33年間・13万キロをともにした愛車。イタリア語で「牝鹿」という名のスズキ・セルボ CX-G(SS20型)

軽自動車というと、どのようなイメージを思い浮かべるだろうか?

実用的・乗用車と比較して燃費が良い・維持費が安い…等々。連想するものは人それぞれだろう。限られた規格や諸条件の中でベストを尽くし、日本の路上や環境に合うように造られた軽自動車は、間違いなく世界に誇れるクルマだと思う。

全国軽自動車協会連合会の統計によると、2017年にもっとも売れた軽自動車はホンダ・N-BOX(218,478台)だという。この台数は、2位のダイハツ・ムーヴ(141,373台)、3位のダイハツ・タント(141,312台)を圧倒している。いずれにしても、最近の軽自動車のトレンドは「トールワゴン型」であることは間違いなさそうだ。

これら3モデルの年間販売台数を合算すると、ざっと50万台を超える計算になる。しかし、これほどの数の仲間たちが生産されている状況にありながら、10年・20年経ったとき、生き残っている個体はどれくらいなのだろうか?今回、紹介するオーナーが所有するクルマも、かつて生産された多くの仲間たちの数少ない「生き残り」だ。

「このクルマは、1979年式スズキ・セルボ CX-Gです。現在、私は67歳になります。このクルマは、手に入れてから33年間・13万キロをともにしてきた大切な愛車なんです」。

スズキ・セルボ CX-G(以下、セルボ)は、スズキ・フロンテクーペに代わり、1977年に発売されたクルマだ。それまで、軽自動車の排気量は360ccと決められていたが、1976年に550ccに改正された。その新規格に対応する形で発売されたのが、このセルボだ。ちなみに、車名のセルボは、イタリア語で「牝鹿」を意味する。

セルボのボディサイズは全長×全幅×全高:3190x1395x1210mm。排気量539cc、「T5A型」と呼ばれる2ストローク3気筒エンジンの最大出力は28馬力を誇る。駆動方式はスズキ フロンテクーペのレイアウトを引き継ぎ、RR(リアエンジン・リアドライブ)が採用された。なお、オーナーが所有する「CX-G」というグレードは、当時の最上級モデルにあたる。この個体のオーナー、実はスズキ・フロンテクーペ GXCFも所有しているのだ!

愛車は兄から引き継いだ実質ワンオーナー車、スズキ・フロンテクーペ GXCF(LC10W型)
http://gazoo.com/ilovecars/vehiclenavi/180130.html

スズキ・フロンテクーペを所有していながら、それでも敢えてこのセルボを手に入れた理由を尋ねてみた。

「若いときに兄から譲り受けたフロンテクーペですが、実はものすごく乗りづらいんです。3000回転前後でクラッチを繋がないとスムーズに走りませんし、2000回転以下はほとんど使えません。まるでレーシングカーみたいですね。フロンテクーペが好きだからという理由で手に入れると、苦労するかもしれませんよ。何しろ、乗る前に胃が痛くなるクルマですから(苦笑)。そんなこともあり、セルボが気になっていたんですね。あるとき、偶然、仕事の関係で立ち寄ったクルマ屋さんに、ワンオーナー車のこの個体が売られていたんです。この時点ですでに絶版車だったんですが、自分が求めている仕様そのもの(シルバーのボディカラー・最上級モデル・クーラー・フロンテクーペにも使えるアルミホイール付き)だったこともあり、思い切って増車することにしました。あれから33年も経ったんですね…。早いものです」。

ふとした縁で手に入れたセルボだったが、フロンテクーペとの違いはどのくらいあったのだろうか?

「セルボは本当に乗りやすくて、今でも普段の足として使っているくらいです。年間5000キロくらい走りますね。かつて私の兄も、通勤の足として別のセルボ(SS20型)を所有していた時期がありました。しかし、当時の技術では防腐処理がうまくできなかったんでしょうね。5年くらいでボディに穴が開いてしまい、あえなく廃車となってしまいました。この個体は、これまでずっと大切に乗ってきたつもりです。数々のトラブルに見舞われても、不思議と幸運が重なって大事には至らなかったんです。だからこそ、ここまで生き残ってこられたように思えます」。

手に入れてから現在に至るまで、どのようなトラブルに見舞われたのだろうか?

「手に入れてから2年ほど経ったときに、ヒーターホースがパンクしました。その1年後には、ミッションが壊れてオーバーホールしました。数年前にも、仲間たちと出掛けたときに、坂道の途中でアクセルワイヤーが切れてしまったんです。惰性で動いて止まったところにスズキのディーラーがあり、何とか運び込むことができたんです。このようなトラブルに度々見舞われても、止まった場所がスズキのディーラーの前だったり、後続車がいなくて追突されずに済んだり…と、確かに壊れたことは何度もありましたが、結果として大事には至らなかったんです。そういう意味では、私もこの個体も幸運に恵まれているような気がしますね」。

フロンテクーペも、オーナー自らモディファイしていたようだが、セルボも同様なのだろうか?

「そうなんです。まず外装ですが、エンブレムはフロントグリルを除いて自作しています。フロントグリルに埋め込まれていた角形のフォグランプを取り外した部分を埋めました。さらに、ヘッドライトにカバーを取り付けて精悍さを強調してあります。フロントおよびリアバンパーのモール(黒い部分)も、ゴムを買ってきて加工したものを自作して貼り付けました。セルボでは定番トラブルであるセルモーターの作動不良は、加工してリレーを使い、バッテリーから直接電気を流すことで解決しました。次に内装ですが、ダッシュボードのマット・シートの貼り替え・ドアの内張り(貼り替えおよび共振対策)・フロアマットの滑り止め防止フック・メーターのリングを自作しています。後付けのパワーウィンドウも自分で取り付けました。フロンテクーペ同様、セルボもできる限り自分で修理したり、自作して手を加えています。さすがにエンジンのポート研磨だけはプロにお願いしましたけれどね」。

オーナー自らの創意工夫で素晴らしいコンディションを保っているセルボだが、もっとも気に入っているのはどのあたりなのだろうか?

「このスタイルとボディサイズですね。最近はトラブルもなく、コンディションも安定しているので、安心して乗って行けます。フロンテクーペと違い、クーラーも装備されていますから、夏場の移動も苦になりません」。

最後に、このセルボと今後どのように接していきたいか伺ってみた。

「この型のセルボは、実働状態にある個体が少ないみたいなんです。それだけに、常にきれいな状態を保ち、これからも大切に乗り続けたいですね」。

軽自動車は、趣味性を重視した一部のクルマを除き、その大半は通勤などの「日常の足」として使われることが多いのだろう。役目が終われば自然と淘汰され、姿を消していく運命にあるのかもしれない。そして、気がついたときには滅多に見掛けないクルマとなっている。このセルボも、多くの仲間たちが姿を消していったに違いない。フロンテクーペと同じオーナーに溺愛され、なおかつトラブルに見舞われても大事に至ることなく現在のコンディションを保っているこのセルボは、本当に幸運の下に生まれた個体なのだろう。

(編集: vehiclenaviMAGAZINE編集部 / 撮影: 古宮こうき)

[ガズー編集部]

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