20代前半の兄弟を魅了するRX-7とRX-8、そしてロータリーエンジンよ、永遠なれ!
この記事に興味を持たれた方なら、「高橋兄弟」といえばかなりの確率で「頭文字D」を連想するのではないだろうか。高橋兄弟とは、1995年から2013年に渡り週刊ヤングマガジン誌で連載されていた「頭文字D」に登場した、マツダ・RX-7(FC3S/FD3S型)を自在に操る兄弟のことだ。
そんな「頭文字D」のように、兄弟でロータリー乗りという人物が実在する。今回紹介する兄弟が所有するのは、マツダ・RX-7(FD3S)とRX-8(SE3P)。2人とも20代前半という若さだ。
頭文字Dの高橋兄弟や今回のオーナーたちのように、ロータリーエンジンに魅了された人たちは少なくない。いま、世界で活躍しているサッカー選手が、幼少期にサッカー漫画の金字塔である「キャプテン翼」の世界観に魅了されたように、「頭文字D」が原体験となって劇中で登場したクルマを実際に購入してしまった人もいるのではないだろうか。
今回のロータリー乗りの兄弟は、少なからず父親の影響も受けているようだ。というのも、この兄弟の父親もかなりのクルマ好きらしい。当時、父親が所有していたフォルクスワーゲン・ゴルフ2のエンジンパワーが足らないと、日産のエンジンを入手、自身で載せ換えてしまったそうだ。ロールケージも父親自身が組み立て、愛車に装着している光景を記憶しているという。この幼少期の原体験が、この兄弟のカーライフに強烈な影響を与えているに違いない。そこで今回は、なぜ兄弟揃ってロータリーエンジン搭載車を愛車に選んだのかを紐解いていきたいと思う。
弟(21才):マツダ・RX-8(SE3P)タイプS
RX-7(FD3S)が生産終了した翌年、2003年に4ドアモデルとして生まれ変わったマツダ・RX-8(SE3P)が発売された。キャッチコピーは「A Sports Car Like No Other」。4ドア車でありながら、あくまでもスポーツカーだという、マツダの明確な意思表示を感じることができる。
エンジンはRX-7(FD3S)に搭載されていた13B型だが、これまでのターボ付きからNA(ノンターボ)へと生まれ変わり、「RENESIS(レネシス)」と名付けられた。タイプSは、このNAながらRX-7(FD3S)デビュー当時(255馬力)に匹敵する250馬力をたたき出す。と同時に、長い間ロータリーエンジンのウィークポイントとされてきた燃費も向上させた。
観音開きドアが特徴のマツダ・RX-8だが、当時のマツダはアメリカ フォード社の傘下にあった。RX-8を発売させるまでには、様々な制約があったことは容易に想像がつく。ロータリーエンジンの「軽量さ」という、スポーツカーにとって大きなアドバンテージを活かしつつ、当時のマツダ社長であったルイス・ブース氏のコメントを抜粋すると「家族や友人のためにスポーツカーをあきらめていたお客様の夢を現実のものとする」とある。まさにこれこそが、現代にも通じるマツダ・スピリットといえそうだ。
先代のRX-7が11年、RX-8は9年間生産された。13B型ロータリーエンジンを搭載したクルマは、1973年に登場したマツダ・ルーチェから約40年に渡って現役選手だったのだ。
そんなマツダのエンジニアリングが創り上げたRX-8の魅力は、確実に若い世代の琴線にも触れているようだ。
現役の大学生でもある弟にとって、このRX-8が人生初の愛車となる。手に入れてから3年になるそうだが、購入後、既に3万キロを走破したそうだ。
幼少期は日産・スカイラインGT-R(R34)やマツダ・RX-7(FD3S)に憧れ、同時に6気筒エンジンやロータリーエンジンにも惹かれていたという。その後、工業高校に進学したことが幸いし、多くのクルマ好きに出会うことができた。
大学に進学後、ドリフト用のクルマ(いわゆる「ドリ車」)を探していたときに、兄に促され訪れた自動車販売店にこのRX-8が置いてあり、即決したそうだ。週末になると、峠やサーキット(主にエビスサーキット)での走りを楽しんでいるという。
藤田エンジニアリング製SR-8マフラーは購入時から装着されていたが、ナイトスポーツ製の車高調整キットは吟味に吟味を重ねて選んだという。MOMO製の「RACE」という名のステアリングは、納車時に父親から贈られたものだ。
エンジンの吹き上がりと排気音、高速コーナーが安定していること、スポーツカーのフォルムを纏いながら、4人乗車できることが何よりのお気に入りだという。
購入後、クルマを酷使してしまったと感じるところもあり、これからは愛車を労り、いつまでも大切に乗り続けたいと語る。学生という立場ゆえ、生産されてから10年を超えているロータリーエンジン搭載車を維持するのは苦労もあるだろう。しかし、愛車と接するスタンスは、20代前半の若者は思えないほど達観している。この点は、ベテランオーナーも見習うべきことがあるかもしれない。
兄(23才):マツダ・RX-7(FD3S)タイプRバサーストR
FD3S型のRX-7がデビューしたのは、マツダ・787Bがル・マン24時間耐久レースで優勝した1991年のことだ。販売開始当初は「アンフィニ RX-7」としてデビューしている。FC3S型時代のRX-7アンフィニ(∞)といえば限定モデルが冠した名称だったが、FD3S型ではマツダの販売チャンネルの名称として使用されていた時代もあった。
流麗なフォルムと、連綿と続くRXシリーズの後継モデルとして、発売開始当初から人気を博した。当時は、各自動車メーカーが競い合うように280馬力モデルを販売していたが、RX-7(FC3S)の13Bエンジンをリファインしたものを搭載していた、登場時のRX-7(FD3S)の出力は255馬力。その後、2002年に販売が終了するまでたゆまぬ進化を続け、最終的にはカタログ値で280馬力を発揮するまでになった。10年を超える進化の過程は、大別すると1型〜6型にまでなるほどだ。
そんな兄が所有するRX-7は、その最終モデルにあたる「6型」の限定モデルだ。純白のボディに、一際目を引くエアロパーツを纏ったこのRX-7を見初めたのは1年ほど前。インターネットでRX-7を探していたところ、自分の理想とするフォルムとチューニングが施されているこの個体を見つけ、即決したという。実は、兄よりも弟の方がロータリーエンジン搭載車との付き合いは長いのだ。
この個体は、購入時よりRE雨宮N1’02モデルのエアロパーツを纏っていた。リアウィングはボルテックス製、リアデフューザーはRE雨宮製だ。そこに佇むだけで目を引く外観は、街中で走っているだけで外国人が「クレイジー!」と声を上げるほどだ。
インタークーラーキットは、純正のレイアウトに比べて大幅に冷却効率が向上するVマウント式となっている。マフラーはRE雨宮製の通称「ドルフィンテール」を装着。ホイールはWORK製、ECUはA'PEXi製POWER FC、ブーストコントロールはTRUST製GReddy PRofec。いずれも前オーナーの思い入れが伺い知れるチョイスだ。購入後にタービンが壊れてしまい、GCG製ハイフローロータービンに交換したのだという。
このRX-7が2台目のクルマとなるそうだが、最初の愛車であるスバル・レガシィ ツーリングワゴン(BH5)で運転する楽しさに目覚めた。そこから次期愛車候補としてトヨタ・スープラとRX-7のどちらにするか迷っていたところ、弟のRX-8に乗せてもらい、ロータリーエンジンに衝撃を受けRX-7を選択したそうだ。現在は主に、高速道路でのRX-7の走りを堪能している。現在はお互いが離れたところに住んでいるため、兄弟で走る機会があまりないそうだ。
すでに15年選手であることを考慮して、限界ギリギリのチューニングは考えていない。むしろマージンを取りつつ、長く乗り続けることを最優先に考えている。ゆくゆくは、エンジンのオーバーホールを兼ねたチューニングを検討しているという。
このRX-7のすべてが好きと言い切る兄だが、「ロータリーエンジンは耐久性が低い」という世間のイメージを自らがロータリーエンジン搭載車に乗ることで払拭したいと熱く語る。その眼差しは真剣そのものだ。それはまるで、頭文字Dに登場したロータリー乗り兄弟の兄・高橋涼介を想起させるようだ。
RX-7(FD3S)とRX-8(SE3P)を並べてみる。不思議とRX-8(SE3P)の存在が引き立ったように思えた。
同じ13B型ロータリーエンジンを心臓に持ち、RXシリーズの系譜を絶やすことなく、1秒でも長く延命させようとした、マツダ社員のほとばしる情熱と執念のようなものを感じたからだろうか。それだけに、ロータリーエンジンの系譜が途絶えることは、断腸の思いだったに違いない。そしてそれは現在に至るも途切れたままだ。
だが、2015年に開催された第44回東京モーターショーの華は、間違いなく新型ロータリーエンジン「SKYACTIV-R」搭載した「RX-VISION」だった。幾多の不遇の時代を乗り越え、再びロータリーエンジン搭載車が発売される日もそう遠くなさそうだ。
日本だけではない。世界中のファンもその復活を心待ちにしている。そして、今回の若き兄弟たちが証明してくれたように、次世代の「ロータリー乗り」も確実に育ってきている。孤高の存在であるロータリーエンジンとRXシリーズ。これに魅せられた者たちによって、唯一無二の文化が永遠に途絶えることはないと信じたい。
(編集: vehiclenaviMAGAZINE編集部 / 撮影: 古宮こうき)
[ガズー編集部]
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