スーパーカー少年が大人になって手に入れた宝物、2003年式フェラーリ360モデナF1

スーパーカー。それは男子にとって永遠の憧れであり、人生の目標であり、勲章であるかもしれない。

艶やかなデザイン、圧倒的なパワー、道行く人々の目を惹く独特のオーラ。いつの時代もスーパーカーは特別な存在だ。

かつて、そんなスーパーカーに魅せられた少年たちがいた。1970年代、漫画「サーキットの狼(池沢さとし=現在は池沢早人師氏)」に端を発する一大ブームが巻き起こった。それは凄まじい熱気となり、あっという間に日本列島を席巻した。全国各地でスーパーカーショーが開催され、街にはカメラを片手にスーパーカーを撮るべく待ち構える少年たちであふれた。

スーパーカー消しゴム、めんこ、エンジン音を収めたソノシート、分厚い図鑑、筆箱、果ては自転車まで・・・。様々なスーパーカー関連の商品が売り出された。そして、当時の少年たちは「自分はフェラーリ派か、ランボルギーニ派か、それともポルシェ派か?はたまたロータス派か?」・・・等々、延々とスーパーカー談義を繰り広げたものだ。

そんな少年時代を過ごした子どもたちも成長し、当時のスーパーカー世代の多くが40代から50代に差し掛かっている。気がつけば日本を支える世代となったのだ。少年時代の想いを忘れることなく努力を続け、当時の憧れだったスーパーカーのオーナーとなった人も少なくないはずだ。今回のオーナーも、まさにそんな1人といっていいだろう。

「このクルマは2003年式フェラーリ・360モデナF1です。私は現在51歳なので、まさに『スーパーカー世代』です。少年時代からフェラーリに憧れ、大人になったらいつか手に入れたいと思い、日々頑張ってきました。そして、ついに実現したのが14年前、このフェラーリ・360モデナ(以下、360モデナ)を手に入れた瞬間でした。以来、このクルマ一筋です」。

360モデナは、フェラーリ・F355(以下、F355)の後継モデルとして、1999年に開催されたジュネーブ モーターショーにおいてデビューを果たした。フェラーリ・308から現在のフェラーリ・488まで連綿と続く「V8エンジン、ミッドシップモデル」の歴史の1ページを飾ったクルマだ。

アルコア社と共同開発した、フェラーリでは初となるオールアルミ製のボディを纏い、F355よりも大型化したサイズながら、車重は28%軽減、剛性は40%も向上した。徹底的にエアロダイナミクスが追求されている360モデナのデザインは、それまでのフェラーリとは一線を画すものであり、現行モデルにあたるフェラーリ・488に至るまでの源流となったクルマといえるかもしれない。

360モデナのボディサイズは全長×全幅×全高:4477x1922x1214mm。F355のエンジンから派生したとされる3586cc 90度V型8気筒5バルブDOHCエンジンの最大出力は400馬力。車名であるこの「360」はエンジンの排気量に由来している。エンジンを構成する多くのパーツは鍛造アルミ合金製。そして、チタン製コンロッドが採用された点もF355と同様だ。F355の時代に初採用されたセミオートマチックシステム「F1マチック」は、より進化したものが360モデナにも設定された。

フェラーリのボディカラーといえば「ロッソコルサ(赤)」のイメージが強いが、この360モデナはシックなダークブルーだ。オーナーは敢えてこのボディカラーを選んだのだろうか?

「そうなんです。このボディカラーの名前は『ブルーツールドフランス』と言います。内装はベージュを選びました。もちろんロッソコルサ(赤)も迷いましたが、シックな色合いに惹かれてこの内外装の組み合わせに決めました。でも実は・・・、当初は360モデナを買うつもりではなかったんです」。

オーナーから出た言葉は意外なものだったが、他に欲しいクルマがあったということなのだろうか?

「当初はF355が欲しかったんです。しかし、既に生産終了していたモデルだったので、程度の良い中古車を探していました。狙うは『F355ベルリネッタ、ロッソコルサのボディカラーにベージュ内装、6速MT』という仕様でした。しかし、なかなか条件に合致する程度の良い個体が見つからなかったんです。そんなとき、以前からお付き合いのあったディーラーのセールスマンから『360モデナは人気モデルなので、納車まで1年半掛かります。それなら、360モデナを仮注文しつつ、F355を探してみてはどうですか?』という提案があったんです。セールスの提案通りに360モデナを仮注文しつつ、程度の良いF355を探しました。しかし、その後も希望のF355が見つからず、いよいよ360モデナを正式に注文する期限が迫ってきたんです。そこで妻とも相談した結果、この仕様に決めて注文しました」。

こうして、少年時代の夢を現実のものとし、念願のフェラーリを手に入れたオーナーだったが、これまでどのような愛車遍歴を重ねてきたのだろうか?

「運転免許を取得後は、家族が所有していたBMW・320(E21型)に乗っていました。初の愛車となったポルシェ・944ターボでは、優れた直進安定性に驚かされましたね。その後、964型と993型のポルシェ・911を乗り継ぎましたが、フェラーリへの夢を諦めきれず、まずはその前にディーラーのセールスマンと仲良しになろうと(笑)、アルファ ロメオ・156を手に入れました。そして、現在も所有している360モデナに至ります」。

念願のフェラーリオーナーとなったことで変化はあったのだろうか?

「生涯の付き合いといえる仲間たちと出会えたことです。せっかくフェラーリを手に入れたのだからということで、フェラーリクラブにも入会しました。マフラー交換を考えていた矢先、クラブのイベントがツインリンクもてぎで開催されることになりました。そこで、さまざまなショップやメーカーから発売されているマフラーの音を聴き比べられると教えてもらったんです。いい機会なので、サーキット走行会にも参加してみました。それまでは『フェラーリでサーキット走行なんて、別世界の人たちの趣味』くらいにしか思っていませんでしたが、実際に自分のクルマで走ってみたら、思っていたよりも速いラップタイムが出たんです。それでつい夢中になってしまって・・・。360モデナを手に入れた翌年にはレースデビューをするほどのめり込んでいました。そのときに知り合った仲間たちと一緒にレースに参加したり、サーキットでドリフト走行の練習をしてクルマの挙動を掴んだり・・・。多いときには月に2、3回はサーキットに通いました」。

フェラーリでレースデビューするべく、オーナーの360モデナにもさまざまなモディファイが加えられた。

「ブレーキは、純正のドリルドローターだとクラックが入るため、Rdd製の大経のものに交換しました。ホイールもRSD製のものをチョイス。サスペンションはオーリンズ製のワンオフです。自分で減衰力を調整できるように、倒立式となっています。それと運転席のみ、4点式シートベルトとOMP製フルバケットシートを装着。マフラーは音を聴き比べた結果、MSレーシング製のものをチョイスしました。あとは牽引フックですね。ちなみに、この360モデナを注文する際にチョイスしたオプションは、フロント&リアのチャレンジグリル、七宝焼きエンブレム、カラードキャリパー(赤)、レザー張りのルーフなどです」。

レースで実際にサーキットを走ってみて、気づいたことはあったのだろうか?

「クルマの限界の高さを知ることができました。公道では試すことができませんから。それとタイヤの重要性です。サーキットを走るようになってからは、これまでより運転するときに余裕が持てるようになった気がします」。

フェラーリに憧れたスーパーカー少年が本当にオーナーとなったわけだが、360モデナのどのあたりが気に入っているのだろうか?

「何と言っても『音』ですね。この音を聴くだけで幸せになれます(笑)。最近は仕事が忙しく、月に1、2回程度しか360モデナに乗る機会がありません。でも、疲れているときほど自分の360モデナで走りたくなります。早朝や夜など、空いている首都高を走ったり、近所をひとまわりする程度ですが、音を聴くだけで癒されますね。周囲の仲間たちは、新しいモデルに買い替えたり、クラシックなフェラーリに乗り換えたりしていますが、私はこの360モデナが好きなんです。究極の音を奏でるのはF355かもしれませんが、360モデナも負けてはいませんよ!これがF430以降のフェラーリだと『むせび鳴く』音にならないらしいんです。フェラーリ用のマフラーを開発しているショップの方も、イメージする音にならないと仰っていました。しかし、私にとって360モデナの音は最高でも、妻と3人の娘たちからは『うるさい』と言われてしまいます・・・」。

最後に、この360モデナと今後どのように接していきたいか伺ってみた。

「私がこれまで影響を受けたクルマが3台あります。ポルシェ・944ターボと、ディーラーで試乗させてもらったフェラーリ・348、そしてこの360モデナです。フェラーリは毎日乗れるようなクルマではないかもしれませんが、ときどき無性に走りたくなるんです。『サーキットの狼』の原作者でもある池沢早人師先生がかつて『ポルシェは本妻、フェラーリは愛人』と仰っていましたが、まさにそんな感じかもしれません。この360モデナは、以前サーキットでクラッシュしたことがあり、そのときに痛い思いをさせてしまったんです。無事に直りましたが、このアクシデントを機に、より愛情が深まりました。仮に、最新のフェラーリと交換してくれるという話があったとしてもお断りするでしょうね。私にとって、それほどこの360モデナは代わりになるクルマがない、大切な愛車です。何しろ、社会人になってからすぐにフェラーリ貯金を始めて、ようやく手に入れたクルマですから」。

スーパーカーブームの洗礼を受けたオーナーは、見事その夢を実現させ、憧れのフェラーリを手に入れることができた。しかし、それはゴールではない。ここからがスタートだ。そこで生涯の付き合いとなる仲間たちとの出会い、フェラーリでサーキットを走る喜びを知ることができた。素晴らしいクルマと仲間たちに恵まれたからこそ、14年に渡って1台のフェラーリと向き合えたように思う。フェラーリのオーナーだからこそ味わうことができたこの喜びを、ぜひ次の世代のクルマ好きにも伝えて欲しい、そう願うばかりだ。

【撮影地:表参道・原宿(東京都渋谷区)】

(編集: vehiclenaviMAGAZINE編集部 / 撮影: 古宮こうき)

[ガズー編集部]

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