ハチロクから86に乗り替えたからこそ感じる、約30年分の進化とは?
いまだにAE86型(以下「ハチロク」)レビン/トレノというクルマの在り方にシンパシーを感じているユーザーは多いのではないだろうか。今回のオーナー氏もその1人だ。長らくハチロクを所有していたが、ふとしたきっかけでトヨタ・86(以下「86」)がデビューすることを知り、購入を決意。さらにマイナーチェンジされた後期モデルに乗り替えて現在に至る。今回はそんなオーナー氏に迫ってみたい。
86のオーナー氏は、ある輸入車正規ディーラーのメカニックとして長年勤務し、現在は家業を切り盛りしている自動車のプロフェッショナルだ。プライベートでは友人のプロドライバーたちとサーキット走行を楽しむ。後述するが、今回の86のモディファイもオーナー氏自ら行っている。現在所有しているのは、新車から22年間所有しているという日産・スカイラインGTS25tタイプM(ECR33)、スバル・レガシィ ツーリングワゴン(BH型)、そして86の3台だ。頻繁に乗り替えるようなことはせず、1台のクルマとじっくり長く付き合うタイプだ。
「ハチロクは12年、前期モデルの86には4年乗りました。後期モデルにあたるこの86は手元に届いて1ヶ月半くらいです」。意外にも、オーナー氏は熱狂的なハチロク&86マニアではないという。「あるとき、自分のドライビングをきちんと学び直そうと思ったんです。三菱・ランサーエボリューション(5または6)やスバル・インプレッサ(GC8)も考えました。でも、自分としてはFRにこだわりたかった。そこで縁あってハチロクを手に入れたんです」。このハチロクはある雑誌のデモカーとしてもたびたび誌面に登場していた。ひょっとしたら「WRブルーのボディカラーを纏ったハチロク」でピンとくる人がいるかもしれない。
「仕事の関係でポルシェ911GT2(993)のメンテナンスをしたときのことです。リフトアップしてクルマを覗き込むと、明らかにノーマルの911とは造りが違うんですね。走りも次元が違う。かといって無闇にパワーを上げているわけでもない。メンバーの取り付け角を変えたり、地道な仕様変更を積み重ねたことで形成される、高次元でバランスが取れたクルマだと感じました」。仕事を介して多くの特別なクルマに触れたことで、パワー重視、モディファイ重視だった自身の嗜好が変わっていった。その体験がハチロクを所有する動機へとつながっていくのだ。
「ハチロクは本当に楽しかったですよ。荷重移動やロスを減らす走りだけでなく、タイヤやサスペンションの動きを身体で感じながら操ることを学びました。ハチロクで何度もショートコースのサーキットへ行きました」。しかし、エアコンの効きが弱い…等々、日常の足として不便な点も気になっていた。そんなとき、トヨタから86が発売されることを知る。「ハチロクの復活版でありながら、実用性も兼ね備えている。求めていたクルマはまさにこれだと感じました」。こうして12年間所有していたハチロクを知人に譲り、86の前期モデルを手に入れることになるのだ。
「今回、GAZOOの取材だからということを抜きにして、現代に適合した安全性やエンジンパワーなどを考慮していくと『ハチロクを現代向けにアレンジしたらこうなるよな』と感じました。限られた条件やリソースの中で、ユーザーが手を入れる余地を残してくれていることも嬉しかったですね」。しかし、1台目の86は4年ほどで後期モデルに乗り替えることとなった。なぜだろうか?
「白状すると、1台目の86が思いの外、いい値段で買い取ってもらえることになったんです。前期モデルとしては定番のトラブルもひととおり経験し、これから維持費も掛かるかなと思っていたタイミングで後期モデルが発表されました。1台目の86に取り付けていた部品の移植もできそうですし、スーパーチャージャーを取り付けようと思って用意していた資金を足せば、わずかな追金で乗り替えられるということが分かってきたんです。それに、後期モデルがどれくらい進化したか、正直気になっていましたし…」。
こうして、後期モデルの86がオーナー氏の元へやってきた。グレードは「GT」。プロのメカニックだけに、自分で部品を交換するのは朝飯前だ。エアロはフロントとサイドステップがTRD製、リアバンパーはマフラーとの兼ね合いでモデリスタ製をチョイス。どことなく輸入車のような佇まいを感じさせるのはエアロの影響だろうか。近日中に輸出用の大型スポイラー(通称「ニュル羽」と呼ばれている)を取り付ける予定だという。ホイールはレイズ製のTE37SL。ライセンスライトとバックライトをLEDに交換している。インナーフェンダーにHKS製オイルクーラーを装着。足まわりもHKS製の車庫調がセットされている。ブレーキパッドはBRIG製だ。内装は、TRD製クイックシフトを組み込み、運転席のみレカロ製フルバケットシートが装着される。今となっては懐かしい「SPG」というモデルだ。ドアパネルなどは限定車であるイエローリミテッドの部品を取り寄せ、さりげなくモディファイされている。
前期モデルから後期モデルに乗り替えて、違いは体感できたのだろうか?「実は試乗することなく購入したので、納車時が初ドライブとなりました。それでも、最初のひと転がりで走りの違いを体感できましたよ。すぐにフルノーマルの状態で日光サーキットを走ってみました。無闇に電子制御も介入してこないし、前期モデルでネガティブに感じていたところが見事に解消されていて、地道なアップデートを繰り返して進化したことが実感できました」。このとき、オーナー氏はもちろん、現役のプロドライバーの友人たちも試乗したそうだが、コントローラブルな特性に驚いたそうだ。
「若いときならともかく、今後、モディファイするとしても合法的に仕上げたいと思います。86好きが見てくれたときに「オッ!?」と気づいてもらえるような、そんなさりげなさを大切にしたいですね。それに、今のクルマは素人がおいそれと手を入れられるような造りではなくなったように思います。その点、旧車ならプライベーターでもメンテナンスできる余地がありますよね。そこに魅力を感じている方もいるような気がするんです。86はそんな古き良き時代を感じさせる最後のクルマなのかもしれませんよね」。
公私の枠を超えてクルマの本質を見続けてきたオーナー氏だけに重みのあるコメントだ。ハチロクが長らく愛されているように、20年後の日本において86も「あのころのクルマは良かった」といった特集で紹介されているかもしれない。昨今のハチロクの価格高騰にも驚かされるが、ひょっとしたら86も同じ道をたどることになるのだろうか。
(編集: vehiclenaviMAGAZINE編集部 / 撮影: 古宮こうき)
[ガズー編集部]
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