ロータリーを愛する父と、運転好きな息子をつなぐRX-7改(SA22C)の絆
車名にちなんで7月7日には、日本各地で“セブンの日”ミーティングが開かれるほど、今でも熱烈なファンを持つマツダの名車「RX-7」。今回ご紹介する加藤さんご一家も、歴代のRX-7を乗り継いだ父親が息子と一緒にこの初代サバンナRX-7改(以下SA22C)とRX-8での走行を楽しむ、生粋のロータリーフリークだ。
父親の加藤さんはFC3S、FD3S、SA22Cと歴代のセブンを乗り継ぐ。
「僕は中学まではどちらかというとバイクが好きだったんです。でもあるとき、今でいうオートサロン的なイベントを観に行ってクルマに興味が沸いてしまい、バイクの免許を取ることはなかったですね。FC3Sは、マツダがル・マンで優勝する姿を見てファンになり、当時そのままショップに買いに行きました」
「その後はFD3Sに乗ったんですけど、ちょうど結婚する直前くらいに事故で廃車にしてしまい、そこからは子供もできたので一度降りてしまって。でもやっぱりどうしてもセブンに乗りたくて、15年くらい前に奥さんに土下座して、どうせ買うなら今まで乗ったことのなかったSA22Cを購入しました」
SA22Cの購入を決めたときから見た目は純正で、中身はしっかりチューニングされたサーキット仕様にすると決めていた加藤さん。ボディはネットオークションで購入し、すぐにフルレストアを敢行。スポット増しとロールバーのフル溶接でしっかりとボディ補強を施している。
さらに別で購入したSA22Cからエンジンそのほかを載せ替え、部品取りとして手元に置いたままだったFD3Sからもラジエターやブレーキなどのパーツを流用。外観は、エアロを装着せずにオリジナルの美しさを大切にしつつ、現代でも通用するボディ剛性を確保したこのSA22Cが誕生した。
ちなみに購入してすぐにレストアを開始して、7~8年も工場に入っていたそうだ。ところが、完成して実際にサーキットで走ると想像以上に運転操作が難しかったという。
「これだけちゃんと作ったのにも関わらず、息子のRX-8のほうがよく曲がるし、コーナリングスピードも断然速いんですよね。やっぱり現行のクルマのほうが動きもいいし、運転しやすいんですよ(苦笑)」
加藤さんからすると期待と現実との違いはあったようだが、その難しいクルマでアタックする楽しさも感じていた。現在は息子の慶太さん(24才)とともにイベント参加やサーキット走行を楽しんでいる。ちなみに慶太さんは、最初からクルマが格別に好きだったわけではなかったそうだ。
「自分が運転をするようになるまでは、正直いうとクルマに興味がなかったですね。10才くらいのとき、父のSA22Cに初めて乗せてもらったんですけど、そのときは『うるさいし、乗り心地も悪いし、へんなクルマに乗ってるな~』くらいに思ってました。でも、自分が免許を取ったときに父から『半分出すからこれ買わないか』ってRX-8がすでに用意されていたんでびっくりしました」
「それ、じつはサプライズで妻が乗っていたマツダデミオを内緒で売って、代わりにRX-8を息子用に買ったんですよ。当然妻は『なに勝手に売ってるの!』って激怒してましたけど」と、お父さんは苦笑い。
ちなみに奥様もしばらくはRX-8に乗っていたが、スーパーが目の前にある場所に引っ越してからは乗る必要がなくなり、完全に慶太さん用のクルマになったそうだ。
「ただ、そのクルマはのんびり走りすぎて、カーボンロック症状が出ちゃったんですよね。それで今のRX-8に乗り替えました」とは慶太さん。
この2台目の購入もまたお父さん独断のサプライズだったそうで、「僕が知らないうちに新しいRX-8がうちに届いてました」と慶太さん。
「それも悪巧みですね(笑)。新しく買ったRX-8も絶対反対されるのがわかっていたので、また妻に内緒で買ったんですよ。やっぱりめちゃくちゃ怒られましたね」と、ご家族の仲の良さが垣間見える、なんとも微笑ましいエピソードだ。
現在は、RX-8とこのSA22Cの2台でサーキットに走りに行き、お互いにクルマを交換して乗り比べながら、ふたりでロータリーライフを楽しんでいるという加藤親子。
「最初は興味がなかったんですけど、自分で運転したり、こうやってイベントに一緒に参加したりしているうちに、クルマで走ることが好きになりました。SA22Cの気に入っているところは運転しづらいところです(笑)」とその難しさをプラスに考えている慶太さん。
しかし、父親の加藤さんは対照的。
「僕はこの難しさが苦痛になってくる。やっぱり年齢の差でしょうかね」と、苦笑いだ。
そんなふたりにとって手強くもあり、楽しいSA22Cだが、とくにこだわっているのがシンプルなスタイリングだ。エアロレスながらBBSホイールが高級感のある上品な雰囲気に醸し出している。
「BBSホイールは安くて丈夫でなんですよね。ネットオークションなら1本5000円で見つかるので」と、なんと3セットも用意しているそうだ。また、ヘッドライトは下げている状態が好みとのこと。
前照灯やウインカー、テールランプなどの灯火類は、すべてLEDに変更して明るさを確保。また“旧車に似合う”というキャッチに惹かれ装備したシンプルな日本精機のメーターが、内装を接いでスタイリッシュでスパルタンな車内の雰囲気によく似合う。
SA22CやRX-8など、愛車のメンテナンスはお父さんがすべて行っている。「次にやりたいのは配線関係を直すことですね」と加藤さん。
このSAは、月に1~2度のサーキット走行と、年に2~3回のイベント参加がメインで、動かす機会も少ないという。それでも旧車だけにメンテナンスを欠かさず、いつでもベストな状態で走れるように妥協は一切なし。そんな話からもSA22Cに対する、特別な愛情を感じる。
加藤さんは、ロータリーが好きな理由をこう語る。
「FC、FD、SA、それにRX-8にも乗ってみて僕が思うのは、ほかのメーカーに比べてコーナリングスピードがとにかく速いこと。そこが一番気に入っています。自分でハンドルを握るならマツダのRXシリーズです。でも乗せてもらうならトヨタかな(笑)」
一方の慶太さんは、「クルマに興味がないわけではないですけど、自分でいじったりするのはちょっと面倒かも。走るのは好きですけどね。でも、父にやれって言われて作業することはありますね。ほかに乗ってみたいクルマは、国産だったら軽くて速いS2000、外車だったらロータスエキージとかですね。ゴツいのよりは薄っぺらい感じのスタイルが好きです」と父親ほどではないにしろ、クルマで走ることを楽しんでいるのが充分に伝わってくる。
見た目はシンプルにオリジナルのスタイル維持に全力を注ぎ、乗って楽しい一台に仕上がっている加藤家のSA22Cは、これからも親子ふたりにとって共通の楽しみを提供し続けることだろう。
(文:西本尚恵 撮影:土屋勇人)
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