憧れだったデモカーを、気づけば作る側に。道産子女性ドライバーとBRZの物語【取材地:北海道】
素敵なカーライフを楽しむ女性はこれまでもたくさん取材してきたけれど、今回紹介する伊藤なつきさんほど、濃密で充実したカーライフを送っている女性はそうはいないだろう。
なにせ大学を中退して整備士免許を取得し、カーショップで働きながら季節問わず愛機BRZで平均週2回のジムカーナ練習を欠かさず、プライベートでもクルマ仲間と遊ぶことがほとんどというのだから。
公私ともにクルマ一筋で、明るく元気で目標に向けてひたむきに突き進むなつきさん。彼女は一体どんな経験を経て、現在のようにクルマ一色とも言えるカーライフを過ごすようになったのだろうか?
「わたしは子供のころからミニカーやチョロQが好きだったんですけど、両親や姉はクルマにまったく興味がないので、どうしてクルマ好きになったのか不思議です(笑)。高校生の頃にはまわりの友だちとクルマの話で盛り上がっていましたね。クルマが必要不可欠なところに住んでいたので最初はAT限定免許を取得して、あとから限定解除しました」
なつきさんが免許を取得したのは、現在でも大人気の映画『ワイルド・スピード』の第1作が公開された頃。夜な夜なドライブに行くと、峠やパーキングには地元で有名なカーショップによって製作された煌びやかなクルマたちが集まっていて、それらを友だちと見に行くのが楽しみでしょうがなかったという。
ここまではありがちなエピソードだが、なつきさんの場合はここからの行動力がアグレッシブだ。
「実はクルマが好きすぎて、通っていた大学を中退して整備士になることを決意しました(苦笑)。親のクルマに乗りながら昼間は働いて夜間に整備士学校に通って、最初の就職先がホンダだったのではじめての愛車は『VTECが付いていて実用的な4WDのオレンジのクルマに乗りたい!』とHR-Vにしたんですよね。あとはマニュアルのヴィッツに約2年、そしてNB型のロードスターに2年乗って、このBRZに…という流れです」
そして現在は札幌市にあるカーショップ、ガレージシンシアでフロント業務などを担当しながら大好きなクルマ中心の生活を送っているなつきさん。
「このBRZはもともと2014年にお店のデモカーとして購入した車両です。当時は新車発売から2年後だったんですけど、北海道は86やBRZが浸透するのが遅かったようで、まだあまり周りに乗っている人がいなかったんですよね。商売的にも最初の1年くらいは心折れそうでしたけど、2〜3年経ってからはちゃんと効果が出はじめました。デモカーとしてお店に来たときから、このBRZには私が選んだパーツを付けさせてもらっていたので、思い入れもあって数年前に買い取らせてもらったんです。」
デモカーとして購入された当初からクルマ作りに携わり、今ではそのBRZでジムカーナ競技に没頭するなつきさんだが、実は競技をするようになったのは3年ほど前からで、それまではレースをサポートする側だったというから意外だ。
「キッカケは、うちの社長から『サポートする側であってもドライバーの気持ちがわかるようになってもいいんじゃないか?』と言われたことです。それでジムカーナからスタートしてみました。ただ社長はとてもスパルタなので、JAFライセンスを取った5日後には大会にエントリーさせられました。なんとか完走したら拍手してもらえたくらいのど素人な感じで(笑)。でもそのときに『クルマをちゃんと走らせるのって楽しい!』と思って、どっぷりその世界にハマっちゃったかんじですね。そのあとに女性だけの走行会に急遽参加させてもらったのが初めてのサーキット体験でした。ジムカーナって外から見てると地味だけど、中ではとても忙しいんですよ。でもサーキットはいろんなことを考える時間があるので楽しかったです。最近は自分のスキルを上げるためにドリフトの練習もしています」
こうして社員としてお客さんのサポートをするだけでなくドライバーとしても活動し始めたなつきさんは、その持ち前の行動力と一途さを発揮。今では新千歳モーターランドの年間パスポートを購入し、最低でも週イチ、多い時は週5日は走り込んでいるというから恐れ入る。
そんななつきさんと共にあるBRZは「見た目の格好良さって大事ですよね!」という彼女のこだわりが詰まっている。
「実はわたし、大会では司会者さんにまで『ピンク』と呼ばれるくらいのピンク好きなんです。見ての通りピンクをアクセントにした目立つバイナルを貼っているんですけど、これは私の要望を元に知り合いのデザイン会社でコンペをしてもらって、それをさらにアレンジしてもらったもので、とても気に入っています。ホイールもレイズから桜ピンクカラーの57CR限定モデルが出た時に一目惚れして即予約しちゃいました」
外装パーツで一番最初に追加したのは「翼端板の形が気に入った」というGTウイングで、マフラーも好みの片側出しをチョイス。前期型のヘッドライトもお気に入りのポイントだという。
ジムカーナのほか、冬にはクローズドコースでラリー用スパイクやスタッドレスを履いて練習もしているそうで、ボディには『勲章』とも言える痕跡があちらこちらに見て取れる。
そんななつきさんのこだわりは内装にも及ぶ。
「シートはペダルとの距離を意識して、BRIDE製のローマックスシリーズというローポジションのフルバケットシートにしています。目線は確かに低いんですけど、ジムカーナは遠くを見る方がいいので。街乗りはちょっと危ないんですけど、注意して乗っているので今のところ事故はないです。で、ハンドルはロードスターのころから使っているお気に入りのナルディ製36φです」
また余談だが、なつきさんは大のネコ好きでお店に5匹、家に2匹飼っている。一度専用カゴにいれて車に乗せている時にカゴの蓋があいて猫が外に逃げてしまい、車内が毛まみれになったことも思い出深い出来事だったとか。
エンジンルームは「ピンクにしたかったけど、ちょっと難しかったので…」とボディカラーと同じブルーで統一。
トランクに貼ってあるゼッケンについて聞いてみると、その説明を差し置いて「ブリヂストンのサポートドライバーはイケメンが多いんです♪」と、とても笑顔で話してくれたのが印象的だ(笑)。
さらにジムカーナで使用する装備品も見せていただいたが、「カッコが大事!」というだけあって、貰い物だというレーシングスーツ以外はアルパインスター製で統一し、大事に使用している。
「レーシングシューズはとにかく気に入ってます。というのも、足が小さかったので、海外の人と直接メールでやりとりして手に入れたんです。グローブはグリップ力が維持させるために、あまり洗わないようにしていますね」
ちなみに、免許を取得した頃に友だちと夜な夜な遊びに出かけた先で『煌びやかなクルマたち』を憧れの目で見ていたというなつきさんだが「実はその中に現在働いているショップが製作したマシンもいたということに、働き始めて数年経ってから気がついたんです。『あれ? わたし、気づけばあの頃憧れていたクルマ達を作る側になってる!?』って。忙しすぎて、憧れの場所で働いているという感覚はないんですけどね」と笑う。
「モータースポーツを始めてから社長が師匠なんですけど、もっと運転が上手になって師匠を超えるのが目標のひとつです。それにジムカーナの全国大会にもいってみたいというのもあります。実は前に北海道新聞に私の写真が載ったことがあったんですけど、それを両親が大事にしていて機会があればまわりのひとに配ってくれたりもしていて(笑)。運転面ではどうしても男性より筋力体力瞬発力とかで負けちゃうから大変ですけど、親も応援してくれているので頑張りたいです!」
最後に、ショップや家族など周囲からの温かいサポートを受けながらBRZと走り続ける彼女にとって、愛機とはどんな存在なのか伺ってみたところ
「いなくなったら死んじゃいますね」とその返答はとてもシンプルで胸を打つ一言だった。
明るく元気で、周りのカーライフのサポートをしつつももっと運転が上手くなりたい! と目標へひたむきに突き進むなつきさん。自らが主催する走行会なども開催している彼女の周りには、いつもたくさんの仲間と笑顔が溢れている。
(⽂: ⻄本尚恵 / 撮影: 木下琢哉(マイナーカラーコード))
[ガズー編集部]
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