1989年に新車で購入、オーナーとひとつの時代を超えるマツダ・サバンナRX-7(FC3S型)

「新車で購入し、2桁ナンバーを維持するオリジナル度の高い個体」。

こう聞いて、どんなクルマを思い浮かべるだろうか。さらに「ロータリーエンジン」という要素が加わると、思わずぐっとくるクルマ好きが増えることは間違いなさそうだ。

今回は、1989年に新車で購入したマツダ・サバンナRX-7(FC3S型)を、ほぼオリジナルの状態で保有する67歳の男性オーナーを紹介したい。オーナーの愛車は、約30年もの歳月を経たとは思えない、すばらしいコンディションだ。現在、オドメーターは12万キロを刻んでいる。今回の取材では、維持していくうえでのこだわりを詳しく伺うことができた。まずはどんなシーンで、このクルマに乗るのかを尋ねてみた。

「このクルマは、1989年式マツダ・サバンナRX-7(FC3S型)の後期型で、グレードはGT-X、4速ATモデルです。マイナーチェンジの際に、新車で手に入れてから現在まで乗り続けています。高速道路を移動したり、紅葉見物などで狭い山道を走るときに乗っています。市街地の移動をメインで使うと(燃費が悪くて)ガソリンスタンドへ行くのがイヤになりますよ(笑)。ただATなので、アクセルワークが丁寧であれば、極端に燃費が悪くなることはありません。平均するとリッター6km/Lくらいでしょうか…」。

マツダ・サバンナRX-7(以下、RX-7)は、シリーズ2代目として1985年にデビュー。ボディサイズは全長×全幅×全高:4335x1690x1270mm。排気量1308cc、ツインスクロールターボを備えた13Bロータリーエンジンは最大出力185馬力を誇り、当時の仮想ライバルといわれたポルシェ・944ターボに肉薄する性能を実現していた。

オーナーが所有する「GT-X」には、アルミホイール・ビスカス式LSD・アルミボンネットが標準装備された。ボディカラーは、鮮やかな赤味が印象的な「ブレイズレッド」だ。この型としては珍しくオリジナル度の高い個体で、エンジンルームにも当時の面影が残っていることに驚かされる。ここまでオリジナル本来の美しさを維持するオーナーの愛車遍歴が気になり、尋ねてみた。

「マツダ車は初代ルーチェ、カペラロータリー、コスモAP、フォード・コルティナ、トヨタ・クラウンロイヤルサルーン(セダン ベンチシート6人乗り)、メルセデス・Eクラス セダン(W211)を乗り継いできました。現在は、RX-7とともにスズキ・フロンテクーペ GXCFとセルボ(初代)を所有しています」。

この個体を手に入れた経緯はどのようなものだったのだろうか?

「サバンナ RX-7はSA(初代)から好きでしたが、この型の前期型まで付いていた車体を囲む“黒い帯”が好きになれなかったのと、フロントフェイスがいまいちで購入をためらっていました。その後、マイナーチェンジしたRX-7がデトロイトショーで発表され、そのスタイルを見て気に入り、馴染みの販売店でオーダーしました。1989年の4月末に納車して現在に至ります。これまでのロータリーエンジンはオイル消費量がネックでしたが、この型のRX-7は非常に少ないんです。しかもコンピューター制御で手がかからないし乗りやすいクルマですね。できるだけ自分でもメンテナンスするように心掛けていますが、プラグ交換の作業は大変なので、信頼できるメカニックにお願いしています」。

まさに「平成」という時代をともに走り続けてきた相棒である。長い付き合いの中で、RX-7のどのあたりを気に掛けてきたのか、ポイントを伺ってみた。
「車検のときにプラグを交換するくらいでしょうか。ロータリーエンジン用の純正プラグを使っています。メカニックに『1年に1度はプラグの掃除をしたら?』と言われますが面倒なのでしていません(笑)」。

神経質すぎず、ある程度大らかであることが良いコンディションを保つ秘訣のひとつなのかもしれない。そしてクルマと暮らす時間が長いぶん、主治医(馴染みのショップ)との良好な関係も垣間見える気がした。ただ、生産終了からかなりの時間が経過したクルマだけに、部品供給の状況が気になるところだ。欠品は出ているのだろうか?

「アルミボンネットはすでに欠品しています。リアウインドウ下の雨どいも片側しかないですし、『サバンナ』のステッカーや純正のマフラーも欠品です。私の場合は購入して短期間でマフラーに穴が空いてしまったので、早い時期に交換しました。交換したマフラーは対策品になっていたようで、これまでに穴が空いたことはありません」。

もし、部品を交換する必要に迫られた場合、アフターパーツやネットオークションでの対応になるのだろう。RX-7ほどの名車にレストアサービスがないのは、そろそろ違和感をおぼえる。マツダに限らず、すべてのメーカーは絶版モデルの部品供給、もしくはレストアサービスを確立させる時期にさしかかっていると思うのだが…。

さて、こまめな部品交換とメンテナンスを施されながら維持されてきたRX-7だが、オーナー自らモディファイした箇所はあるのだろうか。

「まず、BBS製のホイールに交換しています。これもRX-7用のものなんです。フロントには、購入当時は販売されていなかったリップスポイラーを、発売されたタイミングで購入して以来、取り付けています。そしてレカロシート。実は、純正のシートが合わなくて、乗るたびにギックリ腰を起こしていたんですよ。分解してみると、シートが私の体型に合わない構造だったんです。そこで、耐えられずに運転席・助手席いずれもレカロ製に交換しました。それから、車内スピーカーにパソコン用のものを流用しているくらいでしょうか。基本的に運転中は音楽を聴かないタイプですが、高速に乗ったときや渋滞中のみラジオを聴きます。ただ、純正のスピーカーだと高音が聞こえないんです」。

自分色に染めるというよりは、オーナー自身にとって使いやすいように調整されており、オリジナルのイメージを大きく脱するものではない。そこで、もっとも気に入っているポイントはどこだろうか?

「このRX-7の外観、特にこのボディカラーですね。あの当時、設定されていたRX-7のボディカラーの中で、赤(ブレイズレッド)以外には魅力を感じませんでした。一昨年に天井以外の部分を塗装したのですが、純正色のブレイズレッドは、1989年式と1990年式で同じ赤でも色味が微妙に違うんですよ。1990年式の方が、黒みがかった赤になります。後で聞いたところ、1989年式は明るすぎてしまったため、色味を調整したというメーカーの意向があったようです」。

オーナーのRX-7は1989年式のブレイズレッドになるように、腕利きの職人に依頼したという。

「職人は長年、我が家のクルマたちがお世話になっている方です。とにかく腕が良くて、部品を外すことなくすべてマスキングテープを駆使して養生した後、塗装をしています。塗装が飛んでいる箇所もないですし、天井との色の差がわからないです」。

最後に、このRX-7と今後どう接していきたいかを伺った。

「年齢も年齢なので、乗れるうちは乗りたいです。もし乗れなくなったら好きな人に譲るか、マツダミュージアムへの寄贈を考えています。広島にコスモのオーナーズクラブがあって、そこのメンバーがコスモAPを寄贈したようなんです。まだこのRX-7は置いていないらしいので、必要だったら展示してもらえたらと思っています。そのとき、取り替えた部品はノーマルに戻してお渡ししたいですね」。

2桁ナンバーでワンオーナーの美しいRX-7は、もはや日本において絶滅危惧種に近い個体かもしれない。そんな貴重な個体とめぐり会えて幸運だった。FCとオーナーのカーライフは、これからもゆったりと続いていくのだろう。

(編集: vehiclenaviMAGAZINE編集部 / 撮影: 古宮こうき)

[ガズー編集部]

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