そこは大人の秘密基地。レンタルガレージという新たな概念
日本ではとりわけ珍しい施設、サービスを展開している「クロスポイント25」を訪れた。クロスポイント25では、6台のクルマを同時に整備できるスペースと設備を持ち、その空間を貸し出すというサービスを提供している。加えてポルシェを得意とするショップとしての機能も持ち合わせていて、2階にはカフェ&バーとパーツ販売のフロアも併設されているというから驚きだ。
場所は東京外環道草加ICから車で約10分のところで(住所:埼玉県川口市安行796-1)、住宅地が多くある区域のやや奥まった場所に、巨大なガレージが現れる。
クロスポイント25を創る以前、代表の村田氏は別の倉庫でクルマいじりを楽しんでいた。そのうち仲間たちが自然とその場所へ集まるようになったことが、クロスポイント25を立ち上げるきっかけとなったそうだ。お客さんが作業をするときは、スタッフがサポートしてくれるだけでなく、工具レンタルのサービスもある。そういった充実した体制が、ビギナーはもちろん、クルマいじりが好きなユーザーにとって心強い味方となってくれるだろう。
ガレージ内部は冷暖房が完備されているため、快適な温度に保たれている。さらにシャワールームも備えられており、汗をかいたりしたときには重宝しそうだ。6台を同時に整備できるスペースの他に、リフトが2基備えられていて、ハゼット社の工具やタイヤチェンジャー、エアツールなども完備されているなど、点検整備に必要なものがほとんど揃っているという充実ぶりに驚かされる。
タイヤの交換などを行うために来店していた手前のポルシェは70年式の911 Tで、75年式の911に搭載されていた2.7Lエンジンを搭載している。オーナー氏はサーキットを本格的に走りこんでいるそうで、ディティールからはその本気度が感じられる。リアクォーターのウィンドウにはダクトが設けてあり、冷却のためにここからトランスミッションへ空気が送られるようになっている。ちなみに、奥のイエローの911は足回りの調整で入庫しているそうだ。
クロスポイント25には、入れ代わり立ち代わり様々なクルマが訪れる。ここは2015年5月にオープンしたショップであるが、既に平日でも多くのお客さんが訪れ、土日にはガレージがパンパンになってしまうという。埼玉県にあるクロスポイント25を目指し、遠くは岡山県や広島県といったエリアから自走で訪れた例もあるそうで、知名度は既に全国区レベルとなっている。
2階にはスロットカーで遊べるスペースと食事とお酒を楽しめるカフェ&バーがある。料理のラインナップは多彩で、食事目的で来店する人もいるそうだ。取材した当日も、スタッフの女性におまかせ料理をふるまっていただいた。大変美味で、レンタルガレージに併設されているサービスの一環として提供しているものとは思えないほどだった。お酒も楽しめるのだが、ショップの性格上、クルマで来店するお客さんが多いため、あまり飲むことができないのでは、という疑問が生まれた。代表の村田氏に尋ねると、お客さんは泊まりがけでクロスポイント25に訪れ、お酒を楽しむのだそうだ。そのため、お客さんが「my寝袋」を持ち込み、お酒を飲んだ後は、各々が好きな場所で就寝…という塩梅なのだとか。
多くのポルシェが訪れるクロスポイント25だが、実際には様々なメーカーのクルマがやってくる。取材当日は納車したばかりだという、1983年式シトロエン・GSAパラスが訪れていた。1970年から1986年まで生産されていたモデルで、街中でもあまり見掛けない、かなりマニアックなクルマだ。ポルシェ以外のメーカーも大歓迎で、現在はミニのお客さんが増えているそうだ。
取材中、ちょうどコーナーウェイトゲージで車重を測っている場面に立ち会うことができた。コーナーウェイトゲージとは各タイヤにかかる重量を測ることができる装置で、もちろんクルマ全体の重さも測ることができる。和気あいあいとした雰囲気の中、その場に居合わせた人やスタッフがどれくらいの車重なのかを当てようとしていた。気になる結果は、予想していた1トン強を大幅に下回る960㎏という結果が出ると、ガレージ内に歓声が沸き上がった。
屋根のところに無造作に部品が置かれたこちらの911は、これからレストアを行うそうだ。完成したらどんな姿に生まれ変わるのだろうか。
ガレージの一角では、ポルシェのエンジンやトランスミッションのオーバーホールも行われていた。このような重整備から、オイル交換や車検といった一般整備も行っているので、気軽に問い合わせてみてはいかがだろうか。
クロスポイント25オリジナルのツナギはオシャレなデザイン。スタッフだけでなく、常連客もお揃いのツナギを購入して作業をしていたりする。
こちらの大小様々なステッカーが貼られたポルシェは、クロスポイント25の代表である村田氏が所有する911だ。80年製の911 SCをベースに各所に村田氏こだわりのチューニングが施されている。
所有してから5年ほどで、真っ白なボディからここまで仕上げていったそうだ。エクステリアは、現在クルマ好きの間では大きな注目を集めているアメリカのポルシェコレクター/カスタムビルダーの「マグナス・ウォーカー」氏が所有する911のレプリカ仕様となっている。レプリカと言っても、マグナス・ウォーカー氏が来日した際に、自身が作成したステッカーを自らの手で貼ったものが含まれるという点では、ある種本物と言えるだろう。細かいところだが、サイドミラーは964型の911から流用しているのもポイントだ。奥に見えるシルバーのポルシェは70年型の911T。4年の歳月を費やしてフルレストアを行ったそうで、新車のような輝きを細部から放っていた。
村田氏の911には3.0 Lの水平対向6気筒エンジンが搭載されている。しかし、ご覧の通りオリジナルの3.0 Lエンジンではない。燃料噴射装置がPMO製のキャブレターに換装され、排気系はステンレス製のオリジナルを装着していた。軽量なボディの恩恵により、現代の911では味わうことのできない軽快な動きを堪能することができるし、空冷エンジンが発するサウンドも、水冷エンジンを搭載する最近の911とはまったく趣の異なる、実に刺激的なものだ。それでいて、ブレーキは現代の水準からしても遜色のないストッピングパワーを持っている。キャブレターのセッティングが決まっているエンジンは2000回転〜3000回転といった常用域でも十分なパワーを発生させ、扱いづらさは微塵も感じさせない。
前述したように昨年の5月よりオープンし、まだ1年も経っていない新しいショップなのだが、このようなレンタルガレージという施設は日本にはほとんど見られないため、これからどのような成長をしていくのだろうという期待感を抱いた。クルマ好きが集まる場所となると、どうしても公共の場所を選択せざるを得ないケースが多々ある。それはやむを得ないことなのかもしれないが、一般の方への配慮を考慮すると、集まったクルマ好きにも節度ある行動が求められる。そうした問題を解決する1つのアイデアがレンタルガレージなのかもしれない。とりわけ都心部に在住している人にとっては、このようなスペースを自身で持つのはとてもハードルが高い。それだけに、自分の手でクルマを触りたい人にとっては、とてもありがたい施設なのだろう。好きなことを通じてこの空間を共有し、それをきっかけに人とのつながりも生まれていくというのも、とても素敵なことだと感じられる。このクロスポイント25は、大人の秘密基地といった言葉がふさわしいと感じた。
世の中は様々なものをシェアする時代へ移り変わっている。カーシェアリングもまさにその典型といえるだろう。しかし、そのシェアする概念がさらに加速することで、このような空間が増え、人々が集い、より気軽に気の置けない仲間とのクルマいじりを楽しめるような時代が訪れるかもしれない。
店名:CROSSPOINT(クロスポイント)25
住所:〒334-0057 埼玉県川口市安行原796-1
TEL:048-299-8712 FAX:048-299-8713
営業時間:平日:11:00〜 / 土日祭日:10:00〜 定休日:月・火曜日(祝日の場合は営業)
(編集: vehiclenaviMAGAZINE編集部 / 撮影: 古宮こうき)
[ガズー編集部]
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