地元鹿児島で会社員をしながらドリフト選手として活躍!愛機RX-7(FD3S)から見えてくる努力の裏側とは…?【取材地:鹿児島】
ドリフトの腕を競う競技の国内トップカテゴリー『D1グランプリ』(以下、D1GP)に参戦し、2021年もシリーズランキング4位という好成績をおさめた鹿児島県鹿児島市在住の末永正雄さん(43才)。
D1GPに参戦するドライバーの多くが自身でチームを作って参戦したり、クルマ関係の仕事を生業としていたりするなかで、彼は参戦チームの契約ドライバーとしてマシンのステアリングを握るいっぽう、普段は地元の鹿児島でサラリーマンとして働いているという、ちょっと異色な選手だ。
そんな末永さんは、普段どんなカーライフを送っているのだろうか? お話を伺ううちに、末永さんが積み重ねてきた数々の努力と苦労、そしてドリフトだけでなくモータースポーツに対する深い愛情が見えてきた。
「もともとは親がバイク屋を経営していたので、免許取得前からバイクレースをしているくらいバイク好きだったんですけど、20才くらいの頃にレース中に怪我をしてしまって。そんなときに、ちょうど兄がハマっていたドリフトを見て『クルマだったら怪我していても乗れるな』と思って、自分もドリフトを始めることにしたんです」
2万円で手に入れたAE85で「ちょっと遊べればいいや」と思ってはじめてみたところ、完全にドリフトにハマってしまったという末永さん。それからはAE86やR31、S13やRX-7などドリフトできるクルマばかりをいろいろと乗り継いできたという。
D1GPには2002年からプライベーターとして参戦。2004年からはスーパーGTにも参戦歴のある名門チーム『RE雨宮』の専属ドライバーに抜擢され、2015年まで11年に渡ってRE雨宮のロータリーマシンに乗り続けた。
そして現在も大切に所有し続けているこのRX-7(FD3S)は、末永さんがRE雨宮ドライバー時代から共に過ごしてきた思い入れの深い車両なのだ。
「RE雨宮のマシンに乗ることになったとき、鹿児島から関東のチームであるRE雨宮に頻繁に通うことは難しかったので、手元に練習機が必要だと感じたんです。ドリフトの世界ではセブンはマイナー車でセッティングも試行錯誤が必要だったので、当時は毎週のように自分でサーキットに通って走らせていたと思います。おかげで本番には随分活かせたんじゃないかな」
末永さんは当時ナンバー付き車両で競う『D1ストリートリーガル』にも参戦していて、2006年にはシリーズランキング2位という結果も残している。そして、歴戦を経てボロボロになったその車両からパーツをフル移植して製作したのが、このセブンなのだ。
「練習機だけど、内装はダッシュボードまで含めて全部バラして塗装してから組み付けたりと、がんばってキレイに作りました。見た目は迫力満点の競技車両ですが、車検対応の触媒も装着していてナンバーも取れるし、ちゃんとエアコンも効くんですよ。エンジンルームには10年以上前にRE雨宮で特別に組んでもらったエンジンが載っています。最終的にはD1車両と近い状態で乗るためにRE雨宮のパーツをたくさん装着したし、エンジン以外はすべて自分で製作したので、愛着があって今でも大好きなクルマなんです」
「D1車両とおなじ足まわりにするために、RE雨宮のワイドボディキットを装着しているんですが、このフォルムがすごく気に入ってます。ボディはせっかくならキラキラで高級感が出るようにしたくて、自分でスリーコートパールにオールペンしました。カーボンボンネットもクリアが剥がれるのを何度も塗り直しているからキレイでしょ?」
「エアロを変えた時に色が合わなくなってしまったのはご愛嬌ですけど(笑)」と末永さん。ちなみにフェンダーに貼ってあるステッカーの『薩摩焼酎 島美人』は、地元の繋がりで15年以上も末永さんのレース活動をサポートしてくれているという。ドライバーとして活動していくうえで、こうした支援者は欠かせない存在だ。
現在、このセブンは末永さんの自宅にある車庫兼ガレージで大切に保管されている。
「ホコリが気になったらすぐ拭き取るようにしていますし、ずっと動かさないと傷むのでたまにエンジンをかけたりしています。ロータリーエンジン特有のプラグのトラブルにも気にかけていますよ」
ちなみにこの自宅ガレージには、プライベートでD1に参戦していたS15など3台が入っていて、工具やリフトなどの設備もひととおり整っているという。外の駐車スペースにも15台ほどの車両が置いてあるそうだ。
2020年からはチーム『NANKANG TIRE DRIFT TEAM D-MAX』のドライバーとしてシルビア(S15)に乗っていることもあり、セブンでの活動はお休みしている状態だけれど、いずれはまたドライブやサーキットで走らせたいという。
「練習で酷使しているとセブンが壊れるじゃないですか。でも面倒を見てくれるショップもないので自分でやるしかない。そうなると部品置き場が必要だし、エンジンをおろして動かなくなっても大丈夫な環境も必要でした。そこで3〜4年探し続けてやっと出てきた今の土地に家を構えてガレージを建てたんです。そして僕はここで夜な夜な自分のクルマをイジってます。休みの日は地元のクルマ仲間が集まったりすることもあるんですよ。このガレージは僕にとっての“宝箱”ですね」
また、休日は地元のサーキットに走りに行くことも珍しくないという。
「鹿児島空港の近くにホビーサーキットという場所があるので、そこに地元のショップさんたちとジムカーナやタイムアタックなどをしに行きます」
実は末永さん、自身の製作したシルビア(S15)でオートポリスのチューニングカーレコードホルダーだったこともあるほど、ドリフトだけではなくタイムアタックの腕前も一流なのだ。
ドライバーとしての技量と名声、自ら車両製作が行えるほどのメカニック技術と知識、そしてしっかりしたガレージ設備を持ち合わせている末永さん。となると、普通ならカーショップとして独立を考えそうなものだが、鹿児島でサラリーマンという道を歩んでいるのはどうしてなのだろうか。
「就職活動時、僕はまだバイクのレースをしていて、とにかくお金がかかるので地元で一番稼げるところにと今の会社に就職したんです。ドリフトを始めた20才くらいのころは会社の上司がみんなクルマ好きで、スカイラインやシルビア、ゼットなんかのスポーツカーに乗っていたんですよ。そんな先輩たちのおかげで、いまもクビにならずに続けられているという部分もありますね。ただ、D1があるレースウィークはガツっと休まないといけないので、上司次第ではそこにつまずいたりした時期もありました。それでも独立はしようと思わなかったのは、親がもともと自営業で、直接お客さんに対応する難しさも見ていたから。自分のレースよりもお客さんを優先する必要があったりと、僕にはその選択肢は選べないと思ったんです」
ちなみに仕事内容は印刷機械のメンテナンスで「なぜ壊れたのか、どれを直せばいいのかなどクルマいじりが仕事でも活きてます」と共通点もあるとか。
「僕が先に鹿児島で就職したんですけど、兄はドリフトができる環境を目指して東京で就職したんです。そこで『じゃあ自分は鹿児島でどこまでできるかやってみよう』と競争することになりました。もうその競争は終わっているんですけどね。僕はRE雨宮というワークスチームのおかげで全国区になることができたし、兄もチームオレンジという有名チームで活躍しています。要はどこに住んでいても、本人次第で夢は叶うということです。それに、RE雨宮ドライバー時代にタイや中国のシリーズでもチャンピオンを獲得することができたんですけど、そのときのくくりは“ジャパン”。結局鹿児島だろうが東京だろうが関係ないねって(笑)。住んでいる場所にこだわりがなくなったのはその頃ですね。上京するメリットについて監督の雨さんと話したこともありますが、結局『出てきたところで住む場所もないのにそれで結果はだせるのか?』って。そこでサラリーマンとドライバーを両立すると改めて決意して、今に至っています」
鹿児島でもレース活動に専念できるよう生活基盤を安定させ、自身のスキルを磨き、自宅ガレージなどの環境を整えるなど、様々な努力をしてきた末永さん。このセブンは、そんな末永さんと苦楽を共にしてきた相棒であり、戦友でもあるのだ。
そんな末永さんには、プロドライバーとしての目標があるという。
「僕、いままで一般公道で事故したことがないんですよね。ブレーキの踏み方やウインカーの合図、ストップランプの付け方など、そういう事が学べるのもサーキットなのかなと思う。察知能力とかも高くなっていくし、そこで身につけた運転技術は日頃の行動でも活かされていると思うんです。なので、ドリフトだけでなくモータースポーツ活動を通じて、そういったことを伝えていければと思っています」
彼が今後もサラリーマンを掛け持ちしながらプロドライバーとして歩んでいく道を、これからも楽しみにしていきたいと思う。
写真提供:サンプロス
(文: 西本尚恵 写真: 西野キヨシ)
[ガズー編集部]
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