新車購入から20年! コツコツと理想の欧州仕様に仕上げたアルファ156
イタリア車といえば、フェラーリやマセラティ、ランボルギーニなど日本でもファンの多い高級スポーツカーはもちろん、おしゃれなコンパクトカーのフィアット、ランチア、アバルトなど感性を刺激する魅力的なデザインのクルマたちが思い浮かぶだろう。
エレガントなスポーティーセダンやクーペ、ハッチバックなどを世に送り出す1910年創業のアルファロメオも、そんなイタリアを代表する老舗メーカーのひとつだ。
ドイツ車からイタリア車へ
独特なスタイリングが目を引く4ドアセダン、アルファ156を20年前に新車で購入し、今も大事に乗り続けているという鹿児島県南さつま市在住の川口章一さん(48才)。
川口さんがこのアルファロメオ156(以下アルファ156)を購入したのは、まだ20代だった2001年。本人も当初はこのクルマを買うことになるとは思っていなかったという。
「僕は子供の頃からクルマ好きで、親がコロナやケンメリ、その後も日産車続きだったので物心ついたときには日産党になっていました。なので21才のときに初めて買った愛車は、ドアをあけた時実家にあったケンメリと同じ匂いのした130ローレルでした。これに2年乗った後は親から『もっと新しいクルマに乗れ』と言われて、とりあえず実家にあったハイエースのバンに乗っていましたね。便利だしよく走るいいクルマだったんですけど、当時僕は24才で女の子と一緒に出かけるときにライトバンだとちょっと評判がよくなくて(苦笑)。そのころにルノーとアルファロメオを買った友達の愛車に乗ってみたら面白くて欧州車に興味が湧いたんですよね。ただ、外国車はちょっと怖かったので、トヨタが関連しているフォルクスワーゲンならば安心と思ってゴルフを中古で買ったんです」
川口さんはそのゴルフを気に入り、4年間乗り続けたという。
「20代後半で周りが新車に乗り換えはじめて、それに影響されて自分もそろそろ…と思っていた時に、外国車好きの親友がシトロエン・エグザンティアのラストモデルを勧めてくれてたんです。それを買うつもりで他にもいろいろ見てまわっていたら、たまたまこのアルファ156というクルマに出会いました。このクラスの外車でMT車が欲しいとなると当時はBMW318とこのアルファ156が主な候補だったんですよね。そして最後まで悩みましたが、当時ドイツ車のゴルフに乗っていたので『イタ車ってすぐ壊れるんじゃ…?』という不安に駆られながらも勇気を出してコレにしました」
「20代でイタリア車を新車で買うというのは勇気のいる決断だった」というが、販売店の方との相性が良かったことと、欧州車好きの友人ふたりの存在が後押ししてくれたという。
アルファ156の理想形?!
川口さんのアルファ156(932A2)は、2001年式の2.0ツインスパークモデル。5MTのおしゃれなスポーティーセダンだ。
「注文したのは2001年6月下旬ですが、初めての新車だったのでカラーにちょっとこだわって“プロテオレッド”というオーダーカラーにしたので、納車されたのは4ヶ月後の10月でした。プロテオレッドカラーのこのモデルは2年間しか日本に輸入されず、僕は今まで1回しか同じ色のクルマに出会ったことがないくらい珍しいので、とても気に入ってます。それに、先入観で乗り心地はあまりよくないと思っていたんですけど、実際はゴルフより良かったんですよ。それに拍子抜けするほどトラブルもなくお利口さんでびっくりしました(笑)」
「イタリア車だし壊れやすいのでは…」という川口さんの不安を良い方向で裏切ったアルファ156。その後は購入時に見たヨーロッパ仕様のカタログから影響を受けた川口さんによって、少しずつ元の日本仕様から川口さんの理想形である本場の欧州仕様に近づけるべくカスタムされていくことになる。
「最初に手を加えたのは内装でした。もともとは黒いファブリックだったんですけど、上級グレードのレザー仕様に憧れていたんです。たまたまアルファロメオディーラーの店長をしていた友達から、上級グレード内装の同じクルマが廃車になったという情報を得て、そのクルマから内張やシートを一式移植してもらいました。ほかにもセンターコンソールとウッドのステアリングは早い段階に見つけて交換しましたね。またフロアマットは高級車ディーラーの“コーンズ”がアルファロメオを扱っていた時期に作っていたオリジナルマットを購入しました。コーンズ物って当時の憧れで(笑)」
川口さんの理想形に向けたカスタムは、外装にも表れている。
「アルファ156の日本仕様って、言わばスポーツパッケージみたいな仕様なんです。でも本国仕様とおなじにするために、サイドスカートを外して、タイヤも16インチから15インチにインチダウンしています。ホイールは何年か探してやっと手に入れました。あとは関東のアルファロメオディーラーであるチェッカーモータースが本国仕様のナンバープレートが付いていた時の穴を隠すために作ったカーボンプレートを貼っています。これもお気に入りですね!」
こうして日本と海外のインターネットオークションを活用しながら、コツコツと理想の形へと近づけていったという。
ちなみにエンジンルームはノーマルのままで、20年経った今でもボンネットダンパーはまだまだ元気なのもポイントだ。
メンテナンスや車検に関しては、以前は鹿児島市から一時間くらいかかるディーラーさんでお願いしていたものの、最近は自宅近くの外車に対応できるショップにお願いしているとのこと。
川口さんいわく、サポート体制が充実した日本車とは違って、外国車を維持していくためには専門的な知識を持つディーラーやショップの存在はとても大きいという。
こうしてパーツ集めに苦労しながらも理想形を追い求めた川口さんは、ついに一昨年、長年探していたシフトノブを手に入れたことで、愛車のカスタムを完成させるに至ったという。
「シフトノブは接着剤で装着されているため廃車から部品取りとしてはずされることも少なく、なかなか出てこなかったので、やっと見つかったときはとても嬉しかったです。あとはメーターパネル を白に変えたら完璧な本国仕様になるのですが、そこだけは僕の好みで黒のままにしています(笑)」
家族公認のアルファ156ライフ
現在は主に週末や家族での外出時などに活躍しているというアルファ156。
「若かった頃はこれで夜遊びに行ったりもしていましたが、今は嫁さんのNボックスと仕事用の軽トラがあるので日頃はほとんどそれに乗っています。“大きなイベントはアルファロメオで”というのを一家の決まりにしてるんですが、中一の娘には『Nボックスのほうがいい』って言われてしまうんですよ。確かにアルファはエアコンの効きも弱いし実用性では負けるので(苦笑)。でも興味がないのにこのクルマを所有し続けさせてくれる嫁さんには感謝ですね」
この日、いっしょにアルファ156に乗って来ていただいた奥さんと娘さんにもお話を伺ってみた。
「ミニカー集めはだいぶ収まったんですけど、アルファ156に限らず日本仕様と海外仕様の違いをカタログで見比べるのが好きみたいで、カタログは国産車も外車もたくさん集めていますね。新婚旅行でフランスにいったときも、ディーラーさんが見える度にフランス語も喋れないのに『行ってきていい?』といってカタログをもらってきたり、空港に着いた途端に『ルノー車だ!』って騒いていたりしました(笑)」と奥様。
また娘さんからも「テレビのニュースでも、内容より後ろの背景でどんなクルマが走っているのかをチェックしているんです。人と見るところが違いますよね」と駄目押しの証言をいただいた。「本当にここまで好きなものがあって感心します。こうなるともう『どうぞ好きにやってください』という感じですね(笑)」と奥様。
ご家族の諦めの境地に近い(?)ご理解と後押しもあって、川口さんのアルファ156ライフはこれから先も安泰のようだ。
「このクルマは、乗っていて楽しいところがとても好きです。それに同じクルマがあまりいないので年式や金額もわかりにくくて、20年たつけど“古くなった”と残念な気持ちになることもないんですよね。ただ、実際にはもう20年経ってあちこちが劣化してきているので、今後は足まわりのリフレッシュなどクルマを維持する方向に励みたいと思っています。部品の欠品も出はじめているけれど、可能な限りは乗り続けたいですね」
独特な魅力を放ちながらも、維持していく上でのサポート体制や日本車と違う性能面への不安から、外国車の購入には多少のリスクと勇気が必要だと考える人も少なくないかもしれない。
しかし川口さんは、外国車に関する知識に明るい友人や、頼りになるディーラーやショップなどと協力していくことでそういった懸念を払拭し、長く大事に乗り続けることができるということを体現している。
イタリア車ならではのエレガンスな雰囲気を纏い理想形となったこのアルファロメオ156は、これからも川口さんの愛情を一身に受けながら、大切な相棒としての役目を果たしていくことだろう。
取材協力:鹿児島県立吉野公園
(文: 西本尚恵 写真: 西野キヨシ)
[GAZOO編集部]
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