2003年式フォルクスワーゲン・ゴルフR32(1JBFHF型)とともに16年、細部に宿るオーナーのこだわりとは

ワンオーナー車を取材するたびに、いちクルマ好きとして刺激を受けている。愛車に注がれている深い愛情に感服する。

今回登場するのは、53歳の男性オーナー。愛車はフォルクスワーゲン・ゴルフR32(1JBFHF型/以下、R32)を2003年11月に新車で購入し、今年で16年目を迎えたという。仕様は、2003年に追加された4ドアモデルにMTという限定車だ。オドメーターは現在、11万8000キロを刻んでいる。

このR32(アールサーティートゥー)は、ゴルフのハイパフォーマンスモデルだ。1975年に誕生したゴルフのスポーツグレード「GTI」にルーツを持ち、ラリーで培った経験を余すことなく注いだモデルである。そして、2002年に「Rシリーズ」の初代モデルとして、このR32がラインアップされた。

オーナーの愛車は、ゴルフシリーズの4代目(ゴルフ4)、R32としては初代モデルにあたる。日本では、まず2003年に3ドア/6速MT&左ハンドル仕様が限定で販売され、即完売。その後、5ドア/6速MT&右ハンドル仕様が限定で販売されたが、こちらもほぼ即完売だった。こちらのR32のボディサイズは、全長×全幅×全高=4165×1735×1435mm、駆動方式は4WD。コンパクトな車体におさめられた3.2リッターの狭角V型(VR)6気筒「BFH」エンジンは241馬力を発揮。0-100km/h加速は6.6秒というハイパフォーマンスを誇った。

街でこのクルマとすれ違うたびに、左右の大口径マフラーや、フロントおよびリアに装着された「R32」のバッジを思わず二度見してしまう。ゴルフのベースグレードかと思ってしまうほど、一見すると大人しいたたずまいだからだ。しかし、見る人が見れば違いは一目瞭然。さらに、走行中に発せられる音は、明らかにハイパフォーマンスカーのそれだ。R32はまさにスリーパー(羊の皮を被った狼)ではないだろうか。

まずは、オーナーの人物像に注目したい。彼がクルマ好きになったきっかけを伺ってみた。

「家族にクルマ好きがいたというわけではないのですが、スーパーカーブームの洗礼を受けた世代です。自然とクルマが好きになっていましたね。漫画『サーキットの狼』がバイブルで、同世代のクルマ好きも多かった。高速道路の跨道橋から、カメラを構えてスーパーカーを待ったこともありました。もし、手に入れられるならポルシェ・911を選びたいです。愛車は乗ってナンボなタイプです」

クルマ好きになってから、人生観を変えた1台に出会ったことはあるのだろうか。

「衝撃を受けたクルマはBMW・M3(E36)でした。知人に乗せてもらったとき、自分は“速いクルマが好きなのだ”と再確認した気がしました。もし私がM3を体験していなかったら、ゴルフを選択するにしても、ベースグレードか当時のアウトドアブームに乗ってワゴンを選んでいたかもしれません。そう思うくらいに刺激的だったんです。また、MG・RV8も面白いクルマでした。床から排気熱が伝わってきて、真冬はヒーターが要らないんです。独特でクラシックな雰囲気が新鮮に感じましたね」

そう話すオーナーだが、愛車遍歴は「ゴルフ一筋」だ。

「ゴルフに乗ったきっかけは、会社の先輩が所有していたからです。ある日少しだけ運転させてもらったとき、周囲からの『似合うんじゃない?』という声もあって、25歳で手に入れた初めての愛車となりました。車種は、ゴルフ2(2代目)で、グレードはCLi。仕様は右ハンドルの4ドアでMTにこだわっていたので、セールス担当の方にわざわざ探してもらったんです。すると全国で2台だけ見つかり、そのうちの1台でした。次にゴルフ3(3代目)のGTI 16Vに乗り、今のR32へ至ります」

オーナーが25歳だった当時は、90年代を彩った国産スポーツカーが花ざかりだったはずだ。あえてそちらに興味が向かなかった理由とは?

「興味がなかったわけではないですが、当時の環境が影響しているかもしれません。実家で同居していた時期だったので、父親のトヨタ・マークII(X60型)を比較的自由に乗れていました。そんな快適さから気持ちが向かなかったのではないでしょうか」

R32の存在はどこで知ったのだろうか?

「自動車誌の現地レポートで知りました。まず、ボディカラーに惚れましたね。ディープブルーパールエフェクトという色で、このブルーの美しさに惚れ込んだのがきっかけでした。そしてディーラーに出向いたわけですが、すでに売り切れてしまっていました。試乗車は分単位で予約が埋まっている状況ですし、展示車などもってのほかでした(笑)。想定外の人気で、そのときはカタログしかもらえませんでした。油断していました」

結果的に手に入ったのは、どういう経緯だったのだろうか?

「キャンセル待ちの登録をしていたんです。車体はディープブルーパールエフェクト・4ドア・MT仕様です。予約をしてようやく手に入ったのは、発売された1月から1年近く経ったその年の11月でした。後で知ったのですが、R32オーナーズクラブのオフ会で、私のように繰り上げ当選を待つ人が大勢いたことを知って驚いたものです。キャンセルが出た理由の多くは、おそらくMTだったために、家族からNGが出たことでしょう」

待っている間に、愛車の車検が切れてしまったのだとか。

「GTIの車検が切れてしまいました。R32を購入する予定だったので、車検は通せません。結局、R32が手元に来るまでの間、車なし生活を余儀なくされていました」

この取材をしていると、念願のクルマをやっと手に入れたというオーナーのなかには『しばらく自分のクルマだという実感が湧かなかった』という声も聞く。では、ようやくR32を迎えることができたオーナーの場合は?

「GTIが車検切れになり、しばらくクルマがない時期があったせいか、ようやく自分のものになったという実感が強かったですね。納車の日はうれしくて、友人に付き添ってもらってディーラーへ行ったんです。いざクラッチを繋いで走りだそうとした瞬間、あろうことかエンストをしてしまいました(笑)。それほど気持ちが高揚していたんだと思います」

R32を16年間所有して、感じた魅力や気に入っている点をたずねてみた。

「6気筒に由来するエンジンサウンドや回転フィール・パワーですね。コンパクトな車体に対して、大排気量のNAエンジンであること、6気筒のMTモデルであるところも好きです。もちろん、ゴルフというクルマとしても魅力的です。頑丈さを備えつつ日常のアシにもなり、走らせる楽しさや刺激も与えてくれるのは、ゴルフだからこそだと思っています」

外観はオリジナルをキープしているようだが、モディファイは施されているのだろうか?

「おもなモディファイは、剛性感アップを図るためにSPOON製のリジカラを装着。それから、運転席側のアシストグリップをサングラスホルダーに変えています。他にも、リアワイパーはゴルフ5(5代目)のものに、アンテナはポロの純正ショートアンテナに付け替えています。フロアマットは純正っぽさにこだわりながらフォブ・シュランク製のカスタムオーダーで誂えたものです。シートクッションはデルタツーリング製で、Mu-Lenのものです。通気性がよく、冬はシートヒーターと相まって暖かいので重宝しています」

普段の保管は屋根なしの駐車場というオーナーだが、16年間も屋外に置いていたとは思えないコンディションだ。その美しさを保つコツを伺ってみた。

「週に1度洗車を行っています。2時間ほどかけて洗っていますね。これまで洗車サービスに出したことはなく、グリオズ・ガレージという洗車用具を駆使して洗いあげていますが、私としてはボディを美しく保ちたいというよりも、予防整備的な気持ちが大きいです。例えば、ドアの下は錆びやすいのですが、錆が故障に繋がっていくケースもあるので、常に綺麗にしておきたいんです」

16年間コンディションをキープして乗り続けていられるのは、洗車はもちろん、整備にも気を配っているからだろう。メンテナンスについて尋ねようとしたとき、オーナーから1通の書類を手渡された。それは、整備記録と修理費用をまとめたリストだった。納車時からの修理記録がすべてデータ化されていることにも驚きだが、そこに記された金額に瞠目してしまった。

1年あたりの修理費は、車検も含めて平均約46万7000円にのぼる。この金額に正直、考えさせられるオーナーは多いだろう。しかし、1台のクルマと長く付き合うという現実とはこういうことなのかもしれない。オーナー自身も、心が折れそうになった瞬間は幾度となく訪れているはずだが、維持をしてきた16年間は伊達ではない。

新車からじっくりと付き合っていれば、その車種のウィークポイントとは別のトラブルにも遭遇すると思う。そこでオーナーに、これまで経験した修理で、印象深かったエピソードを伺うことにした。

「ディスチャージランプの故障で一度修理したんですけど、再発して最終的にはイグナイターまで交換したことがありました。最初はモーターが壊れてオートレベリング機能が効かなくなっていたので、ヘッドライトケースを交換することになったんですけど、カプラー端子が熱で変形してしまっていました。そのため、新品のヘッドライトケースと合わなくなっていたんです。結局、カプラー端子まで新品に交換する羽目になってしまいました」

一件落着と思いきや、症状は続いていた。

「ライトが点かないことがあるんですよ。そこで、とりあえずディスチャージランプのバルブを交換することになりました。これは保証期間内だったのでラッキーと思ったんですが、また再発してしまって……。最後にイグナイターを交換して、ようやく症状はおさまりました。ディーラーでは、イグナイターが壊れた例はないと言われましたよ(笑)」

また、こんなトラブルも。
「2011年に肩の手術をし、3ヶ月間運転できない時期があったのですが、その間に襲来した台風による倒木で、右フロントフェンダーが激しく凹んだことがありました。保険で対応できましたが、あのときはショックでしたね」

この先も、次なる修理が控えているという。実は今回、ヘッドライトウォッシャーの撮影を行なったタイミングで、ウィンドウォッシャーのポンプが壊れてしまったそうだ……。その入院ついでにボンネットの再塗装も行うことにしたのだという。ちなみに、ウォッシャーポンプの修理込みで行った12ヶ月点検が15万円、ボンネットの再塗装は10万円ほど掛かったそうだ。

最後に、今後このR32とどう接していきたいのか、意気込みを伺ってみた。

「とにかくオリジナルをキープしながら、修理を断念せざるを得ないほどの致命傷があるまで乗り続けたいです。限界まで直して車検が通らなければ諦めます。納車当時から主治医となってくれているサービス担当の方が『とことん付き合います』と言ってくれているので、心強いですね」

「1台を長年愛し続けているということ」について、あらためて深く考えさせられるインタビューとなった。同じように、1台のクルマに長く乗り続けているオーナーの方々にとって、このストーリーは心強く感じられるのではないだろうか。そしてR32は名車として、これからも輝き続けるにちがいない。

(編集: vehiclenaviMAGAZINE編集部 / 撮影: 古宮こうき)

[ガズー編集部]

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