ヴォクシーG's風のノア? 「自分で作り上げた宇宙船」

  • ヴォクシーG's風のトヨタ・ノア(ZRR70)

    ヴォクシーG's風のトヨタ・ノア(ZRR70)

事前取材の際に「ノアで伺います」と話していた藤村優樹さんが取材会場である盛岡競馬場に現れた姿を見て、取材陣の頭の上に「あれ?なぜ?」とクエスチョンマークが飛び交った。それもそのはず、現れたクルマはどこから見てもノアではなくヴォクシーだったのだ。
そう、実はこの車両はオーナーの手によって顔面移植をはじめとする数々のこだわりカスタムが施された“原型を留めていないノア"なのである。詳しくお話を伺ってみることにした。

初代ヴォクシーの前期モデルと後期モデルを乗り継いできたという藤村さんが、もらい事故でヴォクシーが廃車になってしまったことから現在の愛車に乗り換えたのは5年ほど前。
「白いボディカラーでサンルーフ付きの70系ヴォクシーが欲しかったんですが、見つからなかったので妥協してノアを購入しました。サンルーフは自分で付けられないけど、姉妹車だから顔面移植ならできるんじゃないかな!って(笑)。そうしてヴォクシールックにするための部品を探しているうちに、後期モデルに追加設定されたG'sの存在を知って、せっかくならコレにしようと思ったんです」
“操る楽しさ”にこだわってトヨタが企画・開発したカスタマイズモデル「G SPORTS」(通称G's)の第一弾として選ばれたノア&ヴォクシーには、専用のエクステリアパーツやサスペンションなどが装着されており、藤村さんはこのG'sのフロントフェイスに心惹かれたのだという。

こうしてさっそくノアからヴォクシーへの顔面移植に取り掛かった藤村さんだったが、その道程は「難解というレベルではなく修行だった」とのこと。
というのも、ベースとして手に入れた2008年式の前期型ノア(ZRR70)に対して、ヴォクシー G'sのパーツは後期型のためヘッドライトの形状などが異なり、フロントバンパーやグリルも交換する必要があったという。
部品やパーツを集めるのは気の遠くなるような作業だったが、ディーラーやSNSの助けを借りて、フロントバンパー、フロントグリル、フロントフェンダー、ボンネットを交換し、フロントまわりをG'S仕様にチェンジすることに成功したという。
G'sならではのメッキグリルをあしらったフロントフェイスを眺めていると、感無量といった気持ちになると深く頷きながら話してくれた。
もちろん、フロントだけではなく、リアもしっかりとG's仕様になっている。リアバンパーやマフラーは2本出しだ。

ところで、藤村さんは、何故こうまでしてサンルーフ付きの車体にこだわったのだろうか?
「田舎に住んでいるということもあって、サンルーフを開けて走ると鳥の声がダイレクトに聞こえるし、夜に車内から空を見上げると星がとても綺麗に見えるんです。あっ!あとは、夏になると盛岡で花火大会があるんですけど、顔を出して花火の写真を撮れるという使い道もあります(笑)。そういう、サンルーフがついているからこそできる、車内の過ごし方をしたかったんですよね」

自然の中をドライブするのが大好きで、通勤で往復100kmの距離を走るという藤村さんにとって、車内の居住性はかなり重要なポイント。そのため、REALのステアリング、社外品のインテリアパネル、オーダーメイドのダッシュマット、Defiの油温計・時計・電圧計・油圧計、G's仕様のフロアカーペットなど、外装だけではなく内装にもこだわりが感じられる。

数あるカスタムの中でも、お気に入りポイントでもあり1番苦労した部分でもあるというのが『自作LED打ち替えエアコンパネル』とのことだ。
基盤に埋め込まれた0.5mm のLEDをはんだゴテで1つ1つ丁寧にはがし、白色から青色に取り替えていくそうだが、細かな単純作業に思わずため息をこぼしてしまうこともあったという。エアコンパネル、メータースイッチ、ドアスイッチ、運転席、助手席、後部座席、エンジンスタータースイッチ、ドア開閉スイッチなど、その数は50カ所以上あったという。
その説明を一通り聞いたあと、藤村さんが「こんなにも頑張ったんですけど、今は変換キットが出ていて、それを使うとかなり簡単にできちゃうそうです…」と、乾いた笑みを浮かべた。いやいや!苦労した分、愛着が沸くはずです!と取材陣全員でフォローしたのは言うまでもない。

「このクルマのコンセプトは『宇宙船しろちゃん号』なんです。『アポロ13』という映画が大好きで100回以上観ているんですけど、劇中に登場する宇宙船・アポロ13号をイメージしてカスタムしているんです。だから、車内を青いLEDイルミネーションで光らせたかったんですよ。ドアポケットにはSilk Blaze のLEDブラックホールを装着しているんですけど、これでかなり宇宙船感が出せたかなぁと思っています。暗くなってから車内に乗り込むと、青い淡い光に包まれ、本当に宇宙に行っている気分に浸れるんですよ」

「それに、アポロ13号って月に行くんですけど、爆発事故などのトラブルや困難を乗り越えていくんです。ノアもヴォクシー70G'S仕様に改造するにあたって、いくつもの困難を乗り越えていったので、そういうところもアポロ13号っぽいなぁと思っています(笑)」
ほとんどの部品を解体屋やオークションで購入し、取り付けや塗装加工もすべて自分で行ったことも、映画のように宇宙船を修理しているようだったと話してくれた。

そんな藤村さんだが、宇宙船(G's仕様のノア)の乗り心地をさらに良くするために、テインの車高調、タナベのストラットタワーバーとアンダーブレース、カワイ製作所のリヤピラーバーを装着し、スポーティーな走り味に仕上げているという。
「バーを入れて峠を走ると、ノアとは思えないスポーツセダンのようなクイックなハンドルになって、全然よろけないんです。特に違いを感じたのは、リヤピラーバーを入れた時ですね。剛性が高まり、横揺れが全然なくなって、シャキッと走ってくれるようになりました。実家に帰る時に必ず峠を通るので、その度に『やって正解だったなぁ〜』としみじみ感じます(笑)」

ちなみに藤村さんはこのノア以外にもトヨタ・MR2(SW20)を所有。フェニックスパワー製のフルエアロを装着するなど、こちらでも見た目も走りも楽しんでいるという。

「ここまで外装、内装、走行性能のことばかり話してきましたが、購入を決めた最大の理由は、利便性が良いところなんです」
月に1回のペースで釣りに行くという藤村さんにとって、釣り道具や車中泊が余裕でできるミニバンは欠かす事のできない存在というわけだ。
「それこそ、来週も釣りに行くんです(笑)。日の出と共に竿を振り始めたいので、寝坊しないように前乗りするというのが僕のパターンなんですけど、後ろのシートを倒して吸盤で付けるカーテンを貼って横になると、本当に快適に眠れるんですよ。そうやって寝転んだ時に、サンルーフから満点の星空が見えるんです。ワカサギ釣りをする時は、寒いからとくに夜空が綺麗に見えますよ。見た目うんぬんの話をたくさんしましたけど、僕の好きなこととか、趣味を一緒に楽しんでくれるクルマだとというところが、1番好きです」

藤村さんいわく、見た目のカスタムはもちろん、日常使いを楽にしてくれるカスタムも好きだという。
例えば、モデリスタのバックドアガーニッシュ。積雪量が多い盛岡では雪が積もるとバックドアが開かなくなるが、このアイテムを装着していることで、バンパーの上に雪が積もらず開けやすくなるのだそうだ。
また、リヤワイパーは積雪の重さで折れ曲がってしまうのを防ぐため、ワイパーの取り付け方を縦向きに変更しているという。

「なんというか、生活に欠かせないクルマなんですよね」と言いながら見せてくれた笑顔がとても印象的だった。
所有してから5年で10万kmを突破したというノアは、メンテナンスしながらまだまだ乗り続けていくそうだ。

取材協力:盛岡競馬場(OROパーク)

(文 : 矢田部明子 / 撮影 : 平野 陽)

[GAZOO編集部]