日産 フェアレディZ(Z33) 格安オンボロ車を自分の手で修復し、快適なクルマに仕上げた理由
スパークリングシルバーメタリックの日産・フェアレディZ(Z33)で颯爽と現れた『ちょんぺい』さんがクルマ好きになったキッカケは、小学生の頃に友達とはじめた『車名しりとり』。友達に負けるのが嫌で、車名を暗記するために中古車掲載雑誌を買い、雑誌を見ていくうちにクルマ自体に興味を持ち始めたそうだ。小、中、高、専門学校の机の中にはクルマ雑誌が必ず入っていた、と笑いながら話してくれた。
「気付けば、中学生くらいからクルマいじりもするようになっていました。親父の仕事柄、環境も整っていましたしね」
免許を取得してからこれまで乗り継いできたクルマは数十台にのぼるというから、積み重ねてきた経験値や技術は言わずもがなだろう。
フェアレディZを3台手に入れる
現在、ちょんぺいさんはZ33バージョンSとZ34バージョンNISMOも所有していて、今回乗ってきたシルバーのZ33は昨年追加で手に入れた3台目のフェアレディZなのだという。
はじめに購入したZは、8年前に当時乗っていたS14シルビアからの乗り換えを検討していて「FRだしドリフトもできそう」と手に入れたマニュアルのZ33バージョンS。
そして当時はまだ高価で購入できなかったZ34も、2年前に一念発起しほかの所有車を売却して資金を作り購入したという。「最初にZ33を買った時に親父から『どうしてZ34買わないんだよ』と言われたことを根に持っていたんですよね(笑)」とちょんぺいさん。
さらにこのシルバーのZ33を手に入れた理由を伺ってみると「このクルマがAT車だったことに興味があったんです。2ドアクーペのスポーツカーといえばマ二ュアルミッションというイメージがあったし、前から乗っていたZ33はマニュアル車だったので、逆にオートマってどうなのかな?と思って。それと実はこの車両を購入する際、父親から『なんだこのクルマ。あんまりカッコよくないな』と言われたんです。乗りもしないでバカにするなんてひどい!と思ったのと同時に、親父にZ33の良さを分からせて、絶対にギャフンと言わせてやる! と、僕の闘志に火が付きました」とのこと。
現在所有している3台のZには、それぞれの購入理由と役割があるのだ。
おんぼろZ33をラグジュアリーなクルマに仕上げる
インターネットオークションで見つけて20万円で購入したというこのZ33は、2003年式のベースグレードで走行距離は10万キロ越え。隣の県まで積載車でピックアップしに行った段階ではチェックランプ点灯、オイル漏れ、エンジンアイドリング不調、ルーフ塗装もボロボロという状態だったが、ほぼ自分で修理することができたという。
そんなお父様の人柄について伺ってみるとあまり乗り気ではない口調で、親子ということもあってもちろん似ている部分もあるけれど、思考動向が正反対で、一緒には居たくない存在なのだと教えてくれた。
「親父は僕が小さい頃に、レーシングカートチームをやっていたんです。だから、休日に一緒にどこかに出かけたりすることはほとんどなかったなぁ。いずれ僕もカートをと誘われましたが、とにかく親父がやっているというところが嫌で。レーシングカートどころか、親父のクルマのボンネットを滑り台がわりにしちゃうくらいクルマが嫌いでした(笑)。ちなみに親父は今でも240Zを所有しているのに自分のことを『クルマ好きではない』と言い張ってますけどね」
「去年の6月に買って、夜な夜な修理して8月に車検を取りました。いちばん大変だったのはプラグホールのガスケット交換ですね。V型エンジンだから左右同じ作業をするので直列エンジンと比べると時間も2倍かかるし、何をやるにしてもこっちもはずさなきゃ、あっちもはずさなきゃって。さらに困るのは、エンジンルームの中がギュウギュウすぎて手が届かないこと! それが面白くもあるんですけど、前に乗っていたシルビアと比べると整備性が悪いな〜と、流石に心が折れそうになりましたね(笑)」
こうして公道復帰するための整備をおこない、さらに後期用パーツを流用することでバージョンアップもおこなっているのだと教えてくれた。
意外に手を焼いてしまったのが、劣化していたルーフを塗装するために、鈑金屋さんに依頼する前にじぶんでおこなった下地処理作業だという。鉄板が剥き出しになるまで削るそのひと手間があったからこそ、ルーフはピカピカの状態に仕上がっていた。
しかし、ちょんぺいさんは、それを眺めながら腑に落ちない表情を浮かべている。
「塗り直したルーフの塗装だけ微妙に色が違うから、ちょっと気になっているんですよね。当初はルーフをブラックにしようかなと思っていたんですけど、それだとカスタムチックになりすぎるし、もうそういう年齢でもないかなって。もう1台のZ33はブラックルーフだし屋根を切ってサンルーフも付けてるから、デザイン的に被っちゃうかなって思ったこともあり、踏みとどまったんですよね」
所有する3台のフェアレディZをそれぞれ違う雰囲気にするために、このZ33はブラックルーフではなくボディ同色に仕上げたのだという。
ちなみにこのZ33のコンセプトは“ローコストでどこまで楽しめるか”。例えば、フーガのブレーキキャリパー&ローターを流用したり、後期エンジン用のフロントパイプを流用したりと、純正部品を使いながらカスタムを楽しんでいるのだという。誰でも真似できるような、ローコストチューンをしていきたいと話してくれた。
修理できた時の達成感が好きで夢中になって作業したというちょんぺいさんだが、2ヶ月という短期間で公道復帰までこぎつけることができた大きな理由は『ATのZに乗りたい!!』という願望を抑えきれなかったからだという。
「良い意味で予想を裏切られましたね。ついこの間、ミニサーキットを走ってきたんですけど、コンピューターセッティングが変更されていることもあって、全然ケツは流れるし、思っていたよりも速かったんです。そしてなりより運転しやすい! マニュアルだとシフトチェンジをしている間にATだと進めるんです。ただ、前に乗っていたシルビアと比べたら動きがゆっくりでラグジュアリーな感じで、ガチガチのスポーツ走行向けではないのかなと。でも、それもまた良くて。このクルマに乗ると、Z33のオートマって意外と楽しいっていう人が多いんじゃないかと思いますよ」
お父さんに認められる
VQ37エンジンが搭載されるZ34も所有しているけれど、Z33の前期モデルに搭載されるVQ35DEエンジンが自分には1番しっくりくるというちょんぺいさん。
AT車のZ33のエンジンフィーリングはかなり良かったうえ「実際に乗っているうちにこのクルマは日常使いこそベストだと分かった」と自信ありげににっこり笑った。
難を言えば、見栄えを重視して車高を少し落としてしまったため、乗り心地が硬く突き上げ感が出てしまったこと。これではZ33の良さが薄れてしまうため、足まわりは近いうちに見直そうと考えているそうだ。
そんな話をしていると、ふと顔つきが変わり、お父様をはじめてこのZ33に乗せた時のようすを教えてくれた。
「このAT車のZ33が仕上がったあと、いざ乗せてみたら『うわぁ、これいいなぁ!やっぱZは違うなぁ!』とか言いはじめたんですよ。トルクや加速も良いし、剛性がめちゃくちゃ良いって言っていましたね。乗っていてシッカリ感があるよねとも。いやいやいやいや! あんなに貶してたじゃねえかよ!って思わず突っ込んでしまいました(笑)。でも『親父にZ33の良さを分からせてやる!』という当初の目的は果たせたのかなと思います。まぁ正直に言うと、最初にZ33を購入して実際に乗るまでは、僕も特にZが好きなわけではなかったし、のっぺりしていてなんかダサいなぁとさえ思っていたけど、今となってはカッコいいと感じているし、エンジンにも魅了されちゃってますけど(笑)」
「VQエンジンに魅了されてからは、毎年夏に『東北VQmeeting』というVQエンジン搭載車のオーナーズミーティングを主催するようになりました。はじめはなんとなく買っただけでZが好きっていうわけではなかったんですけど、気づけばミーティングも7年目。いつの間にかどっぷりハマっちゃいましたね」
ちなみに、ちょんぺいさんが最初にフェアレディZに乗ろうと思ったのは“親子でフェアレディZ乗り”というのが面白いかなと考えたのがキッカケだったという。
今でも240Zを所有しているのにクルマ好きじゃないと言い張るお父様と、そんな父親を嫌いだと言いつつ影響はしっかり受けているちょんぺいさん。
多分、いや“確実に”このおふたりは似たもの親子だ。
取材協力:盛岡競馬場(OROパーク)
(⽂: 矢田部明子 / 撮影: 平野 陽)
[GAZOO編集部]
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