買いたくても買えなかった憧れの特別仕様車。日産・スカイラインGTS-R(HR31型)
1987年、日産・スカイライン(HR31型)の2ドアクーペのGTSをベースに、グループA規定のホモロゲーションモデルとして特別なカスタムが施された限定仕様車として販売された過去を持つ、スカイラインGTS-R。
限定800台のGTS-Rが発売と同時に完売となった当時、自身も注文を試みたがあまりの人気に買いたくても買うことができず、いずれ絶対に所有したいと憧れていたという江口政和さん(53才)。
現在では、趣味が高じて地元の新潟県十日町市で年に一度開催される『十日町クラシックカーミーティング』の主催者のひとりとなった方でもある。
スカイラインGTS-Rが発売されたのは、江口さんが高校を卒業して日産の社員として就職したばかりのタイミングだったそうだ。
「物心が付いたときからクルマが好きで、中学に入ったころには『自動車メーカーの社員になる!』というのを目標にしていたほどでした」と江口さん。
第一志望として神奈川県の日産高等工業学校(現・日産横浜自動車大学校)に合格。卒業後晴れて日産のメーカー社員となる夢が叶ったのだった。
「R31 GTS-Rが発売されたのは、まさに自分が入社した1987年でした。『グループAのホモロゲモデルが出るぞ』というのは発表前から社内でも噂になって、購入できるならぜひ手に入れたいと思っていたんです。
ですが、通常の市販モデルであれば購入するのに社員向けの優遇があるところ、限定仕様車ということもあって社員は購入できず、悔しい思いをしたのを覚えていますね」
その後、20代でメーカーのもとを離れて地元の新潟へ戻り、現在では整備士として働いている江口さんだが、メーカー時代に愛車として乗っていたのはおなじスカイランでもR30型だったという。
「ずっと見ていて憧れた西部警察の影響も大きかったですね。最初に買ったのは鉄仮面と呼ばれた後期のRSターボでした。これでチューニングも覚えたし、当時の職場だった神奈川周辺のスポットへ夜な夜な走りに行ったりもしていました」
そこから、2台目のRSターボ、続いて自然吸気のRSと合計3台のDR30型スカイラインを乗り継いだという江口さん。そのスタイルに愛着があったのはもちろんだが、自身でカスタムをするようになったFJ20エンジンのパーツを引き継いで使えるというのも大きな理由だったという。
その頃の江口さんの思い出の品が、こちらのキャップだ。ドリフトブームの黎明期にスポーツランドやまなしで開催された雑誌社主催の『CARBOYドリコン』の参加賞として配られたものだという。
そして、22才のころに同じくFJ20エンジンを搭載しているS12型シルビアへ乗り換え。メーカーのもとを離れ、新潟へ戻ってきたタイミングもちょうどそのころだったという。
さらに25才で結婚、2人の娘さんを持つという環境の変化も訪れる。社員として自社製のクルマを選ぶ必要もなくなったこともあり、快適な後部座席を備えた4ドアセダンのファミリーカーとしてスバル・インプレッサなどを選択したという。
また、奥様がファミリーカーを所有し、自身は趣味の一貫として遊びを兼ねた愛車に乗る時期もあったという江口さん。
他人と同じクルマに乗るのがイヤという理由で、日産・マーチK11をベースにしたカスタムカーとして販売されていたトミーカイラm13を購入して所有していたほか、バイクも自身でカスタムを施し様々な車種を乗り継いでいったそうだ。
そして、こちらのR31 GTS-Rを手に入れたのはいまから10年前、江口さんが43才となり2人の娘さんも大きくなったことで、自身が趣味にかける余裕ができたのがキッカケだった。
「10代からの憧れのクルマだったこともあり、そろそろ自分の環境的にも頃合いだと思って知人を通じて車体を探してもらったんです。そうしたら走行距離1万2000キロ、しかも当時の市場価格とくらべて半分以下で譲っていただけるというオーナーさんが見つかって、迷わず購入しました」
前オーナーはスカイラインを中心に15台以上を所有する愛好家で、車両の状態もかなり良かったと江口さん。
「雪国にあったクルマとは思えないほどの状態で、大きなレストアする必要もありませんでした。あまり乗られてはいなかった車体なので、きちんと直すための整備は多少必要になりましたが、それも自分のいる職場で暇を見つけてできる程度で済みましたね」
貴重な車体ゆえ、休日のたまのドライブや旧車系のミーティングへの参加がおもな用途となっているが、手に入れてから10年間を経て現在の走行距離は3万キロ。そして、R31をさらに愛着の持てる姿にすべく、これまでの愛車と同様に好みのカスタムを細部に施している。
外観はステッカーを貼ることでGTS-Rのノーマルを保ちつつ江口さんならではのオリジナリティを追加。
クォーターガラスには日産ワークスドライバーの故・鈴木誠一氏が創業したアフターパーツメーカーの東名パワードの旧ロゴステッカー。リヤウインドウの『BE・X』とはかつて日産が発刊していた広報誌であり、ステッカーはその付録として手に入れたものなのだとか。
冬期は毛布を重ねて除湿剤とともに保管するなどサビの進行を防ぐ努力のおかげで車体の程度も好調をキープ。内装のシートや樹脂製のパーツなども美しく保たれている。
日産の歴史とは切っても切れないレーサーのひとりである“元祖日本一速い男”星野一義氏の手掛けるインパル製のシフトノブは、なんと江口さんが1台目のR30スカイラインから愛用し続けているという思い出の詰まったアイテム。
くすみや汚れが目立ったら磨いて光沢を復活させるというメンテナンスは今でも欠かさないそうだ。
こちらは江口さんの自作という剛性アップのためのフロアバー。不必要なボディ加工はせず、シートベルトのボルトと共有して左右を繋げているが、体感できるほどの効果があったという。
インパネは前オーナーが装着したとみられるインパル製の260km/hスケールメーターに交換されているほか、これまた自身が長年愛用しているというアペックス製マルチメーターも装着している。
そして、グループAホモロゲーションモデルだったGTS-Rの大きなトピックが、大容量のギャレット製TO4Eタービンと、ステンレス製の等長エキゾーストマニホールドを採用した、RB20DET-Rエンジンを搭載していること。
江口さんのR31 GTS-Rは当時のコンディションをキープすべく、ブローバイガスを分離するためのオイルキャッチタンクを追加。さらにRB系エンジンの泣き所と言われるパワートランジスタを強化品に交換して点火系も不具合を解消済み。
残念ながら等長エキマニの様子はカバーで隠れているが、そのカバーは江口さん自らコンパウンドで磨き直すことでこの光沢を維持しているそうだ。
また、ECUリセッティングの際にマフラーをHKS製に交換したが、希少な純正マフラーは手放すことなく自宅に保管されているとのこと。
そして、R31 GTS-Rオーナーとなったことで、江口さんのカーライフにも大きな変化が起きたという。それは、冒頭に紹介したクラシックカーミーティングの開催だ。
「もともと『十日町クラシックカーミーティング』は10年以上前から開催されていて、自分もR31 GTS-Rを手に入れてから2回参加した経験があったんです。ところが、6年ほど前にイベントそのものがなくなってしまいました」
だが、長岡市の旧車イベントで知り合った地元の有志など、江口さんを含む4名が中心となって、このイベントを復活させることができたという。
「ところが復活させたタイミングでコロナ禍がやってきて、開催が中止になっていたんです。でも今年は3年ぶりに開催することができました」と江口さん。
新潟県中魚沼郡のニュー・グリーンピア津南で5月に開催された『十日町クラシックカーミーティング』には、県内外から96台の参加車両が集まるほどの盛況だったという。
来年のイベント開催へ向けての計画はもちろん、出展車両の1台となる愛車を維持していくためのメンテナンスも行っている江口さん。
「だけど、永遠に所有し続けるというのは難しいでしょうから、いずれ手放すことがやってくるかもしれないですね。でも、自分が手に入れたときそうだったように『前オーナーはこのGTS-Rを大事にしていたんだな』と次のオーナーから思ってもらえるように維持していくのが目標です」
まさに、取材中はそんな江口さんの心遣いを新オーナーの代わりに体感させてもらえているような、眼福ともいえる時間を過ごしたのだった。
取材協力:万代テラス
(⽂:長谷川実路 / 撮影:岩島浩樹)
[GAZOO編集部]
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