大学生のとき、買うと宣言したクルマを手に入れて25年。マツダ・サバンナRX-7ターボ GT-X(SA22C型)

「あのクルマ、欲しい!」

そう思った瞬間から、まるで雷に撃たれたかのような衝撃を受けて、寝食を忘れて夢中になるほど雑誌を読みあさり、今ならインターネットで関連する情報を検索するのだろうか?そんなクルマの多くが憧れの存在であり、ひょっとしたら、かなりの確率で手が届かないような「高嶺の花」かもしれない。

そのため、多くの人は遠くから眺めるだけだったり、他に優先させなければならないことを考えているうちに熱が冷めていき、良い意味で日常生活との折り合いを付けているように思う。しかし、初志貫徹して、見事に「あのクルマ、欲しい!」を実現してしまう人も確実に存在する。今回、ご紹介するオーナーもそんな1人だ。

「このクルマは、1983年式マツダ・サバンナRX-7 ターボ GT-X(SA22C/以下、RX-7)です。現在、私は57歳になりますが、このクルマを所有して今年で25年、オドメーターの距離は16.6万キロとなりました。私が所有してからは11万キロをともにしています。RX-7の購入を決めてから9ヶ月ほど探して、ようやくこの個体と巡り会いました」。

オーナーが所有する個体は、後に「FC3S型」、「FD3S型」と続くことになるRX-7では初代モデルにあたる「SA22C型」だ。このSA22C型がデビューした1978年は、第二次オイルショックの真っ只中であった。また、日本やアメリカなどの排ガス規制に対応するベく設計されたこの時代のエンジンは、パワーよりも地球環境に配慮することが優先され、多くの自動車メーカーが対応に追われた。ライバル車に対してスピードやパワーの優位性をアピールするスポーツカーや、それを生産する自動車メーカーにとっては試練の時代だったのかもしれない(この時代を経たからこそ、さらなる技術革新がもたらされ、現代のようにパワーと環境保護に配慮したエンジンが造れるようになったともいえそうだ)。

そんな時代に誕生したRX-7は、誰もが一目でスポーツカーだと分かるデザインを身に纏い、世界的にも稀少な「ロータリーエンジン」を心臓に持つ、生まれながらにして華やかさを持ち合わせたクルマだったように思う。このRX-7のボディサイズは全長×全幅×全高:4320x1670x1260mm。オーナーの個体は「12Aターボ」と呼ばれる、マイナーチェンジ後に設定されたターボモデルであり、排気量573cc×2 、2ローター・ターボエンジンの最大出力は165馬力を誇る。

生産されてから既に34年が経過したとは思えないほど素晴らしいコンディションを保つこのRX-7だが、この個体を手に入れたきっかけは何だったのだろうか?

「私が大学生になった年に、このSA22型RX-7が発売されたんです。当時から欲しいと思っていましたが、高額なために学生が買えるようなクルマではありませんでした。その後、30歳くらいになったときにチャンスが訪れ、ようやく手に入れることができたんです。納車後、大学時代の友人に会うことになり、何の予告もなくこのRX-7に乗って出掛けていったんです。そうしたら『お前、すごいな。本当にRX-7を手に入れたんだな!』と言われまして…。私自身、すっかり忘れていたんですが、学生時代、友人に『将来、絶対にRX-7を買う!』と宣言していたらしく、そのことを友人が覚えていてくれたみたいです」。

こうして学生時代に憧れたRX-7を手に入れ、その後、25年もの間このクルマを所有しているオーナー、さまざまなできごとがあったはずだ。これまでトラブルに見舞われたり、部品の確保に奔走したりすることもあるのだろうか?

「手に入れてから3、4年経った頃、オイル漏れを機にエンジンをオーバーホールしました。その後、現在に至るまで大きなトラブルには見舞われていないんです。このRX-7のメンテナンスはディーラーに任せてあるんですが、部品の供給についてもスムーズですよ。他のショップでETCを取り付けてもらったとき、窓ガラスが割れてしまったんです。部品の在庫はないが、ガラスの型が残っているということで再生産してくれました。それも定価で。今年、トランスミッションのオーバーホールを実施したんですが、ベアリングが欠品していることが判明。それでもどうにか部品を調達してきてくれて、作業期間も3週間ほどで済んだんです。これまでのディーラーの手厚いサービスに対する感謝の気持ちと、RX-7のコンディションを維持する目的から、このディーラーでロードスター(ND型)を購入しました」。

生産から年月が経過したクルマだと、ディーラーに持ち込んでも断られたり、ノウハウを持ち合わせたメカニックが在籍していないということも少なくない。結果として、旧車に精通した街の整備工場や主治医のところに預けることになるわけだが、このオーナーのように、ディーラーと良好な関係を築いているケースもあるのだ。最後に、このクルマと今度はどう接していきたいかオーナーに伺ってみた。

「このRX-7がきっかけとなり、20代〜70代まで、さまざまな年代の友人ができました。そこで得られる人との交流や情報は貴重なものです。また、2015年の東京モーターショー60周年記念日比谷パレードや、2016年のトヨタ クラシックカーフェスティバルにも参加させてもらいました。これだけの体験ができたのも、このRX-7のお陰です。実はこの個体、ボンネットと屋根、テールランプは、当時のオリジナルなんです。25年前に購入した自動車販売店ができうる限りノーマルに近い状態まで戻してくれたようですが、私もこのコンディションを維持していきたいです。何よりこのクルマのすべてが大好きですし、これからもずっと乗り続けていたいですね」。

久しく忘れていた、あるいは胸の奥にしまい込んでいた「あのクルマ、欲しい!」という感情。すぐにとはいかないまでも、1%でも可能性があるのならば、欲しいという気持ちに正直になってみてもいいのではないか。そして、本当に手に入れることができたのなら、それはゴールではない。そこからが本当のスタートだ。

このRX-7のオーナーのように、欲しいと思っていたクルマを手に入れることができたからこそ初めて見える世界があり、分かる世界があるように思う。人生は1度きりだ。どこかのタイミングで「これまで頑張ってきた自分へのご褒美」があっても良いではないか。幸せそうなオーナーの笑顔を見ていると、そう思えてならないのだ。

(編集: vehiclenaviMAGAZINE編集部 / 撮影: 古宮こうき)

[ガズー編集部]