エクストレイルと自作のキャンプ道具があるからこそ構築できた「男の秘密基地」

「いつも絵ばっかり描いてるタイプの子供でした」という木下真和さん、41歳。学生時代は音楽関係の仕事を志向したが、ひょんなきっかけから映像系の業界に進み、現在はフリーランスの映像ディレクターとしてさまざまなテレビ番組の現場などで活躍している。

そういった、どちらかと言えばインドア派な資質のせいか、6年前、近所に住む知人家族から誘われた際は「キャンプ」というものに今ひとつ興味を持てなかった。

「決して楽しくないわけではなかったのですが、ハマるまでには至らず、1~2回行っただけでやめてしまいましたね」

だが今では愛車・日産 エクストレイルに自作のキャンプ用ギア各種を積み込み、おおむね月1回のペースでソロキャンプを堪能するまでになっている。

きっかけは4年前。妻から「ちょっとおしゃれなキャンプをやってみたい」と言われたことだった。

妻のリクエストに基づいて「ちょっとおしゃれな道具類」を買いそろえ、妻と2人の娘を連れて某所でキャンプをやってみた木下さん。それはそれで十分楽しかったというが、実際やってみると2つの問題点に気がついた。

ひとつは「道具の問題」だ。

「しゃれた道具というと、当時の私はかなり有名な海外ブランドぐらいしか知らなかったため、それを買ってキャンプ場まで持っていったのですが、そうすると、周囲のご家族もみんなそのブランドを使ってるんですよね。つまり超絶カブりまくってる(笑)。まずはそれが果てしなく嫌でした」

そして道具に関しては「ちょうどいいモノが売ってない」という問題もあった。

「専門店に行けば星の数ほどのキャンプ道具が売られているのですが、よくよく見てみると、自分の使い方や自分の好みに完全にマッチする既製品ってほとんどないことに気づいたんです。そこも、ちょっとどうなんだろうなぁ……と」

疑問を感じた木下さんは、違和感を覚えながらそれを使い続けるのではなく、かといってキャンプを辞めてしまうわけでもなく、第三の道を選択した。

キャンプ道具の自作である。

「無いなら自分で作ろう!ということでホームセンターで木材を買ってきて、自分が使っているナイフなど集めた道具のサイズに合ったケースを作ったり、機能的な調味料ボックスを作ったり、既製品に革の取っ手を縫い付けて使いやすくするとともに、ちょっといい感じのビジュアルにしたりして。もともと凝り性なので、そういった作業はぜんぜん苦にならず、むしろ楽しかったですよ」

とはいえ「絵ばっかり描いていたタイプの子供」だった木下さんゆえ、実はノコギリを握った経験すらなかったという。

「でもやってみると意外と簡単でしたし、完成するとやっぱり感動しますしね。こりゃ楽しい!ということで自作にハマっていったんですよ」

道具類を自作のそれに替えていくと同時に、木下さんはクルマも替えることにした。マツダ プレマシーというミニバンから、前述の日産 エクストレイルという4WDのSUVへの転換である。

「昔からクルマにはさほど興味がなくて、運転免許も結婚してから取ったぐらいです。なので、中古のプレマシーも『子供が生まれたから買った』ぐらいの意味合いしかなかったんですが」

FFのミニバンであるプレマシーでも、ファミリーキャンプに行く分には何ら問題はなかったという。だが道具類の機能やビジュアルにこだわっていくうちに、ある意味キャンプ道具のひとつである「クルマ」の機能とビジュアルにもこだわりたくなっていった。

「キャンプ場でほかの人たちのクルマを見ていると、トヨタのランドクルーザーはやっぱりいいなぁと思いましたね。でもまぁ正直ちょっと高いので(笑)、次点としていいなと思っていた先代のエクストレイルを買ったんです。8年落ちの中古車ですけど」

ソロキャンプへ行く際は、4WD版エクストレイルの潜在能力をフルに生かしているわけでもないと言う。だがそれでも「ヨンクのSUV」はキャンプ活動においては何かと便利で、そして無骨なビジュアルも大いに気に入ったとのこと。ちなみに写真上の木製ケースは、先代エクストレイルの荷室下部にピタリと収まるサイズで木下さんが自作したものだ。

自分の使い方やセンスに合う道具類を自作し、そしてクルマもヨンクのSUVに替えた。これにて木下さんのキャンプ趣味にまつわる下準備はすべて完了……とも思われたが、「やってみて気づいた2つの問題点」のうちの2つめが、実はまだ解決していなかった。

家族の問題である。

「もちろん家族仲が悪いとか、家族と行くキャンプがつまらないというわけではぜんぜんありません。ファミリーキャンプはファミリーキャンプですっごく楽しいですし、幸せを感じるものです。でも……」

ここから先は筆者が代弁しよう。

木下さんの娘さんは上が小学6年生の女の子で、下が小学2年生の女の子。そういったまだ小さな子供たちを真冬のテントで1泊させるわけにもいかないため、家族を連れて行けるのはどうしたって6~9月頃の温暖なシーズンに限られる。

そして小さな子供を過酷な屋外に連れて行けば、親として男として、どうしたって彼女らの身の安全の確保や「子供たちが楽しめているかどうか?」のチェックこそが主たる業務になってくる。

「先ほども言いましたが、それはそれで幸せなことなんですよ。……でもそれとはまた別の『自分自身のキャンプ』も楽しみたいですし、簡単に言っちゃうと、真冬でもキャンプに行きたくなるぐらいハマっちゃったんですよね(笑)。なので、ファミリーキャンプとは別にソロキャンプもやるようになって、よりいっそう人生が楽しくなってきた……という感じでしょうか」

仕事の忙しさによっても変わってくるが、おおむね月に一度のペースでひとり、山あるいは川を目指す。そしてテントを設営し、その他の準備も整えたうえで火を起こす。

「最初のうちは着火させるための便利な道具をいろいろ使ってました。でも回を重ねるうちにライターすら使うのが嫌になってきて。今ではなるべく不便なほう、不便なほうへと自分を追い込んでます(笑)」

いわゆる着火剤も使わないという。

「ナイフでフェザースティック(木材の表面を薄く削っていき、簡単に着火できように加工した手作りの着火剤)を作り、そこにライターではなくファイヤースターター(火打ち石のようなもの)で着火させる行為が気持ちいいんですよね」

アウトドア趣味のない筆者から見ると、それは一種の苦行のようにも思える。

なぜ、この便利な世の中であえて苦行に励むのか?そもそもなぜ、快適で幸せな自宅を離れてひとり、エクストレイルにて荒野……と言っては大げさだが、キャンプ地を目指すのか?

「う~ん、まぁ、ありきたりに言ってしまえばリフレッシュというか、都会の生活を通じてどうしても溜まってしまう“毒”みたいなモノを抜くために来る……ということなんでしょうね。あ、僕はもともと三重と奈良の県境ぐらいの田舎出身なので、こういった田舎暮らしっぽいことをしたくなるのは性(さが)みたいなものかなとは思います。でも結論としてはそうではなく……」

そうではなく?

「結局は“好きだから”なんだと思いますよ」

好きだから、というと。

「はい。子供の頃、絵を描くのが大好きだったのと同じで、あるいは今やっている映像ディレクターという仕事とも同じで、『自分ひとりでゼロから何かを作り始め、そしてひとりで最後まで完成させる』っていう作業が好きだから、そこに快感を覚える性格だから、ソロキャンプもやってるんでしょうね」

最初のうちはいわゆるインスタ映えみたいな部分も意識していたという木下さんだが、ソロキャンプにハマっていくにつれ、その「本末転倒っぷり」とでも言うべき部分が嫌になり、今ではどんどん本質的に、機能的に、不要なモノは削ぎ落としていく方向に変わってきたという。今後はテントの使用すらもやめて、「エクストレイル+タープ」という究極のシンプルスタイルにするつもりだとも言う。

「まぁいろいろ言いましたけど、結局は男って子供の頃から“秘密基地”を作るのが好きじゃないですか?僕がソロキャンプをやってる理由は、もしかしたらそれがいちばんデカいのかもしれませんけどね!」

そう笑いながら、エクストレイルの横でステーキ用の肉を豪快に焼く木下さん。

石や岩が転がっている以外は特に何もない河原へクルマで行き、ひとつずつ、必要なモノを自分のセンスに基づいて設営していき、最終的に素敵な“秘密基地”を完成させること。

その姿はまるで、自然というキャンバスに「1枚の絵」を描いているようにも見えた。

(取材・文/伊達軍曹 撮影/阿部昌也)

[ガズー編集部]

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