クラウンアスリート 震災で愛車を失った寂しさを癒してくれた55周年記念モデル

  • クラウン アスリート(GRS200)

2011年3月11日、14時46分に発生した東日本大震災は、東北地方の太平洋沿岸に大きな爪痕を残し、今現在も復興の道を歩み続けている。なかでも三陸エリアは40メートルを超える津波によって甚大な被害を受け、世界中に大きな衝撃を与えた。
そんな津波被災者の中には、生命こそ助かったものの家財道具を流されてしまい、生活を取り戻すために大きな苦労を強いられた人も少なくない。そんな被災者のひとりが、この2011年式トヨタクラウンアスリート(GRS200)のオーナーである伊達styleさんだ。

『若い頃に乗っていたトヨタ・マークⅡ(GX71)にもう一度乗りたい』という思いから当時乗っていたBMW・525(E39)からの乗り換えを決意したという伊達styleさん。希望に合致する個体をようやく見つけ出して東京から石巻まで持ち帰って1年が過ぎたタイミングで、あの震災が起こってしまったという。
「やっと見つけたGX71マークⅡは若い頃のイメージで、白いボディにガンメタのBBSホイールを装着して“ハイソカー”スタイルで乗ろうと、クルマを探しながらパーツも集めていたんですよ。しかしあの震災でクルマが流されてしまって、その後に見つかったものの廃車に…集めていたパーツも見つけることはできましたが、モチベーションが下がりきっていたので改めてGX71マークⅡを探す気力も無くなってしまったんです」

未曾有の大震災の中、クルマの心配をするのは不謹慎と言われるかもしれないが、家族同然のように愛情を注いでいた愛車がなくなってしまった喪失感は、クルマ好きならば想像に難くないのではないだろうか。

そんな伊達styleさんが震災後、新たな愛車として迎え入れたのがこのクラウンアスリート。クラウンとして13代目に数えられるモデルであり、そのなかでもクラウン誕生55周年記念特別仕様車“Anniversary Edition”となっている。

「震災後に改めてクルマを探していた時に、旧知のショップでクラウンの55周年記念車が出たよって話を聞いたんですよ。それじゃあクラウンに乗ろうかなって思ってディーラーで新車購入しました。そういった意味では当初の思い入れはGX71マークⅡほどではなかったかもしれませんが、新車から好みのスタイルを作り上げていくうちに、思い入れもどんどん増していった感じですね」

「これから楽しんでいこう」という矢先に愛車を失って落ち込んでいた気持ちから心機一転クラウンを購入し、GX71で果たせなかったスタイリングを目指して徐々にカスタマイズを進めていったという。

アスリートらしくスポーティな印象に仕上げるためにTRD製エアロパーツをセット。派手なアフターパーツブランド製ではなく、直系ブランドのディーラーオプションを選択したのは、上品なスタイリングを目指した結果であり、ディーラーへの入庫に支障がないようにという配慮もあってのこと。

いっぽうリヤまわりは理想のスタイリングに向けて2度にわたるバージョンアップを重ねているという。
もともとは純正装着のガーニッシュが装着されていたが、マフラー交換と合わせてモデリスタ製のリヤスカートに変更。さらにその後、さらに理想形に近づけるためにジースプロジェクト製マフラーとトムス製リヤスカートに交換したそうだ。

ホイールはGX71マークⅡでもBBSをチョイスしていたことから BBS・LM-Rの2016リミテッドバージョンを選択。走りを楽しむためにブレーキパッドはエンドレスのスポーツ用をチョイスし、街乗りから長距離ドライブまで安心のスペックに高められている。
また、足まわりは上品なフォルムを目指して車高調で適度にローダウン。レクサス・IS-Fのスタビリンクやレクサス・GSのステアリングラックハウジングブラケットなども流用しているという。
「レクサスの車両って欧州車的な乗り味が強いと思うんですよ。だからレクサス用の純正パーツを流用して、以前乗っていたBMWのような印象に近づけていければって思っているんです」
さらに、クラウンらしい上質な乗り心地を楽しむため、剛性や静粛性のアップを狙ってTRD製ドアスタビアライザーなども追加しているという。
これまで乗り継いだ様々な車種の中から、BMWやGX71など自分好みのクルマのいいところをクラウンに落とし込むために、細部まで研究しながら作り込んでいるというわけだ。

クラウンの象徴とも言えるフロントの冠マークは、スリット内を赤くペイントすることでモノトーンの中にアクセントをプラス。トランクリッドのコーポレートマークも金×黒に変更してイメチェンをはかっている。
こうした細かいアレンジによって“自分だけのクラウン”に仕立てあげることで、愛車への愛着もさらに増していくというものだろう。

リヤフェンダーにはレクサス・RC-F用フェンダートリムを装着。GX71マークⅡで目指していたハイソカー構想を踏襲し、法令を遵守しながら派手になりすぎない大人なセダンに仕上げるためのパーツ選びには、さまざまなこだわりが詰まっているのだ。

純正インテリアはボルドーステッチが施されたステアリングやシフトノブなど、アスリートの55周年アニバーサーリー専用装備が特徴。フロントグリルの王冠エンブレムの赤色は、このステッチカラーからヒントを得たコーディネートだという。

新車からのコンディションを維持することを目的に、ドア内張にはビニールの保護シートが貼られたまま。普段使用しないリヤシートにも納車時のビニールがかけられた状態をキープしている。これらは長く大切に乗り続けたいという思いが反映されているポイントと言えるだろう。

搭載エンジンは2.5リッターV6の4GR-FSEを搭載。フルカバーされたエンジンルームは見た目のクリーンさはハイエンドサルーンらしい仕立て。
「排気量自体がGX71よりも500㏄ほど大きく、さらに進化していることもあってパワフルで長距離も快適に走れますね。コロナ禍以前は栃木県で行われたクラウンのオーナーミーティングなどにも参加していたんですが、高速道路もストレスなくクルーズできるのは、乗っていて楽しい部分でもあります」

オリジナリティを高めるひと工夫として、ヘッドライト本体をバラしたのちにスモールランプ全体的に光が広がるようにテープLEDを組み込むワンオフアレンジも加えられている。

リヤガラスに貼られたステッカーはお世話になっている宮城トヨタグループのマーク。震災での被害から新たな愛車を手に入れたことによって、ディーラーをはじめとした多くの人たちと繋がり、同時に深い絆を紡ぐ架け橋となったクラウンは、伊達styleさんにとって、まさに他に代えがたい相棒となっている。

「おかげさまで愛車を購入し、乗り続けて10年を迎えることができました。宮城トヨタ自動車MTG日の出町の高橋さん、MTG扇町の皆さん、さらに大崎市のダッキーズ・オート・カー・ワークスの佐藤社長、岡野さん、石巻市の小松自動車工業の皆さん。今までの感謝とともに、これからも維持のご支援をよろしくお願いいたします」

ちなみに10年の経年を思わせない美しいコンディションは、日々の扱いにも気を配っているからこそ。例えば洗車は手洗いが基本で、冬場でも路面が乾いている時にしか乗らないなど、ダメージの原因は極力避けているという。これだけの愛情を注いでいるのは、やはりクルマに対する愛情が深い証拠でもある。
新車購入から10年、4万5000キロの走行距離を安全に楽しめたのは、サポートをしてくれた人たちのおかげでもある。そういった縁を大切にしながら伊達styleさんとクラウンは、これからも長く走り続けていくことだろう。

取材協力:盛岡競馬場(OROパーク)

(文:渡辺大輔 / 撮影:金子信敏)

[GAZOO編集部]