クルマ造りのプロも虜にする2020年式トヨタGRヤリス RZ ハイパフォーマンス 1stエディション(GXPA16型)

  • トヨタのGRヤリス

いま、手元にGRヤリスのカタログがある。

少年時代から国内外のあらゆるクルマのカタログに目を通してきたつもりだが、GRヤリスのそれに記された文面はあきらかに筆圧が違うと感じるのは気のせいであろうか。うわべだけの美辞麗句を並べたものではなく、さまざまな制約をくぐり抜けた末にこのクルマを世に送り出した「作り手の本気度と熱量」が文面を通じてひしひしと伝わってくるのだ。

これほど所有欲を掻き立て、オーナー予備軍を惑わせるクルマ、そしてカタログも珍しい。もし自分自身がGRヤリスを契約できたなら、納車日を心待ちにしつつ、毎晩のようにカタログを読み込み、悦に入りながら眠りにつくに違いない(笑)。

今回は、そんなGRヤリスの魅力にいち早く気づき、モリゾウ(豊田章男社長)さんのサインがフロントガラスに刻印されたRZ ハイパフォーマンス 1stエディションを所有するクルマ作りのプロフェッショナルのエピソードをご紹介したい。

「このクルマはトヨタGRヤリス RZ ハイパフォーマンス 1stエディション(GXPA16型/以下、GRヤリス)です。一昨年に購入して、これまで8500キロ走破しました。いま、私は59歳です。“通勤スペシャル”として購入したこのGRヤリスの他に、新車で手に入れてから今年で30年になるロータス エラン(M100型)を所有しています」

去る2020年9月4日に発売されたGRヤリス。当時のプレスリリースには「新型車GRヤリスは、TOYOTA GAZOO Racing WRT(World Rally Team)に学んだ『WRCで競争力あるクルマづくり』や、開発初期からの社外プロドライバーによる評価によって、世界のあらゆる道でも思い通りに操れ『誰もが安心して意のままに運転できる』クルマとして誕生。マスタードライバー モリゾウの『トヨタのスポーツカーを取り戻したい』という想いのもと、『モータースポーツ用の車両を市販化する』、という逆転の発想で開発したトヨタ自動車初となるモデルです」と記されている。

冒頭のカタログの表紙をめくった最初のページにもこれに準じたコピーが記載されており、トヨタ自動車株式会社 代表取締役社長 マスタードライバー 豊田章男(・・・とモリゾウのサインで)と締めくくられている。

いわゆる「レースに勝つためのクルマ」でありながら、公道ではスポーツカーとしての高い資質と実用性、さらに機械としての信頼性を兼ね備えた市販車が誕生したのだ!
そして、ここはあくまでも私見だが、このクルマがデビューしたとき、多くのクルマ好きが「内燃機関を持つクルマでこんな魅力的なモデルは、もう2度と生まれないかもしれない」と本能的に感じ取ったのではないか?そんな気がしてならない。

GRヤリスのボディサイズは全長×全幅×全高:3995×1805×1455mm。RZおよびRZハイパフォーマンスには、このクルマのために専用設計された総排気量1618cc、G16E-GTS型直列3気筒エンジンが搭載され、最高出力272馬力を誇る。
駆動方式はRZおよびRZハイパフォーマンスは4WD、トランスミッションは6速MTのみ(ベースグレードのRSの駆動方式はFF、ミッションはCVTのみとなり、搭載されるエンジンも異なる)。上級グレードは3ペダルMTのみの設定という点も、いまどきのクルマとしてはかなり潔く「攻めている」印象すら受ける。
しかも車両重量は1280kgなのだ。このスペックに目を通すだけで「ココロオドルクルマ好き」がいるはずだ。

さて、オーナーにとって「通勤スペシャル」という使命を背負って嫁いできたGRヤリス。なぜこのモデルを選んだのか?もっと快適に移動できるクルマは他にいくらでもあるように思えるのだが・・・。無礼を承知で伺ってみた。

「通勤するときに乗るクルマとしていくつか候補に挙げていたモデルがあったんです。それは、ミライ、ジムニー、マツダ 3アクティブX、GRヤリスの4台でした。唯一、GRヤリスだけは試乗車がなく、運転することができなかったんです。

でも、東京オートサロンで発表されたときから“これはおそらくすごいクルマだぞ”という予感がありました。その後、聞こえてくる情報やそのスペックを知るにつれてこれはかなり魅力的なクルマに違いないと確信しましたね」

しかし、しかしだ。いくら周囲が魅力的なクルマだと騒いだとしても、自分が同じように感じるかは別問題だ。試乗しないで購入するには勇気がいる。そこで、実際にGRヤリスを手に入れてみた率直な感想を伺った。

「“久しぶりに心から面白いと思えるクルマに出会えたなぁ”というのが率直な感想ですね。ディーラーで納車して、自宅まで運転して帰る時点で“このボディの剛性感、ステアリング剛性の高さは何だ!?タダ者じゃないぞ”と感じました。操作系のレスポンスとバランスの良さのおかげでしょうか。まだ納車したばかりでエンジンを回せなくても、運転する楽しさは私の想像以上でした」

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・・・と、ここまではクルマ好きのエピソードとしてよくあることかもしれない。しかし、オーナーの場合はちょっと事情が異なる。

「私⾃⾝、ある⾃動⾞メーカーに在籍しています。開発部門でデザインや商品企画業務等を経て、現在は広報部に在籍しており、コーポレートデザインの関連の業務を担当しています」

つまり、クルマに関するプロフェッショナルということだ。せっかくの機会なので、ここはプロの目線でGRヤリスを評価していただいた。

「開発業務を担当していたとき、国内外のさまざまなクルマをテストドライブしました。その経験を踏まえて、(なんだか宣伝みたいになってしまうと恐縮しつつ)⾊眼鏡なしで良いクルマだといえます。

同業者の視点で⾒ても思わず唸ってしまう部分がいくつもありますよ。開発にはレーシングドライバーも携わったようですが、モリゾウさんをはじめ、開発メンバーの⽅々の強い思い⼊れを感じます。ボディ剛性、ディメンション、専⽤設計のエンジン・・・。フロントグリルの左右にあるダクトは、ちゃんとフロントブレーキを冷却する役⽬を担っていますよね。挙げたらキリがありませんが、巨大な総合自動車メーカーであるトヨタが、よくぞここまで尖ったクルマを作ったなと思いました。

乗る人の心を強く刺激するクルマを創りたかったんでしょうね。同業者の仲間にも試乗してもらいましたが、絶賛していました。おそらく⾃動⾞史に残る1台だと思います」

まさに大絶賛だが、さすがにここまでべた褒めだと「GAZOOってトヨタのメディアだから、この記事も自社の製品の宣伝を兼ねているんでしょう?」と突っ込みを入れたくなる人がいるかもしれない。しかし、そんな「忖度」は1ミリもないと断言しておきたい。イイモノはイイ。理屈じゃないのである。

持ち主の趣味趣向によってはモディファイせずにはいられないであろう魅力的なクルマだが、オーナーは果たして?

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「契約時に純正のタワーバーを選択したくらいであとはノーマルですね。タワーバーを装着しなさいといわんばかりにブラケットがついていて、それを隠すために装着したようなものですから(笑)。それこそ開発陣が煮詰めに煮詰めてこのセッティングに決めたわけです。下手にいじるとバランスを崩しそうですし、これから先もモディファイするつもりはないです」

自動車のプロフェッショナルだけに、GRヤリスが絶妙なバランスのうえに成り立っていることを直感的に見抜いているのだろう。そんなGRヤリスのお気に入りのポイントについては?

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「このクルマの走りに尽きますね。例えば、高性能モビルスーツに乗っているようなイメージです。ジムじゃなくてガンダム、量産型ザクじゃなくてシャア専用ザクのように、高度にチューニングされたスペシャルモデルに乗っているような手応えを感じることができます。

ドライバーとの一体感が得られるのはもちろん、思い描いたとおりにクルマが動いてくれるんです。GRヤリスはレースに勝つためのベース車であり、公道におけるスポーツカーであります。それと、かつてのグループBマシンのように、ラリーに勝つために生まれてきたクルマ=ホモロゲーションモデルという出自にも惹かれますね」

スポーツカーというと、どこか不便さを強いられる場面がある印象だが、果たしてGRヤリスは?

「私の使い方の範囲では、特にありません。ラリーのベース⾞でもありますし、それなりに最低地上⾼も確保されていますから、段差を気にする必要がないんです。ラゲッジスペースもありますから、実⽤性も問題ありません。

しいていえば、⾞幅がある(全幅1805mm)ので、狭い道を⾛る際に気をつけることと、エンジンを始動した直後は「3000回転以上はエンジンをまわすな」とメーターパネル内に備えられたディスプレイに暖機運転(負荷を掛けない運転)をクルマが指⽰してくれるんです。それを守るくらいでしょうか」

冷感時にエンジンを始動した場合、高負荷を掛けることなくゆるゆると暖機運転をするのは多くのユーザーにとっては暗黙の了解だろう。それをクルマ側が指示してくるのは珍しい。そういった「儀式の積み重ね」こそが、後々クルマのコンディションを左右するだけに、メーカー側の親切機能と解釈していいだろう。

購入を迷っているオーナー予備軍に向けて、GRヤリスの魅力とは?

「インプレッションではなく1年乗ってみたからこそ実感できたことがあります。間違いなく特別なクルマなんですけれど、身近というか気軽に乗れる余地もあるんですね。日常の足としても使えますし、スポーティに走ろうと思えば、瞬時にその期待にクルマが応えてくれます。それでいて、オーナーに過度な負担を強いるような場面がないんです。あと、最近のクルマって機械・アナログっぽさが薄れてきた印象があったんですが、GRヤリスはまさに“メカ”なんですよ。でも、機械としての不安要素がない。こういった仕立てがすごくトヨタらしくもあり、魅力的だなぁと思いますね」

すっかりGRヤリスの虜となっているオーナー。最後にこのクルマと今後どう接していきたいのかを伺ってみた。

「今後、ロータス エランと並⾏してGRヤリスを所有するのは、思ったより気合が必要かもしれませんが、体⼒がつづくかぎり⻑く乗りたいですね。たぶん、このクラスの内燃機関を積んだクルマでGRヤリスを超える存在を今後出すというのは難しいと思います。とはいえ、今年の東京オートサロンでデビューしたGRMNヤリスも気になります。このクルマをレースで鍛えて進化させていくという方向も楽しみですね。この時代によくぞこのようなクルマを企画し市販してくれたなと。トヨタさん、そしてモリゾウさんにありがとう!と伝えたいです」

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多くのクルマ好きが知ってのとおり、旧車およびネオクラシックカーと呼ばれる年代のクルマの値上がりが著しい。いまや当時の新車以上の価格で売られているクルマも少なくないほどだ。

それだけに、コンディションの良い個体を手に入れるのも一苦労である。さらに、手に入れたあとも整備や主治医探し、部品の確保に奔走することになるのは避けられないはずだ。いつの間にか、よほど好きでなければ乗りつづけることができない「覚悟のいるクルマ」となってしまったのだ。

それであれば、故障や維持に関する不安がなく、日常使いもできるGRヤリスという手もある。部品の供給が途絶えることなく、さらに大切に乗れば数十年は優に乗れるだろう。一生モノの愛車として手に入れるには申し分ない1台だと思える。

GRヤリスは決して安価で購入できる類いのクルマではない。しかし、高い・安いといった次元で語るべきクルマではないのだ。そんな野暮な発想とは一線を画すほどの魅力を備えた特別なモデルであることは間違いない。

最後にひとつ予言をしよう。おそらく20年後・30年後に「令和1ケタの時代に魅力に溢れていた名車」という特集が組まれたとき、GRヤリスがそのなかの1台に数えられているに違いない。
それが果たして「純粋な内燃機関を搭載した最後の国産スポーツカー」と紹介されるのか?
それとも・・・?

もしかしたら、その気になればGRヤリスの新車を手に入れられるこの瞬間は、クルマに好きにとって幸せな、得がたい時間なのかもしれない。

(編集:vehiclenaviMAGAZINE編集部 / 撮影: 古宮こうき)

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