目)は2台を抜き返しての優勝となりました
- 表彰式では多くのファンから祝福を受けニッコリ。優勝賞金は30万円で、ファステストラップ賞などの副賞も充実
競争女子選手権プロデューサー・関谷正徳さんにお話しを伺いました
先述の通り、このレースのプロデューサーを務めているのが関谷正徳さん。関谷さんはル・マン24時間レースを制し、国内のトップカテゴリーで活躍した名ドライバーです。その関谷さんにどんな思いでこのレースを立ち上げたのか、お話しを伺いました。
「KYOJO-CUPは2013年に立ち上げたインタープロトシリーズの女性版です。VITA-01のオーナー(ジェントルマンドライバー)とマシンをシェアしてレースに出ることによって、通常のレースより少ない負担で女性ドライバーがレースに出ることが可能です。これだけやれるんだというのを世の中にアピールしてもらい、私もやりたいという女性ドライバーがどんどん入ってきてもらいたいですね」と関谷さん。
- 「スポーツマン精神にのっとったクリーンなレースをするようにと彼女たちに話しましたが、その通りになりましたね。接触があるとオーナーさんに迷惑をかけてしまいますから」と関谷さん
関谷さんが目指しているのは、純粋な運転技術を競うスポーツとしてのモータースポーツの認知度向上。そのための活性化策のひとつが、オーナーとプロドライバーで1台のマシンをシェアしながらレースをするという仕組み。オーナーはコストダウンや集客などのメリットはもちろん、成長する女性ドライバーを応援する楽しみも感じながらレースに参加することが可能。KYOJO-CUPの前日にはオーナーたちが出場する「FCR-VITA」レースも行われました。
- 開幕戦ではクラウドファウンディングを用いてオープニングサポーターを募りました。写真はサポーターの控室で行われた女性ドライバーたちのあいさつの様子。いろいろな人たちの協力があり、レースが成り立っているのです
「KYOJO-CUPという種はまかれました。あとはこの種にどう水と肥料を与え、育てていくかですね」と関谷さん。競争女子選手権の第2戦は9月17日(日)、第3戦は10月29日(日)、富士スピードウェイで行われます。サーキットに足を運び、競争女子たちの熱い戦いに注目してみませんか?
フリーライター:ゴリ奥野
86に乗りながら世界中の愛車やモータースポーツを取材するフリーライター
[ガズ―編集部]
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