オーナー自らラッピングを施工、「ガルパン仕様」のスバル・エクシーガ(YA5型)。オーナーから知る、痛車の今とは?

「痛車」とは、アニメやマンガ、ゲームのキャラクターなどを車体にラッピングを施したクルマである。

車体に表現される世界があり、痛車乗りそれぞれに流儀がある。近年では痛車のGTマシンが活躍している。さらに、自動車メーカーが公式に痛車を発表、ある地域では痛車のタクシーまで運行されているそうだ。痛車は、文化として市民権を得つつあるように思う。

「痛車の魅力は、オーナーのアイデンティティが表現できるところにあると思います。好きなキャラクターが分かりますし、デザインにもオーナーらしさが反映されるので面白い世界ですよ」。

そう話すのは、痛車仕様にラッピングしたスバル・エクシーガに乗る25歳の若き男性オーナーだ。今回は痛車の世界、そして愛車への想いを彼に詳しく伺ってみた。

オーナーは、スバルのディーラーでメカニックを務める、穏やかな物腰の好青年。日々の接客で培ったと思われる、丁寧な言葉遣いが印象的だ。

「私の愛車は、2009年式のスバル・エクシーガ2.0GT Aタイプ(以下、エクシーガ)です。乗り始めて4年目になりました。購入当初の走行距離は7万5000キロでしたが、手に入れてから現在まで3万キロ走っているので、トータルでまもなく11万キロになります。車体に描かれているのは『ガールズ&パンツァー』という作品で活躍する『ローズヒップ』というキャラクターです。デザインは痛車乗りの友人にお願いしました。このクルマで一人旅に出かけて、車中泊もしますよ。釣りが趣味なので、友人たちと釣りへ行く時にも乗っています」。

かなりアクティブなカーライフを送るオーナー。彼がクルマ好きになるきっかけは何だったのだろうか。

「明らかにクルマが好きな父の影響を受けていますね。小さい頃は、父が遊んでいたゲーム『グランツーリスモ』に登場する、青いR34スカイラインGT-Rがお気に入りでした。青いクルマが好きで、将来は青いクルマに乗ると幼心に決めていたようです。このエクシーガも青なので、そういうものだなと(笑)」。

車体に描かれているキャラクターは、ガールズ&パンツァーの劇場版に登場する人物の一人で、ファンの間でも人気が高い。エクシーガのスタイリングを活かしたラッピングは、凜とした存在感を放っているように映る。そこで、このクルマの「お気に入りポイント」をオーナーに伺ってみた。

「特に、リアからの眺めが好きです。ワゴンなのでストンと落ちているスタイリングが、他のスバル車には見られない美しさだと思います。例えば、レガシィやレヴォーグを見ると、リアガラスが若干、傾斜しているので、見比べてみるとよく違いが分かるんです。このスタイルが、自分の中ではとてもカッコいいと満足しています。後はリアバンパーとフェンダーの間の、ちょっとした『膨らみ』も気に入っています」。

このエクシーガは、2008年に誕生したミニバンタイプの7人乗りモデルだ。ボディサイズは全長×全幅×全高:4740 x1775 x1660mm。排気量1994cc、オーナーの愛車はターボモデルの「GT」で、DOHCターボエンジンを搭載、最大出力は225馬力を誇る。ボディカラーが「サファイアブルーパール」に塗られた個体は希少である。2015年よりSUVモデル「クロスオーバー7」として生まれ変わった(このクロスオーバー7は、2018年3月をもって生産終了が決定している)。居住性とスポーティーさを両立させたこのエクシーガを、愛車に選んだ理由とは何だろうか。

「スバルのディーラーで働いているので、仕事でお客様の愛車を扱う機会が多く、乗りやすいと感じたクルマがXVとエクシーガでした。両車とも、当時乗っていたトヨタ・ソアラ(Z30型)に比べてラッピングできる面積が増えるので、カッコよく仕上がりそうな気がしました。ターボモデルが欲しかったので、設定があるエクシーガに惹かれましたね。後日、父と一緒にショップへ見に行き、サファイアブルーパールのこの個体と出会い、購入を決めました」。

このクルマには、周囲の目を引きつけるほどインパクトを持つラッピングが施されている。街中でこのクルマを見かけたら思わず振り返ってしまうほどだろう。自然と注目を浴びるこのクルマに乗っていて、周囲のリアクションはどうなのだろうか。

「信号待ちなどで知らない人に、携帯電話やスマートフォンで撮られたりしますね。窓を開けて走っていると、大型トラックのドライバーに『いくらかかっているの?』と話しかけられることもしばしばです。でも、声をかけられることは好きですね。それもかなり(笑)。あと、外国の方々に写真を撮られると嬉しいです」。

若いオーナーに出会うとつい、クルマ好きの原点や愛車遍歴が気になってしまう。メカニックでもある彼は、エクシーガの他にどんなクルマと暮らしてきたのだろうか。

「免許を取得してまもなく手に入れたトヨタ・ソアラ(Z30型)も痛車にしていました。購入当時の走行距離は15万キロでしたが、20万キロ乗った時点で手放しました。ソアラとエクシーガの間に、通勤車を兼ねてスバル・ヴィヴィオRX-Rに1年ほど乗っていましたが壊れてしまい、現在は、新たな通勤車のスバル・プレオバンとの2台体制です。このエクシーガに乗るようになってから、痛車乗りはもちろん、たくさんの仲間が増えました」。

通勤用のクルマは別に所有しているものの、車検やクリーニングのためにエクシーガで出社することもあるというオーナー。痛車に対して職場仲間の反応はどうだったのだろうか?

「最初は、みんな『え?』という表情をしていました。そのうち、痛車オーナーのお客様が増えたこともあり、自分のクルマも含めて“痛車に親しんでもらえている感”はありますね」。

愛車に施されたラッピングは、なんとオーナーが一人で施工したという。「今ではどんなクルマを手掛けても自信をもって施工できる」ほどの腕前だそうだ。そのような「プロ並みの技術」は元々あったのだろうか。

「私は学生時代、NATS(日本自動車大学校) のモータースポーツ科に在籍していました。この科で所有していたフォーミュラカー(F-4)のカラーリングチェンジを担当させてもらったのが、初めてのフルラッピング施工でした。白いエアロパーツを艶消しブラックでフルラッピングし、緑のラインと協賛ステッカーを入れたのですが、フォーミュラカーのボディは、普通のクルマと違って凹凸や曲線がキツく、かなり苦労しました。完成後のお披露目は、なんと東京モーターショーだったんです。たくさんの人に見られるので、緊張した思い出があります」。

オーナーはこれまで、30台以上もの痛車仲間の愛車のラッピングを手掛けてきている。今や、プロ顔負けの技術は、どのように培われてきたのだろうか。

「最初は、プロの施工を見ながら練習をしました。道具も揃えていって、今ではカッターナイフを数種類とナイフレステープを駆使して施工しています。コツは、気泡を丁寧に抜くことでしょうか。最近の素材は、糊面に凹凸がつけてあって空気が抜けやすく、貼りやすいですよ。気泡が入れば剥がして、ヘラやタオルで押さえて地道に貼り、それでも気泡が入るならドライヤーやヒートガンをあてながら少しずつ貼り直します。作業時間は休憩を除いて平均10時間です。借りている作業場は料金がかかるので、必ず1日で仕上げられるように進めていますね。このエクシーガの場合はボンネットだけ先に自宅でラッピングしていたので、多少は作業時間を短縮することができましたが、ボディサイドのラッピングが一番苦労しました(笑)。フェンダーからリアフェンダーまで1枚で貼っているので、ドアノブに近くなったりすると歪みやすくなってしまうのです」。

ラッピングのこだわりもさることながら、モディファイも「自分色」に染め上げている。

「今月、新品の車高調整サスペンションキットCUSCOのStreet ZERO Aに交換したばかりです。マフラーはセンター・リアともHKSのエスプレミアムで、お気に入りだったGANADORのマフラーが排気漏れを起こしてしまったので交換しました。ホイールは19インチのWORK MEISTER S1Rと18インチのProdrive GC-010Eを場面で使い分けています。ヘッドライトは現行モデルのものに交換していますね。その理由としては、内部の黄ばみがとれなくなってしまったためです。ステアリングはソアラに乗っていた頃から愛用していたMOMO DRIFTING。シフトノブは3年前、イベントで購入したVarisのレッドカーボン調タイプ。シートは友人から譲ってもらった、スバル・インプレッサ WRX Sti スペックC (GRB型)の純正レカロシートです。このシートは大阪まで取りに行きました。ドアミラーのウインカーはメッキタイプのLEDを購入して、スモークシールでカスタムしました。他にもスモール灯、ナンバー灯、バックライトをLEDに交換しています。ルーフスポイラーも現行のものに交換していて、形状の違いをカラーリングで強調させています。さりげなくアクセントにもなっているのではないかと思います。ルーフキャリアには、私の趣味である釣り関連の道具を収納しています」。

ここで、思い切って尋ねてみたかったことがあった。未だ、根強く残る「痛車に対する世間の誤解について」だ。ブームになり始めた頃、メディアに取り上げられた際にキワモノ扱いされ、美少女アニメがグラフィックに多用されることからマイナスイメージがフォーカスされたことが少なからずあったはずだ。痛車オーナーは「オタクのステレオタイプ」という世間の誤解について、彼はどのように捉えているのだろうか。

「痛車乗りはアニメ好きでオタクに映るかもしれませんが、決して『会話が通じない』や『アニメしか知らない』など、世間で言われているようなほどのイメージではないように思います。個性的な人、何かの専門分野に特化した人が多いという認識はありますね。好きなものをディープに愛している人が多いだけなのです。そんなわけで、どうか偏見を持たずに広い視野で見ていただけたら嬉しいですね。私が痛車に乗り始めた当初も、ご近所の子どものお母さんから怪訝そうに見られていたようでしたが、挨拶をするようになってから、会話を交わすようになりました。今は友人の痛車が来ると『カラーリングも違うのね』と声をかけてくださったりもします」。

おそらく若い世代では、もはや「オタク」に対しての壁はほとんどない。むしろ、堂々と趣味を楽しんでいることを、外野から嘲笑・批判するのは、彼らより年上の世代の偏見なのかもしれない。もしそうだとすれば、そのような偏見こそ、逆に若い世代から蔑まれてもしかたないのでは、とすら感じるのだ。

最後に、エクシーガとの今後のカーライフについてオーナーに伺ってみた。

「そろそろラッピングの貼り替えをしたいと思っていまして…。この先もコロコロと仕様は変わっていくとは思いますが、自分色に染め上げて全国に出かけていきたいです。もし見かけた際には、撮影したり、話しかけていただけたら嬉しいです。SNSにもたくさん載せてもらいたいですね。痛車はこれからも続けるでしょう。50歳になる痛車乗りの方もいますし、年齢を重ねても、その時に合ったスタイルで続けていけたらと考えています」。

もしかしたら、オーナーのような若者こそが、これからの日本のクルマ文化を守っていく存在なのかもしれない。もし、あなたの街でサファイアブルーパールの痛車エクシーガを見かけたなら、ぜひ気軽に話しかけてみてほしい。穏やかな好青年が、笑顔で応えてくれるはずだ。

(編集: vehiclenaviMAGAZINE編集部 / 撮影: 古宮こうき)

[ガズー編集部]