「温故知新」にこだわり、親友と二人三脚で再生中!1986年式日産 フェアレディZ(Z31型)改

1980年代から1990年代にかけて生産された「ネオクラシックカー」がブームといわれて久しい。

オーナーのメイン層は、当時青春を過ごした世代かと思いきや、実は意外とそうでもない。

クルマの現役時代を知らない、若い世代のオーナーが増えているようだ。
“クルマ関連の漫画に影響を受けた”
“両親の英才教育を受けながら自然とクルマ好きに育った”
というオーナーが多いそうだが、実際はどうなのだろうか。今回の主人公、28歳の男性オーナーはこう話す。

「物心ついた頃には、R34型スカイラインが走っていました。私のネオクラシックカーに対する印象は『新鮮』ですね。今のクルマとは味付けが違いますし、車内の“匂い”も年代によって違うところが好きです。車内の匂いは、接着剤などによって年代別に異なってくると聞いたことがあります。ネオクラシックカーに乗ることは追体験と同時に『未知との遭遇』という感覚です」

そんな彼の愛車は日産 フェアレディZ(Z31型)。以前登場してくれた日産 キューブ改のオーナーの友人という縁で、今回の取材が決まった。お互い自動車関連業に従事しつつ、良きクルマ仲間として現在に至るという。

「彼とは専門学校時代から10年来の付き合いですが、今も二週間に一度は会っています。連絡もなく突然現れるんですよね。で、ドライブに連れて行かれるという(笑)。よき親友であり悪友です!」

自分が手掛けたZ31が取材を受ける・・・ということで、「よき親友であり悪友」であるキューブ改のオーナーもわざわざ現地まで駆けつけてくれた。この場を借りて改めてお礼の気持ちをお伝えしたい。

そんなオーナーの愛車、日産 フェアレディZ(Z31型/以下、フェアレディZ改)はシリーズ3代目にあたる。1983年から1989年まで生産され、ボディサイズは全長×全幅×全高:4535x1690x1295mm。『ロングノーズ・ショートデッキ』のスタイルを持つ流線型のボディは、初代Zから受け継がれている。

オーナーが所有する個体は、1986年式の「200ZR 2by2」。世界初となるセラミックターボを採用し、排気量1998cc、最高出力180馬力を誇る「RB20DET」型が搭載されたグレードだが、この個体は前オーナーの手でR33スカイライン用のエンジン(RB25DET型)に換装されているため、正式には「フェアレディZ改」となる。この仕様をオーナーが手に入れてから約3年。納車当時からは約2万キロ走行しているという。

まずはオーナーに、これまでの愛車遍歴を尋ねてみた。

「運転免許を取得して最初の愛車がサニトラ(日産 サニートラック)だったので、フェアレディZ改は2台目になりますね。サニトラはキャブレターだったので、吸気音や車体に伝わるエンジンの振動をダイレクトに感じられて楽しいクルマでした」

インジェクションの世代ながら、あえてキャブレターを選ぶことはもちろん、20代という若さですでにベテランオーナーのような貫禄を感じる。オーナーがフェアレディZ改を選んだ理由は「旧車が好きだったから」なのだろうか?

「古いクルマの知識が欲しいと思ったからです。仕事が自動車関連業なので、知識と経験を仕事に活かすためでした。サニトラもそんな理由で選んだのですが、構造が古すぎて仕事にそれほど活かせないことがわかったので、もう少し新しめのクルマが欲しかったんです。また、当初はC33系のローレルが候補だったんですが、近所で若い方が先に乗り始めてしまったので、人と被らない車種が良いという気持ちもありましたね」

この個体との出逢いは、冒頭で紹介したオーナーの親友がまさにキューピッドとなったエピソードだ。

「彼(友人)がネットで見つけてきたんです。しかも勝手に『サニトラに乗ったヤツが見に行きますのでよろしくお願いします』と、ショップにアポまで取っていたんですよ(笑)」

「見に行くと、先に商談していた方がいたんです。しかし、その方がローンの審査に通らない事態となり、私に商談権がきたんです。そして見に行ったその日に即決してしまいました。彼が見つけてこなければこの個体とめぐり逢えなかったわけですし、前の方のローンが通っていれば買えなかった。不思議な繋がりを感じましたね。もともとZ31型も好みの1台だったので、とても良いタイミングで出逢えて良かったと思っています」

必然のようにオーナーのもとへと嫁いできたフェアレディZ改。だが、複数のオーナーを渡ってきた個体だったため、決して良いコンディションとはいえなかったようだ。

「前のオーナーさんがエンジンを換装していて“やんちゃな仕様”だったのですが、スピードメーターは動かなくてボディはボロボロ。エンジンの修理にかなり時間を要しました……。もし、サーキット走行する人の手に渡っていたら、今頃はフレームを歪められて廃車になっていたかもしれません。ただ、雨漏りだけは奇跡的に回避できています。トランクに穴が空いていますし、ひょっとするとクォーターウインドウガラスからも浸水しているかもしれないですが、Tバールーフから入ってさえこなければ良しとしています」

オーナーの手によって再び躍動するフェアレディZ改。約3年間接してみての率直な感想や気に入っている点を尋ねてみた。

「今のクルマには見られないロングノーズ・ショートデッキのシルエットは、どの角度から見ても惚れぼれします。車内の匂いも好きです。『乗っていて楽しい』という感覚は、前のサニトラと変わりません。エンジンの音もすごく綺麗ですね。“楽しい”を表現するのは難しいですが、自分より年上のクルマに感じるワクワクを含めて乗っているのがすごく楽しいです」

あくまでも筆者の肌感覚だが、Z31型は歴代Zの中でも遭遇する機会が少ないような印象がある。乗っていて声を掛けられることはあるのだろうか?

「よくあります。走っていると手を振られますし、三車線の横断歩道を渡っていた人がわざわざ引き返してくることもありました。『漫画やゲーム中だけで実車は見たことがない』という若い方にもよく声を掛けられますね。ある時は、駐車場に戻ると隣にZ34型の50周年アニバーサリーモデルが停まっていて、待っていたオーナーさんから話し掛けられたこともあります」

このフェアレディZ改には、オーナーと友人の“二人三脚”で、リフレッシュやモディファイが施されているという。

「自動車関連に携わっていますが、知識や加工技術に関しては友人が主治医です。塗装やワンオフパーツをどこに依頼するかも彼がアドバイスしてくれて、アポ取りまでしてくれます(笑)」

オーナーと友人によってなされたモディファイをあらためて伺おう。

「納車当時はウイングがついていましたが、Zの流線型が好きなので取り外しました。ウイングがなくなると、タイヤの太さが強調されて見た目のバランスも良くなりますね。

塗装は『元色が黒でありきたりであったため、オリジナリティを出したかった』点と『あえて現行色にすることで現代のクルマのエッセンスを取り入れたかった』ので、日産の純正色『オーロラフレアブルーパール』という、セレナやGT-R、現行のフェアレディZなどに採用されているボディカラーに全塗装しました。

ホイールは、BBS製の『RI-A』と呼ばれるアルミ鍛造ホイールです。SUPER GTのマシンでは、BRZがこれと同じデザインのホイールです。どんなクルマが履いても似合うホイール、さすがBBSですよね。実はBBSの公式ホームページに装着写真を掲載してもらっています。

RECARO製シートは友人と交換したものです。納車当時はメーカー不明のフルバケが入っていて、シートだけ浮いてしまっている印象だったので、彼が持っていたSR-ZEROという限定モデルと交換してもらいました」

クルマ本来の美しさを尊重し、現代の仕様と融合させながらオーナーの個性が光るフェアレディZ改。続いて理想のイメージやこだわりを伺ってみた。

「フェアレディZ改は『さりげなく大人な感じの女性』というイメージを出したく、友人に相談しつつ手を入れています。基本的にはトータルバランスを崩さないで自分の色を出せるようにこだわっています。『温故知新』ですよね。例えばBBSのホイールだと『旧車にはメッシュタイプで16インチのRSがテッパン』とよくいわれますが、古いクルマだから古いホイール以外似合わないということはないと思います。新旧の融合で生まれる良さは必ずあります」

レアな存在である以上、部品供給も苦労しているかもしれない。『Z31型』の部品供給状況はどうなのだろうか。

「状況は思わしくないですね。国内仕様の純正ではない部品でさえ壊滅状態です。例えば、ヘッドライト内の反射板が駄目になると車検が通らないので死活問題です。いかに車検をクリアするか、そのための打開策を考えることも楽しみであり、悩ましいところでもあります」

今後予定しているモディファイは?

「30年以上前のクルマなので、リフレッシュをしながらフロントの足回りを少し変更したいですね。リアだとブレーキがインドラム式ではないので色々と制約があるため、まずはフロントからR33型スカイラインのブレーキシステムを流用したいです。この時代の日産車の足回りは独特で、ナックルとローターが一体になったような構造をしているので、現代の足回りが合わないんです。現段階ではS15シルビアの足回りを流用して、リフレッシュも兼ねてブレーキを大きく見せられるようにと考えています。外観のバランスも好みにしていきたいですね」

このフェアレディZ改と今後どのように接していきたいのかを伺った。

「壊れて修理できなくなるまで乗り続けたいです。もともと手の入っていた個体なので、この先色々と問題も起きそうなので。もう嫁ぎ先もないと思いますし……。近い将来、きちんと整備できるガレージも作ってあげたいと思います。誰にも渡すつもりはないですが、もし渡すとしたら、彼(友人)じゃないでしょうか。このクルマの“第二の親”ですから!」

まさにオーナーと友人の合作のような1台だ。二人による『温故知新』のリフレッシュによって、フェアレディZ改は凛とした美しさが漂う貴婦人の姿を取り戻した。

最後に、旧車を趣味として楽しむ人へのメッセージとして、今ある思いを伺ってみた。

「ネオクラブームなど、古いクルマの良さを再確認するムーブメントがあります。新型Zも歴代Zの流れを汲んだデザインになっていますし良い流れだと思いますが、古いものを見直すあまり、少なからず『当時モノでないと駄目だ』という風潮を感じることもあります。私は、自由に乗って自由に楽しむのがクルマ趣味の基本だと思っているので、もっと自由に楽しむ若い世代のクルマ好きが今後増えたら良いと考えています」

あらためて、彼らの審美眼にこだわりと信念を感じた。日頃から深くクルマに接し、深く知っている彼らだからこそ磨かれている感性だ。そして固定観念にとらわれない柔軟なマインドも備わっている。これからも卓越したセンスと「温故知新」の感性を大切に、カーライフを満喫していってほしい……! オーナーよりも少しばかり先に生まれた者として、心からのエールを贈りたい気持ちでいっぱいだ。

(編集: GAZOO編集部 / 撮影: 古宮こうき)

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